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62 アルファ喪女の胡蝶の夢〜前編〜

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 今日私はお彼岸の墓参りに行ってきた。
 かつて私がこの世で最も愛した弟であるリト(第12話参照)に近況報告をしてきたのだ。
 リトのことを考えながら愛する夫と同じベッドに入ると、今日はエッチなしでもスヤスヤと眠りこけた。
 その夜、リトとの想い出の中でも飛び切り異彩を放った記憶が夢の中で蘇る。
 視界に映っていたのは見慣れた自分の部屋ではなく、飾り気のない薄桃色のカーテンや小物入れ。2人が向かい合って座れるだけのこぢんまりとしたテーブルには、漢字ドリルとノートが置いてある。
 ここは私が未だ小学生だった頃に住んでいた父の実家だった。

「あれ? どうして、こんな所に? 父親の実家からは母さんが離婚した時に追い出されたはずなのに……」

 チクチクと無慈悲に刻まれる秒針の響きを聞くにつれ、薄暗い室内にひとりという状況が実感を伴い理解できてくる。
 その瞬間、雷鳴が轟く。稲光のおかげで、わずかに視界が開けた。

「……何かしら?」

 目に留まったのは、リトのベッド下から迫り出した、縦に割れ目のある球体。よくよく目を凝らせば、まん丸ではなく谷間のある楕円状だった。
 それはベッド下の隙間に頭から突っ込んだままじっと動かないリトの、座って迫り出した臀部だった。
 頭を突っ込んだ拍子にでもそうなったのだろうか。
 とりあえず引っ張り出そうとリトの腰をつかんだものの、一向に小さな身体は動かない。どこかでつっかえている感じではない。リトが踏ん張っているせいだ。

「リト、何してるの? ほら、こっちへ出ておいで♡」

 私は自分が夢を見ていることにようやく気がついた。そして、この夢が過去の思い出であることにも……。
 私は乱暴にリトの腰をつかんで引き寄せた――つもりが、両手がつるりと滑り落ちた。勢い余ってリトのお尻をもみ込んでしまった。

「あぁ……ッ!」
「あ~ら、ごめんなさい♡」

 リトは未だベッド下に潜り込んだ状態を保持していた。
 まだ私の手の中にリトの感触が残っていた。

「リトって本当に雷が苦手なのね♡」

 身震いが止まり、ベッド下のリトの視線がこちらに向いた瞬間。小さなその身体からわずかに力みが取れた一瞬を見逃さず、腰を落として一息に引っ張り出してあげる。

「ああッ!」

 引きずり出されたリトの涙顔が、折悪く瞬いた雷光に照らされた。
 私はリトの身体を抱き寄せる形で拘束し、そのままベッド上へと雪崩れ込む。

「大丈夫、私がそばにいてあげるから♡」

 リトの掛け布団を一緒に被り、再度生じた暗がりの中で顔と顔を突き合わせて言い聞かす。
 目と目が合って、ふっと力みの取れた小さな身体に自身を密着させ、雷の光を覆い隠すようにすっぽりと布団で包む。

「……どうやら落ち着いたようね♡」

 こくん、と胸に抱いたリトの髪がうなずく。サラサラの前髪と温かな吐息とにくすぐられ、収めたはずの鼓動がまた高く鳴る。改めて腕の中にあるぬくもりが気になりだした。
 窓越しの雷の音も遠ざかり、掛け布団をかぶった耳にはお互いの呼吸音だけが鮮明に伝わる。

「……す、ぅ……すぅ……」
「あら……リトったら♡」

 泣き疲れたのだろう。リトは眠りについてしまった。
 間近で響く寝息がやけに生々しく、よけいに強くリトの存在を意識させる。
 布団の内にこもったリトの香りを思いっきり吸い込んだ。

「リトの匂い……思い出した。そう、この匂いよ。ほのかに香るミルクのような甘ったい感じ。この匂いは、まさしく私の愛するオメガと同じ匂い♡」

 私は無性に感激し、意味もなくクンクンと鼻を鳴らして、リトの匂いをあちこち嗅いだ。
 リトの身体はもちろん、布団、シーツ、枕。それに掛け布団の外の、部屋の空気も。どこもかしこもリトの甘い匂いでいっぱいだった。
 あやすために背に回していたダイレクトな温かみが心地よくてたまらない。

「病み付きになるわねぇ~♡」

 夢だと分かっていても、リトをぎゅっと抱き締め、現実にはもういない弟の存在を確かめる。
 なんだか夢から覚めるのが怖くなってきた。リトがいない現実世界に帰ることが……。

「はぁ……」

 ベッド下から引っこ抜く際に触れたリトの尻の感触をもう一度だけ楽しもうと、背に回していた手を下にずらし、眠る弟の尻にまた触れてみた。

「ああ……いいッ! これよ、この感じ♡」

 当時の私が性に目覚めたのも、まさにこの瞬間だった。
 未だ子供だった頃の私にとって未知の領域だった男の子の身体の触り心地は人類が初めて月に降り立った時と同じくらい衝撃的で、たったそれだけの刺激で下半身が疼いたのをよく覚えている。
 今すぐにでも犯して犯して犯して、この暴力的なまでの愛情をリトの身体にぶつけてやりたい。そんな衝撃に思わず駆られてしまう。

「ン……」
「……ッ!」

 尻に触れる指の動きに合わせて、寝息に小さなうめきのような響きが入り混じる。慌てて指を外すとまた、安らかな寝息だけが小さな唇から漏れ出ていった。
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