聖女召喚で呼ばれた私は女神(仮)でした

ミツ

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閑話 其々の思惑

聖女 五十嵐怜香②

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怜香を乗せた馬車は、街の外苑部を抜け王都の中心に鎮座する城へとやって来た。

 外からも見てもわかるように城の至る部分に金や宝石を散りばめておりそれだけで一財産になるであろうと誰からの目からでも見て取れる程の豪華さであった。

 だが、五十嵐怜香は宝石等に目もくれなかった。
 彼女は、宝石等は母親が腐るほど持っていた為に見飽きていた。
 それ故に彼女が欲したのは、父と同じ絶対的な権力、地位。

 五十嵐怜香の父、五十嵐幸三いがらしこうぞうは若干46歳と言う若い年齢ながらにして政治家の間では絶対的な権力を持っていた。

 それは、代々五十嵐家が政治に携わり、数々の偉業の裏で暗躍して来たと言う功績もさることながら五十嵐幸三には絶対的なカリスマ性と知能があった。

 彼は周りの人を上手く利用して自分が黒幕だと知られないように資金、脅迫材料を潤沢にしていく。
 そして、己の娘である怜香にその術を叩き込んだ。

 中学時代、美咲を嵌めた方法がその術である。
 自分の部下を使い、一切の関係性のない人物を心酔させ更にそれをねずみ講の如く増やす。

 事を起こすのは末端の人間だけ、それによりただただ、怜香に心酔する者が勝手にやったこととして本人に非はないと言う結論に至るのだ。

 それには、長けた人心掌握、魅せるカリスマ性、信頼できる味方が必要だ。
 五十嵐怜香には、『聖女』と言う世界一と言える程のカリスマ性。
 そして、奴隷と言う絶対に主を裏切らない道具。
 それらが、楽して手に入った。

 ━━━先ずは、この国よ……。

 怜香は、馬車で城門を潜るときそう決めて居たのである。 中に入ると大勢の騎士や貴族が並び頭を下げる。
 幾ら怜香であろうとこの光景は初めてであり、動揺を誘った。

「クリシュナイダー様、これは?」
「怜香は、この世界にとっても私にとってもかけがえのない存在ですから」
 私の顔を見ずに頬を赤らめながらそう言うクリシュナイダー。

 なんて単純なのかしら……クリシュナイダーを拐かすのは思春期の男子よりも簡単だった。
 それこそ、これはクリシュナイダーの策略ではないか? と、一抹の不安を感じるほどに。

 しかし、当のクリシュナイダーは聖女の騎士に憧れており黒髪、黒い瞳の五十嵐怜香に対して一目惚れしたのである。
 更に、自分に寄せられる怜香の偽りの好意を純粋に受け止めただけであった。

 怜香は、個室に通された。
 次々に入ってくる侍女達は、あれよあれよと言う間に怜香の身支度を済ませ聖女をイメージした白くシンプルなドレスを着せる。

 その姿は神々しく神秘的なドレス姿はまさに聖女。
 侍女達は、本来、あってはならない筈の溜め息をその場で漏らす。

 ━━━美しくて当然でしょう。

 怜香は、そう思いながらも申し訳なさそうな態度をとる。
 例え、使用人であっても丁寧にする……それが、父の教えだ。

『人の口に戸は立てられぬ』

 これは何も悪い意味にとらえる必要は無い。
 ここでの良き振る舞いは、他の侍女に広がりやがては国にも。 悪い態度もね。
 情報操作は、初手が肝心なの。
 初手で、印象が決まる……そう、何よりもコレが始まりよ。

 次に私は、迎えに来たクリシュナイダーと共に謁見の間に。
 通常、第一王子が来ることはないと侍女達が驚いていた。

 つまり、私は其ほどの重要人物、クリシュナイダーの策略、クリシュナイダーの好意の三つに考察された。
 重要人物と言う点は、推して知るべし。 最後に残るのは策略と好意。
 が、怜香は、それほどお目出度い頭をしていない。
 出された結論は、策略として警戒する。 で、あった。

 王の間に入ると、その場の人が私に対して頭を下げていた。
 それは、国王もだ。

「私如きの為に、頭を上げて下さい」
 私は、頭を下げ懇願する。
「おお、聖女様……何と慈悲深きことか」
 国王がそう言いながら頭を上げる。
「皆の者、聖女様のお言葉だ。 面を上げよ」

 国王の言葉に他の人達が頭を上げる。
 そして、目の前にいる怜香を見て深い溜め息を吐いた。
『何と美しい……』
 口々に貴族達が言い始める。

 怜香は、この機を逃さまいと一礼する。
「自己紹介が遅れまして、私は五十嵐怜香と申します」
『美しくて教養もお持ちか……』
『マナーも素晴らしい』
 そう、このタイミングでここにいる人々の印象を決めた。

「うむ……。 私は、フェビカ王国の国王を務めるジェルシードだ。
 そこにいる、クリシュナイダーの父だ」
 顎下に生えた髭を触る国王。
「陛下、聖女様は召喚されて間もないのでお疲れでございます。
 本題を」
 怜香を値踏みするように見る者達のせいか、少し不機嫌なクリシュナイダーが強い口調で話す。

「うむ。 怜香殿に『公爵』の爵位を授ける。 それと同時に土地、金銭等も授与する」
 フェビカ王国に公爵を持つ家名は、三つ存在する。
『ミサワ家』『キノシタ家』『サトウ家』
 その三つ全てが過去の聖女によって興された家だ。

 私は、その事を知っていた。
 何故なら、馬車の中で過去の聖女の事をクリシュナイダーから聞き出していたからだ。
 勿論、この授与式及び内容も知っている。

「丁重におこわとわりさせて頂きます」

 私のその言葉に、国王、クリシュナイダー、周りの面々もざわつく。
 私は、更に言葉を続けた。
「この全ては、恵まれない民の為にお使い下さい」

『何と……』
『高潔な……』
『怜香ぁ……』
 周りの面々は、私を拝み始める。
 クリシュナイダーに関しては、泣いて此方を見ている。

 何て、単純と言いたいところだが、コレが聖女と呼ばれるネームバリューの力だ。
 信仰心とはこれ程にまで力を持つ。

 国王は、怜香に公爵の爵位を与え彼女の希望通り、土地と現金は王都の孤児院や福祉活動を行うことに。
 更に、城に住み込み地球の知識を教えて欲しいと。

 怜香は、快く受けた。
 ここであれば、この国の情報、情勢等も手に取るようにわかるからだ。




 §§§§§§§




 召喚されて1ヶ月程が過ぎた。
 怜香の知識は、基本的に政治に関わるモノだったがそれは、大いに役に立つものばかりであった。

 その間も、怜香は動いていた。

「サズ、マキア報告」

 怜香の目の前には、女性の猫の獣人、人間の女性が膝を付いていた。
 彼女達は、怜香の奴隷である。
 猫の獣人がサズ、人間の女性がマキアである。
 二人とも、奴隷にしてはあまりにも身綺麗で美しい。
 首輪が見えなければ誰も奴隷だとは、思わないだろう。

「はいにゃ。 
 ご主人様言うとおりにしましたにゃ」
「そう……送還の手続きは?」
「はい、滞りなく」

 怜香は奴隷の一部を買い取って奴隷から解放した上で国に送還していた。 
 これは、慈悲などではない、あくまでも自分の名声高める為の手段だ。
 勿論、五体満足の奴隷、そして返している一部の人達は誘拐され売られた高貴な人達の関係者だ。

 そんな怜香の、名声は国内外に広まっていた。
 しかし、そんな事を意図も簡単に吹き飛ばすような事が起きたのだ。

 至急、王の間へと呼ばれる怜香。
 そこには、国王、宰相のベルヘイム、第一王子クリシュナイダー、その他大臣、高位の貴族が集まっていた。

「遅れて申し訳ありません。
 どの様なご用でしょうか?」

 基本的に謁見の際は、クリシュナイダーから概要を聞けるため今回のような突発的な呼び出しは無かった。
 それ故に、怜香は動揺した。

「うむ。 怜香殿。
 これは、お主に関わることである。
 ……魔獣の森が浄化された」

 ……つまりは、魔獣の森の結界を作ると言う聖女としての役目が無くなった。
 何て事なの!?
 折角の権力をー!

「そうですか」
「落ち着いているな」
 王様が意外そうな表情で尋ねる。
「皆様の危険が無くなって喜ばしいでは無いですか」
 怜香は、微笑む。

 その言葉とは裏腹に、内心は今までに無いほどに焦っていた。
 聖女でなければただの人。
 何なら、そこら辺の平民よりも弱い……。

「父上、ガセ情報と言うことは?」
 クリシュナイダーが、低い声で尋ねる。
「いや、教皇の印がついておる。
 更に驚きなのは、魔獣の森を浄化したのは若干16歳の少女で新教皇の座に就いたらしい。
 更には、妖精族のキングとクイーンが主と認めたと言うことだ」
 怜香以外がざわつく。

「あの鬼女レティシスが、席を譲るとは……」
「妖精族のキングとクイーン……伝承の?」
「くっ、女神の采配なのか」
「何故にこのタイミングで……」

 フェビカ王国は、聖女を盾に世界に宣戦布告を企んでいた。
 しかし、このタイミングで聖女は不要の長物と化した。
 脅迫要素と聖女保有国の強みが無くなったのだ。

 怜香は、幾度も考察するもこの状況を打開する計画を持ち合わせていなかった。
 想定の斜め上を遥かに過ぎた事態。

「陛下、新教皇の名は?」
「ミサキ・ミラケーノとなっている」
「ミサキ!?」

 思いもしない名前に声が出てしまう。

「怜香殿、ご存じか?」
「あっ、いえ」
 何なのよ……アイツの、アイツの訳がない。
 でも、いつも私の邪魔をする……。
 ミサキ……許さない。

 そんな混沌のなか、カツ、カツ、カツ、と杖が床を突く音が響く。
 全員の視線がその音の元へ。

「面白いことになっとるのぉ」

 それは、赤い目をした黒いローブを纏った老人がやってくる。
 国王は、立ち上がり深々と頭を下げる。
「お久し振りで御座います。 魔王様」
 その言葉に、その場の全員が身を正し礼をする。
 魔王は、右手を上げヒラヒラとさせる。

「此度は、見学と叡知を与えに来ただけじゃ。
 ほう、ウヌが聖女。フムフム。
 魔獣の森が無くなって困ってるんじゃろ?
 ならば、復活させようではないか。 ふぉっふぉふぉ」

 魔王と呼ばれた老人の笑い声が王の間に響いた。





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