10 / 12
第10話 お隣さんがかっこ良すぎる
しおりを挟む休日の昼前。
いつもよりゆっくり起きた陽向がキッチンに行くと、すでに湊がエプロン姿でフライパンを握っていた。
「……おはよ。やっと起きたな」
「うん、おはよ。なに作ってるの?」
「オムライス」
フライパンを軽くあおる手つきは無駄がなく、慣れた動き。
エプロンの紐から覗く背中のラインや、片腕をまくったシャツから覗く筋肉が目に入るたびに、陽向は心臓が落ち着かない。
自分とは全然違う大人の顔つき、落ち着いた雰囲気も、何一つ敵う気がしない。
「……何かずるい」
思わず小さく漏らした言葉に、湊が振り返る。
「なんか言ったか?」
「な、なんでもないよ!」
慌てて冷蔵庫を開けてごまかすが、耳まで熱いのが自分でもわかる。
「コップ、出してくれ」
言われて戸棚からコップを取ろうとすると、背後から湊の腕が伸び、すっと大き目の皿を取った。
陽向は背後の湊の気配にコップを持ったまま、ビクッとなる。
(うわ、びっくりした!)
「どうした?」
「……う、ううん」
振り向いた拍子に顔が近くて、また胸が跳ねる。
完成したオムライスをテーブルに置き、湊がスプーンを渡す。
「ほら、食べるぞ」
一口食べて、陽向は思わず笑みをこぼす。
「……おいしい」
「そうか」
湊の口元にも、わずかに満足げな笑みが浮かぶ。
(……この人、本当にかっこいい)
視線を落としながら、胸が締め付けられるような感覚を感じていた。
もう、どんどん湊に沼っていく自分を止められそうになかった。
外は雨が降り続き、リビングの窓を打つ雨音が、しとしとと心地よく響く。
ソファに座る陽向は、膝にブランケットを掛け、ぼんやりと外を眺めていた。
「……寒くないか?」
キッチンからマグカップを2つ持って湊がやってくる。
片方を陽向の前に置き、もう片方を自分の手に。
温かいココアの湯気がふわりと立ち上り、冷えていた指先がじんわりと温まる。
「ありがとう……」
小さく礼を言い、マグカップを両手で包み込む。
そのまましばらく沈黙が続き、雨音だけが二人を包み込む。
(……湊、やさしいな)
湊が隣に腰を下ろすと、ソファのクッションが沈み、自然と陽向の肩が湊の腕に触れる。
「……あの」
声をかけた瞬間、自分でも少し躊躇した。
「あの、湊が……」
湊が一瞬、目を細める。
「俺がどうした?」
「……う~、……なんかここに来てから、前より、ち、近いというか」
視線を逸らし、マグカップをぎゅっと握る陽向。
「近いのは嫌なのか?」
「へ!?あ、嫌とかじゃなくて……恥ずかしいんデス!」
「……それはなんでだと思う?」
「え?なんでって……」
優しい顔をした湊が自分を見ているのがわかる。
胸が熱くなり、うまく呼吸ができない。
「陽向?」
思った以上に近い声に、心臓が跳ねた。
「……そんな顔見せられたら、閉じ込めたくなるな」
湊の優しい手がブランケットごと肩を包み込んだ。
自分がどんな顔してるのか、理解していない陽向の額に優しくキスをした。
外の雨音は二人を包み込むようにますます柔らかく響いていた。
0
あなたにおすすめの小説
定時後、指先が覚えている
こさ
BL
職場で長く反目し合ってきた二人。
それでも定時後の時間だけは、少しずつ重なっていく。
触れるはずのなかった指先。
逸らさなかった視線。
何も始まっていないのに、
もう偶然とは呼べなくなった距離。
静かなオフィスでゆっくりと近づいていく、
等身大の社会人BL。
俺は今、好きな人と一緒に写真を撮っています
鳥居之イチ
BL
剣道一筋だった四季政宗が家計のために剣道を辞め、始めたアルバイトは遊園地のマスコットキャラクターの中の人だった!
しかしマスコットキャラクターでありながら、その怖すぎる容姿から人気が出ない中、ツーショットを撮りたいという申し出が!?
その申し出は四季が気になっている隣のクラスの男子で……
この作品は他サイトでも投稿しております。
病弱の花
雨水林檎
BL
痩せた身体の病弱な青年遠野空音は資産家の男、藤篠清月に望まれて単身東京に向かうことになる。清月は彼をぜひ跡継ぎにしたいのだと言う。明らかに怪しい話に乗ったのは空音が引き取られた遠縁の家に住んでいたからだった。できそこないとも言えるほど、寝込んでばかりいる空音を彼らは厄介払いしたのだ。そして空音は清月の家で同居生活を始めることになる。そんな空音の願いは一つ、誰よりも痩せていることだった。誰もが眉をひそめるようなそんな願いを、清月は何故か肯定する……。
デコボコな僕ら
天渡清華
BL
スター文具入社2年目の宮本樹は、小柄・顔に自信がない・交際経験なしでコンプレックスだらけ。高身長・イケメン・実家がセレブ(?)でその上優しい同期の大沼清文に内定式で一目惚れしたが、コンプレックスゆえに仲のいい同期以上になれずにいた。
そんな2人がグズグズしながらもくっつくまでのお話です。
邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ
零
BL
鍛えられた肉体、高潔な魂――
それは選ばれし“供物”の条件。
山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。
見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。
誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。
心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。
恋するシェアハウス~大河×唯編~
結衣可
BL
大学4年生の 佐伯大河 は、誰とでもすぐに打ち解ける社交的な性格。
シェアハウスでもムードメーカー的な存在で、特に無口で落ち着いた雰囲気の同居人 小早川唯 をからかうのが日課になっていた。
「唯さんってさ、恋とかするんですか?」
「……しないように見える?」
冗談半分で投げかけた言葉に返ってきたのは、淡々としていながらも少し照れたような返事。
そして、不意に見せた小さな笑顔――その瞬間、大河の心臓は大きく跳ね、意識してはいけないと思いながらも唯の姿が頭から離れなくなる。
一方の唯も、にぎやかな大河に振り回されながら、いつも自分に自然に手を差し伸べてくれる優しさに少しずつ惹かれていく。
けれど、不器用な彼はその気持ちを言葉にできず、表情に出ることも少ない。
――シェアハウスという同じ屋根の下で、二人の関係は「ただの同居人」から「かけがえのない存在」へと変わっていく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる