恋するシェアハウス~湊×陽向編~

結衣可

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第10話 お隣さんがかっこ良すぎる

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 休日の昼前。
 いつもよりゆっくり起きた陽向がキッチンに行くと、すでに湊がエプロン姿でフライパンを握っていた。
 「……おはよ。やっと起きたな」
 「うん、おはよ。なに作ってるの?」
 「オムライス」
 フライパンを軽くあおる手つきは無駄がなく、慣れた動き。
 エプロンの紐から覗く背中のラインや、片腕をまくったシャツから覗く筋肉が目に入るたびに、陽向は心臓が落ち着かない。
 自分とは全然違う大人の顔つき、落ち着いた雰囲気も、何一つ敵う気がしない。
 「……何かずるい」
 思わず小さく漏らした言葉に、湊が振り返る。
 「なんか言ったか?」
 「な、なんでもないよ!」
 慌てて冷蔵庫を開けてごまかすが、耳まで熱いのが自分でもわかる。

 「コップ、出してくれ」
 言われて戸棚からコップを取ろうとすると、背後から湊の腕が伸び、すっと大き目の皿を取った。
 陽向は背後の湊の気配にコップを持ったまま、ビクッとなる。 
 (うわ、びっくりした!)
 「どうした?」
 「……う、ううん」
 振り向いた拍子に顔が近くて、また胸が跳ねる。 
 
 完成したオムライスをテーブルに置き、湊がスプーンを渡す。
 「ほら、食べるぞ」
 一口食べて、陽向は思わず笑みをこぼす。
 「……おいしい」
 「そうか」
 湊の口元にも、わずかに満足げな笑みが浮かぶ。
 (……この人、本当にかっこいい)
 視線を落としながら、胸が締め付けられるような感覚を感じていた。
 もう、どんどん湊に沼っていく自分を止められそうになかった。 


 外は雨が降り続き、リビングの窓を打つ雨音が、しとしとと心地よく響く。
 ソファに座る陽向は、膝にブランケットを掛け、ぼんやりと外を眺めていた。
 「……寒くないか?」
 キッチンからマグカップを2つ持って湊がやってくる。
 片方を陽向の前に置き、もう片方を自分の手に。
 温かいココアの湯気がふわりと立ち上り、冷えていた指先がじんわりと温まる。

 「ありがとう……」
 小さく礼を言い、マグカップを両手で包み込む。
 そのまましばらく沈黙が続き、雨音だけが二人を包み込む。
 (……湊、やさしいな)
 湊が隣に腰を下ろすと、ソファのクッションが沈み、自然と陽向の肩が湊の腕に触れる。
 「……あの」
 声をかけた瞬間、自分でも少し躊躇した。
 「あの、湊が……」
 湊が一瞬、目を細める。
 「俺がどうした?」
 「……う~、……なんかここに来てから、前より、ち、近いというか」
 視線を逸らし、マグカップをぎゅっと握る陽向。
 「近いのは嫌なのか?」
 「へ!?あ、嫌とかじゃなくて……恥ずかしいんデス!」
 「……それはなんでだと思う?」
 「え?なんでって……」
 優しい顔をした湊が自分を見ているのがわかる。
 胸が熱くなり、うまく呼吸ができない。
 「陽向?」
 思った以上に近い声に、心臓が跳ねた。
 「……そんな顔見せられたら、閉じ込めたくなるな」
 湊の優しい手がブランケットごと肩を包み込んだ。
 自分がどんな顔してるのか、理解していない陽向の額に優しくキスをした。
 外の雨音は二人を包み込むようにますます柔らかく響いていた。
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