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第9話 お隣さんは心臓に悪すぎる
しおりを挟むあれからしばらくして、湊はバイトの終わりにふと思った。
(……この間の陽向、可愛かった)
また、遅く帰ったら、自分のシャツを握った陽向の可愛い姿が見れるだろうかと。
(わざと寄り道をして、帰宅時間を少し遅らせてみるか)
そう考え始めると、もう一度見たいという欲を抑えきれなくなり、いつより3時間遅く帰ることにした。
シェアハウスの玄関を静かに開けると、リビングの灯りは消えている。
しかし、階段の上からは微かな物音が聞こえた。
足音を忍ばせて2階に上がると――湊の部屋の扉が少し開いており、その中から明かりが漏れている。
そっと覗くと、ベッドに寝っ転がった陽向が、うつ伏せになって湊のシャツに顔をうずめていた。
時々眉を寄せ、携帯を見てはため息をつく姿に、湊の口元が緩む。
気づかれないようにそっとベッドに近づいた。
「……俺のシャツ、そんなに気に入ったのか?」
突然の声に陽向がびくっとして飛び起きる。
「っ……うわ!?!……えっと、これは、その」
「ん?」
クスクス笑う湊に、陽向は耳を赤くして視線を逸らす。
「……ご、ごめ、だって、いつもの時間に帰って来ないから」
だんだんと声が小さくなる陽向に少しだけ罪悪感を感じながらも、陽向への愛しさが募る。
湊がシャツをつかむと、陽向は慌てて手を離そうとする。
しかし、その手を湊が包み込み、シャツごと陽向を引き寄せる。
「次は俺にしろって、言ったろ?」
「っ……み、湊」
「ん?シャワー浴びてくる。そのまま待ってろ」
低く囁かれ、陽向は完全に言葉を失った。
湊のベッドで茫然としていた陽向はシャワーを終えた湊に抱え込まれる。
陽向は毛布の中で必死に平常心を保とうとしたが、湊の腕が、手が肩や背中を撫でるたびに、心臓がうるさく鳴った。
(え、コレ、俺死ぬかも)
朝の柔らかな光がカーテン越しに差し込む。
陽向はゆっくり目を開け――そこで固まった。
なんだかんだそのまま眠ってしまったようだ。
(……うわ…………!)
昨夜の出来事が脳裏によみがえり、顔が一気に熱くなる。
そっと抜け出そうとした瞬間――
「はよ」
低く掠れた声が耳元に落ち、動きが止まる。
「……起きたのか」
半分眠そうな湊が、軽く抱き寄せる。
そのとき、廊下から足音と、元気な声が響いた。
「おーい湊!開けるぞ~?」
ドアが開き、同じ住人の佐伯が顔を出した。
「悪いんだけどさ、湊の……て、え、陽向? なんで湊のベッドに……」
後ろから、何、どうしたの?と小早川も顔を覗かせる。
「わ~~~、違っ……!」
慌てて毛布を跳ね除ける陽向だったが、逆に湊の腕が腰を引き寄せたせいで動けない。
「別に一緒に寝てただけだ」
湊は涼しい顔で答える。
「へぇ……」
佐伯と小早川が揃って意味ありげな笑みを浮かべる。
「まぁいいや、湊、参考書借りてくぞ。朝食食べるだろ?今日は小早川さんがもう用意してくれたから、二人とも冷めないうちに来いよ」
いつものことなのか、平然と湊の本棚から持って行く。
「あぁ」
必死にバタバタする陽向を無視して、湊は腕の力を強めた。
「……暴れるな」
「だって!」
「ほら、用意するぞ」
「う~~~」
「陽向、今日の夜もこっちに来いよ?」
「行かないっ!」
意地悪そうに言った湊に、陽向は真っ赤になって言い返した。
朝食の席でも、陽向は恥ずかしさでご飯の味が半分もわからなかった――
隣で湊は、機嫌良さそうにコーヒーを飲んでいた。
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