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第3話 恋の予感
しおりを挟む夕食後のリビング。
湊がキッチンで洗い物をし、陽向はソファに寝転がってスマホをいじっていた。
テーブルでは、大河と唯が明日の買い物リストを一緒に書き出している。
「……あ、そうだ唯さん。明日、卵安いってチラシに出てましたよ」
「じゃあ、2パック」
「オッケーっす」
ごく普通のやりとり――のはずだったが、それを見ていた陽向が、ふと顔を上げてニコッと笑った。
「なんか、大河と唯さんって……夫婦みたい」
「ぶふっ!」
大河は思わず持っていたペンを落とし、唯は手を止めて陽向をじっと見る。
「え、だって、息ぴったりだし」
湊が苦笑しながら、「陽向、お前そういうことを無邪気に言うな」とたしなめる。
しかし陽向は悪びれず、にこにこしながら続けた。
「えへへ、なんか二人みてると落ち着くんだもん」
大河は横目で唯を見ると、彼は視線を落としてメモ帳を見つめていたが、耳の端がほんのり赤いような気がした。
その後、部屋に戻った大河はベッドに寝っ転がり、天井を見上げる。
(……唯さん、どう思ったんだろ)
無邪気な陽向の一言に唯は何も言ってなかった。
自分だけがこんな動揺してるんだろうか。
唯に近づきたい気持ちがどんどん膨れていく気がした。
日曜の昼過ぎ。
窓の外はしとしとと雨が降り続き、シェアハウスのリビングには静かな雨音が響いていた。
湊と陽向は出かけていて、今日は大河と唯だけが家にいる。
大河はソファに腰掛け、スマホでニュースを眺めていた。
そこへ、湯気の立つマグカップを持った唯がやってくる。
「……コーヒー、いる?」
「お、ありがとうございます」
マグカップを受け取りながら、大河はふと唯の髪に小さな水滴がついているのに気づく。
「外、行ってたんすか?」
「うん、近くのコンビニまで。傘、差してたんだけどね……」
「今タオル持ってきます」
大河はタオルを持って戻り、唯の頭に軽くかけた。
「……ほら、頭拭きますよ」
「う、わ、自分でできる」
「いいから、じっとしてください」
タオル越しに髪を拭くと、ほんのりシャンプーの匂いがして、胸がくすぐったくなる。
下向いて、されるがままの唯が可愛く見えて――
「……弟がいたら、こんな感じなんすかね」
「なんで弟?俺年上だけど?」
「いや、ほら、唯さん……なんか弟っぽい」
まさか可愛いと思ってるとは言えなくて、「弟」と表現してしまったが、確かに年上にそれは失礼だったと謝ろうとしたとき――
「……弟はやだ」
その返しに、大河の手が一瞬止まった。
(今の、どういう意味……?)
タオルで拭き終えると、大河は名残惜しく手を離した。
唯は大河に「ありがと」と言うと、マグカップを手に取り、窓際の席に腰を下ろした。
「雨、ずっと降ってる……」
「そうですね」
短いやりとりのあと、二人の間には雨音だけが流れる。
その沈黙が、不思議と心地いい。
やがて、唯がぽつりと呟いた。
「……今日はもう外に出たくないなぁ」
「そうですね、今日はここにいましょう」
唯は視線をカップの中に落としたまま、小さく頷いた。
その横顔を見ながら、大河は唯の「弟はやだ」の意味を都合よく考えてしまいそうになる自分に小さくため息をついた。
その日の夜、シェアハウスのキッチンでは、大河がエプロン姿で夕食の準備をしていた。
湊と陽向はまだ帰っておらず、今日もまた二人きりだ。
「唯さん、皿出してくれます?」
「……どれ」
「上の棚のやつっす」
唯は無言で棚を開け、皿を数枚取り出す。
そのとき、うっかり重ねすぎてバランスを崩し――ガシャン、と大きな音が響いた。
「うわっ、大丈夫っすか!」
皿は割れていなかったが、唯は少しだけ眉をひそめていた。
「……ごめん」
「怪我がないなら、よかったです。大丈夫ですよ、俺なんてコップ3連続で割ったことありますから」
そう言って笑い飛ばした瞬間、唯がふっと口元をゆるめた。
それはほんの一瞬の、柔らかい笑み。
普段の無表情に近い顔から零れたそれは、大河の心臓に直撃した。
(……やっば、何今の)
視線を逸らそうとしても、どうしても唯の顔に目が行ってしまう。
皿を並べる姿まで、つい気になって見ていた。
「……大河」
「え!?は、はいっ」
「どうしたの?顔、赤い」
「えっ!? いや、なんか、 暑いっすね!」
動揺を隠すために慌てて鍋の火を確認するが、室内の温度はいつも通り。
自分でも言い訳が苦しいと分かっていた。
夕食を終え、片付けを終えたあとも、大河の頭の中にはあの笑顔がこびりついて離れなかった。
(はぁ、なんで、あんな……年上のくせに可愛すぎだって)
ベッドに寝転び、天井を見上げた。
そして、最近ずっと唯のことを考えていることに気が付く。
(――マジか~、どうしよ……。)
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