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第2話 君のことが頭から離れない
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先日の唯の発言を聞いてから、大河はどうも落ち着かなくなった。
大学の講義を受けていても、サークル仲間とふざけていても、不意に頭の中に浮かぶのは――あの日、リビングで見た唯の柔らかい笑顔に、部屋に戻る前に言った言葉……。
(……唯さんのことが頭から離れん。)
授業帰りの電車の中でも、ぼんやりとその時の光景を思い出してしまう。
普段の唯は無口で、感情をあまり表に出さない。シェアハウスに来てから半年ほど経つが、笑っているところなんてほとんど見たことがなかった。
だからこそ、一瞬だけ見せたあの表情がやけに鮮やかに焼きついて離れない。
玄関を開けると、リビングから湊と陽向の声が聞こえてきた。
「おかえり、大河」
「おかえり!」
ソファでゲームをしていた二人に軽く手を上げ、ふと奥のキッチンに目をやると――唯がカウンターで何やら作業をしている。
大河はそのまま近づき、何気ないふりで覗き込んだ。
「……何作ってんですか?」
「夕ご飯。今日はパスタ」
「へぇ、唯さんが作るの?」
「うん」
短いやりとり。でも、包丁を握る横顔はどこか穏やかで、真剣な表情もまた、大河の胸を少し騒がせる。
その夜、部屋に戻ってベッドに寝転がっても、脳裏に浮かぶのは唯の姿ばかりだった。
無口で、少し不器用そうで、でも、ふいに笑うと……。
もう3年くらいこのシェアハウスで一緒に過ごしているはずなのに、まだ知らない部分がたくさんある。
(……もっと、知りたいな)
その感情が、恋なのかどうか――大河はまだはっきりとは分からないまま、目を閉じた。
土曜の午後、シェアハウスの4人で近くのスーパーへ買い出しに出かけた。
湊と陽向は「アイスコーナー見てくる!」と早々に別行動。残った大河と唯は、買い物リストを見ながら野菜売り場を回っていた。
「唯さん、この“パプリカ”って赤と黄色どっちがいいんですか?」
「彩り考えたら、両方じゃない?」
「彩りなんて、考えるんすね」
「見栄えがいい方が美味しそうに見える」
さらっと答える唯の横顔は、相変わらず感情の起伏が少ないようでいて、よく見ると少し楽しそうに食品を選んでいた。
レジへ向かう途中、人の流れが急に詰まり、前から小走りの男性が荷物を抱えて突っ込んできた。
「唯さん!」
大河は反射的に唯の腕をつかみ、自分のほうへ引き寄せた。
その勢いで、唯は大河の胸に軽くぶつかる形になる。
「……っ、ごめん」
「いや、大丈夫」
唯は短くそう言ったが、耳の先がわずかに赤い。
大河もまた、自分の心臓が速くなっているのを自覚していた。
会計が終わり、袋詰めをしながら、唯がふと口を開く。
「……さっき、ありがと」
「え?あ、俺こそ、急に引っ張ってすんません」
「ううん、嬉しかった」
「!?」
(う、嬉しかったって、それ、どういう?)
唯の表情は変わらないのに、その小さな声がなんとなく照れているように聞こえて、心が落ちつかない。
引っ張ったときに触れた細い腕が、肩が、じわじわと思い出される。
「唯さん、俺やばいかも」
皆で並んで歩く帰り道、大河はぼそっとこぼした。
大学の講義を受けていても、サークル仲間とふざけていても、不意に頭の中に浮かぶのは――あの日、リビングで見た唯の柔らかい笑顔に、部屋に戻る前に言った言葉……。
(……唯さんのことが頭から離れん。)
授業帰りの電車の中でも、ぼんやりとその時の光景を思い出してしまう。
普段の唯は無口で、感情をあまり表に出さない。シェアハウスに来てから半年ほど経つが、笑っているところなんてほとんど見たことがなかった。
だからこそ、一瞬だけ見せたあの表情がやけに鮮やかに焼きついて離れない。
玄関を開けると、リビングから湊と陽向の声が聞こえてきた。
「おかえり、大河」
「おかえり!」
ソファでゲームをしていた二人に軽く手を上げ、ふと奥のキッチンに目をやると――唯がカウンターで何やら作業をしている。
大河はそのまま近づき、何気ないふりで覗き込んだ。
「……何作ってんですか?」
「夕ご飯。今日はパスタ」
「へぇ、唯さんが作るの?」
「うん」
短いやりとり。でも、包丁を握る横顔はどこか穏やかで、真剣な表情もまた、大河の胸を少し騒がせる。
その夜、部屋に戻ってベッドに寝転がっても、脳裏に浮かぶのは唯の姿ばかりだった。
無口で、少し不器用そうで、でも、ふいに笑うと……。
もう3年くらいこのシェアハウスで一緒に過ごしているはずなのに、まだ知らない部分がたくさんある。
(……もっと、知りたいな)
その感情が、恋なのかどうか――大河はまだはっきりとは分からないまま、目を閉じた。
土曜の午後、シェアハウスの4人で近くのスーパーへ買い出しに出かけた。
湊と陽向は「アイスコーナー見てくる!」と早々に別行動。残った大河と唯は、買い物リストを見ながら野菜売り場を回っていた。
「唯さん、この“パプリカ”って赤と黄色どっちがいいんですか?」
「彩り考えたら、両方じゃない?」
「彩りなんて、考えるんすね」
「見栄えがいい方が美味しそうに見える」
さらっと答える唯の横顔は、相変わらず感情の起伏が少ないようでいて、よく見ると少し楽しそうに食品を選んでいた。
レジへ向かう途中、人の流れが急に詰まり、前から小走りの男性が荷物を抱えて突っ込んできた。
「唯さん!」
大河は反射的に唯の腕をつかみ、自分のほうへ引き寄せた。
その勢いで、唯は大河の胸に軽くぶつかる形になる。
「……っ、ごめん」
「いや、大丈夫」
唯は短くそう言ったが、耳の先がわずかに赤い。
大河もまた、自分の心臓が速くなっているのを自覚していた。
会計が終わり、袋詰めをしながら、唯がふと口を開く。
「……さっき、ありがと」
「え?あ、俺こそ、急に引っ張ってすんません」
「ううん、嬉しかった」
「!?」
(う、嬉しかったって、それ、どういう?)
唯の表情は変わらないのに、その小さな声がなんとなく照れているように聞こえて、心が落ちつかない。
引っ張ったときに触れた細い腕が、肩が、じわじわと思い出される。
「唯さん、俺やばいかも」
皆で並んで歩く帰り道、大河はぼそっとこぼした。
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