無口な愛情

結衣可

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第1話 無口な男

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《登場人物》
  葛城 律(かつらぎ りつ)
 年齢:27歳
 立場:葛城誠の兄。
    高城綾人とは学生時代からの親友。
 性格:真面目で理性的。
    面倒見がよく、弟や友人のことを
    第一に考えてしまう。
 外見:長身で整った顔立ち。
    落ち着いた雰囲気を纏い、
    スーツ姿がよく似合う。
 特徴:弟と親友の恋を見守りつつも、
    どこか寂しさを抱えている。
    自分の気持ちを抑えてしまう癖が
    あり、「誰かに甘える」ということ
    が苦手。

  桐生 隼人(きりゅう はやと)
 年齢:26歳
 立場:律と同じ会社
 性格:無口で不器用。鈍感に見えるが、
    人の話をよく聞き、言葉より態度で
    示すタイプ。
 外見:大柄で筋肉質。肩幅が広く、
    存在感がある。整った顔立ちだが、
    表情はあまり変わらない。
 特徴:会話は少ないが、律の話を黙って
    聞き続ける包容力を持つ。
    気づかれないところで人を助ける
    さりげなさがある。



 仕事終わりの夕方、都心のビル群に沈む夕陽を眺めながら、葛城律は小さく息を吐いた。
 弟・誠と、親友・綾人が付き合っている――。
 それを知ってからというもの、胸の奥に微妙な寂しさが残っていた。
 嬉しいはずなのに、取り残されたような感覚。
 そんな自分に苦笑して、今日も一日を終えようとしていた。 

「葛城さん、この方が新しくプロジェクトに加わる桐生さん。このまま少し打合せしてもいいか?」

「あぁ、大丈夫」

 同僚に紹介され、律は振り返る。
 そこに立っていたのは、体格の大きな男だった。
 肩幅が広く、スーツの上からでも鍛えられた体つきがわかる。
 顔立ちは整っているのに、表情は無骨で硬い。
 視線を合わせても、ただ軽く頷くだけ。

「桐生隼人です。……よろしくお願いします」

 低く落ち着いた声が響く。
 余計な言葉はなく、本当に挨拶だけ。

「あ、ああ。葛城律です。こちらこそ」

 思わず律は背筋を正した。
 人懐っこさや愛想とは真逆の、寡黙な存在感。
 それでいて、不思議と威圧感はなかった。

 その日の打ち合わせでは、律が話す内容に、桐生はほとんど口を挟まなかった。
 ただ静かに頷き、必要な箇所だけ簡潔に意見を述べる。
 それが的確で、妙に頼もしさを感じさせる。
 会議が終わり、帰り際に律は思わず声をかけた。

「……桐生さんって、結構無口なんだな」

 不躾な言葉だったかと思い、少し後悔する。
 しかし隼人はほんの一瞬だけ眉を動かし、ぼそりと答えた。

「……話すより、聞く方が得意なんで」

 その言葉に、律の胸が不意にざわめいた。
 自分が求めていたものが、そこにある気がしてならなかった。

 
 数日後、プロジェクトの打ち合わせが長引き、気づけば律と隼人の二人だけがオフィスに残っていた。

「……ふぅ」

 律は書類を閉じ、ソファに背を預ける。
 すぐ隣で隼人が無言のままノートPCを閉じた。

「桐生さん、毎回思うけど……ほんと静かだな」

 思わず漏らした律の言葉に、隼人は軽く肩をすくめる。

「……うるさいのは苦手で」

 その素っ気ない返事に、律は苦笑する。
 沈黙が続くと逆に口を開きたくなってしまうのが自分の悪い癖だった。

「……なあ、聞いてくれるか。俺の弟の話」

 隼人は意外そうに眉を上げたが、何も言わずに律の方へ視線を向けた。
 促されるように、律は口を開く。

「弟の誠が……俺の親友と付き合い始めたんだ」

 ぽつりと告げると、隼人はただ静かに頷く。
 律は苦笑して続けた。

「嬉しいんだ、すごく。二人が幸せそうで……。でも、なんか置いてかれた気がして。
 弟はもう俺が知らない顔を見せるし、親友は弟にばっかり笑ってて……
 今までみたいに3人で遊んだり、できないのかなって、思ったり……」

 言いながら、だんだん恥ずかしくなって赤面した。

「ご、ごめん……こんな話、急にして」

 そう言った律を、隼人はじっと見つめた。
 無言が長く続き、居心地の悪さに律が視線を逸らしかけたとき。

「……大事にされてるんですね」

 短く、それだけ。
 でも、不思議と胸に沁みた。
 律は唇を噛み、心の奥がじんわりと温かくなるのを感じていた。

 ――こんなふうに、聞いてくれるんだ。

 俺には、ずっと必要だったのかもしれない。
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