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1章 芙蓉の物語
(※破瓜の赤1)
2話
お歯黒どぶに囲まれた花街にも等しく夏は来る。
まだ、朝だというのにうだるように暑い。
世界は、緩やかに終末に向かっていた。近年は、異常気象について騒がれて久しい。
だから、人々は盛暑にもすっかり慣れたものである。
人形館では、昼見世までまだ時間に余裕があるので着流し姿の男娼たちがねそべったり、氷菓をかじったり……と思い思いに涼をとっている。
近年、この国でよく見られる夏の光景がそこにあった。
未だ、芙蓉は座敷牢にいた。
連日に渡る床技の指導でひどく消耗しており、うつろな目を宙に向けている。
「水揚げ」と呼ばれる古い風習がある。
初めて客をとる突き出しの前に、破瓜を失うのである。
古くは、禿として育てられた少女や未婚の女性が、性的嫌悪をもたないようにする措置であったらしい。
現代において、かつての吉原遊郭のしきたりは略式化されつつあるが、未だにこれらの習慣は、妓楼に残っていた。
さて、この頃、芙蓉は水揚げが迫っていた。
日がな一日、秘部には棒薬を噛まされ、射精を禁じられていた。
だから、身体がむずむずとして落ち着かない。
芙蓉は湿っぽい息をついた。せつなそうに美貌を歪める。
「ぅ、あう……」
暗い部屋は、ひどく陰鬱だった。
もうずっと、そこに閉じ込められている。
芙蓉は、疼く身体を持て余して、身じろぎした。
しかし、発情を強制された身体はどうにも鎮まらなかった。
芙蓉は白磁の手を伸ばした。指先で肥大した乳首を摘まみ、捻る。
「ひあ、あん……っ」
短期間に集中して行われた調教の結果、その部位は女性の乳頭さながら、膨張し、快楽を感じ取れるようになった。
くに、くに、と指で突起を転がし、虐める。
「あっ、あう、ああんっ」
芙蓉の口からべとついた唾液が溢れ、華奢な顎を濡らす。
甘ったるい悲鳴が、その口から洩れた。
射精はできないのに、芙蓉は自涜に夢中だった。
座敷牢には娯楽がない。寝食以外には、慢性的な退屈を紛らわせる手段はない。
だから、自然に自涜の癖がついた。
それは水揚げまでの期間、まだ自我と身体の成熟に至らないバイオノイドを座敷牢に閉じ込める意図のひとつである。
「はあ、あ……ッ、いきたい、いきたいぃ……っ」
もう頭の中には射精のことしかない。
根本を紐で結わえられた肉棒は、かたくそそりたっている。先端から蜜を滲ませて、はちきれんばかりの様は熟れた果実を思わせる。
芙蓉は、細腰を振った。その様は淫靡な踊りのようだ。
指に加圧した際、誤って、やわらかい箇所に爪をたててしまう。鋭利な痛みが、快感となって駆けて、びくりと身体を震わせてしまう。
「おひっ、ぴゅっぴゅってえっちなの……だしたいぃ……っ」
腰が落ち着かない。突きあげる動きをする。とうとう、辛抱できなくてカウパーでべとつく亀頭を擦る。
「ひいっ、ひいっ、だめ、感じちゃうぅ~っ」
彼はみっともなく仰け反った。
その箇所に触れただけで腰が痙攣するような凄まじい快感がある。
芙蓉はしゃくりあげた。
行き場を失った性的快感はあまりにも強く、つらかった。
はやく楽になりたいと思うのに、けしてその願いは許されない。
小さな影が芙蓉を見下ろしていた。
「…………無駄をしなんす」
軽やかな声が嘲笑めいて響いた。
「ほんに」
「あ……」
芙蓉は顔をあげた。
こどもだった。
灰色の髪を結いあげ、簪で彩っている。白粉をはたいているのか、かんばせは人工的に白い。小さな口唇に艶やかな紅をひいている。
見てくれは、年端のいかない少女のようだ。
しかし、眼差しは冷たい。
こどもは解錠すると、座敷牢の内部にはいった。
「わっちは小鹿でありんす」
廓詞を操る独特の調子で、小鹿は言った。
どうやら、彼も人形館の男娼らしい。
芙蓉は、自涜を見られたいたたまれなさから、口を開くことができない。
「さ、昼餉でござりんす」
小鹿は清拭のあと、持参した器を示した。いつもと同じ冷めた粥だった。
もう彼は芙蓉への興味を失くしたようで、小さな鼻を鳴らすと踵を返した。
「まって」
芙蓉は懇願した。
小鹿が、視線を向けた。
「なんざんす」
「きみも……こんな扱いに甘んじて……苦しくないの」
いざ、口を開くと物言いはしどろもどろになってしまう。
久しく、人と話すことはなかったから、思うように言葉が出てこない。
ましてや、自分は愛玩動物の扱いで、意思など関係がなかったから、本心を口にするのが難しい。
「こんなところに閉じ込められて、嫌じゃないの……」
さっと小鹿の童顔が軽蔑に染まる。
「いいなんすな。そんな好かねえことを。わっちは誇りがありんす」
確固たる口調だった。
今度こそ、小鹿は一顧だにせず、座敷牢を出た。
芙蓉はひとり、その場に残された。
お歯黒どぶに囲まれた花街にも等しく夏は来る。
まだ、朝だというのにうだるように暑い。
世界は、緩やかに終末に向かっていた。近年は、異常気象について騒がれて久しい。
だから、人々は盛暑にもすっかり慣れたものである。
人形館では、昼見世までまだ時間に余裕があるので着流し姿の男娼たちがねそべったり、氷菓をかじったり……と思い思いに涼をとっている。
近年、この国でよく見られる夏の光景がそこにあった。
未だ、芙蓉は座敷牢にいた。
連日に渡る床技の指導でひどく消耗しており、うつろな目を宙に向けている。
「水揚げ」と呼ばれる古い風習がある。
初めて客をとる突き出しの前に、破瓜を失うのである。
古くは、禿として育てられた少女や未婚の女性が、性的嫌悪をもたないようにする措置であったらしい。
現代において、かつての吉原遊郭のしきたりは略式化されつつあるが、未だにこれらの習慣は、妓楼に残っていた。
さて、この頃、芙蓉は水揚げが迫っていた。
日がな一日、秘部には棒薬を噛まされ、射精を禁じられていた。
だから、身体がむずむずとして落ち着かない。
芙蓉は湿っぽい息をついた。せつなそうに美貌を歪める。
「ぅ、あう……」
暗い部屋は、ひどく陰鬱だった。
もうずっと、そこに閉じ込められている。
芙蓉は、疼く身体を持て余して、身じろぎした。
しかし、発情を強制された身体はどうにも鎮まらなかった。
芙蓉は白磁の手を伸ばした。指先で肥大した乳首を摘まみ、捻る。
「ひあ、あん……っ」
短期間に集中して行われた調教の結果、その部位は女性の乳頭さながら、膨張し、快楽を感じ取れるようになった。
くに、くに、と指で突起を転がし、虐める。
「あっ、あう、ああんっ」
芙蓉の口からべとついた唾液が溢れ、華奢な顎を濡らす。
甘ったるい悲鳴が、その口から洩れた。
射精はできないのに、芙蓉は自涜に夢中だった。
座敷牢には娯楽がない。寝食以外には、慢性的な退屈を紛らわせる手段はない。
だから、自然に自涜の癖がついた。
それは水揚げまでの期間、まだ自我と身体の成熟に至らないバイオノイドを座敷牢に閉じ込める意図のひとつである。
「はあ、あ……ッ、いきたい、いきたいぃ……っ」
もう頭の中には射精のことしかない。
根本を紐で結わえられた肉棒は、かたくそそりたっている。先端から蜜を滲ませて、はちきれんばかりの様は熟れた果実を思わせる。
芙蓉は、細腰を振った。その様は淫靡な踊りのようだ。
指に加圧した際、誤って、やわらかい箇所に爪をたててしまう。鋭利な痛みが、快感となって駆けて、びくりと身体を震わせてしまう。
「おひっ、ぴゅっぴゅってえっちなの……だしたいぃ……っ」
腰が落ち着かない。突きあげる動きをする。とうとう、辛抱できなくてカウパーでべとつく亀頭を擦る。
「ひいっ、ひいっ、だめ、感じちゃうぅ~っ」
彼はみっともなく仰け反った。
その箇所に触れただけで腰が痙攣するような凄まじい快感がある。
芙蓉はしゃくりあげた。
行き場を失った性的快感はあまりにも強く、つらかった。
はやく楽になりたいと思うのに、けしてその願いは許されない。
小さな影が芙蓉を見下ろしていた。
「…………無駄をしなんす」
軽やかな声が嘲笑めいて響いた。
「ほんに」
「あ……」
芙蓉は顔をあげた。
こどもだった。
灰色の髪を結いあげ、簪で彩っている。白粉をはたいているのか、かんばせは人工的に白い。小さな口唇に艶やかな紅をひいている。
見てくれは、年端のいかない少女のようだ。
しかし、眼差しは冷たい。
こどもは解錠すると、座敷牢の内部にはいった。
「わっちは小鹿でありんす」
廓詞を操る独特の調子で、小鹿は言った。
どうやら、彼も人形館の男娼らしい。
芙蓉は、自涜を見られたいたたまれなさから、口を開くことができない。
「さ、昼餉でござりんす」
小鹿は清拭のあと、持参した器を示した。いつもと同じ冷めた粥だった。
もう彼は芙蓉への興味を失くしたようで、小さな鼻を鳴らすと踵を返した。
「まって」
芙蓉は懇願した。
小鹿が、視線を向けた。
「なんざんす」
「きみも……こんな扱いに甘んじて……苦しくないの」
いざ、口を開くと物言いはしどろもどろになってしまう。
久しく、人と話すことはなかったから、思うように言葉が出てこない。
ましてや、自分は愛玩動物の扱いで、意思など関係がなかったから、本心を口にするのが難しい。
「こんなところに閉じ込められて、嫌じゃないの……」
さっと小鹿の童顔が軽蔑に染まる。
「いいなんすな。そんな好かねえことを。わっちは誇りがありんす」
確固たる口調だった。
今度こそ、小鹿は一顧だにせず、座敷牢を出た。
芙蓉はひとり、その場に残された。
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