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第三章 箱庭編

箱庭Ⅴ ガニオの顔役

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「おお、これはこれはアルエット王女殿下。遠路はるばるこのガニオにお越しいただいて、誠に恐悦でございます。」

 アルエット、アムリス、ガステイルの三人はガニオで最も大きな屋敷に立ち寄っていた。門番らしき兵士が二人門の前に立っていたが、三人が横を通り過ぎても何の反応も見せることはなかった。アルエットが屋敷の扉を開いたと同時に、屋敷の主人と思わしき男が大仰に手を広げそう言った。

「単刀直入に聞く。洗脳の魔法を使っているのはお前か?」

 アルエットはそう言って、男を指さした。男は黙ったまま眉ひとつ動かさない。

「宿屋の主人と同じみたいですね。決まった回答をしないと応答しない。」
「まあ、つまり答えはNOってことね。宿屋と違って私たちがなんと答えればいいか分からないし、これは骨が折れるわね……。」

 アルエットは男に向き直り、とりあえず挨拶を返すことにした。

「こちらこそご歓待いただき、誠にありがとうございます。」

 アルエットはそう告げ、胸に手を当てながら頭を少し下げる。そのまま上目遣いで男の様子を伺うと、男は広げた両手を下ろし

「私はこの街の顔役のヴェレット・ホーキンスと申します。さて、本日はどのようなご用事で……?」

 同様に胸に手を当て一礼する。アルエットはヴェレットの言葉を聞き、やれやれとため息をつくとアムリス達に向き直り言った。

「一体何を聞くのが正解なんだろうか、これ。」
「いきなり正解が分からない話題になりましたね。」
「まあとりあえず……どうしてまだゴールドを使っているんですか?」

 ヴェレットに尋ねるアルエット。しかしヴェレットは全く動かない。

「まあ、そうだよね……」
「正解も何も、そもそもその用事で来たんだけどなぁ……」
「他に聞くことも無いのでしたら、とりあえずあの少年のことを聞いてみませんか?」
「いいねアムリス。その案でいこう……あれ、あの子の名前って聞いたっけ?」
「あ……」

 三人は顔を見合わせ、苦笑いを浮かべる。

「まあ、何とかしてみるよ」

 アルエットはそう言って、ヴェレットに向き直る。

「実は、ゴールドの持ち合わせが足りず宿に泊まれなくてですね……。今は裏通りのある男の子の厄介になっているんですよ。ヴェレット様の方からなんとか口利きしてもらえませんかね?」
(いや、これだと金が足りなくてコネでなんとかしようとしてるクズじゃないのよ……我ながら苦しい言い分ね)

 アルエットはアムリス達の方をちらりと見る。苦笑いを浮かべるアムリスと口元に手を当てて冷めた視線を送るガステイル。それを見たアルエットはぼそりと呟く。

「全く、あんた達がやってみなさいよ……ん?」

 アルエットはヴェレットの方をふと見上げる。ヴェレットは何かを考えるように顎に手を当てている。

(考える……思考力があるのか?それとも、ただの考える動きってこと?)

 やがて、ヴェレットが口を開いた。

「もしかして、その少年は東のボロ小屋に住んでいる、四~五歳くらいの見た目の男の子ですかな?」
「進んだ!?」
「これが正解なのね!」

 アムリスとガステイルが驚き、アルエットに駆け寄る。

(とりあえず進展した……この質問にはYESでいいはず。そして、食いついたのは子供の部分。つまり、あの子供に何か秘密があるという事ね。)
「はい。その子がどうかなさったんです?」

 ヴェレットは腕組みをし、ため息をひとつこぼして言った。

「その子の名前はシャガラと言います。ギェーラで彼の祖父と二人で暮らしていたのですが、五年前からはこの街で一人暮らしをしています。」
「シャガラ……」
「ちょっと待ってください!五年前……って、シャガラは一体何歳なんですか!」

 ガステイルがアルエットに割って入り、ヴェレットに質問する。

「彼は幼く見えるかもしれないが、あれでも12歳だ。」
「「「じ、12歳!?」」」

 三人は一斉にヴェレットの方を向き、大声でリアクションを取った。

「ははは……今どきこんな古典的な……」

 ヴェレットはそんなアルエットも意に介さず、やや上の空の状態で何かを案じている。

「ふむ……ちょうどいいかもしれん。彼の祖父が今日ガニオに来る予定でして、仕事の納品の間に少し時間が取れないか確認してみましょう。」

 ヴェレットがそう言った瞬間、屋敷の外が何やら騒がしくなった。

「噂をすれば、ですな。行きましょう。」

 ヴェレットに促され、アルエット達も屋敷の外に向かった。
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