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第7話
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成田からバルセロナまでの直行便はなく、オランダ乗り継ぎの方法をとった。18時間の空の旅を終えて、ちょっと疲れ気味でスペインの地に降り立った。
夜中にタクシー乗って大丈夫だよね。おつり、ごまかされたりしないよね。
そんな不安を抱きながら、空港のロビーにでた。
空港で落ち着きがなさそうに歩いていた人がこちらを見た瞬間に、迷いもなくまっすぐに向かってきた。
日焼けをして黒くなった顔。
現地の人の顔つきになった。
克之が纏っている空気が日本にいるときと違っていた。
明るく陽気で開放的なイメージがスペインにはある。
そんな空気を彼は纏っていた。
誰にも話しかけていきそうな勢いがあった。
「元気だった?」
そのあとの言葉が続かないうちに抱きしめられた。
これが海外で友達同士がやるっていう抱擁なんだろうかと彼の腕のなかにいながらもそんなことを考えていた。
抱きしめられた腕の強さは変わらないのに、どうしてだろう。彼をひとめみたときから頭から離れない違和感。別の人種になってしまったみたいだ。
7ヶ月、その時間の長さを今感じてしまった。
赤と黒の肩まで伸びた髪、 眼鏡がコンタクトに変わり、色つきの灰色のコンタクトは彼の瞳の奥に隠れている真実を見せたくないようなそんな色だった。
ぼろぼろの擦り切れたジーンズだけが前と変わらなかった。
夏にみんなでひとり暮らしの克之の部屋を訪ねたときに、留守なのに鍵がかかってなかった。
「物騒な奴だな。あいつ、いつか泥棒に入られるぞ」
そんなことを先輩が言ってたが、一回も泥棒には遭遇することもなく、平穏無事だったみたいだ。
部屋に上がりこむと、異様な臭いに誰もが黙って窓を開けた。その異臭のにおいのもとを捜すと、洗濯物の山に辿りついた。
溜まった洗濯物を全部洗濯機にかけて、乾かすスペースがないから、裏通りにあるコインランドリーに行って、すべてを乾かしたが、ひとつだけ乾かない代物があった。
裾にはほつれた後があり、泥もついていたジーンズ。
今はきれいに洗いあがって、生乾きのジーンズだけはハンガーにかけて、外に干しておいた。
克之が帰ってきたときに一番に見たものは、勝手に部屋にあがりこんでいる私たちではなくて、外に干してあるジーンズ。
「一回も洗ってない俺のジーンズが!」
そのときの彼のなさけない顔を忘れない。今でも思い出すと笑えてきてしまう。
タクシーに乗り込むと、質問をされないうちに次から次へと言葉が飛び出した。
「ホテルはダンテというとこを予約したんだけど、どこかわかる?」
「住んでる場所とホテルは近い?」
「明日はどこかに連れてってよ」
その質問全部に答えない。答えに困っているのか、答えたくないのか、車の外で流れていく景色のなかに、時々あ
る街灯しか明かりがないので、彼の顔をうかがい知ることはできない。
「サグラダファミリアを見にきたんだろ?」
低音の頭の上から響く声。
そうだ。
彼はこんな風にやさしげに話す人だった。
今、会ってなかった時間の長さが溶け出す。そして、過去の彼と現在の彼が一気に結びつく。
「一番はそれが目的かな」
なるべく元気に聞こえるように、おなかに力を入れて返した言葉。
嘘つきな私、弱虫な私。
今日もまたベッドに入ってさめざめとなく、自分の姿を想像してぞっとした。
私の嘘がわかっているのか、いないのか、空港を出る前にセットしてきた髪の毛がくしゃくしゃになるまで髪を撫で続けたのはどうしてなのだろう。
どうして?
私の心は叫んでいるのにうまく言葉にならない。
こんなに近くにいるのに、表情が見えないまま、街の繁華街を抜けて、タクシーは止まった。
閑静なオフィス街のなかにぽつりと明るい火を灯したかのようなホテルが見えた。
日本では見ない建築様式。
ホテルを見て初めて自分がスペインにやってきたのだという実感が湧いた。
夜中にタクシー乗って大丈夫だよね。おつり、ごまかされたりしないよね。
そんな不安を抱きながら、空港のロビーにでた。
空港で落ち着きがなさそうに歩いていた人がこちらを見た瞬間に、迷いもなくまっすぐに向かってきた。
日焼けをして黒くなった顔。
現地の人の顔つきになった。
克之が纏っている空気が日本にいるときと違っていた。
明るく陽気で開放的なイメージがスペインにはある。
そんな空気を彼は纏っていた。
誰にも話しかけていきそうな勢いがあった。
「元気だった?」
そのあとの言葉が続かないうちに抱きしめられた。
これが海外で友達同士がやるっていう抱擁なんだろうかと彼の腕のなかにいながらもそんなことを考えていた。
抱きしめられた腕の強さは変わらないのに、どうしてだろう。彼をひとめみたときから頭から離れない違和感。別の人種になってしまったみたいだ。
7ヶ月、その時間の長さを今感じてしまった。
赤と黒の肩まで伸びた髪、 眼鏡がコンタクトに変わり、色つきの灰色のコンタクトは彼の瞳の奥に隠れている真実を見せたくないようなそんな色だった。
ぼろぼろの擦り切れたジーンズだけが前と変わらなかった。
夏にみんなでひとり暮らしの克之の部屋を訪ねたときに、留守なのに鍵がかかってなかった。
「物騒な奴だな。あいつ、いつか泥棒に入られるぞ」
そんなことを先輩が言ってたが、一回も泥棒には遭遇することもなく、平穏無事だったみたいだ。
部屋に上がりこむと、異様な臭いに誰もが黙って窓を開けた。その異臭のにおいのもとを捜すと、洗濯物の山に辿りついた。
溜まった洗濯物を全部洗濯機にかけて、乾かすスペースがないから、裏通りにあるコインランドリーに行って、すべてを乾かしたが、ひとつだけ乾かない代物があった。
裾にはほつれた後があり、泥もついていたジーンズ。
今はきれいに洗いあがって、生乾きのジーンズだけはハンガーにかけて、外に干しておいた。
克之が帰ってきたときに一番に見たものは、勝手に部屋にあがりこんでいる私たちではなくて、外に干してあるジーンズ。
「一回も洗ってない俺のジーンズが!」
そのときの彼のなさけない顔を忘れない。今でも思い出すと笑えてきてしまう。
タクシーに乗り込むと、質問をされないうちに次から次へと言葉が飛び出した。
「ホテルはダンテというとこを予約したんだけど、どこかわかる?」
「住んでる場所とホテルは近い?」
「明日はどこかに連れてってよ」
その質問全部に答えない。答えに困っているのか、答えたくないのか、車の外で流れていく景色のなかに、時々あ
る街灯しか明かりがないので、彼の顔をうかがい知ることはできない。
「サグラダファミリアを見にきたんだろ?」
低音の頭の上から響く声。
そうだ。
彼はこんな風にやさしげに話す人だった。
今、会ってなかった時間の長さが溶け出す。そして、過去の彼と現在の彼が一気に結びつく。
「一番はそれが目的かな」
なるべく元気に聞こえるように、おなかに力を入れて返した言葉。
嘘つきな私、弱虫な私。
今日もまたベッドに入ってさめざめとなく、自分の姿を想像してぞっとした。
私の嘘がわかっているのか、いないのか、空港を出る前にセットしてきた髪の毛がくしゃくしゃになるまで髪を撫で続けたのはどうしてなのだろう。
どうして?
私の心は叫んでいるのにうまく言葉にならない。
こんなに近くにいるのに、表情が見えないまま、街の繁華街を抜けて、タクシーは止まった。
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