HEAVEN B HELL【BL短編集】

野瀬 さと

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最終章 願わくば花の下にて恋死なむ

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隣のアパートは、築20年ということだった。

「俺が入学した時にちょうど新築だったんだ」

大家のおばあちゃんから鍵を預かって、二人で部屋に来た。
教授が鍵を開けて中に入っていく。

ドアを開ける瞬間、教授はとても嬉しそうな顔をしてた。
それを見て、なんだか俺も嬉しくなった。

玄関に入るとすぐあったスイッチを教授は入れた。
でもなんにも反応がない。

「あ…電気来てないな…」

玄関のすぐ上にある配電盤を開けると、通電させた。
ぱっと、少し暗かった玄関に明かりが灯る。

教授の顔も、明るかった。

「行こう」

中は真新しさはないものの、とても綺麗だった。

「前の入居者が出てから、この部屋はリフォームしたんじゃないかな…」

外の廊下の壁に付いていた給湯は最新のものだったし、覗いてみたお風呂もユニットバスだけど広い。
何より魅力的なのは、ミニキッチン付きの部屋が広い。
薄い色の木のフローリングは広々と8畳以上はありそうだった。

「ふふ…懐かしいな…」

レースカーテンしか掛かっていない窓辺に立つと、少し開けて外を眺めてる。

「変わってないな…ここは…」

隣に立ってみたら、教授はカーテンを開け放った。

一緒に、外を眺めた。

なんてことない、住宅街の風景だったけど…
でも教授にとっては、懐かしい青春の風景だったんだろう。

「院を卒業するまでこの部屋に居たんだ」
「え?この部屋だったんですか?」
「そう。この部屋」
「へえ…」

そうなんだ…この部屋だったのか。
だからさっきあんな嬉しそうだったんだ。

「じゃあ、結構長かったんですね」
「そうだね…」

ちらっと兼高教授は俺の顔を見た。

「どう…?」
「え?」
「遠藤さえ良ければ、押さえておくけど。この部屋」
「え…ほんとにいいんですか?こんないい部屋…」
「ふふ…いい部屋だろ?」
「はい…」

ちょっとだけ、兼高教授の青春を覗き見た気がして…

とっても気に入った。



それからは目の回るような忙しさだった。

初めての一人暮らし。

賃貸契約書類なんかは自分でやれってことになって、大家さんに提出する実家の住民票とか初めて区役所に取りに行ったり。
自分用の銀行口座を新たに作りに行ったり。
引越し屋に見積もりを出してもらって、相見積ってやつをやってみたり…

バタバタして引っ越し当日を迎えて、無事に俺は念願の一人暮らしを始めた。

やったことないことばっかりで、ほとほと疲れた。
そんなに荷物はなかったけど、慣れていないし手伝いもいなかったから、初日は寝る場所を作るだけで精一杯だった。

夏休み中に片付いたらいいや……


バイトは毎日じゃなかったし、疲れていたけど次の日も休まずに行った。

「遠ちゃん、なんか疲れてるね」

朝、顔を合わせた途端、青木くんに心配そうな顔をされてしまった。
そんなやばい顔してんのかな…俺。

「そう…?」
「大丈夫?今日、休めば?」
「ううん…大丈夫だから…」

教授室に入ると、兼高教授はもう作業をしてた。

「おはようございます」
「ああ…」

汗を拭きながら顔を上げた。
途端、メガネの奥の顔がぎょっとしたからびっくりした。

「遠藤!どうしたんだ!」
「えっ!?」
「体調悪いなら、帰りなさい」
「いえ…疲れてるだけですから」
「何言ってるんだ…」

にゅっと手が伸びてきて、俺のおでこに触れた。

「ほら…熱がある」
「え…?」
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