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第1章 妖術鬼の愛娘
【覇闘】の掟⑩
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“やはり、気付かれていたか…!”
最愛の氷美花との秘戯に盲目的に没入していた弟はともかく、全智全能の魂師の血を曳く彼女の慧眼を欺けるとは過信していなかった光城玄矢だが、このような形での告発にはさすがに動揺を禁じ得なかった。
「隠しカメラ? 心当たりがないな…。
…証拠が、あるのですか?」
よもや、はぐらかされるとは予期していなかったのであろう、微かに表情を曇らせた妖少女の瞳が一瞬勁く煌めき、闡明への意志が表明された。
「お疑いになるのね…。
それでは、事実を指摘するしかありませんわ…!」
決して強引ではないが、意志を以て身を翻すことでようやく抱擁を逃れた氷美花は、扉が開いたままの玄粛の間に自ら足を踏み入れる。
固い表情の光城玄矢がゆっくりと後に続くが、入室した彼は後ろ手にドアを閉じると右手の親指をノブの下に埋め込まれたセンサーに押し付け、施錠ボタンとは別の彼のみの指紋認証ロックを発動させるのであった。
『…ここまで来たら、行き着く所まで行くしかねえ…!
何よりも遂に昨日、このオレは魂師から最有力花婿候補として認められたのだからなッ!!
…だが、歯がゆいことに…最終決定権はあくまでも氷美花に在る、とのことだった…。
しかし、何より心強いのは、師自身もあの女の腐ったような懦弱な威紅也とだけは娶せたくない、と考えておられることだ!
何しろ、我々【妖帝星軍】の最終目標が地上世界のみならず、師の故郷である異世界の〈完全制覇〉という気宇壮大なものである以上、なまじな戦士にその大役が務まろうはずかないッ!!
…されど嘆かわしいことに彼女の嗜好がかくのごときものである以上、こちらも体面をかなぐり捨てて臨まねばならんのは致し方あるまい…!』
「…これですわ、玄矢さん」
黒い寝台のヘッドボードに刻まれた、絢爛たる薔薇の数々…、
沙佐良氷美花が白い繊指で指し示したのは、そのほぼ真ん中に位置する大輪の花弁の中心であった。
だが、寝台の脇に立った部屋の主は仁王立ちとなったまま動こうとしない…。
「これだけじゃない…私が見つけただけで、あと8個はありましたわ。
…直径1ミリあるかないかの、おそらくは凄い性能の集音マイク付きの高性能ピンホールレンズが…!」
仄暗い空間に冷ややかに張りつめた沈黙に耐えきれず、それを破ったのはまたしても妖少女であった。
「…何かおっしゃって下さい!
玄矢さん…あなたほどの方がどうしてこんな、卑しくて穢らわしい所業に及んでしまったのですか!?」
「…私のことはさま付けで呼んでくれぬのですね…。
ですが氷美花さん、そもそもあなたが飛び込むべきだったのは弟などではなく、この私の胸なのですよ…!
…それはともかく、あなたたちを監視していた理由をそれほどまでに知りたいというのであればお教えしましょう。
…これはあなた自身はっきりと口にしておられたが、最終的に威紅也の生命そのものを我が物とすることを望んでいましたね?
…と、なれば…当面の天敵たる絆獣聖団との熾烈な抗争が続く現在、些か精神面が脆弱な威紅也があなたの宿望に託つけて自ら生を擲つことで、この過酷な運命から逃れんとすることを防止するために心ならずも事の成り行きを見守る必要があったのです…!
だがもちろん、それは人として…そして兄として倫理的に到底容認されざる行為でした…。
ここに謹んで、お詫び致します…!」
氷美花の稚さを多分に残した白い美貌がたちまち蒼白となり、迸る叫びは彼女の魂の慄きを反映してか大きく震えていた。
「噓よッ!
あなたはただ威紅也さまに嫉妬しておられるだけなのです!!
だって…たった今おっしゃったように、あなたは私が欲しいのでしょう!?
自分の女にしたいのでしょうッ!?
それなのに…何て、何て卑怯なのっ!
ご自分が抱いている邪な欲望には頑なに口を噤みながら威紅也さまを侮辱し、私が秘め事をより濃密なものとするために、あえて口走った戯れ言の揚げ足を取るなんてッ!!
もう私…光城一族のことを信じられませんっ!!
…これからすぐ館に帰って、〈父〉に全てを言いつけてやりますから覚悟して下さいッ!!」
黒いシーツの、先程まで恋人が頭部を預けていた部分に貌を埋めて号泣する美少女を傲然と見下ろしつつ、“三妖帝”の一角を占める光城玄矢はポロシャツのボタンをゆっくりと外してベッドに脱ぎ捨てると、直ちにスラックスのベルトに手をかけて素早く両脚を引き抜く。
…そこに出現したのは、まさに古代ローマの若き剣闘士を彷彿とさせる彫刻的筋肉に鎧われた、日本人離れしたプロポーションの完璧なまでに研ぎ澄まされた超人の肉体であった!
最後に底光りする黒革靴を脱ぎ去り、もはや身に帯びているのは切れ込み具合が殆どV字型の黒いビキニパンツのみとなったが、その中央部分はいうまでもなく凶暴なまでに隆起している…!
「…氷美花さん、こうなったのも全ては運命です。
遅かれ早かれ、自分たちの意志には関わらず、私たちはこうなるしかなかった…。
何故ならば、あなたが沙佐良氷美花であり、私が光城玄矢であったからです…!
だが、先程宣言したように、私自身に限って言えばこの事実に何の不満もない…それどころか魂は歓喜に打ち震え、血は沸き返っている!
そして、いずれはあなたも…。
今この時は理解出来なくとも、あなたの体内を脈々と流れる“沙佐良の血”がやがて確信させてくれるでしょう…、
いつかは魂師の衣鉢を継がねばならぬあなたを真に支え、護り抜けるのは果たして誰なのかということを…!!」
最愛の氷美花との秘戯に盲目的に没入していた弟はともかく、全智全能の魂師の血を曳く彼女の慧眼を欺けるとは過信していなかった光城玄矢だが、このような形での告発にはさすがに動揺を禁じ得なかった。
「隠しカメラ? 心当たりがないな…。
…証拠が、あるのですか?」
よもや、はぐらかされるとは予期していなかったのであろう、微かに表情を曇らせた妖少女の瞳が一瞬勁く煌めき、闡明への意志が表明された。
「お疑いになるのね…。
それでは、事実を指摘するしかありませんわ…!」
決して強引ではないが、意志を以て身を翻すことでようやく抱擁を逃れた氷美花は、扉が開いたままの玄粛の間に自ら足を踏み入れる。
固い表情の光城玄矢がゆっくりと後に続くが、入室した彼は後ろ手にドアを閉じると右手の親指をノブの下に埋め込まれたセンサーに押し付け、施錠ボタンとは別の彼のみの指紋認証ロックを発動させるのであった。
『…ここまで来たら、行き着く所まで行くしかねえ…!
何よりも遂に昨日、このオレは魂師から最有力花婿候補として認められたのだからなッ!!
…だが、歯がゆいことに…最終決定権はあくまでも氷美花に在る、とのことだった…。
しかし、何より心強いのは、師自身もあの女の腐ったような懦弱な威紅也とだけは娶せたくない、と考えておられることだ!
何しろ、我々【妖帝星軍】の最終目標が地上世界のみならず、師の故郷である異世界の〈完全制覇〉という気宇壮大なものである以上、なまじな戦士にその大役が務まろうはずかないッ!!
…されど嘆かわしいことに彼女の嗜好がかくのごときものである以上、こちらも体面をかなぐり捨てて臨まねばならんのは致し方あるまい…!』
「…これですわ、玄矢さん」
黒い寝台のヘッドボードに刻まれた、絢爛たる薔薇の数々…、
沙佐良氷美花が白い繊指で指し示したのは、そのほぼ真ん中に位置する大輪の花弁の中心であった。
だが、寝台の脇に立った部屋の主は仁王立ちとなったまま動こうとしない…。
「これだけじゃない…私が見つけただけで、あと8個はありましたわ。
…直径1ミリあるかないかの、おそらくは凄い性能の集音マイク付きの高性能ピンホールレンズが…!」
仄暗い空間に冷ややかに張りつめた沈黙に耐えきれず、それを破ったのはまたしても妖少女であった。
「…何かおっしゃって下さい!
玄矢さん…あなたほどの方がどうしてこんな、卑しくて穢らわしい所業に及んでしまったのですか!?」
「…私のことはさま付けで呼んでくれぬのですね…。
ですが氷美花さん、そもそもあなたが飛び込むべきだったのは弟などではなく、この私の胸なのですよ…!
…それはともかく、あなたたちを監視していた理由をそれほどまでに知りたいというのであればお教えしましょう。
…これはあなた自身はっきりと口にしておられたが、最終的に威紅也の生命そのものを我が物とすることを望んでいましたね?
…と、なれば…当面の天敵たる絆獣聖団との熾烈な抗争が続く現在、些か精神面が脆弱な威紅也があなたの宿望に託つけて自ら生を擲つことで、この過酷な運命から逃れんとすることを防止するために心ならずも事の成り行きを見守る必要があったのです…!
だがもちろん、それは人として…そして兄として倫理的に到底容認されざる行為でした…。
ここに謹んで、お詫び致します…!」
氷美花の稚さを多分に残した白い美貌がたちまち蒼白となり、迸る叫びは彼女の魂の慄きを反映してか大きく震えていた。
「噓よッ!
あなたはただ威紅也さまに嫉妬しておられるだけなのです!!
だって…たった今おっしゃったように、あなたは私が欲しいのでしょう!?
自分の女にしたいのでしょうッ!?
それなのに…何て、何て卑怯なのっ!
ご自分が抱いている邪な欲望には頑なに口を噤みながら威紅也さまを侮辱し、私が秘め事をより濃密なものとするために、あえて口走った戯れ言の揚げ足を取るなんてッ!!
もう私…光城一族のことを信じられませんっ!!
…これからすぐ館に帰って、〈父〉に全てを言いつけてやりますから覚悟して下さいッ!!」
黒いシーツの、先程まで恋人が頭部を預けていた部分に貌を埋めて号泣する美少女を傲然と見下ろしつつ、“三妖帝”の一角を占める光城玄矢はポロシャツのボタンをゆっくりと外してベッドに脱ぎ捨てると、直ちにスラックスのベルトに手をかけて素早く両脚を引き抜く。
…そこに出現したのは、まさに古代ローマの若き剣闘士を彷彿とさせる彫刻的筋肉に鎧われた、日本人離れしたプロポーションの完璧なまでに研ぎ澄まされた超人の肉体であった!
最後に底光りする黒革靴を脱ぎ去り、もはや身に帯びているのは切れ込み具合が殆どV字型の黒いビキニパンツのみとなったが、その中央部分はいうまでもなく凶暴なまでに隆起している…!
「…氷美花さん、こうなったのも全ては運命です。
遅かれ早かれ、自分たちの意志には関わらず、私たちはこうなるしかなかった…。
何故ならば、あなたが沙佐良氷美花であり、私が光城玄矢であったからです…!
だが、先程宣言したように、私自身に限って言えばこの事実に何の不満もない…それどころか魂は歓喜に打ち震え、血は沸き返っている!
そして、いずれはあなたも…。
今この時は理解出来なくとも、あなたの体内を脈々と流れる“沙佐良の血”がやがて確信させてくれるでしょう…、
いつかは魂師の衣鉢を継がねばならぬあなたを真に支え、護り抜けるのは果たして誰なのかということを…!!」
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