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第1章 妖術鬼の愛娘
妖帝婚前祭①
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その声音に先程までの無機質さとは明らかに異なる、“男としての覚悟”を感得した氷美花は慟哭からやがて歔欷へと激情を鎮め、シーツにうつ伏せとなったままゆっくりと貌だけを玄矢に向けた。
「!?」
瞳を涙で潤ませたまま、ほぼ全裸となった赤銅色の美丈夫を呆然と見上げる彼女に、玄矢は静かに語りかけた。
「氷美花さん、どうやら私はあなたを深く傷付けてしまったようですね…。
だが、こうなってしまった以上、私も心の虚飾をかなぐり捨てて率直にあなたと…いや、自分自身と向き合うべき時が来たようです…。
…先程ズバリと指摘されてしまったように、私はあなたの心を独占する威紅也が羨ましかった。
そして陋劣な遣り口で二人の愛の行為を盗み見た後には、恥ずかしながら自身の手で自らを慰めざるを得なかったのですよ…。
…そんな惨めな手段に頼るくらいなら、何故、他の女性に欲望を向けようとしなかったのかと訝しみますか?
その疑問はご尤も…、
だが、私には分かっているのだ、
畏れながら、魂師の血を曳くあなたの手によってでなければ“究極の絶頂”に達することは到底不可能であるとッ!
今ここに、人間・光城玄矢として正直に告白する…、
私はあなたに、威紅也が味わったものと同じ愉楽を与えてほしいのだッッ!!
…そのためならば、喜んでこの躰を捧げよう…!」
…薄闇の中の沈黙は、たっぷり1分間は続き、沙佐良氷美花は静かに言葉を紡ぎはじめた。
「…どこまでも残酷な方…。
何か欲しいものがあれば、たとえ血を分けた兄弟の手からでも情け容赦無く奪い取ろうとなさるのですね…。
…でも殿方のことは存じませんけれど、女にとっては愛する人に対してと同様の想いを以て他の方と閨を共にすることなど…ほとんど不可能というものですわ…」
だが、確固不抜の本心を語りつつも、“囚われの美少女”は自身の意識が不可解な変性状態に移行しつつあることに明らかな戸惑いを覚えていた。
…そしてその“発生源”が、目の前に立ち塞がる裸の美青年の逞しき肉体にあることは明白であったが、全身から立ち昇るそれが生体フェロモンの如き有機的なものであることはどう考えてもありえない…。
と、いうことは…?
『…玄矢さんや光至教にこのように高度な〈意識誘導技術〉があるとは考えられない…!
すると、まさか…
父の手を借りて私の心を操作しようと…?
でも、どうしてそんなことを…!?』
再入室しておよそ10分…その色彩や匂いに些かの変化も窺えなかったが、玄粛の間の空気は明らかに変質していた。
…そしてそれを呼吸するほどに、最愛の光城威紅也との互いの全身全霊を込めて為された肉の交わりによって満たされていたはずの沙佐良氷美花の孤独な魂は急速にそれを忘却し、新たな渇望へと急き立てられてゆくのであった…。
…だが、その想いを全身で受け止め、癒してくれるはずの存在は目の前にしかと存在していたのである。
そして、彼もそれを使命と心得ているのであろう…その肉感的な唇は優しく語りかけてきたのだ、
「さあ、おいで…」
──と。
「!?」
瞳を涙で潤ませたまま、ほぼ全裸となった赤銅色の美丈夫を呆然と見上げる彼女に、玄矢は静かに語りかけた。
「氷美花さん、どうやら私はあなたを深く傷付けてしまったようですね…。
だが、こうなってしまった以上、私も心の虚飾をかなぐり捨てて率直にあなたと…いや、自分自身と向き合うべき時が来たようです…。
…先程ズバリと指摘されてしまったように、私はあなたの心を独占する威紅也が羨ましかった。
そして陋劣な遣り口で二人の愛の行為を盗み見た後には、恥ずかしながら自身の手で自らを慰めざるを得なかったのですよ…。
…そんな惨めな手段に頼るくらいなら、何故、他の女性に欲望を向けようとしなかったのかと訝しみますか?
その疑問はご尤も…、
だが、私には分かっているのだ、
畏れながら、魂師の血を曳くあなたの手によってでなければ“究極の絶頂”に達することは到底不可能であるとッ!
今ここに、人間・光城玄矢として正直に告白する…、
私はあなたに、威紅也が味わったものと同じ愉楽を与えてほしいのだッッ!!
…そのためならば、喜んでこの躰を捧げよう…!」
…薄闇の中の沈黙は、たっぷり1分間は続き、沙佐良氷美花は静かに言葉を紡ぎはじめた。
「…どこまでも残酷な方…。
何か欲しいものがあれば、たとえ血を分けた兄弟の手からでも情け容赦無く奪い取ろうとなさるのですね…。
…でも殿方のことは存じませんけれど、女にとっては愛する人に対してと同様の想いを以て他の方と閨を共にすることなど…ほとんど不可能というものですわ…」
だが、確固不抜の本心を語りつつも、“囚われの美少女”は自身の意識が不可解な変性状態に移行しつつあることに明らかな戸惑いを覚えていた。
…そしてその“発生源”が、目の前に立ち塞がる裸の美青年の逞しき肉体にあることは明白であったが、全身から立ち昇るそれが生体フェロモンの如き有機的なものであることはどう考えてもありえない…。
と、いうことは…?
『…玄矢さんや光至教にこのように高度な〈意識誘導技術〉があるとは考えられない…!
すると、まさか…
父の手を借りて私の心を操作しようと…?
でも、どうしてそんなことを…!?』
再入室しておよそ10分…その色彩や匂いに些かの変化も窺えなかったが、玄粛の間の空気は明らかに変質していた。
…そしてそれを呼吸するほどに、最愛の光城威紅也との互いの全身全霊を込めて為された肉の交わりによって満たされていたはずの沙佐良氷美花の孤独な魂は急速にそれを忘却し、新たな渇望へと急き立てられてゆくのであった…。
…だが、その想いを全身で受け止め、癒してくれるはずの存在は目の前にしかと存在していたのである。
そして、彼もそれを使命と心得ているのであろう…その肉感的な唇は優しく語りかけてきたのだ、
「さあ、おいで…」
──と。
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