凶幻獣戦域ラージャーラ

幾橋テツミ

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第2章 魔人どもの野望

回想の狂戦地ルドストン㊷

「テメエ、これ以上ふざけたことかしやがると…」

 紫色のジャンプスーツに背負った般若と竹澤夏月が遂にしそうなその瞬間に、ソートンは組織の代表者にふさわしいきっぱりとした口調で言い切った。

「我々が湾線統衛軍の隷属下に…?

 如何なる理由にて持ち出されたご提案か理解に苦しみますが、断固としてお受けしかねる、とだけは申し上げておきましょう…!」

 電脳司令にしても当然予想された返事だったのであろう、すかさず二の矢を放ってきた。

“それでは、先程口にしていた〈代替策〉とやらを聞かせて頂こうか?

 予め忠告しておくが、その内容次第によっては統衞軍われわれも実力行使して直ちに貴君らを拘束せねばならん…!”

「いいかいソートン、あたしが地獄絆獣ギャロードで奴らを食い止めるから、その間に黒蛹をベウルセンから離脱させるんだ!!」

 今度こそ出撃してやるとばかりに脱兎の如く飛び出そうとする殺戮姫の手首を強く掴んだ特任技師は、小柄なその肉体から発現した、なまじの筋力を遥かに超越した神秘力に驚嘆して硬直した夏月へと、うら若き操獣師達を魅了してやまないを向けて宣った。

「お気持ちはありがたいのですが…、

 総隊長、もう少し私どもを信賴して頂きたいものです…。

 無元造房が総力を挙げて誕生させた【嵐貝】は、決して統衞軍の現有戦力に後れを取ることはありませんよ…!」

 これを受け、竹澤夏月(46歳・!)は不覚にも彼女の常套句たる便同様に、そのマホガニー色の頬を、耳朶に至るまで赤らめたのであった!

 かくて颯爽と画面に向き直ったソートンは、電脳司令の豹変以降威嚇的に色を変化させながら不気味な点滅を繰り返す界紋をしっかりと見据えつつ、聖団の計画を開陳した。

「3体の“有人型絆獣”に代わって、我々は新たに多数の“自律型絆獣”を用意しました。 

 …これらをまず凱鱗領各地で未だ猖獗を極める棘蟹群団にぶつけ、当然ながらレシャ湾の巨大刃獣が始動した時点でこれにも立ち向かわせる予定です」

“自律型絆獣…?

 それは、いわゆる【護衛絆獣】とは非なるものなのか…?”
 
 先程までの権高な機械音声が若干ではあるがトーンダウンしていた…聖団側の方針は彼にとってよほど意表を突いたものであったらしい。

「ええ、その通りです。

 大きさこそ有人型に及びませんが、その破壊力は比較になりません…。

 しかも数において圧倒的に勝り、その細胞のたるや…! 

 まあ、今回が実戦初投入になりますゆえあまり大口は叩けませんが、これまでのミッションで捕獲し得た全種類の刃獣を用いて行った〈試戦テストバトル〉においては目覚ましい成果を挙げております…!」

“…なるほど。

 そういうことであれば、とりあえずあなた方遠征隊の“強制編入”は保留するとしようか…。

 果たして棘蟹群団相手に如何なる戦いを見せてくれるか、お手並み拝見といったところだな…!

 …一応確認しておくが、その自律型絆獣とやらは〈海戦〉が可能なのだな?

 そして、いつ我が教界に到着するのか?」

 特任技師は、盤石の自信を美声に乗せて答えた。

「もちろんですとも。

 いや、寧ろ水中戦闘そちらこそが嵐貝かれらといえるでしょうね…!

 到着時間ですが、《晶明刻》までにはルドストン領空に必着しているはずです…」

“…なるほど。

 そして、ここも是非とも知っておきたいところだが、その数は如何ほど用意されておるのかな?

 たとえどれほど使える代物であろうとも、頭数が足らねばとても戦力差が解消されたとは認めかねるのでな…!”

「…ご尤もです。

 該教界に降下が予定されておりますのは370体ということになっておりますが」



 …それはどういう意味であるのか?

 もしや我が凱鱗領の他にも投入される教界があるとでもいうのかね…?”

 ここでソートンの口振りも電脳司令に倣うが如く、明らかに変化した。

 尤も相手のように居丈高になった訳ではないが、社交的慇懃さを排した淡々たる事務的なものへと。

「そういうことですね。

 ですが、あながち凱鱗領に無関係ともいえませんよ…何故なら、当地においても多大なる害悪をもたらしている狂魔酒の製造工場を破壊すべくのですからね…!

 ご懸念にならずとも、首尾よく目的を達成した時点で部隊はルドストンへ向かうはずです」

 相手の姿勢の変化を素早く察知した電脳司令は、ほんの一瞬怯んだかのようであった。

“む…そういうことであれば…。

 わたしが把握しているところでは、あの忌まわしき“悪魔の液体”の製造拠点は3か所…セシャーク勇仙領、パラメス耀覇領、そして隣接するウビラス星心領だが、それらにどれだけの嵐貝とやらを放つおつもりかな…?”

「割り振りは3等分…つまり10体ずつが予定されておりますね」

 駆け引きとして、嵐貝の5日間の限界稼働期間という“最大の弱点”については当然秘匿したソートンだが、幸いにもがそこを突いてくることはなかった。

“すると、早晩400訳か…。

 だが、全部が内地へ、という訳でもないのであろう?

 当然、死霊島メッズにも幾許いくばくかの戦力配分が為されているのであろうな…?”

「いいえ、それは予定されておりません。

 嵐貝はあくまでも、のみを考えております」

“…うむ、了解した。

 なるほど、そもそも死霊島あちらには4体もの水棲絆獣が投入されておる訳だからな…。

 されど、凱鱗領の危機は陸地と湾内のみに蠢いているのではない…、

 見方によってはそれらを遥かに凌駕する最大の脅威が上空に存在しておる…!

 それに思いを馳せる時、どうしても貴君らが当地に乗り付けた大型輸送機に目がいくのだが、その黒い機体に如何なる戦闘力が秘められているのであるかな?

 仮に嵐貝が飛行手段を有しない場合、当然同機にて輸送されて来るのであろうから機体自体もかなりの数が飛来すると予想するが、黒蛹それらが飛翔系刃獣撃破に向けて我が主戦戦闘機ガートスと共同戦線を取ることは期待してよいのか?」

 もはや命令と紙一重の傲岸なる要請にも特任技師は顔色一つ変えず返答する。

「まず、最大の関心事であろうからお伝えしましょうか…、

 ご指摘の通り我ら遠征隊の同型が総計25機出動しておりますが、黒蛹自体にも当然ながら武装は施されておりますよ。

 従来は攻撃よりもあくまでも自衛に主眼をおいた控え目なものですが、特に該教界の如き〈最凶危険地帯〉に臨むにあたってはの”フォームチェンジ“を遂げることになっておりますので…」

“ふふふ、

 話は良く分かった。

 もちろん全てを信用した訳ではないが、貴君らをとして拘束する緊急措置はひとまず保留することにする…。

 それではわたしは引き継ぎトゥーガとの協議に入るため聖団そちらとの通信接続を一旦解除するが、ソートン氏にはいつでも統衞軍こちらとの交信に応じて頂けるよう厳に要請しておく…!

 …それでは”

 7枚のスクリーンを占拠していた、今や〈悪魔の紋章〉に見えなくもないルドストンの界紋がようやく消滅し、中央制御室内の面々はほっと安堵の吐息を漏らしたのであったが、やはりというべきか、竹澤総隊長のみは憤懣やる方ないとばかりに待機状態の画面に表示される、真紅と青紫の2色が中心で交わるメビウスの輪そのものというべき聖団の紋章(ラージャーラと地上世界のを意味しているとされる)を睨み付けていた。

 しかしそれも長くは続かず、彼女にしては珍しく静かな、しかし断固たる口調でソートンに語りかけたのだが…。

「…何だい、あの態度。

 殆ど聖団こっちに喧嘩を…いや、〈宣戦布告〉してるようなもんじゃないか…幾ら何でも失礼過ぎるよ。

 ねえ特任技師、悪いけどあの教率者ジイさんにハッキリと苦情クレーム入れといてくれないかい…。

 尤も、あのイカれたロボットにナメ切られてるっぽいをとっちめたところで何も変わらんだろうがね…。

 とにかく、こうなったらあの頼りない雅桃を叩き起こして少しでも戦力アップを図らにゃ…!

 あっ!…それで思い出したけど、大将気取りの電脳司令アイツの口振りじゃ、煌輪塔ホテルに籠城してる道子達にも魔の手が迫ってるんじゃね!?

 連中を人質にしてイザという時の切り札に使おうっていう…!

 …そうか!萩邑もあのイヤらしい狂ったロボットにさらわれたんだッ!!

 きっとアイツ、この戦争を口実にして絆獣聖団を乗っ取ろうとしてるんだよッ!!

 ねえ、こうなったら道子がを使っても文句はないね!?

 もしもに備えてアイツに託されてる【超小型嵐貝】を解き放っても!!」

 

 
 



 

 

 

 






 





 

 

 

 

 

 



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