イケメン教師陵辱調教

リリーブルー

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第十九章 麓戸との再会

愛しい人

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 ふいに扉が開いた。
 教室の後ろの引き戸が開いて、派手なストライプのスーツを着た長身の男が戸口に立っていた。
 戸口の柱に右手をかけて、左手は腰のあたりにポーズをとるキザな姿。まるでモデルか俳優のような、と小坂はぼんやり思った。
 
 ノーネクタイの胸もとはボタンが三つくらい開いていて、ペンダントのチェーンが見えた。
 細身のスーツは逆三角形の身体にぴったり合っていて、その下の肉体を想像させた。
 柔らかな濃紫のシャツが色気を放っていた。
 整髪料で固めて撫でつけた髪にサングラスをかけていた。

 教室には不釣り合いな男だった。

 そしてこみ上げてくる胸の想い。
 嗅覚のような、触覚のような、五感の延長的な感覚。その確かな感覚で、レーダーのように、小坂はぴたりと対象物をとらえた。
 波長が合った。照準器の照準がぴたりと合うように。小坂の内部の感覚が呼応して、震撼した。

 男は片手でサングラスをはずした。ぱらりと額に前髪が落ちた。少し眉根にしわを寄せて男は目を細めた。匂うような色気。

 小坂は、口がきけなかった。

 男は扉を閉めて、小坂のそばに、教室の中央に歩み寄った。
 小坂は唾を飲み込んだ。

「小坂『先生』」

男は、皮肉な調子で小坂をそう呼んだ。
 小坂は生徒用の椅子から、ガタタンと音を立てて立ち上がった。椅子が後ろに倒れる音が空虚な教室に響き渡った。 
 小坂は、反射的に後ずさった。
 男は、逃げようとする小坂の手首をとらえた。男の手と腕に、ぐっと力が入る。
 男が少しかがんだ。逃げる小坂の身体を追うように、男は首を傾げた。 
 まつ毛が触れそうな手前で、吐息を小坂は知覚した。次にくる感覚を小坂は知っていた。薄い唇を小坂は知っていた。歯列をなぞる舌を知っていた。その舌が執拗にからんではなれないことも。

 笛がピーッとなって生徒のかけ声がやんだ。
 全ての雑音が収束した。
 廊下がシンとした。

 小坂の唇は、とらえられた。

 吹奏楽部の音合わせのA音。最初は不協和だったそれが次第に一つの音に重なっていく。複数のものが一体となる。やがて完全に一つの音となり長く響く。その調和は天国のように永遠だった。

 諦観と必然と予定調和。

 やるせない安堵感。



「なぜ……」

離れた唇に、小坂はつぶやきかけた。自問するように。

 突然の出現。白昼夢を見ているのか?
 夜の闇に秘められた部分が、突如として昼の光の中に現れた。
 ファンタジーの世界がリアルの現実に割り込んできたような酩酊感。

 これは悪夢の襲来なのか。
 なぜ、彼が学校にまで乗りこんできたのか。
 全てを暴くために? 小坂を失職させるために? 

 それとも、これは救いなのか。
 自分を奪いにきたのか? 校長から、自分を奪いにきたのか?
 校長から、生徒たちから、この組織から、自分を救いに来てくれたのか? この牢獄から小坂を救い出すために。

 いや、どちらでもかまわない。理由など、何であってもかまわなかった。

「麓戸さん……」

小坂は、愛しい人の名を呼んだ。詩のように。死のように。シのように。C音に回帰する一歩手前の渇望をもって小坂は吐息まじりの声でささやいた。

 南国の果物のような甘い香りが男の胸もとから香った。

 奪い去ってほしい。抱き上げて連れていってほしい。どこかへさらってほしい。どこか自由のある場所へ。

「なぜ……」

つぶやく言葉は問いなのに、答えのあるのが怖かった。
 麓戸の唇が動くのがこわかった。

 答えなど、望んでいない。

 もう一度、自分を選べと言ってほしい。欲しいと言ってほしい。自分を求めてほしい。
 もし、そう言ってくれたなら、今ここで跪いて麓戸の磨きあげられて艶光りする黒い革靴に接吻するだろう。
 もう離れないと誓いたい。全てを詫びて、貴方のところに帰ると言いたい。囚われて手錠をはめられて奴隷のように貴方に……。もう二度と離れないと。
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