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19.5 人神の使徒

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「な、なにをなさっておられるのですか!」

 豪華な服を着た神官たちは少女神官に敬語を使う。

「みつかっちゃいました」

 そして、決まりが悪そうに少女神官は微笑んだ。

「こちらにいらっしゃるならば、おっしゃってください」

 その豪華な服を着た神官たちは、少女神官の前で、両膝と片手を地面に付く。
 人神への礼拝の仕草を途中でとめたような状態だ。

 神官たちのその仕草に、信者たちも困惑している。

「おい、そこの少年、早く頭を下げなさい」

 豪華な服を着た神官の一人が、俺に向かって小声で叱るように言う。

「その必要はありません。皆さんもお立ちください。ここは神に祈りを捧げる場所ですから」
「ですが、使徒さま。そのようなわけには」

 神官がそういったことで、信者たちにもざわめきが広がる。
 そして、一斉に、神官たちと同じ仕草をとる。
 恐らくそれが、人神の使徒に対する礼拝の仕草なのだろう。

 信者の大半は使徒に会えた喜びで、感涙している。
 それほど、人神の使徒というのは大きな存在のようだ。

(使徒か……初めて見た)

 俺は初めて見る別の神の使徒をまじまじとみる。
 確かに、少女神官からは、普通の生き物とは別の気配を感じた。
 先ほど、少女神官に触れられたとき、覚えた違和感は使徒だったからなのかもしれない。

「私に礼拝する必要はありません。私はただの無力な娘なのですから」
「いえ、使徒さまは、人神さまの地上における代理人。どうか我らの信仰の心をお受けください」
「皆さま、ここは人神の神殿です。礼拝の対象はどうか人神へ」

 そういって、人神の使徒は俺を見る。

「ごめんなさい。おどろかせちゃいましたね」
「いや、気にしないでくれ」
「…………それほど驚いていないのかしら」
「いや、驚いているけど……」

 そういうと、人神の使徒は優しく微笑む。

「私はリリィ。あなたは?」

 人神の使徒に自己紹介される理由はわからないが、名乗られたら名乗らなければ失礼というもの。

「……俺はフィルだ」
「いい名前ですね。きっと、フィルさまとはまた近いうちに会える気がします」

 なぜか自信ありげに、リリィは言う。

「使徒さま、どうかこちらへ」

 神官たちが、俺と引き離すように、リリィを取り囲む。

「はい。……フィルさま。どうか仲良くしてくださいましね」
「あの、使徒さま……」

 俺はリリィの聖印を手に持って、声を掛ける。
 使徒の聖印など、信者でもない俺がもらっていいものではないはずだ。

 だが、リリィは
「……大切にしてくださいね」
 そういって、にこりと笑うと、神官たちに囲まれて、神殿の奥へと歩いて行った。
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