異世界転生した俺は平和に暮らしたいと願ったのだが

倉田 フラト

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四話 【ウルエチャージ】

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 扉が地面と擦れて大きな音を上げる。
 眩しい光がウルエとお姉ちゃんを歓迎する。
 扉が開き切り目の前に広がる光景を見て息をのんだ。

 まず目に入って来たのは巨大なステンドグラス。
 何が描かれているのかは分からないが、神秘的だ。
 真っすぐ王座へと続く道に赤い絨毯が敷かれ、
 その王座への道を挟むようにして両側に沢山の悪魔達が
 ビシリと姿勢を正して整列していた。

 どの悪魔も角や翼が生え額に紋章が刻まれており
 禍々しい感じがピリピリと伝わって来て
 思わずウルエはお姉ちゃんの手をぎゅっと握ってしまった。
 お姉ちゃんはウルエの顔を見るとニッコリと笑い手を強く握り返してくれた。

(全然お義父さんと違うじゃん……
 物凄く怖いオーラ出てるんだけど)

 そして、ゆっくりとお姉ちゃんは進みだす。
 ウルエは出来るだけお姉ちゃんから離れない様にピッタリと
 くっつく様にして歩き出した。

「ちっ」

 一瞬お姉ちゃんから舌打ちの様な音が聞こえた。

 お姉ちゃんが絨毯に足を踏み入れた瞬間、
 整列していた悪魔達が一斉に心臓に手を置き、
 膝をおりその場にしゃがんだ。

「っ!」

 ウルエはその光景を見ただけでちびりそうになり
 もう帰りたい気持ちで一杯だった。

 何の躊躇いも無くお姉ちゃんは進む。
 それに連なりウルエも進む。
 しゃがんでいる状態だが殆どの悪魔がウルエよりも大きい。
 皆目を伏せている為目が合うと言う事は無いが、
 どうしても顔を見る事が出来ない。

 そのまま止まる事無くお姉ちゃんとウルエは王座の下まで辿りついた。
 王座には魔王であるお義父さんか大魔王であるお義母さんが座っている
 ものだと思っていたが、そんな事は無く王座には誰も座っておらず、
 何故かお義父さんとお義母さんは王座の左右に立っていた。

 お姉ちゃんがお義父さんの事を見ると、

「うむ」
 
 とお義父さんが頷き、それに続いてお義母さんも頷いた。
 一体どういった意味があるのだろうか。
 そして、お姉ちゃんは困惑しているウルエの手を引っ張り、
 王座の真ん前に連れていかれた。

「一旦、手離すね。」

「うん。」

 手を離し、お姉ちゃんはそのまま王座に座った。
 そして、両手を広げて

「ほら、ウルエおいで~」

「え?」

 余りにも場違いなテンションでお姉ちゃんは
 ウルエの事を呼んだ。
 一体お姉ちゃんは何をしようとしているのか、
 ウルエは再び困惑してしまった。

「ほら、何してるの?
 お姉ちゃんの言う事聞けないの?」

「わ、分かったよ。」

 ウルエに与えられた選択肢は二択。
 1、優しいお姉ちゃんの下へ行く。
 2、後ろに下がって怖い悪魔が沢山いる場所に行く。

 当然、前者を選ぶ。
 ウルエは場違いなテンションのお姉ちゃんの下へ
 恐る恐る近付く。

「うあっ!」

 手の届く距離になった瞬間、
 お姉ちゃんの手がウルエの体をがっちりと掴み、
 そのまま引き寄せられ体を180度ほど回され、
 お姉ちゃんの膝の上に座らされた。

 余りにも一瞬の事で脳の処理が追いつかなかったが、
 ウルエは今王座に座っているお姉ちゃん膝の上に座らされて
 悪魔達の事を眺めている。

「では、これより我が娘フェル――」

「ちょっと、父さん何勝手に喋ってるの?
 私許可してないんだけど。」

「え」

 魔王であるお義父さんの言葉を遮り
 お姉ちゃんが凄く敵意丸出しでそう事を言った。 
 魔王と魔王の娘一体どちらの方が偉いのか、ウルエにはわからない。
 でも、いま唯一分かる事がある。
 それは、お姉ちゃんの機嫌が非常に悪いと言う事だ。

 お義父さんに冷たい態度を取るのは日常茶飯事の事だが、
 今のお姉ちゃんからは物凄いピリピリとした
 殺気の様な物を感じる。

「す、すまなかっ――」

「ねぇ、いい加減にしてよ。
 私許可してないって言ったよね?
 何で勝手に喋ってるの?次許可無しに喋ったら殺すから。」

「えぇ……」

 お姉ちゃんの怒りはマックスの様だ。
 普段どんなに冷たい態度を取っても
 殺すなんて物騒な言葉使わないお姉ちゃんだが、
 今は物騒な事を普通に口走ってしまっている、相当機嫌が悪いのだろう。

「あぁ、イライラする。
 私、言ったよね?ウルエの負担にならない様にしてって。
 三日間も準備期間上げたのに何なのこれ。
 私のウルエを怖がらせて――っ!!
 貴様等ゴミとウルエではどれ程の価値の違いが――」

「お、お姉ちゃん!」

 ウルエは思わず声を荒げて止めに入った。
 一体お姉ちゃんが何を求めていたのかは分からないが、
 恐らくウルエの為にお姉ちゃんは怒っているのだろう。
 だから、此処はウルエが止めないと行けない。

「もう止めてよ。
 怒ってるお姉ちゃん少し怖いよ。」

「あ、ああ!ごめんなさいウルエ。」

 そう言って後ろからぎゅっと体を抱きしめて来た。
 一応顔を伏せている悪魔達だが、恐らく此方の様子を見ている。
 ウルエは皆に見られていると思うと恥ずかしさで死にたくなった。

(帰りたい)

「ウルエチャージ完了。」

「え、何それ。」

 ウルエチャージ。
 お姉ちゃんがまたおかしな事言い出した。

「気分が良くなったわ。貴様等ウルエに感謝しろ。
 今日幹部達に集まってもらった理由は一つ、
 私のウルエを紹介しておこうと思ったから」

(口悪っ!お姉ちゃん口悪すぎでしょ、どうしたの)

「ほら、見えるかしら私の可愛いウルエの事が、
 見て分かると思うけど――って貴様等何時まで伏せてるのよ。
 さっさと可愛いウルエをみなさい。」

 悪魔達が一斉に顔を上げた。
 ウルエはビクリとなったが、冷静を装った。

(……お姉ちゃん皆の前だったらこんなにもキャラが違うのか)
 
「見て分かると思うけど、ウルエと私は本当の姉弟じゃなくて
 ウルエの種族は人間よ。」

 さらりとウルエの事を暴露するお姉ちゃん。
 一瞬だが悪魔達がざわついたが直ぐに沈黙した。
 
「だけどそんなのは関係ない。
 私はもう既にウルエと子作りの約束もしてるのよ。
 人間だからってウルエの事を虐めたりしたら、貴様等殺すからね」

 お姉ちゃんはそう言うとウルエの事を持ち上げて、
 膝の上から下して立たせてくれた。
 そして、お姉ちゃんは王座から立ち上がり、

「行こうか。」

 笑顔でそう言って再びウルエの手を握り、
 扉に向って歩き出した。
 悪魔達は再び一斉に伏せる。

 一体何のための集まりだったのだろう、
 ただ単にウルエが恥ずかしかっただけの様な気がする。
 そんな事を思いながら王座を後にした。

・・・・

 あの恥ずかしい集まりから二年が経ち、
 ウルエは七歳になり、お姉ちゃんは十歳になった。
 遂にお姉ちゃんが学園に通う歳になってしまった。

「ウルエ……」

「お姉ちゃん……」

 ウルエは今お姉ちゃんを見送る為に魔王城の入口まで来ていた。
 この場にはお姉ちゃんとお義母さん、お義父さん、悪魔少数、そしてウルエがいる。
 皆お姉ちゃんを見送る為に集まってるのだが、
 当の本人は非常に迷惑そうな顔をしてウルエ以外近くに寄せて居ない。
 皆が少し離れて見守るなかウルエとお姉ちゃんは別れの言葉を交わしていた。

「ウルエ……ウルエェ……」

 お姉ちゃんはウルエに抱きつきながらその場に膝をついて泣き崩れて
 泣き声と混ざり何を言おうとして居るのか全く分からない。
 膝を付いている為丁度撫でやすい位置に頭があり、ウルエは慰めるようそっと撫でる。

「お姉ちゃん頑張るからね……ウルエも頑張ってね……」

 大分落ち着いて来てお姉ちゃんの言葉が聴き取れるようになった。

「うん、頑張る。」

「お姉ちゃんウルエの言葉が待ってるから」

「うん……」

「待ってるからね、絶対に待ってるから……」

「うん、三年後絶対にお姉ちゃんの下に行くよ」

「ウルエェェェエ!」

 再びお姉ちゃんは泣き出してしまった。
 落ち着いては喋りまた泣き……それを幾度か繰り返した。
 そして――

「そろそろ行かなくちゃ……」

 お姉ちゃんは涙を手でぬぐい、立ち上がった。
 
「うん、また三年後。」

「ウルエ……一つだけお願いしても良い?」

「なに?」

 今までウルエにお願い何て一度もしてこなかったお姉ちゃんが
 たった今ウルエに初めてのお願いをして来た。
 断る理由など無い。
 泣いて赤くなった目で此方を真剣な眼差しで見て来るお姉ちゃんの顔を
 ウルエも真剣な眼差しで見返し次の言葉を待つ。

「『お姉ちゃん大好き』って言って欲しい。」

「分かったよ。」

(そう言えば未だに言った事無かったな。
 リアクション見たさに何時かは言おうと思ってたけど
 すっかり忘れていた……)

 ウルエは一度大きく深呼吸をして息を整え、
 今までの思い出を込めて、

「お姉ちゃん大好き!」

 言い切った瞬間、物凄く恥ずかしくなり
 自分でも分かるほど顔が熱が熱くなって
 今自分の顔がどうなっているのか容易く想像できる。

 一方、お姉ちゃんの顔も真っ赤かに染まっており、
 何やら口をパクパクとさせていたかと思えば、
 後ろに振り返り、

「じゃあね、ウルエ。」

 そう震えながら言ったのであった。
 そして、お姉ちゃんは歩き出した。
 その後に続きお姉ちゃんを護衛する悪魔達も一斉に動き出した。
 
 ウルエはそんな後ろ姿を見ながら、

「ばいばい、お姉ちゃん」

 と小声で呟いた。

「あぁ、フェル大きくなって……」

「お母さん、寂しいわ。」

「寂しくなるな……ウルエも相当寂しい思いをしているのだろうな。」

 お姉ちゃんにあんな態度を取られていても
 やはり親は親だ。
 お義父さんとお義母さんは鼻を啜りながらそう言った。

「おとうさん、おかあさん、
 俺、お姉ちゃんが居なくても頑張るから。」

「おお、ウルエ何時の間にかに逞しくなって。」

「フェルのおかげですわ、お母さん嬉しいです。」

 何を頑張るかは具体的には決めていない。
 だが、やるべき事は沢山ある。
 三年後お姉ちゃんと再開した時に少しは成長していないと、
 あのお姉ちゃんの事だ、お義母さん達に「どういう教育してたの!?」
 とか言い出しそうだからである。

「頑張らないと」
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