捨て猫を拾った日

トウリン

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愛猫日記

彼女のおねだりと彼のモヤモヤ③

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「ゃあ、あ、ぁん」
 しがみついてきた真白ましろが漏らす甘い声が、吐息と共に孝一こういちの首筋をくすぐった。
 ゆさりと真白を揺さぶるたびに彼女の中で起こる動きが、孝一にも痺れるような快感をもたらしてくれる。だが、そんな快楽を得るよりも、それ以上に、とにかく真白とつながっていたかった。

 もっと深く、もっと強く。
 彼女の細く柔らかな身体を掻き抱き、彼の硬い胸に押し付ける。

「シロ……真白……」
 熱に浮かされたように名前を呼ぶと、その声に反応するかのように彼女の内襞がさざめいた。
「コウ……あ、ぁ、あ……ふ」
 甘く熱のこもった声でため息のように囁かれる彼の名前。
「もっと、呼んでくれ」
 奥歯を噛み締めながら、孝一は呻く。
「あ……コウ、コウ、好き……ぁッ」
 真白の中で、屹立が更に昂ぶりを増したのが判った。ヒクリと震えた彼女が孝一の背中に爪を立てる。ピリ、と痛みが走ったが、それすら心地良い。

 決して激しく突き上げているわけではないのに、込み上げてくる快楽に孝一の頭はどうにかなってしまいそうだった。

 自分の腕の中で喘ぎ、身体を震わせる真白が、愛おしくてならない。
 その感情に駆られるままに、彼女の顔中にキスを降らせた。
 そうしながら、波のように、真白を揺らす。
 ゆっくりと、深く、大きく。
 せり上がる何かをこらえるように、ビクンと彼女が背を反らす。そうして突き出された胸を、孝一は頭を下げて捉えた。
「いや、ダメ、一緒にしたら……」
 息を切らせた真白のささやかな抵抗は無視して、孝一は小さな突起をくわえ、舌でねぶる。そうするたびに彼女の中にいる彼自身を絞るように締め付けてきて、めまいを覚えるほどの快感で腰が震えた。次第に孝一の中でも限界が近付いてくる。
 そうして、彼がひときわ深みを突き上げた時だった。

「や、あぅ、あ……ダメ、コウ、もう、もう……ぁ、ぁあん!」
 跳ね上がった声と共に真白の全身が痙攣し、彼を包む柔らかな内壁も強く収斂する。
「クッ」
 呻いた直後、彼女に食い締められた孝一の昂ぶりは膨れ上がり、そして一気に解放に向かう。真白を自分に押し付けるようにして抱き締め、意識が遠のきそうなほどの快感に呻く。脈打ちながら熱い飛沫を放つ彼に、真白が身体を震わせた。
「ふぁ……」
 半ば目を閉じうっとりとした顔でしなだれかかってくる身体を、孝一は受け止める。彼自身、全身に広がる愉悦の名残りを味わいながら、快楽の余韻で時折ヒク付く真白を抱き締め、宥めるように背中を撫でてやる。触れ合わせた胸には真白の早鐘のような鼓動が、真白の背に置いた彼の手には彼女の荒い息が伝わってきた。

 やがて、真白の背中の動きが緩やかになってくる。
「真白?」
 静かに名前を呼ぶと、彼女はまどろみかけていたのか反応が鈍かった。
「ん……」
 重そうな目蓋を上げて、孝一に寄りかかったまま真白が彼を見上げてくる。そんな彼女の頭に口付けてからそっと持ち上げ、ソファに下ろした。孝一の温もりが残っているその場所に丸まった真白は、今にも眠り込んでしまいそうだ。

 取り敢えず先ほど脱がした服を彼女にかけて、孝一はバスルームに行く。バスタブに栓をして固形の入浴剤を落とし、湯を溜め始めてから再びリビングに戻った。自分の服を脱いでから残り少ない真白の服も脱がせると、彼女を抱き上げてバスルームに向かう。
 湯はまだ半分ほどしか溜まっていなかったが、孝一は真白と共にバスタブの中に腰を下ろした。
「ん……あれ……お風呂……?」
「寝ていてもいいぞ?」
「だいじょうぶ、もう眠くないから」
 そう言ってもぞもぞと動き始めた真白を、孝一は再び抱き寄せた。

 眠くない、と言いながら、彼女は今にも舟を漕ぎ始めそうだ。
 次第に力が抜けてくる真白を支えながら、そう言えば、と孝一はあることに気が付いた。
「シロ?」
 呼ばれて、真白はピクンと身体を起こす。
「何?」
「いや……眠かったら、別に後でもいいんだけどな」
「ん、だいじょうぶ。何?」
 身体を捻って彼を見上げてきた真白に、孝一はそれならば、と問いかける。

「バイト先はもう決まっているのか? 何をやりたいんだ?」
「えぇっとね、ファミリーレストラン。駅一つ向こうの……コウとも行ったことがある所」
「ああ、あそこか」
 孝一の職場とも近く、客層はそれほど悪くない筈だ。ああいうところは、たいていいつも求人の張り紙がしてあるが――
「何でそこに決めたんだ?」
「学校でアルバイトの雑誌を見ていたら、同じクラスの子が……その人もそこでバイトをしてるから、一緒にやらないかって」
「へえ」

 ファミレスのウェイトレスということは、女子なのだろう。真白の口から友人の話が出たことはないが、登校を再開してから親しくする相手ができたのかもしれない。
「バイト、昼だけにしておけよ?」
 孝一は、真白の頬にまとわりついている髪を耳にかけてやりながら、そう言った。
 昼間のファミレスに行くのは子ども連れの主婦かカップル、仕事で時間のないサラリーマンくらいだろう。だが、夕になれば学生が出入りするようになり、夜は同じサラリーマンでも仕事が終わって暇もできているだろうし、酔っ払いも出没するようになる。真白の対人スキルでそんな輩が相手にできるとは思えなかった。

「だいじょうぶ、お家のことは、ちゃんとやるから」
 頷いた真白が、ニコリと笑う。
 正直言って家のことはどうでもいいのだが、彼女は頼りにされたいらしい。
「助かるよ」
 そう返すと、真白は嬉しそうに笑みを深くした。
 そんな真白を腕の中に再び引き寄せた孝一は、ふと、自分の両手が彼女の腹の上にあることに気付く。

(ここに俺との子どもが宿るのは、いつのことになるのだろう)
 避妊をしなくなってから、まだひと月も経っていない。できているとしても、まだ判らないだろう。
 あるいは、痩せ過ぎていると妊娠しないとどこかで聞いた気がするから、まだ真白にはできないのかもしれない。
 そんなふうに思いながら、孝一は彼女の腹をそっと撫でた。

 もうじき真白も学校を卒業するから、孝一としてはいつ子どもができても構わないのだ。
 自分の子どもというものに、これまで彼は全く興味がなかったが、真白との間に何かが生まれるのだと思うと、やけに胸の辺りがざわついた。
 それに、真白は未だに婚姻届にサインをくれないが、子どもができたら踏ん切りも付きそうだ。
 妊娠を盾に取って結婚を迫るというのは姑息な手段であることはわかっているが、真白が結婚自体を嫌がっているわけではないことは判っている。何かもうひと押しがあれば、きっと彼女も応じるに違いないのだ。

(まあ、妊娠したらバイトもできなくなるけどな……)
 胸の中でそう呟き、孝一は少々複雑な心境になる。彼としてはそうなれば一石二鳥だが、真白がやりたいということを妨げたくはなかった。
 ――今更だが、また避妊した方がいいのかもしれない。
 自分のわがままと真白の望みを天秤にかければ、当然後者に傾くのだ。
 多少の葛藤があるのは否定しないが、それでも、やはり、真白のしたいことをさせてやりたかった。

 孝一は頭を傾け、すぐ下にある彼女の頭の天辺にそっと口付ける。
 何だか、真白と出会ってから孝一の人生は複雑になってしまった気がした。独りだった頃は、こんなに色々と考えなくても済んだのだ。全てがシンプルだった。

「まあ、仕方ないよな……」
 これが、惚れた弱みというものなのだろう。
 ふと気付くと、真白は再び眠りに落ちていた。孝一に全てを預けて、安心しきって。
「まったく、人の気も知らないで」
 小さくぼやき、もう一度先ほどと同じところにキスをする。そうして目を閉じると、彼女の穏やかな寝息に耳を傾けながら、湯の温もりに身を委ねた。
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