鮮やかなもの

上野たすく

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 翌日、白石がいない部屋で、如月の弁当を食べた。
 どれもこれも、冷めてんのに、うまかった。
 特に、サービスしてくれた唐揚げは絶品だった。
 白石も、好きそうな味だ。
 一緒に食いたかったな……。
 白石の財布もスマホも鍵も、部屋に残ったままだ。
 今日、会社は休みだから、その点に関しては、気を揉まなくていいが。
 あれから、どうしたんだろう?
 必需品くらい、慈悲でくれてやらぁ、よかったかな?
 ぶんぶん、と首を左右する。
 それじゃあ、反省タイムになんねぇ。
 腹部に手を当て、部屋を見回す。
 静かだな。
 この部屋って、こんなに広かったっけ?
 思い立って、財布から名刺を取り出した。
 X高校 那須蘭。
 時間は八時を過ぎている。
 非常識じゃねぇよな。
 印字された携帯番号をスマホに入力し、電話をかけた。
「はい。那須です」
「奥村ですが」
 今、電話を続けていいか確認をし、オーケーをもらう。
「先日は突然、お声かけして、すみませんでした。ご連絡、もういただけないかと思っていました」
「明日なら時間がとれます。急で申し訳ないのですが」
「いえ。もとから、うちでは毎日、体験型の特別授業がありますので、そちらに先生をお呼びするつもりでした。気に病まないでください」
 体験型の特別授業なら、やること決まってるんじゃないのか?
 変更って、簡単にできるものだろうか?
「どんな講義内容を、何時間、行えばよろしいですか?」
「内容は先生にお任せします。時間は一時間でお願いします。十四時半にX高校へ来ていただけますか?」
「わかりました」
 通話を切り、しゃがみ込んで腹に触れた。
 X高校は身籠もっている体で行くべき場所じゃないのかもしれない。
 おかしい、怪しいと思えば思うほど、まだ自分の意志を伝えられない子どもに、罪悪感が増していく。
 でも、砂の中から砂金を探すように、そこにわずかであっても、俺達の今後を解決できる糸口があるのなら、俺は行きたい。
「お前は俺が守るから……」
 親らしくない行動をとる俺を、許してくれ。
 スマホが鳴った。
 やっちゃんからだ。
「どうした?」
「すみません。今、電話、大丈夫ですか?」
「大丈夫。なんかあった?」
 やっちゃん、今日、声、明るいな。
「はい! あの! 手紙が!」
「手紙、書いたの?」
「はい! 書いて、ドアに貼り付けたんですが」
「うん」
「返事が来てて!」
「もう!」
「あの! どうしたら! 僕、どうしたら、いいでしょうか?」
 返事を読めばいいと思う。
「ん? ん~、俺、今日、暇だし、そっち、行こうか?」
「本当ですか!」
「うん。どこへ行けばいい?」
 やっちゃんに住所を教えてもらい、ネットでルートを検索して最短距離で向かった。
 二階建ての年季の入ったアパート。
 やっちゃんは外で待っていてくれた。
 夏も、もうすぐ終るけど、まだ熱い。
 日陰にいても熱気は防げない。
「やっちゃん」
 駆け寄ると、やっちゃんは顔を輝かせた。
 やっちゃんの部屋へ行き、問題の手紙を見せてもらう。
 白い封筒は、きっちりと閉じられたまま、ちゃぶ台の上だ。
「やっちゃん」
「ひゃい!」
「うわっ!」
 やっちゃんのビビりように、ビビった。
 気まずくて黙り込み、しばらくして、緊張しすぎの自分達を笑い合った。
「手紙の嫌がらせで、よくあるのは、カミソリとか、かな?」
「カミソリが入っているようには思えませんが?」
 やっちゃんが手紙の裏表を確認する。
「カミソリの刃ね」
「ぼ……、ぼぼぼぼ僕、それほどまで、おこがましいことをして」
 やっちゃんの体がバイブする。
「ごめん! そういう話を聞いたことがあっただけで、一応、気にしといてもいいかなって、思っただけだから!」
 手紙をもらい、指で異物がないか探ってみる。
 封筒はパンパンだが、特段、硬い感じのものはない。
 宛名も差出人もなく、膨れた手紙。
 これ、ちゃんと文字が書かれてあんなら、どんだけ意思疎通をはかりたかったんだ、相手は。
 やっちゃんは、弁当を食べても、異変ないみたいだし。
 はい、とやっちゃんに手紙を渡す。
「ちゃんとした手紙みたいだ」
 やっちゃんは手紙を見つめ、はい、と顔を赤らめながら、微笑んだ。
 封筒の中身は、文字がぎっしり書かれた便箋だけだった。
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