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小塚が前を見据え、イヤホンで仲間と会話をする。
「目標まで行くのに指示を出す。誰かが来たら、それぞれの道でとめてくれ。ここからは、名前じゃなく、ナンバーで個人を識別する。メッセージ送るから確認してくれ」
小塚がスマホの画面に親指を滑らせ、押す。
「わかってると思うけど、読んだらすぐ、メッセージは消去しろよ」
仲間から返事が来たのか、小塚が口角を上げる。
「みんな、持ち場につけ」
戦闘モードに入った男が屈伸をする。
「十秒後」
そいつはこともあろうか、俺を横に抱き上げた。
「駆け抜ける!」
「うおい!」
「あんた、ちょっと、竜に似てる」
え?
俺は小塚を見上げた。
男の視線は真っ直ぐ前だけをとらえていた。
「類は友を呼ぶってことかな?」
小塚の恋人は俺の知り合い?
「はい。雑念はそこまで」
小塚が膝を曲げる。
「そんじゃ、行きますか!」
凄まじいスタートダッシュに、歯を食いしばる。
さっきよりも格段にスピードが出ている。
俺は小塚の邪魔にならないよう、鞄を抱き込んだ。
「東棟から西棟へ行く。一、よろしく」
「了解」
イヤホンから男の声が漏れ聞こえる。
心強さに胸がじんわり熱くなった。
一階から出入り口へ向かう分岐点に、ワイヤレスイヤホンをした生徒がいた。
「へい!」
「へい」
二人は通り過ぎるさい、かけ声と共にタッチをした。
さっきのが、一か?
小塚は彼に指示を出したあと、イヤホンで誰とも会話をしていない。速度も緩めず、突っ走っている。信頼しあっているんだな。
「西棟へ入った。二、三、準備を頼む」
「オーケー」
「うい」
性質の違う声が聞こえてくる。
フッと小塚が笑う。
「片手でもいい。しっかり掴まれ」
小さく言われたかと思うと、体が浮遊感を覚えた。
小塚が斜め上に飛び、壁を踏み台にして、一気に十メートル離れた階段の手すりまで移動し、手すりの上で逆立ちをした格好のままとまった。
ミシッと小塚の手が軋んだ。
彼は手すりの上で百八十度回転して階段に寝そべり、身を潜めた。
男の話し声が聞こえてくる。
手すりは見る角度が見る角度なら、俺達は丸見えだ。俺は小塚の胸の上で息を殺した。一方、小塚の心音は少しも乱れない。
スーツ姿の男が二人、真横を通っていく。彼らは階段を見ることなく、今まで俺達がいた廊下を通り、東棟へと歩いて行った。
「小塚」
イヤホンから二か三、どちらかの声がする。
「おう」
「わりぃ。ミスった」
「支障ない」
男は再度、謝り、通信を切ったらしかった。
小塚は上半身を起こし、階段に座った。
「よく声を出さなかったな」
笑いかけられ、トラブルはしのげたのだと安心する。
が、俺は顔をしかめた。
「手、大丈夫なのか?」
「あ? 手?」
「見せてみろ」
「おいおい。白石さんを助けたいんだろ? 俺にかまってる暇」
膝にのせた小塚の手は骨が歪み、赤く腫れ上がっていた。
「目標まで行くのに指示を出す。誰かが来たら、それぞれの道でとめてくれ。ここからは、名前じゃなく、ナンバーで個人を識別する。メッセージ送るから確認してくれ」
小塚がスマホの画面に親指を滑らせ、押す。
「わかってると思うけど、読んだらすぐ、メッセージは消去しろよ」
仲間から返事が来たのか、小塚が口角を上げる。
「みんな、持ち場につけ」
戦闘モードに入った男が屈伸をする。
「十秒後」
そいつはこともあろうか、俺を横に抱き上げた。
「駆け抜ける!」
「うおい!」
「あんた、ちょっと、竜に似てる」
え?
俺は小塚を見上げた。
男の視線は真っ直ぐ前だけをとらえていた。
「類は友を呼ぶってことかな?」
小塚の恋人は俺の知り合い?
「はい。雑念はそこまで」
小塚が膝を曲げる。
「そんじゃ、行きますか!」
凄まじいスタートダッシュに、歯を食いしばる。
さっきよりも格段にスピードが出ている。
俺は小塚の邪魔にならないよう、鞄を抱き込んだ。
「東棟から西棟へ行く。一、よろしく」
「了解」
イヤホンから男の声が漏れ聞こえる。
心強さに胸がじんわり熱くなった。
一階から出入り口へ向かう分岐点に、ワイヤレスイヤホンをした生徒がいた。
「へい!」
「へい」
二人は通り過ぎるさい、かけ声と共にタッチをした。
さっきのが、一か?
小塚は彼に指示を出したあと、イヤホンで誰とも会話をしていない。速度も緩めず、突っ走っている。信頼しあっているんだな。
「西棟へ入った。二、三、準備を頼む」
「オーケー」
「うい」
性質の違う声が聞こえてくる。
フッと小塚が笑う。
「片手でもいい。しっかり掴まれ」
小さく言われたかと思うと、体が浮遊感を覚えた。
小塚が斜め上に飛び、壁を踏み台にして、一気に十メートル離れた階段の手すりまで移動し、手すりの上で逆立ちをした格好のままとまった。
ミシッと小塚の手が軋んだ。
彼は手すりの上で百八十度回転して階段に寝そべり、身を潜めた。
男の話し声が聞こえてくる。
手すりは見る角度が見る角度なら、俺達は丸見えだ。俺は小塚の胸の上で息を殺した。一方、小塚の心音は少しも乱れない。
スーツ姿の男が二人、真横を通っていく。彼らは階段を見ることなく、今まで俺達がいた廊下を通り、東棟へと歩いて行った。
「小塚」
イヤホンから二か三、どちらかの声がする。
「おう」
「わりぃ。ミスった」
「支障ない」
男は再度、謝り、通信を切ったらしかった。
小塚は上半身を起こし、階段に座った。
「よく声を出さなかったな」
笑いかけられ、トラブルはしのげたのだと安心する。
が、俺は顔をしかめた。
「手、大丈夫なのか?」
「あ? 手?」
「見せてみろ」
「おいおい。白石さんを助けたいんだろ? 俺にかまってる暇」
膝にのせた小塚の手は骨が歪み、赤く腫れ上がっていた。
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