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「ここからは俺も走る」
「発想が凡庸だ」
小塚の眼差しが、冷めたものに変わった。
「目的を達成するために、使えるものは使い、切り捨てるものは切り捨てろ。中途半端なやさしさは凶器だ。あんたも、あんたを慕う人をも、傷つける」
奥村先生、と呼ばれ、戸惑う。
小塚は、那須さんが俺を呼んだのを、聞いていたのか?
「俺は竜にあんたを守れと頼まれた。だから、Ωを軽蔑しない連中に声をかけ、あんたがここへ来た場合、どうなるか、前もって、いくつかパターンを考え、話し合った。アプリもイヤホンの設置も、ダチがしてくれた。特に今日は、竜からヤバイかもしれないって連絡があったから、俺達は交代で授業を抜け、備えていた」
「どうして、そこまで」
「あんたが那須さんと接触したことで、竜はあんたに何かあるかもしれない、と危惧したんだ。無事に白石さんと、いつもの日常に戻ってもらわないと、俺は竜に顔向けできない。なんの得もなく、俺に協力してくれてるダチにも」
「だからって、小塚君が傷つくのは違うだろ?」
「あんた、面倒くさい」
ガキっぽい言い方だった。
俺はしばし、考え、躊躇いはあったが、小塚の腫れた手を自分の腹に触れさせた。
「こいつが生まれたとき、小塚君は俺達のヒーローだって言いたい」
小塚の耳がピクッと動く。
食いついたことに驚きながら、言葉を続けた。
「小塚君が傷つくことを前提で助かったとして、俺は小塚君の存在を、子どもに言えないと思う。それに」
俺は小塚の若い瞳を見つめた。
「こいつが傷ついたら、俺も傷つく。同じように、小塚君が傷ついたら、小塚君の恋人は傷つくんじゃないか?」
小塚の瞳が揺れた。
「俺は小塚君には、人を傷つけないヒーローになってほしいって思うよ」
く……くさかったか。
でも、ここで恥ずかしがったら、小塚はそっちに意識がいっちまうだろうし。
悶々としていると、小塚が俺の腹部を見つめてきた。
「なんか、ストンときた」
青年が口角を上げる。
小塚は腫れた方の手を引き、無事である方を差し出してきた。
「俺は小塚和臣」
小塚の手を握りしめる。
「奥村庸輔だ」
「庸輔さん、お互い、無事に切り抜けよう」
「ああ」
小塚は仲間に事情が変わったことを伝え、彼の仲間は言葉少なに受け入れた。
小塚が言うには、白石は西棟の理科準備室にいるらしかった。俺達は、さっき通り過ぎていった男達が歩いてきたであろう廊下を走った。小塚は力を抜いてくれているようだった。俺でも、頑張れば着いていける速さだ。
リノリウムの床を蹴り、左右の分かれ道に着く直前、小塚が壁に背をつけるよう、手で示してきた。
年配の男の声が壁に反響している。そこに若い男の声が三つ加わり、話し出す。詳細は聞こえないが、声の調子から言って、あまり楽しくない内容っぽい。
小塚は黙ってイヤホンの声に聴き入っていたが、年配の男の怒鳴り声に瞼を閉じた。
「庸輔さん、はじめ、俺は、使命感だけであなたを助けようとした。今は、俺個人として、あなたを助けてあげたいと思ってる」
小塚が壁から離れ、微笑みかけてくる。
「理科準備室は左に曲がって右手にある。俺が先に行くから、あなたはあとから、猛ダッシュして、白石さんを助けるんだ」
「小塚君、何をする気」
俺の言葉を最後まで聞かず、小塚が走り出す。
追いかけた俺の前で、彼は理科準備室のドアに回し蹴りをし、見ていた教師に大声で叱責され、それでも怯むことなく走り続け、仲間の傍に駆け寄った。
十秒足らずの出来事だった。
教師は立ち止まった俺の存在を見逃さず、こちらを捕らえようとし、小塚達に阻まれた。
「そこをどけ! 小塚、お前、何をしているのか、わかっているのか!」
「わかっていますよ。これが俺の答えですから」
俺は準備室へ入る寸前、小塚の大人びた声を聞いた。
「俺達αはこのままじゃ、いけない」
「発想が凡庸だ」
小塚の眼差しが、冷めたものに変わった。
「目的を達成するために、使えるものは使い、切り捨てるものは切り捨てろ。中途半端なやさしさは凶器だ。あんたも、あんたを慕う人をも、傷つける」
奥村先生、と呼ばれ、戸惑う。
小塚は、那須さんが俺を呼んだのを、聞いていたのか?
「俺は竜にあんたを守れと頼まれた。だから、Ωを軽蔑しない連中に声をかけ、あんたがここへ来た場合、どうなるか、前もって、いくつかパターンを考え、話し合った。アプリもイヤホンの設置も、ダチがしてくれた。特に今日は、竜からヤバイかもしれないって連絡があったから、俺達は交代で授業を抜け、備えていた」
「どうして、そこまで」
「あんたが那須さんと接触したことで、竜はあんたに何かあるかもしれない、と危惧したんだ。無事に白石さんと、いつもの日常に戻ってもらわないと、俺は竜に顔向けできない。なんの得もなく、俺に協力してくれてるダチにも」
「だからって、小塚君が傷つくのは違うだろ?」
「あんた、面倒くさい」
ガキっぽい言い方だった。
俺はしばし、考え、躊躇いはあったが、小塚の腫れた手を自分の腹に触れさせた。
「こいつが生まれたとき、小塚君は俺達のヒーローだって言いたい」
小塚の耳がピクッと動く。
食いついたことに驚きながら、言葉を続けた。
「小塚君が傷つくことを前提で助かったとして、俺は小塚君の存在を、子どもに言えないと思う。それに」
俺は小塚の若い瞳を見つめた。
「こいつが傷ついたら、俺も傷つく。同じように、小塚君が傷ついたら、小塚君の恋人は傷つくんじゃないか?」
小塚の瞳が揺れた。
「俺は小塚君には、人を傷つけないヒーローになってほしいって思うよ」
く……くさかったか。
でも、ここで恥ずかしがったら、小塚はそっちに意識がいっちまうだろうし。
悶々としていると、小塚が俺の腹部を見つめてきた。
「なんか、ストンときた」
青年が口角を上げる。
小塚は腫れた方の手を引き、無事である方を差し出してきた。
「俺は小塚和臣」
小塚の手を握りしめる。
「奥村庸輔だ」
「庸輔さん、お互い、無事に切り抜けよう」
「ああ」
小塚は仲間に事情が変わったことを伝え、彼の仲間は言葉少なに受け入れた。
小塚が言うには、白石は西棟の理科準備室にいるらしかった。俺達は、さっき通り過ぎていった男達が歩いてきたであろう廊下を走った。小塚は力を抜いてくれているようだった。俺でも、頑張れば着いていける速さだ。
リノリウムの床を蹴り、左右の分かれ道に着く直前、小塚が壁に背をつけるよう、手で示してきた。
年配の男の声が壁に反響している。そこに若い男の声が三つ加わり、話し出す。詳細は聞こえないが、声の調子から言って、あまり楽しくない内容っぽい。
小塚は黙ってイヤホンの声に聴き入っていたが、年配の男の怒鳴り声に瞼を閉じた。
「庸輔さん、はじめ、俺は、使命感だけであなたを助けようとした。今は、俺個人として、あなたを助けてあげたいと思ってる」
小塚が壁から離れ、微笑みかけてくる。
「理科準備室は左に曲がって右手にある。俺が先に行くから、あなたはあとから、猛ダッシュして、白石さんを助けるんだ」
「小塚君、何をする気」
俺の言葉を最後まで聞かず、小塚が走り出す。
追いかけた俺の前で、彼は理科準備室のドアに回し蹴りをし、見ていた教師に大声で叱責され、それでも怯むことなく走り続け、仲間の傍に駆け寄った。
十秒足らずの出来事だった。
教師は立ち止まった俺の存在を見逃さず、こちらを捕らえようとし、小塚達に阻まれた。
「そこをどけ! 小塚、お前、何をしているのか、わかっているのか!」
「わかっていますよ。これが俺の答えですから」
俺は準備室へ入る寸前、小塚の大人びた声を聞いた。
「俺達αはこのままじゃ、いけない」
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