鮮やかなもの

上野たすく

文字の大きさ
36 / 41

36

しおりを挟む
 小塚が砕いたドアを踏んで準備室に入った。
 白石は、アイマスクをつけられ、パイプ椅子に縄で拘束されていた。
 俺は嗚咽を噛み殺した。
 急いでアイマスクと縄を外し、気を失っている白石の肩を叩く。

「保! 保!」

 白石が瞼を押し上げる。

「…………庸、……輔?」

 よかった。
 抱きつきたいが、一秒すら惜しい。

「ここから早く出よう。立てるか?」

 白石は垂れた頭を上げようとしない。

「保?」
「庸輔、俺達、別れよう」
「え……?」
「発情期が来たら相手はする。番の責任はとる。だけど、子どもは諦めてくれ」

 力のない声に、俺は項垂れた。
 お前、なんで、俺を見ないんだよ。
 なんで、そんな覇気のない目、してんだよ。
 拳を握りしめる。
 涙が誘発され、鼻の奥が痛い。

「それがお前の幸せになると、俺は信じている」

 信じる……。
 白石は自分を信じろと言った。
 俺があのとき、強く、こいつのことを、強く強く信じ切れば、すべては上手くいっていたのかもしれない。
 信じる。俺はこいつを信じる。愛しているから。白石が選んだその道を信じる。
 だけど、それはこいつの本音だったらの話だ。
 白石を見つめてやる。

「お前がいう未来で、俺は笑ってんだな?」

 白石の瞳がわずかに動く。

「俺は幸せだって笑ってんだよな?」

 目が合った。

「お前もだ、保。お前だって幸せだって、あのときとった行動は間違っていなかったって、ちゃんと笑ってんだよな?」

 お前の背負ってきたものを、俺はどれだけかけても、本当の意味では、理解をしてあげられないかもしれない。
 お前が数時間、ここで何をされたのかも、わからない。
 わからないものは、わからないんだよ!
 でも、だからこそ、俺を必要だって言ってくれ。どうして、こんなこともわからないんだって、俺に苛ついてくれ。お前と違う俺に失望してくれ。
 俺は向き合うから、だから!

「答えろ、保!」
「……してだよ。それしかないんだ。なのに、どうしても、笑ってるお前を思い浮かべられない」
「だったら、別れることが俺の幸せだなんて、二度と言うんじゃねぇ、バカ!!」

 白石は目を伏せ、唇を噛んだ。

「だけど……」
「言い訳でも何でも、部屋で聴いてやる。今はここから出ることに集中しろ。ご託は聴かねぇ。だから、つべこべ考えんな」

 白石の手を引く。
 今度は立ち上がってくれた。
 準備室の窓を開け、白石に手伝ってもらい、外へと出た。
 白石も俺も、靴は置いていくしかないな。
 白石は裸足だから気になるけど。

「俺のスリッパ履くか?」
「いい」
「お前、ぶわって、飛んだりできねぇの? マッハで走ったりとか」

 小塚がやっていたみたいに。
 やっ、お姫様抱っこしてもらうつもりは、さらさらないけどさ。
 能力は有効に使うべきだろ?

「そんなこと、俺にできるわけがないだろ」
「できねぇの!」

 逆に、驚くわ!
 小塚は本物の超人ってことか?
 そっか、白石はできないのか……。
 衝撃を受け流すことができず、視線を外した。が、周辺視野に切なげに微笑む白石が映り、違和感を覚えた。

「保、本当はでき」
「庸輔」

 それ以上は踏み込んでくるな、と言うように、白石は笑顔で俺に手を向けた。

「行こう」

 白石の手に触れるとギュッと握りしめられる。
 嘘は本当のことに近づけた方がバレないってか……。
 俺が知ったX高校の闇は切れっ端なんだな? 俺が入っちゃいけない領域。たぶん、やっちゃんも知らないこと……。
 わかったよ。お前が話してくれるまで待つ。
 だって、俺は。

「信じてるぜ」

 白石がじっと見つめてくる。

「俺は白石保を信じてる。だから、俺のこと、幸せにしてくれよな、保」
「……今の俺が何を言っても説得力がない」

 白石は俺に背を向け、歩き出した。
 この、くそ真面目が。
 ほんと、嫌になるくらい……。
 強められた白石の握力に、唇を伸ばす。
 不器用な奴……。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

執着

紅林
BL
聖緋帝国の華族、瀬川凛は引っ込み思案で特に目立つこともない平凡な伯爵家の三男坊。だが、彼の婚約者は違った。帝室の血を引く高貴な公爵家の生まれであり帝国陸軍の将校として目覚しい活躍をしている男だった。

2度目の恋 ~忘れられない1度目の恋~

青ムギ
BL
「俺は、生涯お前しか愛さない。」 その言葉を言われたのが社会人2年目の春。 あの時は、確かに俺達には愛が存在していた。 だが、今はー 「仕事が忙しいから先に寝ててくれ。」 「今忙しいんだ。お前に構ってられない。」 冷たく突き放すような言葉ばかりを言って家を空ける日が多くなる。 貴方の視界に、俺は映らないー。 2人の記念日もずっと1人で祝っている。 あの人を想う一方通行の「愛」は苦しく、俺の心を蝕んでいく。 そんなある日、体の不調で病院を受診した際医者から余命宣告を受ける。 あの人の電話はいつも着信拒否。診断結果を伝えようにも伝えられない。 ーもういっそ秘密にしたまま、過ごそうかな。ー ※主人公が悲しい目にあいます。素敵な人に出会わせたいです。 表紙のイラストは、Picrew様の[君の世界メーカー]マサキ様からお借りしました。

奇跡に祝福を

善奈美
BL
 家族に爪弾きにされていた僕。高等部三学年に進級してすぐ、四神の一つ、西條家の後継者である彼が記憶喪失になった。運命であると僕は知っていたけど、ずっと避けていた。でも、記憶がなくなったことで僕は彼と過ごすことになった。でも、記憶が戻ったら終わり、そんな関係だった。 ※不定期更新になります。

後宮の男妃

紅林
BL
碧凌帝国には年老いた名君がいた。 もう間もなくその命尽きると噂される宮殿で皇帝の寵愛を一身に受けていると噂される男妃のお話。

あなたの家族にしてください

秋月真鳥
BL
 ヒート事故で番ってしまったサイモンとティエリー。  情報部所属のサイモン・ジュネはアルファで、優秀な警察官だ。  闇オークションでオメガが売りに出されるという情報を得たサイモンは、チームの一員としてオークション会場に潜入捜査に行く。  そこで出会った長身で逞しくも美しいオメガ、ティエリー・クルーゾーのヒートにあてられて、サイモンはティエリーと番ってしまう。  サイモンはオメガのフェロモンに強い体質で、強い抑制剤も服用していたし、緊急用の抑制剤も打っていた。  対するティエリーはフェロモンがほとんど感じられないくらいフェロモンの薄いオメガだった。  それなのに、なぜ。  番にしてしまった責任を取ってサイモンはティエリーと結婚する。  一緒に過ごすうちにサイモンはティエリーの物静かで寂しげな様子に惹かれて愛してしまう。  ティエリーの方も誠実で優しいサイモンを愛してしまう。しかし、サイモンは責任感だけで自分と結婚したとティエリーは思い込んで苦悩する。  すれ違う運命の番が家族になるまでの海外ドラマ風オメガバースBLストーリー。 ※奇数話が攻め視点で、偶数話が受け視点です。 ※エブリスタ、ムーンライトノベルズ、ネオページにも掲載しています。

箱入りオメガの受難

おもちDX
BL
社会人の瑠璃は突然の発情期を知らないアルファの男と過ごしてしまう。記憶にないが瑠璃は大学生の地味系男子、琥珀と致してしまったらしい。 元の生活に戻ろうとするも、琥珀はストーカーのように付きまといだし、なぜか瑠璃はだんだん絆されていってしまう。 ある日瑠璃は、発情期を見知らぬイケメンと過ごす夢を見て混乱に陥る。これはあの日の記憶?知らない相手は誰? 不器用なアルファとオメガのドタバタ勘違いラブストーリー。 現代オメガバース ※R要素は限りなく薄いです。 この作品は『KADOKAWA×pixiv ノベル大賞2024』の「BL部門」お題イラストから着想し、創作したものです。ありがたいことに、グローバルコミック賞をいただきました。 https://www.pixiv.net/novel/contest/kadokawapixivnovel24

処理中です...