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第三章 秘伝の弟子
115 住む場所にも気を遣います
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高耶は統二を連れて小学校から十数キロ離れた河川敷にやって来た。
「ここ……県も跨いでますよ? 本当に近場ではなかったんですね……」
霊と距離が近くなる陰陽師達は、泊まる場所や生活する場所の安全を常に確認する習慣のようなものがある。
特に怨霊となった者が多いかつての処刑場跡や合戦場となった場所からは距離を置くようにしていた。霊達は視える者に反応する。刺激しないためにも考えなくてはならなかった。
統二も高耶の家に滞在することになって、近場にそういう場所がないかどうかの確認だけはしていたのだ。
「そういうのも含めて、今の家を決めたんだ。優希が通うことになる小学校とか中学校の位置もな」
「兄さんが選んだんですか?」
「まあな……結構誘導した……」
その時はまだ高耶は家族にこういった仕事をしていることも話してはいなかった。
予算もきっちり調べた上で、小学校や駅などを見た立地条件を提示して薦めたのだ。かなり大変だった。
「苦労されましたね……清晶さんが兄さんは瑶迦先生のように土地神になる可能性があると言っていましたし、そういうのも考えないといけないのではないですか?」
「それは条件もあるから大丈夫だ。あのまま土地神が消滅するようなことになったら確かに危なかったがな」
「その辺のところ……今度教えてください」
「……ああ。瑶迦さんには聞けないものな」
瑶迦は望んで土地神になったわけではない。だからきっと、これを尋ねるのは失礼だ。だが、統二は瑶迦の弟子となったのだから、事情を知っておくべきではある。ならば、それは高耶の役目だろう。近いうちに説明すると約束して頷いた。
高耶はゆったりとしたペースで河川敷を歩いていく。そこに源龍が合流した。
「お疲れ様です、源龍さん」
「っ、お疲れ様です!」
統二も近づいてくる源龍に気付いて頭を下げた。これにいつものように笑みを浮かべて手を上げる源龍。
「いやいや。遅れてすまないねえ」
「来ていただいただけで十分ですよ。多分、あそこで間違いなさそうです」
示したのは橋の下。ゴミが散乱している場所。
「あそこを中心に術が組まれています」
「この辺は漂流物も多いね……なるほど、水神様の清めの範囲から外れてしまったんだね」
流れ、清めるのが水神の力。怨みも悲しみも全てを洗い清めていく。しかし、ゴミの山がそれを妨害してしまっていたのだ。
「滞った所に眠っていた怨霊が徐々に力を付けて復活し、それを今回使われたようですね」
「けど兄さん。あの怨霊達は本来、この地に縛られているんですよね? その場合は召喚することはできないはずでは?」
召喚とは、別の場所にいるものを喚び出す術だ。式神達を喚ぶのもこれに当たる。だが、一般的に地縛霊と呼ばれるようなその土地に囚われているものはどれだけ喚んでも喚び寄せることはできないのが常識だった。
源龍もそうだなと頷きながら、他の可能性を示唆する。
「普通は無理だね。異界化をしていたとはいえ、簡単なことじゃない。彼らがこの場よりも執着する何かをあの場に用意していたか、もしくは術者がこの場から彼らを切り離せるほどの力を持っていた場合は可能かもしれないけれど」
コックリさんの儀式場としての力も何か関わっていたかもしれないと考え込む源龍をよそに、高耶は一人過去を幻視していた。そして、答えを出す。
「……確かにあの場を異界化させる必要はあったようです……ただ、今回のは陰陽術ではないみたいですね」
「どういうことだい?」
見えたのは術式だ。それを嫌って、先ほどから水神がこちらを遠巻きにしてせっついているのを感じていた。
「この国の神には不快みたいです」
苦笑してそう答えた高耶。これによって源龍は思い至った。
「まさか……魔術なのかい?」
「ええ……それも呪咀を使ったものです。中心点にカラスの遺骸が埋めてあります……」
「やってくれる……」
カラスは賢い。基本的に知能の高い動物はこうした儀式に生贄や材料とされることが多い。怨みの感情を抱くからだ。人よりも雑念が少なく、扱いやすいらしい。胸糞の悪い話だ。
「それに引き寄せられてきた亡者達を『転移』させたようですね。異界化させることで、彼らに場所を錯覚させたのでしょう。止められないはずです」
あの時、充雪が神の傍に亡者達が行かないように壁を作っていた。しかし、それを彼らは不意に越えて現れたというのだ。
もちろん、充雪は落ち武者達を退かせ、あの場を守ってはいたが、その術を妨害することができなかったと言っていた。
空間を飛び越えることもできる充雪が、召喚を妨害できないのは不思議だと思っていた。喚び出す道を作る召喚とは違い、場所を点と点で直接結んでしまう転移では対応できなくてもおかしくはなかった。
《な~る。魔術の転移ならしゃぁねえな》
上空に浮いてあぐらをかいていた充雪が手を打って納得していた。
**********
読んでくださりありがとうございます◎
できましたら、今週もう一話上げる予定です。
よろしくお願いします◎
2019. 6. 5
「ここ……県も跨いでますよ? 本当に近場ではなかったんですね……」
霊と距離が近くなる陰陽師達は、泊まる場所や生活する場所の安全を常に確認する習慣のようなものがある。
特に怨霊となった者が多いかつての処刑場跡や合戦場となった場所からは距離を置くようにしていた。霊達は視える者に反応する。刺激しないためにも考えなくてはならなかった。
統二も高耶の家に滞在することになって、近場にそういう場所がないかどうかの確認だけはしていたのだ。
「そういうのも含めて、今の家を決めたんだ。優希が通うことになる小学校とか中学校の位置もな」
「兄さんが選んだんですか?」
「まあな……結構誘導した……」
その時はまだ高耶は家族にこういった仕事をしていることも話してはいなかった。
予算もきっちり調べた上で、小学校や駅などを見た立地条件を提示して薦めたのだ。かなり大変だった。
「苦労されましたね……清晶さんが兄さんは瑶迦先生のように土地神になる可能性があると言っていましたし、そういうのも考えないといけないのではないですか?」
「それは条件もあるから大丈夫だ。あのまま土地神が消滅するようなことになったら確かに危なかったがな」
「その辺のところ……今度教えてください」
「……ああ。瑶迦さんには聞けないものな」
瑶迦は望んで土地神になったわけではない。だからきっと、これを尋ねるのは失礼だ。だが、統二は瑶迦の弟子となったのだから、事情を知っておくべきではある。ならば、それは高耶の役目だろう。近いうちに説明すると約束して頷いた。
高耶はゆったりとしたペースで河川敷を歩いていく。そこに源龍が合流した。
「お疲れ様です、源龍さん」
「っ、お疲れ様です!」
統二も近づいてくる源龍に気付いて頭を下げた。これにいつものように笑みを浮かべて手を上げる源龍。
「いやいや。遅れてすまないねえ」
「来ていただいただけで十分ですよ。多分、あそこで間違いなさそうです」
示したのは橋の下。ゴミが散乱している場所。
「あそこを中心に術が組まれています」
「この辺は漂流物も多いね……なるほど、水神様の清めの範囲から外れてしまったんだね」
流れ、清めるのが水神の力。怨みも悲しみも全てを洗い清めていく。しかし、ゴミの山がそれを妨害してしまっていたのだ。
「滞った所に眠っていた怨霊が徐々に力を付けて復活し、それを今回使われたようですね」
「けど兄さん。あの怨霊達は本来、この地に縛られているんですよね? その場合は召喚することはできないはずでは?」
召喚とは、別の場所にいるものを喚び出す術だ。式神達を喚ぶのもこれに当たる。だが、一般的に地縛霊と呼ばれるようなその土地に囚われているものはどれだけ喚んでも喚び寄せることはできないのが常識だった。
源龍もそうだなと頷きながら、他の可能性を示唆する。
「普通は無理だね。異界化をしていたとはいえ、簡単なことじゃない。彼らがこの場よりも執着する何かをあの場に用意していたか、もしくは術者がこの場から彼らを切り離せるほどの力を持っていた場合は可能かもしれないけれど」
コックリさんの儀式場としての力も何か関わっていたかもしれないと考え込む源龍をよそに、高耶は一人過去を幻視していた。そして、答えを出す。
「……確かにあの場を異界化させる必要はあったようです……ただ、今回のは陰陽術ではないみたいですね」
「どういうことだい?」
見えたのは術式だ。それを嫌って、先ほどから水神がこちらを遠巻きにしてせっついているのを感じていた。
「この国の神には不快みたいです」
苦笑してそう答えた高耶。これによって源龍は思い至った。
「まさか……魔術なのかい?」
「ええ……それも呪咀を使ったものです。中心点にカラスの遺骸が埋めてあります……」
「やってくれる……」
カラスは賢い。基本的に知能の高い動物はこうした儀式に生贄や材料とされることが多い。怨みの感情を抱くからだ。人よりも雑念が少なく、扱いやすいらしい。胸糞の悪い話だ。
「それに引き寄せられてきた亡者達を『転移』させたようですね。異界化させることで、彼らに場所を錯覚させたのでしょう。止められないはずです」
あの時、充雪が神の傍に亡者達が行かないように壁を作っていた。しかし、それを彼らは不意に越えて現れたというのだ。
もちろん、充雪は落ち武者達を退かせ、あの場を守ってはいたが、その術を妨害することができなかったと言っていた。
空間を飛び越えることもできる充雪が、召喚を妨害できないのは不思議だと思っていた。喚び出す道を作る召喚とは違い、場所を点と点で直接結んでしまう転移では対応できなくてもおかしくはなかった。
《な~る。魔術の転移ならしゃぁねえな》
上空に浮いてあぐらをかいていた充雪が手を打って納得していた。
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読んでくださりありがとうございます◎
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2019. 6. 5
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