秘伝賜ります

紫南

文字の大きさ
228 / 468
第五章 秘伝と天使と悪魔

228 若者の問題

しおりを挟む
野外の解放的で広い場所で散らばっているとは言っても、怒鳴り声というのは聞こえるものだ。それは怒気が乗っているから。離れていても気になってしまう。だから、その内誰か来るだろう。

「『わざわざ来てやった俺らに! 礼儀がなってないのはそっちだろ!!』
「『だいたい、ガキが出張ってくんじゃねえよ! 親はどうした!』」
「『はあ!? お前らこそ! 自分たちで責任も取れんガキなのか!? 親呼んでどうすんだよ! バカか!?』」

これはどうしようかなと、高耶は少し遠い目をする。統二の言葉遣いがすごい。早く誰か来てくれないだろうか。もう高耶は面倒になってきていた。

「……どんな英語を勉強してるんだ……」

ちょっと下がって呟く高耶。それを勇一が拾った。

「あの……一体、統二はなにを……」
「その辺の不良もびっくりな言葉を使っている……」
「英語ですよね……学校で……?」
「いや、これは友達とだろ……」

そんな話の間にも、ヒートアップしていく。思わず『若いな』と高耶は言いそうだった。

「はあ……」

大きくため息を吐いた所で、蓮次郎が、あちらの代表と共にやってきた。そう。あちらは社長というか、会長のような一番の代表がいる。現在の代表は今年で六十だという男性だった。名をレスターという。

「なに? なに絡んでるの?」
「『お前たち、何をしている!』」

さすがに代表の顔は知っているらしい。

「『っ、あ、だ、代表っ……っ』」
「『こ、これは、わ、我々をバカにしたので……っ』」
「『ほお……挨拶のために声をかけたのでもないと?』」
「『あ、挨拶? 相手は子どもです』」
「『聞いていないのか? 例えば未成年であろうと、こちらの当主は、上司や師と同じ。礼を持って接するべきだ』」

タジタジとする青年達。けれど、納得できなかったようだ。察しが悪いともいう。そこに、彼らの上司らしき者達が慌ててやってきた。

「『代表! こ、こやつらがなにか』」

レスターよりも十は下だろう男性と、その補佐らしき者数人が問題を起こした青年達を睨み付ける。

これに、青年達は反論した。

「『俺たちは悪くない。こいつが突っかかってきたんだ』」
「『だいたい、当主だって実力で決まるんじゃないんでしょ? こっちは人数制限までされたのに、なんで明らかに見学するってくらいのやつが居るんですか』」
「『当主だって、分かるはずないし』」
「『お、お前たちっ……!』」

上司は怒りで顔が真っ赤だ。

「ねえ、レスター。さすがに、ここまでのおバカちゃん達が増えてるって聞いてないけど?」
「……申し訳ない……最近は素質があっても、それを磨けないような若者ばかりで……それも、少し力が使えるからと、居丈高に自慢する始末……」

レスターもこれには頭を悩ませているらしい。

「ヒーロー気取りのおバカちゃん達だねえ。もしかして、普通に見せびらかしたりとか?」
「いや……そうですね。あります。面白半分で使い魔を召喚したり……とはいえ、ぬるい修行をしている程度の低い者たちです。隠せないほどのバカはできません」
「指導しないの?」

そんな問題児と分かっているならば、つきっきりで指導するだろう。

「質が落ちている上に、多くの者が引退しました。指導者が足りないのです……」
「ああ~、だから、最近は師匠一人に三人くらい弟子がいるのね? 若い子が増えて良いな~って思ってたけど、問題あったんだねえ」
「はい……」

これは、下の指導が間に合わなくなるはずだ。一人の師につき一人の弟子が普通だった所に、この変化。行き届かないのも頷ける。

「けど、それで質が落ちたらダメでしょう」
「おっしゃる通りで……」

今回、人が多かったのも、本来は一人で封印できていたものが、二人、三人で一つを封印するくらいの力しかなかったためらしい。

「それで、この子たちはどうしようねえ。他にも同じような子いるかな」
「……いますね……」
「仕方ないね。なら、さっさと挨拶しようかな。高耶くん。おいで」
「はい」

手招きされ、未だごちゃごちゃと言い訳のようなものを上司に向かって喋っている青年達から離れる。その際、統二と勇一も回収していく。

「ご、ごめんなさい。兄さん。つい……」

統二は、ようやく頭が冷えたらしい。

「元気な啖呵だったな」
「っ……」

恥ずかしそうに顔を俯ける統二の頭に軽く触れ、蓮次郎に歩み寄った。そして、レスターに挨拶する。

「『お久しぶりです。レスターさん。今年はあまり顔を出せず申し訳ありません』」
「『いやっ、そ、そんなことはありません! 来ていただけるだけでありがたく思っております!』」

軍人のように、ピシっと姿勢を正して返事をするのはやめてほしいと、切実に思う高耶だ。

当然だが、事情を知らない青年達が不可解そうな顔でこちらを見てくる。

「ふふふっ。さあ、高耶くん。始めようか」
「はい」

青年達がまた突っかかってくる前にと、高耶は蓮次郎とレスターについていく。

そうすると、段々と散らばっていた者たちが集まり出した。

用意されていた朝礼台のようなものに、蓮次郎が上る。その下に通訳をする者が控えた。高耶とレスターもそこだ。統二と勇一は高耶の後ろに控えた。

「私は今回の連盟代表になる橘蓮次郎だ。これより、作戦を説明する」

同じことを通訳が話すのを待って、蓮次郎は続けた。

「それぞれの鎧を橘家の結界内で組み立ててもらう。恐らく、それほど難しくはないだろう。勝手に組み上がるはずだ。ただし、合わない場合は、動かない」

三つずつある金と銀の鎧。部品の見た目は同じでも、本当に一致するのは一つらしい。

「合わなかった場合は、合う物の所に移動させることになる。まあ、パズルみたいなものだね。合うのは一つだ。正しく組み上げてほしい」

簡単に言うが、とても面倒くさい。それもそのはず。干渉し合わないように、距離を置いて組み立てるのだから。

「見えるかな。結界に色もつけた。金は白い方。銀は青い方で頼むよ」

そこで、手が上がった。真面目そうな若い青年の一人だ。

「質問かな? どうぞ?」
「『はい。ここまで、それぞれ封印しながらこちらへ運びました。手にしても問題ないのでしょうか』」

当然の疑問だ。慎重に、余分に憑いていた悪魔を祓い、それぞれ封印して持ち込んできたのだ。そのまま触れて、持ち運んで大丈夫かと思うだろう。

「全て検査済みだ。封印したのは、それ以降、また新たに悪魔や妖が憑かないようにするためでね。組み上がるまでは、本来無害らしい」
「『……らしいとは……』」
「ああ、大丈夫。確かな情報だ。だから、最後の一つである兜だけは、別で集めて結界内で保管してある。他の全てが組み上がったら、安全のため、離れてもらう」

これは玻璃の情報。この鎧は、全てが揃って初めて、その鎧に憑いた悪魔と天使が目覚めるのだ。

「ここまでいいかな?」

そこで、また手が上がった。

「そこの君。なにかな?」
「『代表の隣にいるのは、見学される御子息ですか』」

不満そうな顔の青年が目を向けたのは、高耶だ。御子息と言われて蓮次郎は満々の笑みを浮かべた。

「御子息だって! 高耶くん! やっぱり養子においで!」
「無理です……」

レスターが気の毒そうに目を向けてくるが、目を合わせないようにした。

そこで、高耶を知っている年配の者たちが、顔を青ざめさせているのに気づく。レスターも気付いたようだ。

「橘さん、きちんと説明すべきです。これ以上、若い者に無礼を働かせるわけにはいきません」
「ふふふ。そうだね。ここにいるのは、秘伝家当主、高耶くんだ。若い子達は知らないかな。そっちでは『高耶様』って呼ばれてると思うけど」

これに青年達が騒つく。

今回の比率でいえば、連盟が三分の一、残り三分の二の内、半分と少しが若者だ。連盟側は、高耶の事を年齢に関係なく見知っていた。この間の霊穴の件に参加した者が大半だったのだ。

だから、三分の一以上の協会の若者達が高耶を知らなかった。

「『噂で聞く、精霊王の?』」
「『だって、若いぞ? 俺らとタメだろ』」
「『当主だって持ち上げられてるだけじゃね?』」

どうやら、誰も噂で聞く高耶のことを信じていないようだ。

「これこれ。この反応っ。笑えるよねっ」
「わ、笑い事ではないでしょうっ」

レスターが焦っている。

「だって、代表の君が頭下げても、今時の子は信じないよ」
「そんなっ」

これ以上、高耶に失礼があってはならないと、レスターは本気で焦っていた。

「もう良いじゃない。さっさとやろうよ。どうせ、高耶くんの力を見ることになるんだから、その時に……後悔するといいよ」
「っ……」

蓮次郎は実はちょっとイラついていたらしい。黒い笑みを浮かべていた。

「じゃあ、始めるよ」

その顔が作った笑顔だとは分からないだろう。そのまま、蓮次郎が手を一つ打つと、行動開始となった。そして、振り返った蓮次郎が高耶にさっそくお願いする。

「高耶くん。ここら一帯に結界お願いできる?」
「……先に土地神に挨拶してきます……」
「あ、そっか。分かった。なら早く……っ」

その時、まさにその土地神がふわりと高耶の前に現れた。人の姿をした神だ。

《こっちから来てしまったよ。はじめまして。神々の申し子よ》

当然だが、これを目撃することとなった者たちは、口をぽかんと開けて見ていることしかできなかった。

**********
読んでくださりありがとうございます◎
しおりを挟む
感想 688

あなたにおすすめの小説

まだ20歳の未亡人なので、この後は好きに生きてもいいですか?

せいめ
恋愛
 政略結婚で愛することもなかった旦那様が魔物討伐中の事故で亡くなったのが1年前。  喪が明け、子供がいない私はこの家を出て行くことに決めました。  そんな時でした。高額報酬の良い仕事があると声を掛けて頂いたのです。  その仕事内容とは高貴な身分の方の閨指導のようでした。非常に悩みましたが、家を出るのにお金が必要な私は、その仕事を受けることに決めたのです。  閨指導って、そんなに何度も会う必要ないですよね?しかも、指導が必要には見えませんでしたが…。  でも、高額な報酬なので文句は言いませんわ。  家を出る資金を得た私は、今度こそ自由に好きなことをして生きていきたいと考えて旅立つことに決めました。  その後、新しい生活を楽しんでいる私の所に現れたのは……。    まずは亡くなったはずの旦那様との話から。      ご都合主義です。  設定は緩いです。  誤字脱字申し訳ありません。  主人公の名前を途中から間違えていました。  アメリアです。すみません。    

転生ヒロインは不倫が嫌いなので地道な道を選らぶ

karon
ファンタジー
デビュタントドレスを見た瞬間アメリアはかつて好きだった乙女ゲーム「薔薇の言の葉」の世界に転生したことを悟った。 しかし、攻略対象に張り付いた自分より身分の高い悪役令嬢と戦う危険性を考え、攻略対象完全無視でモブとくっつくことを決心、しかし、アメリアの思惑は思わぬ方向に横滑りし。

心が折れた日に神の声を聞く

木嶋うめ香
ファンタジー
ある日目を覚ましたアンカーは、自分が何度も何度も自分に生まれ変わり、父と義母と義妹に虐げられ冤罪で処刑された人生を送っていたと気が付く。 どうして何度も生まれ変わっているの、もう繰り返したくない、生まれ変わりたくなんてない。 何度生まれ変わりを繰り返しても、苦しい人生を送った末に処刑される。 絶望のあまり、アンカーは自ら命を断とうとした瞬間、神の声を聞く。 没ネタ供養、第二弾の短編です。

ボンクラ王子の側近を任されました

里見知美
ファンタジー
「任されてくれるな?」  王宮にある宰相の執務室で、俺は頭を下げたまま脂汗を流していた。  人の良い弟である現国王を煽てあげ国の頂点へと導き出し、王国騎士団も魔術師団も視線一つで操ると噂の恐ろしい影の実力者。  そんな人に呼び出され開口一番、シンファエル殿下の側近になれと言われた。  義妹が婚約破棄を叩きつけた相手である。  王子16歳、俺26歳。側近てのは、年の近い家格のしっかりしたヤツがなるんじゃねえの?

(完)実の妹が私を嵌めようとするので義理の弟と仕返しをしてみます

青空一夏
ファンタジー
題名そのままの内容です。コメディです(多分)

拾われ子のスイ

蒼居 夜燈
ファンタジー
【第18回ファンタジー小説大賞 奨励賞】 記憶にあるのは、自分を見下ろす紅い眼の男と、母親の「出ていきなさい」という怒声。 幼いスイは故郷から遠く離れた西大陸の果てに、ドラゴンと共に墜落した。 老夫婦に拾われたスイは墜落から七年後、二人の逝去をきっかけに養祖父と同じハンターとして生きていく為に旅に出る。 ――紅い眼の男は誰なのか、母は自分を本当に捨てたのか。 スイは、故郷を探す事を決める。真実を知る為に。 出会いと別れを繰り返し、生命を懸けて鬩ぎ合い、幾度も涙を流す旅路の中で自分の在り方を探す。 清濁が混在する世界に、スイは何を見て何を思い、何を選ぶのか。 これは、ひとりの少女が世界と己を知りながら成長していく物語。 ※基本週2回(木・日)更新。 ※誤字脱字報告に関しては感想とは異なる為、修正が済み次第削除致します。ご容赦ください。 ※カクヨム様にて先行公開中(登場人物紹介はアルファポリス様でのみ掲載) ※表紙画像、その他キャラクターのイメージ画像はAIイラストアプリで作成したものです。再現不足で色彩の一部が作中描写とは異なります。 ※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

王家も我が家を馬鹿にしてますわよね

章槻雅希
ファンタジー
 よくある婚約者が護衛対象の王女を優先して婚約破棄になるパターンのお話。あの手の話を読んで、『なんで王家は王女の醜聞になりかねない噂を放置してるんだろう』『てか、これ、王家が婚約者の家蔑ろにしてるよね?』と思った結果できた話。ひそかなサブタイは『うちも王家を馬鹿にしてますけど』かもしれません。 『小説家になろう』『アルファポリス』(敬称略)に重複投稿、自サイトにも掲載しています。

称号は神を土下座させた男。

春志乃
ファンタジー
「真尋くん! その人、そんなんだけど一応神様だよ! 偉い人なんだよ!」 「知るか。俺は常識を持ち合わせないクズにかける慈悲を持ち合わせてない。それにどうやら俺は死んだらしいのだから、刑務所も警察も法も無い。今ここでこいつを殺そうが生かそうが俺の自由だ。あいつが居ないなら地獄に落ちても同じだ。なあ、そうだろう? ティーンクトゥス」 「す、す、す、す、す、すみませんでしたあぁあああああああ!」 これは、馬鹿だけど憎み切れない神様ティーンクトゥスの為に剣と魔法、そして魔獣たちの息づくアーテル王国でチートが過ぎる男子高校生・水無月真尋が無自覚チートの親友・鈴木一路と共に神様の為と言いながら好き勝手に生きていく物語。 主人公は一途に幼馴染(女性)を想い続けます。話はゆっくり進んでいきます。 ※教会、神父、などが出てきますが実在するものとは一切関係ありません。 ※対応できない可能性がありますので、誤字脱字報告は不要です。 ※無断転載は厳に禁じます

処理中です...