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035 私の一番弟子だ!
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この世界での冒険者の階級は八段階。下から五級、四級、三級、二級、一級、中級、上級、特級だ。
この世界で特級冒険者と認められているのは現在六名。最年少のシルフィスカと、その一番弟子のケルスト。他三人がシルフィスカの弟子だが、それはシルフィスカも把握していない。
鍛えて、免許皆伝したら後は自分が納得できるまで頑張れと放置するのがシルフィスカ流。その後彼らがそれぞれ弟子を持とうが、どこかに旅に出ようが、気にしない。だから、弟子達がどこに居るのか、何をやっているのかまで把握していないのだ。
とはいえ、一人を除く全員がシルフィスカの関係者であるというのは、特級冒険者の希少性から考えると少し異常だろうか。
ケルストを弟子にしたのは、シルフィスカがまだ見習いの九歳だった頃。
当時、ケルストは二十三歳。
力だけはあるからと、冒険者パーティの荷物持ち兼盾役をしていた。そのパーティメンバーは、同じ村の出身。年齢もそう変わらなかった。
彼はシルフィスカがたまたま潜った迷宮で死にかけていたのだ。
簡潔に言ってしまえば、彼は頑丈だからと便利に使われた。そうして、ピンチになった所に無理をして、仲間たちに見捨てられたらしい。
それなりに大柄な彼が倒れているのを見て、最初は人だとは思わなかった。黒い塊があるなと、普通にその上を通ろうと思ったくらいだ。だが、散乱する荷物はまだ新しく、まさかとスピードを落としたのだ。
シルフィスカはこの時既に平気で迷宮周回をしていた。もちろん、これまでも探索中の冒険者に出会うこともあった。だが、子どもである上に、十歳未満の未だ仮登録の身。見つかれば面倒なことがあると、気配を消して駆け抜けるのが常だった。
そのため、気配察知は全開。だから、それに引っかからないほど弱った状態の彼に気付いたのは奇跡だった。
「……生きてるのか……?」
「……ぅ……ぁ……」
「生きる意思はある?」
「っ……あ……る……」
「なら助けてやる」
「っ……あ……がと……」
「……」
その時、ケルストはまだ治療魔法をかける前にお礼を言った。条件反射のような気がする。
なんだか他人の気がしなくて、治癒魔法を限界まで使った。誰かに本気で施したのは、この時が初めてだった。
この世で、神が定めた枠の中でも最高峰まで高めた治癒魔法の腕。それを持つシルフィスカの魔法だ。瀕死だった彼はあっという間にかすり傷も消え、筋肉痛さえ治る。
「……治っ……た……」
「当たり前だ。誰がやったと思っている」
「……っ……あり……がと……ござい……ます」
「……お前、声が出にくいのか? おかしいな……異常はない気が……」
「オレ……元々……しゃべるの……苦手……」
「なるほど。分かった。頑張って喋れ。努力するなら気にしなくていい」
「っ……ありが……とう」
「ん」
シルフィスカは、他人の努力を認める。本人の主観での努力を認めるのだ。例え、表に出なくても、本人が努力しているというのならばそれでいい。ただし、口だけの奴は分かるので、そこは区別している。
彼はとても腰が低かった。平均的な九歳児よりも遥かに小さいシルフィスカに対してもだ。そんな彼だから、放っておけなかった。
「腹は減ってないか?」
「……いいえ……」
だが、その直後。
ぐぅぅぅ……
「っ……すみま……せん……っ」
「ふふ。ふふふ。謙虚なのか? 自信がないのか……ふふふ。もう立てるな? あっちに安全地帯がありそうだ。ついて来い」
「……はい……」
迷宮に潜り出してもうじき一年。迷宮内の気配というか、なんとなく法則みたいなものが分かるようになっていた。
あそこに罠がありそうだとか、あそこに階段がとか。安全地帯はこの辺とかそういった、経験上の勘が働くようになっていたのだ。
こんな感覚を掴めるほど、シルフィスカはバカみたいに迷宮に潜っていた。
そうして、シルフィスカはなんの変哲もない壁の前で立ち止まる。
「……?」
「ん? ああ、ここだ。少し、この場で待っていろ。近くに魔獣や魔物の気配はない。安心して待ってろ」
「……はい……」
そこに手を触れると、壁が一部ズレて横にスライドする。隠し部屋だ。そして、そこは闇だった。しかし、それらは黒く蠢いた。
「っ……ま、まも……魔物……」
「モンスターハウスだ。ここをキレイにすれば安全な部屋になる。待ってろ」
まだ一歩も入っていないため、向こうはこちらを襲って来ない。そういう、ある意味礼儀正しい所が迷宮にはある。
ハクハクと怯える息遣いが上から聞こえた。
「で……も……」
見上げれば心配だと、涙さえ浮かべる大男の姿。目が合うと、シルフィスカはクスリと笑って見せる。そして、わざわざ向き合い、少し屈めと手招く。
シルフィスカは、子どもにするように、ゆっくりと体を屈めたケルストの頬を撫でた。
「っ……」
「心配するな。置いて行ったりはしない。何があってもお前を見捨てない。だから、お前も約束だ。ここで待て」
「っ……わか……りました……」
「うん」
そうして、シルフィスカは部屋に飛び込んだ。
「っ……!?」
ハッと覗き込んでいたケルストが息を呑むのが聞こえた。それを聞きながらも、シルフィスカは笑っていた。今回のシルフィスカの得物は太めの剣。明らかにシルフィスカの体格に合っていないが、それでも危うげなく武器をふるい、一気に敵を殲滅していく。
数分間のことだった。
「終わったな。入って来て良いぞ。ついでに、ドロップ品の回収を手伝ってくれ」
「……は……い……」
シルフィスカに言われて、ケルストは恐る恐る部屋に足を踏み入れ、すぐに落ちていた毛皮や牙なんかを手に取る。これらは、迷宮で発生した魔獣や魔物を倒した報酬のようなもの。遺骸の代わりにそれらがコロンと転がるのが、迷宮の不思議だ。
外でならば、魔物によっては倒した魔物の遺骸全てが素材として売れるが、迷宮内では一部のみ、剥ぎ取りや解体をした後の状態で現れる。時折、ハズレがあって何も残らない時もあるが、それはそれで面白い。
「迷宮は便利だよな。獣や魔物の血も消えるんだから。あ、ここに袋置いとくから、どんどん入れてくれ」
回収した物を抱え、ケルストは拾ったそれをその白い袋に一つ入れる。もうそれだけでいっぱいになりそうな小さな袋なのだ。だが、近付けるとスルリとそれが袋に吸い込まれた。
「……っ!? な……なにっ……?」
「ん? ああ。一般的には、マジックバックを見る機会はないか」
「マジっ……マジっ!?」
「マジ? ふははっ。マジックバックだよ」
「っ……」
しばらくケルストはその袋を見つめていたが、すぐにまた回収を始めた。そうして、子どものように、袋に吸い込まれる様を見る。全てのドロップ品の回収を終えてから、シルフィスカはこの部屋を解放した証として現れた宝箱を開けた。
「ん~……大剣か。それも黒い……うん。いい剣だ。不壊の効果まで付いているじゃないか。さすがは上級の迷宮だっ」
「っ……上級……?」
ケルストは宝箱の中身を見るのは悪いと遠慮したのか、少し離れた所で待っていた。だが、シルフィスカの言葉に引っ掛かり、思わずというように呟いていた。
もしかして、知らずにここに来たのだろうかと確認しようとした時だ。
振り返ると、ケルストのお腹がまた盛大に鳴った。
ぐぅぅぅ……
部屋の中なので、余計に響いた。これに、赤くなるケルスト。
「ふふっ。悪い悪い。さあ、食事にしよう」
シルフィスカは魔法でテーブルと椅子を作る。これに驚いているケルストに目を向けることなく、バックから屋台で買った肉やパンを取り出し、皿に大盛りにする。
「ほら、冷めるぞ」
「……でも……金……持って……ない」
「さっき働いてくれただろうが」
「……?」
「ふふ。回収を手伝ってくれただろう? あ、その袋持ってきてくれ」
「……はい……」
素直に持ってきたそれを、シルフィスカは先ほどから食料を出しているバックに吸い込ませる。
「……マジック……バック……」
「ああ。これは自作のだ。さっき使っていた、持ってきてくれた奴が迷宮産のだよ」
「っ……自作……作れる……?」
「作れるぞ?」
何気なく話ながら、シルフィスカは出したピッチャーに魔法で水を満たし、コップに注いでいた。
「座って」
「……椅子……に?」
「机に座るのか?」
「……いつもは……床……」
「……それは、お前だけ?」
「ん……荷物持ち……普通は……そう」
「いや、違うだろ。はあ……いい。それは、お前と一緒に居た奴らの中の決まりだ。私の前では、きちんと椅子に座って出された物は好きに食べろ」
「……分かっ……た……ありが……とう……ござい……ます」
「いい。早く食べろ」
「はい」
ケルストは、お腹が減っているのに、ガツガツと食べなかった。そうしろと言われていたのかもしれない。
シルフィスカには、とても他人事とは思えなかった。だからだろう。ここ最近、師である神に言われていたことを、やっても良いと思った。
それは、弟子を取ること。
こんなガキに、誰が教えを乞うんだと笑ったが、人の一生は短い。神からの絶大な加護をもらっているシルフィスカ自身でさえも、決して永遠ではない。
ならば、始めるのに早過ぎるということはないだろう。
「なあ……お前、強くなりたくないか?」
「っ……なりたい……」
はっきりとした声だった。それが心からの答えだと分かる。シルフィスカはクスリと笑った。父と子ほどの年齢差があるが、それを彼ならば気にしない気がした。
「なら、私の弟子にならないか?」
「なる」
「ふふっ。あははっ。いいね! では、今日からお前は、私の一番弟子だ! そうだな……うん。この剣に相応しい男になってもらうぞ」
「っ……!」
黒い大剣。それをふるう未来のケルストの姿が、シルフィスカには見えていたのだ。
************
読んでくださりありがとうございます◎
次回、5日の予定です。
よろしくお願いします◎
この世界で特級冒険者と認められているのは現在六名。最年少のシルフィスカと、その一番弟子のケルスト。他三人がシルフィスカの弟子だが、それはシルフィスカも把握していない。
鍛えて、免許皆伝したら後は自分が納得できるまで頑張れと放置するのがシルフィスカ流。その後彼らがそれぞれ弟子を持とうが、どこかに旅に出ようが、気にしない。だから、弟子達がどこに居るのか、何をやっているのかまで把握していないのだ。
とはいえ、一人を除く全員がシルフィスカの関係者であるというのは、特級冒険者の希少性から考えると少し異常だろうか。
ケルストを弟子にしたのは、シルフィスカがまだ見習いの九歳だった頃。
当時、ケルストは二十三歳。
力だけはあるからと、冒険者パーティの荷物持ち兼盾役をしていた。そのパーティメンバーは、同じ村の出身。年齢もそう変わらなかった。
彼はシルフィスカがたまたま潜った迷宮で死にかけていたのだ。
簡潔に言ってしまえば、彼は頑丈だからと便利に使われた。そうして、ピンチになった所に無理をして、仲間たちに見捨てられたらしい。
それなりに大柄な彼が倒れているのを見て、最初は人だとは思わなかった。黒い塊があるなと、普通にその上を通ろうと思ったくらいだ。だが、散乱する荷物はまだ新しく、まさかとスピードを落としたのだ。
シルフィスカはこの時既に平気で迷宮周回をしていた。もちろん、これまでも探索中の冒険者に出会うこともあった。だが、子どもである上に、十歳未満の未だ仮登録の身。見つかれば面倒なことがあると、気配を消して駆け抜けるのが常だった。
そのため、気配察知は全開。だから、それに引っかからないほど弱った状態の彼に気付いたのは奇跡だった。
「……生きてるのか……?」
「……ぅ……ぁ……」
「生きる意思はある?」
「っ……あ……る……」
「なら助けてやる」
「っ……あ……がと……」
「……」
その時、ケルストはまだ治療魔法をかける前にお礼を言った。条件反射のような気がする。
なんだか他人の気がしなくて、治癒魔法を限界まで使った。誰かに本気で施したのは、この時が初めてだった。
この世で、神が定めた枠の中でも最高峰まで高めた治癒魔法の腕。それを持つシルフィスカの魔法だ。瀕死だった彼はあっという間にかすり傷も消え、筋肉痛さえ治る。
「……治っ……た……」
「当たり前だ。誰がやったと思っている」
「……っ……あり……がと……ござい……ます」
「……お前、声が出にくいのか? おかしいな……異常はない気が……」
「オレ……元々……しゃべるの……苦手……」
「なるほど。分かった。頑張って喋れ。努力するなら気にしなくていい」
「っ……ありが……とう」
「ん」
シルフィスカは、他人の努力を認める。本人の主観での努力を認めるのだ。例え、表に出なくても、本人が努力しているというのならばそれでいい。ただし、口だけの奴は分かるので、そこは区別している。
彼はとても腰が低かった。平均的な九歳児よりも遥かに小さいシルフィスカに対してもだ。そんな彼だから、放っておけなかった。
「腹は減ってないか?」
「……いいえ……」
だが、その直後。
ぐぅぅぅ……
「っ……すみま……せん……っ」
「ふふ。ふふふ。謙虚なのか? 自信がないのか……ふふふ。もう立てるな? あっちに安全地帯がありそうだ。ついて来い」
「……はい……」
迷宮に潜り出してもうじき一年。迷宮内の気配というか、なんとなく法則みたいなものが分かるようになっていた。
あそこに罠がありそうだとか、あそこに階段がとか。安全地帯はこの辺とかそういった、経験上の勘が働くようになっていたのだ。
こんな感覚を掴めるほど、シルフィスカはバカみたいに迷宮に潜っていた。
そうして、シルフィスカはなんの変哲もない壁の前で立ち止まる。
「……?」
「ん? ああ、ここだ。少し、この場で待っていろ。近くに魔獣や魔物の気配はない。安心して待ってろ」
「……はい……」
そこに手を触れると、壁が一部ズレて横にスライドする。隠し部屋だ。そして、そこは闇だった。しかし、それらは黒く蠢いた。
「っ……ま、まも……魔物……」
「モンスターハウスだ。ここをキレイにすれば安全な部屋になる。待ってろ」
まだ一歩も入っていないため、向こうはこちらを襲って来ない。そういう、ある意味礼儀正しい所が迷宮にはある。
ハクハクと怯える息遣いが上から聞こえた。
「で……も……」
見上げれば心配だと、涙さえ浮かべる大男の姿。目が合うと、シルフィスカはクスリと笑って見せる。そして、わざわざ向き合い、少し屈めと手招く。
シルフィスカは、子どもにするように、ゆっくりと体を屈めたケルストの頬を撫でた。
「っ……」
「心配するな。置いて行ったりはしない。何があってもお前を見捨てない。だから、お前も約束だ。ここで待て」
「っ……わか……りました……」
「うん」
そうして、シルフィスカは部屋に飛び込んだ。
「っ……!?」
ハッと覗き込んでいたケルストが息を呑むのが聞こえた。それを聞きながらも、シルフィスカは笑っていた。今回のシルフィスカの得物は太めの剣。明らかにシルフィスカの体格に合っていないが、それでも危うげなく武器をふるい、一気に敵を殲滅していく。
数分間のことだった。
「終わったな。入って来て良いぞ。ついでに、ドロップ品の回収を手伝ってくれ」
「……は……い……」
シルフィスカに言われて、ケルストは恐る恐る部屋に足を踏み入れ、すぐに落ちていた毛皮や牙なんかを手に取る。これらは、迷宮で発生した魔獣や魔物を倒した報酬のようなもの。遺骸の代わりにそれらがコロンと転がるのが、迷宮の不思議だ。
外でならば、魔物によっては倒した魔物の遺骸全てが素材として売れるが、迷宮内では一部のみ、剥ぎ取りや解体をした後の状態で現れる。時折、ハズレがあって何も残らない時もあるが、それはそれで面白い。
「迷宮は便利だよな。獣や魔物の血も消えるんだから。あ、ここに袋置いとくから、どんどん入れてくれ」
回収した物を抱え、ケルストは拾ったそれをその白い袋に一つ入れる。もうそれだけでいっぱいになりそうな小さな袋なのだ。だが、近付けるとスルリとそれが袋に吸い込まれた。
「……っ!? な……なにっ……?」
「ん? ああ。一般的には、マジックバックを見る機会はないか」
「マジっ……マジっ!?」
「マジ? ふははっ。マジックバックだよ」
「っ……」
しばらくケルストはその袋を見つめていたが、すぐにまた回収を始めた。そうして、子どものように、袋に吸い込まれる様を見る。全てのドロップ品の回収を終えてから、シルフィスカはこの部屋を解放した証として現れた宝箱を開けた。
「ん~……大剣か。それも黒い……うん。いい剣だ。不壊の効果まで付いているじゃないか。さすがは上級の迷宮だっ」
「っ……上級……?」
ケルストは宝箱の中身を見るのは悪いと遠慮したのか、少し離れた所で待っていた。だが、シルフィスカの言葉に引っ掛かり、思わずというように呟いていた。
もしかして、知らずにここに来たのだろうかと確認しようとした時だ。
振り返ると、ケルストのお腹がまた盛大に鳴った。
ぐぅぅぅ……
部屋の中なので、余計に響いた。これに、赤くなるケルスト。
「ふふっ。悪い悪い。さあ、食事にしよう」
シルフィスカは魔法でテーブルと椅子を作る。これに驚いているケルストに目を向けることなく、バックから屋台で買った肉やパンを取り出し、皿に大盛りにする。
「ほら、冷めるぞ」
「……でも……金……持って……ない」
「さっき働いてくれただろうが」
「……?」
「ふふ。回収を手伝ってくれただろう? あ、その袋持ってきてくれ」
「……はい……」
素直に持ってきたそれを、シルフィスカは先ほどから食料を出しているバックに吸い込ませる。
「……マジック……バック……」
「ああ。これは自作のだ。さっき使っていた、持ってきてくれた奴が迷宮産のだよ」
「っ……自作……作れる……?」
「作れるぞ?」
何気なく話ながら、シルフィスカは出したピッチャーに魔法で水を満たし、コップに注いでいた。
「座って」
「……椅子……に?」
「机に座るのか?」
「……いつもは……床……」
「……それは、お前だけ?」
「ん……荷物持ち……普通は……そう」
「いや、違うだろ。はあ……いい。それは、お前と一緒に居た奴らの中の決まりだ。私の前では、きちんと椅子に座って出された物は好きに食べろ」
「……分かっ……た……ありが……とう……ござい……ます」
「いい。早く食べろ」
「はい」
ケルストは、お腹が減っているのに、ガツガツと食べなかった。そうしろと言われていたのかもしれない。
シルフィスカには、とても他人事とは思えなかった。だからだろう。ここ最近、師である神に言われていたことを、やっても良いと思った。
それは、弟子を取ること。
こんなガキに、誰が教えを乞うんだと笑ったが、人の一生は短い。神からの絶大な加護をもらっているシルフィスカ自身でさえも、決して永遠ではない。
ならば、始めるのに早過ぎるということはないだろう。
「なあ……お前、強くなりたくないか?」
「っ……なりたい……」
はっきりとした声だった。それが心からの答えだと分かる。シルフィスカはクスリと笑った。父と子ほどの年齢差があるが、それを彼ならば気にしない気がした。
「なら、私の弟子にならないか?」
「なる」
「ふふっ。あははっ。いいね! では、今日からお前は、私の一番弟子だ! そうだな……うん。この剣に相応しい男になってもらうぞ」
「っ……!」
黒い大剣。それをふるう未来のケルストの姿が、シルフィスカには見えていたのだ。
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