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ミッション12 舞台と遠征
482 きっと初ですよ
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雰囲気を切り替えるように咳払いをしたクロコは、報告を続ける。
「その……どうやら、レヴィリアさんの一件の真実が一般に知られたようです」
先ほどよりも神妙な様子のクロコ。身内や仲間扱いをしているレヴィリアのことなので、伝え方に気を遣ってくれているようだ。しかし、フィルズは気にせず頷く。
「ん? 真実? ああ……確かあの国、レヴィのこと、めちゃくちゃワガママな女で、国庫を食い潰す悪女だとか言い振らしたんだったか」
「はい。重い税を課すようになったのも……ここの住民達も、それを信じて兇行に及んだはずです」
国への不満をぶつけようとしたここの住民達は、王族、貴族がレヴィリアにより叩かれたと知り、矛先をレヴィリアへと向けることになった。住み慣れた土地も捨て、国さえも出たのは、レヴィリアの悪い噂を聞き、全ての不満や怒りを彼女にぶつけるためだ。
「王族や貴族達が追い出したことになっていましたが、そこも、不正や国の方針に怒り、嫌気が差したことで王族達を叩きのめして出て行ったというものが流れていました」
「確かに真実だな……で? それ、あの商隊の奴らが?」
「はい。最初は流民の方々かと思ったのですが、あの方々はこうした場合、考えさせたり、調べさせると聞きまして」
「ばあちゃんに聞いたのか?」
「はい。ガーネルの場合、どうしたかとお尋ねしました」
その時のファリマスの答えがこれだ。
『王族や貴族達の言うことを信用して良いのか問いかけて二日。現状を理解させるのに……あの国の場合は四日か五日かねえ……そこでようやく、で、どうするんだい? と言えるだろうよ』
リーリルにも同じ返事が返ってくるだろうとのことだった。
「そこでファリマス様は、王侯貴族達を粛清したい者達の流す悪意ある広がり方だと仰っていました」
これに、神殿長が口を挟む。
「流民の方々も国を滅ぼしたりしますが、ガーネルの場合は民達にも問題がありますから、一方的に貴族達だけを締め出すような方法は取りません」
「喧嘩両成敗って? まあ、わかる」
フィルズが頷けば、神殿長も同意する。
「ですよね。私もそれで良いと思っています」
流民は公平に見る。しかし、身分による責任の重さはきちんと含み見る。
「何より、滅ぼす場合は、神から見放された国と断定されたものに限りますし」
そこは安心だと神殿長は微笑む。国が滅ぼされるのに安心とは中々の言い草だ。神殿長からすれば、神に見放された者達には致し方ない対応だとの認識のようだ。
「で、そいつらの仕業だと分かったってことだな」
「はい。顧客はほぼ王侯貴族ですが……」
「嫌ってるんだろ」
「っ、そうです。我々の中にも仕事は貴族にもらいますが……嫌悪している者は多く……なので、分かります。あの者達は、王侯貴族を寧ろ憎んでいます」
「なるほど」
同族だから分かると言うことだろう。
「それで、流民の方には、そちらの方が問題だと思われたようです」
「ん? ばあちゃん達じゃなく?」
ここで、ファリマスやリーリルではなく、わざわざ流民と言ったことが気になった。
「っ、そうでした。現在、多くの流民の方々がこの国を目指して来ているようです」
「おやおや。どうしたのでしょうかねえ」
神殿長は大して困った様子を見せずに、寧ろ面白そうに首を捻った。
そこでフィルズが思い出す。
「そういえば……じいちゃん達が、呼びかけたのかも……呼んで良いと言ったのは俺だけど。ん? 多くってマジで?」
「はい。明日にも数人が入国して来られます。お迎えに数人向かわせてもよろしいでしょうか。かなりご年配の方が多いようでして……」
「それは……こっちから頼む。じいちゃんやばあちゃんが呼んだんだろうしな」
「分かりました! 本日の報告は以上です! 失礼いたします!」
「おう。頼んだ」
「はっ!」
クロコはすぐに姿を消した。
「流民の方々が来られるのですか?」
神殿長の問いかけに、フィルズは少し眉を寄せる。
「演劇や芸術系を楽しめるようにしようと思ってさ。母さんに、引退を考えている流民を呼んで、顧問とか指導役にしたいな~と提案したんだよ」
リーリルやファリマスも身を乗り出すほど乗り気だとは聞いていた。
「長期計画で良いから連絡取ってみてくれとは言ったんだが……早過ぎだろ……」
「最近は特に、常に張り付かれていますからねえ」
「ん? え? まさか……」
「因みに、今日はリザフト様だそうです。その時にリーリル殿かファリマス殿に頼み事や相談をされるのを楽しみにされているようですよ」
「……神が伝言してんのか……それは早いわ……」
「大陸の端に居る方も既に移動を開始しているでしょうね」
「流民の大移動……良いのか……?」
「きっと初ですよ」
「マジか……」
良いのだろうかとフィルズは頭を抱えるように、額に手をやった。
**********
読んでくださりありがとうございます◎
「その……どうやら、レヴィリアさんの一件の真実が一般に知られたようです」
先ほどよりも神妙な様子のクロコ。身内や仲間扱いをしているレヴィリアのことなので、伝え方に気を遣ってくれているようだ。しかし、フィルズは気にせず頷く。
「ん? 真実? ああ……確かあの国、レヴィのこと、めちゃくちゃワガママな女で、国庫を食い潰す悪女だとか言い振らしたんだったか」
「はい。重い税を課すようになったのも……ここの住民達も、それを信じて兇行に及んだはずです」
国への不満をぶつけようとしたここの住民達は、王族、貴族がレヴィリアにより叩かれたと知り、矛先をレヴィリアへと向けることになった。住み慣れた土地も捨て、国さえも出たのは、レヴィリアの悪い噂を聞き、全ての不満や怒りを彼女にぶつけるためだ。
「王族や貴族達が追い出したことになっていましたが、そこも、不正や国の方針に怒り、嫌気が差したことで王族達を叩きのめして出て行ったというものが流れていました」
「確かに真実だな……で? それ、あの商隊の奴らが?」
「はい。最初は流民の方々かと思ったのですが、あの方々はこうした場合、考えさせたり、調べさせると聞きまして」
「ばあちゃんに聞いたのか?」
「はい。ガーネルの場合、どうしたかとお尋ねしました」
その時のファリマスの答えがこれだ。
『王族や貴族達の言うことを信用して良いのか問いかけて二日。現状を理解させるのに……あの国の場合は四日か五日かねえ……そこでようやく、で、どうするんだい? と言えるだろうよ』
リーリルにも同じ返事が返ってくるだろうとのことだった。
「そこでファリマス様は、王侯貴族達を粛清したい者達の流す悪意ある広がり方だと仰っていました」
これに、神殿長が口を挟む。
「流民の方々も国を滅ぼしたりしますが、ガーネルの場合は民達にも問題がありますから、一方的に貴族達だけを締め出すような方法は取りません」
「喧嘩両成敗って? まあ、わかる」
フィルズが頷けば、神殿長も同意する。
「ですよね。私もそれで良いと思っています」
流民は公平に見る。しかし、身分による責任の重さはきちんと含み見る。
「何より、滅ぼす場合は、神から見放された国と断定されたものに限りますし」
そこは安心だと神殿長は微笑む。国が滅ぼされるのに安心とは中々の言い草だ。神殿長からすれば、神に見放された者達には致し方ない対応だとの認識のようだ。
「で、そいつらの仕業だと分かったってことだな」
「はい。顧客はほぼ王侯貴族ですが……」
「嫌ってるんだろ」
「っ、そうです。我々の中にも仕事は貴族にもらいますが……嫌悪している者は多く……なので、分かります。あの者達は、王侯貴族を寧ろ憎んでいます」
「なるほど」
同族だから分かると言うことだろう。
「それで、流民の方には、そちらの方が問題だと思われたようです」
「ん? ばあちゃん達じゃなく?」
ここで、ファリマスやリーリルではなく、わざわざ流民と言ったことが気になった。
「っ、そうでした。現在、多くの流民の方々がこの国を目指して来ているようです」
「おやおや。どうしたのでしょうかねえ」
神殿長は大して困った様子を見せずに、寧ろ面白そうに首を捻った。
そこでフィルズが思い出す。
「そういえば……じいちゃん達が、呼びかけたのかも……呼んで良いと言ったのは俺だけど。ん? 多くってマジで?」
「はい。明日にも数人が入国して来られます。お迎えに数人向かわせてもよろしいでしょうか。かなりご年配の方が多いようでして……」
「それは……こっちから頼む。じいちゃんやばあちゃんが呼んだんだろうしな」
「分かりました! 本日の報告は以上です! 失礼いたします!」
「おう。頼んだ」
「はっ!」
クロコはすぐに姿を消した。
「流民の方々が来られるのですか?」
神殿長の問いかけに、フィルズは少し眉を寄せる。
「演劇や芸術系を楽しめるようにしようと思ってさ。母さんに、引退を考えている流民を呼んで、顧問とか指導役にしたいな~と提案したんだよ」
リーリルやファリマスも身を乗り出すほど乗り気だとは聞いていた。
「長期計画で良いから連絡取ってみてくれとは言ったんだが……早過ぎだろ……」
「最近は特に、常に張り付かれていますからねえ」
「ん? え? まさか……」
「因みに、今日はリザフト様だそうです。その時にリーリル殿かファリマス殿に頼み事や相談をされるのを楽しみにされているようですよ」
「……神が伝言してんのか……それは早いわ……」
「大陸の端に居る方も既に移動を開始しているでしょうね」
「流民の大移動……良いのか……?」
「きっと初ですよ」
「マジか……」
良いのだろうかとフィルズは頭を抱えるように、額に手をやった。
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