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ミッション8 王都進出と娯楽品

265 見せつける……?

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フィルズは夕食後、定例となったファスター王との映像通話を執務室で本日の報告書などに目を通しながら行っていた。

水晶のような媒体の上に、四角い画面のような板があり、それに向かう側に映像が映っている。カメラとなるものは、画面に内蔵されているので、画面を見れば目が合う。

これが、固定式通信具『フィグス』だ。固定することで、通信も安定するようにしてある。一度固定すると、そこに固定ということで重さも増す特別な魔法陣が組み込まれており、その他にも簡単に動かせない術式がたっぷり仕込まれていた。

再度移動させるには、解除する使い捨てのカード型の魔導具が必要で、セイスフィア商会でしか手に入らない。それを手に入れるのにも、付属の使用証明書がないといけないという、防犯対策にも力を入れた逸品だった。

『だからなあ、フィル。王都に来ないか?』

ファスター王は、是非とも貴族達をフィルズにやり込めて欲しいと思っているようだ。というか、自慢したいらしい。

「いや。そんな息子か孫を自慢したがるように、面倒そうな貴族に会わせるとか、ねえだろ」

ファスター王がこちらを見ているのを感じながらも、フィルズはそちらには目もくれず、書類の確認をしている。日頃からお互いが画面を見ずに書類に目を落としている場合も多いため、この日もファスター王は気にしなかった。

それならば、イヤフィスで良いだろうと思うだろうが、そこはせっかくならば顔が見たいというファスター王の拘りだ。

「隠密ウサギが地味な嫌がらせしまくることになるぞ?」
『ははっ。させるんだろう』
「そうとも言うな」

チラリと画面を横目で見て、片方の口角を上げながらフィルズは答えた。

それから、ほんの少し考える様子を見せた後、フィルズは宙に視線を投げて口を開く。

「まあ、けど。王都に行く予定はあるんだ。兄さんと、カリュとリサが再来月、学園に行くだろ」
『っ、二人も復学すると決めたのか!?』
「まだ決まってはいない。兄さんが行くならって、迷ってるみたいだな。ただ、王宮には戻らず、行くなら寮に入るだろうが」
『……そうか……いや、そうだな。その方が良いだろう……』
「心配するな。護衛ウサギもいる」
『ああ……』

ファスター王が心配しているのは、第一王妃の手のものによる介入だ。カリュエルとリサーナの母である第二王妃は、ファスター王が最も愛する相手だった。その第二王妃を毒殺したのは第一王妃の指示だと分かった今、警戒するのは当然だろう。

それも第一王妃は、自身の息子である第一王子のために、カリュエルやリサーナを事あるごとにそうと分からないように抑圧し、第一王子こそが上だと印象付けるように洗脳していたようなのだ。

「学園に行かなくて良いって言われて、行かなくなったんだってなあ」
『聞いたのか?』
「いや。調べた。今度会った時に、その辺の調査書類を渡すよ」
『……すまん……』
「別に。それに、良かったんじゃないか? 二人とも、まともになったしな」
『まともって……』
「話しやすくなったろ」
『……確かに……』

ファスター王はそういえばと頷く。

「価値観が違ったり、考え方がズレた状態で固定された相手とは話が通じねえって、前のドラスリールで嫌ってほど学んだだろ」
『そうだったな……それと同じか』
「狭い世界しか知らないのは気の毒だ。固定観念ってのも怖いよな。それも独自のやつは特に」
『っ……そうなっていると気付いてやるのが遅くなってしまって、かわいそうな事をした……』

第一王妃は、ファスター王にもカリュエルやリサーナにとって良い母親だというのを装って見せていた。まさか、第一王子よりも優秀にならないよう、調整しているなんて知らなかったのだ。

「二人とも気にしてねえだろ。寧ろ、ここに連れてきたって功績でチャラだって。まあ、悪いと思ってるなら、謝っといたら良いんじゃないか? 親の背中なんかより、謝るのを見せる方が大事だぜ?」
『……相変わらず子どもらしくない言い方をする』
「はっ。親まで客観的に見てる冷たい奴って?」
『そこまでは言わないが……いや、そういう見方も必要なのかもしれんな……』

ファスター王は、少し寂しそうに目を伏せる。その表情は複雑な色が混じっていた。

「『人の振り見て我が振り直せ』って賢者の残した言葉があるだろ。あれがさ、身内でもなんでも、基本なんだろうな。良いことも悪いこともさ」
『……そうか……ああ……今一度胸に刻もう』

王侯貴族ほど複雑な家庭環境はないだろう。だからこそ、良いことも悪いことも、相手の振りを見て学ぶべきなのだ。

「分かってても、すぐ忘れるけどな~」
『ははっ。いや……周りをもっと見なくてはな……』

ファスター王は、こうして真面目に、真剣にフィルズの言葉を受け止める。気付かされる事が多いのだから、そうなるのは仕方がない。だが、フィルズとしては少し気に入らない。

「重い重い。というか、ファシーはさあ、見られる方だろ。常に手本であれなんて言うつもりはないけど、もっと見せつけてやったらどうだ?」
『見せつける……? 偉そうにすればいいのか?』
「とんだ裸の王様を見ることになりそうだから、それは程々で良い」

ファスター王はやり過ぎそうで不安だ。フィルズの言葉を素直に受け止め過ぎるのだ。それだけ信頼されていると思えば嬉しいが、これも程々が良い。

「じゃなくて、父親とか、夫はこうあると良いんじゃないかって姿を見せるんだよ。王って姿じゃなくてさ」
『……王としての父親や夫ではなくということか』
「そういうこと」

身分によって難しいことはある。だが、貴族同士で集まる場所だってあるのだ。そこでそうした様子を見せることは可能だろう。

「母さんに言われてただろ? ちゃんと笑って見せればいいんだよ。そうしたら返したくなるだろ。含みのない笑みを見せるって、信頼してる証拠だし」
『っ、そうだったな。考えてみれば……セレーナにしか本当の笑みは見せていなかったかもしれん……』
「第二王妃か……」
『ああ……その違いが、気に入らなかったのかもしれないな……』

第一王妃は気付いたのだろう。本当に心を許した者にしか向けられない笑みが、第二王妃にだけ向けられているということに。

心からの笑みは誰にでも一目瞭然なのだから。







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読んでくださりありがとうございます◎
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