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ミッション8 王都進出と娯楽品
267 確信犯だ……
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フィルズは頬杖も外し、腕を組んで椅子の背もたれに身を預ける。
「これもさあ、もういっそ、授業で正式にやってみたら良いんじゃね? 男も叩かれる痛みは知っといた方が良いって。ほら、多少まともになるかもだし」
またとんでもない事を言い出したとファスター王は目を見開いて画面に更に近づく。フィルズの狙い通り、気分は変わったらしい。
『良くない!』
「いや、だってさあ。貴族って、やられる痛みを想像できない奴って多いよ? 一回引っ叩くと、ちょっと大人しくなるのは実証済みだし」
『っ、どこでっ、誰に試した!?』
「ん? 店に突っ込んで来た奴ら。商店街のど真ん中で、『この技術は貴族である私に献上すべきものだ!』って胸反らして言ってくんのいるんだよな~」
フィルズは、座ったまましっかりとその貴族の声音と態度を真似て見せる。
『それで手を出したのか……?』
「いや。さすがにこれだけで手は出さんって。相手に手を出させねえと、正当防衛って成立しないじゃん」
『……私が言うのもなんだが、貴族には通用せんぞ……?』
貴族は、不敬罪と言って極端に言えば気に入らない民を独断で処罰することも可能なのだ。もちろん、それをやたらと乱用する者は、貴族としての品位がないと認識される上、教会から国へ訴えられる。
そうなると、貴族の方も賠償や爵位を落とされたりする。酷ければ没落だ。教会に訴えられるということは、それだけ不名誉な事であり、神に逆らう事なのだから。
しかし、それでも不敬罪が無くはないのだ。それなのに、フィルズはそんな事させないと自信満々だった。
「あん? そんなことねえよ。護衛に剣抜かせといて、張り手で伸されたとか、情けなくて訴えられねえだろ? 周りにいっぱい人居るし」
『……確信犯だ……』
「因みにこれ、ばあちゃんも母さんもやる」
『っ、間違いなく経験からきたやり方だっ!』
「けど、じいちゃんの場合は、周りに居る人が集まって来て、いちゃもん付けて来た貴族も護衛もまとめて集団でボコるらしい。そんで、教会に直接連行してもらうんだってさっ。マジでじいちゃん最強っ」
リーリルは、その可憐で儚げな見た目をフルに使い、周りを味方に付けてしまうのだ。洗脳より恐ろしい手管を持っている。多分、武神と呼ばれる祖母ファリマスよりも、リーリルの方が敵に回すと恐ろしい。
あははと笑うフィルズ。これにファスター王は思わず顔を両手で覆う。
『っ、貴族の撃退法なんて普通考えないからっ』
「大丈夫だ。お陰様で何度かあって練習できたから、リュブラン達にも伝授しといた。実践経験もバッチリだ」
フィルズが親指を立てて自信満々に告げた。顔を上げたファスター王は叫ぶ。
『っ、そんな経験、どこで役立つんだ!?』
「襲われた時にも使えるって。魔力で身体強化した上での、正しいフォームの張り手って、人ぶっ飛ぶんだぜっ。あれ気持ちいいんだよっ」
『……それ、リュブランも……』
「カリュやリサも出来るぞ? あっ。リサには、女にやる時は気をつけろって言ってあるから心配するなっ」
『それ、リサーナは男でも吹っ飛ばせるってことか……?』
「え? 当然じゃん。撃退法なんだから。因みに、盗賊でも試した」
『……』
「ただ、カリュやリュブランもだけど、リサもさすがは王族の血を引く女だよな。『嫌だ! 不潔!!』って、拒否反応も加わったから、危うく殺すとこだった」
『……どんな威力だ……』
クラルスが出来るのは、ファリマスに教わったからだ。武神とまで呼ばれる人の直伝。それを継承してしまったとなれば、威力は想像を超えるかもしれない。ファスター王はまた違う意味で頭を抱えた。
「うちの従業員は、それで全員修得済み。護身術の講座でも取り入れていってるから、着々と女に伸される男が出て、冒険者達も訓練に熱が入ってるよ」
『……冒険者の心も折るほど……』
女に負けたとあって、プライドが傷付くどころか折れたらしい。泣きながら訓練場に通う男達が日に日に増えている。
とはいえ、その被害にあった男達は、女癖や酒癖が悪いと評判で、町がまたちょっと平和になったと笑い話にされている。
「ここまで反響があるならって、講座だけじゃなく、このまま広げようとも思ったんだけど、やっぱ、やり過ぎんのも問題なんだよな~」
『……』
もう聞くのが怖いと、ファスター王は耳を塞ぎそうになっている。しかし、フィルズは気付かない。
「どこだったかの国で、じいちゃんとばあちゃんがそのやり方を貴族相手用で伝授しまくった事があったらしいんだ。それで、貴族の降格と抹消が相次いで、不敬罪っての自体なくなった国があったんだってさ」
『確信犯だ……』
「影響力すげえよなっ」
『……』
実は国を根本から変えてしまえる力を持つ流民達の噂は、昔からちょこちょこと耳にする。その筆頭が間違いなくフィルズの祖父母だ。
「あ~、話が逸れた。だから、女がやる張り手もさあ、身体強化を使えるように訓練するのにやればいいんだよ。何より、魔力はそれなりに使った方が健康に良い」
『それは……そう聞いているが……』
貴族は魔力を多く持っている。しかし、その魔力を、日頃から使わないため、年を取ってくると、魔力の通り道が詰まったりして体調に不調を来すようになるということが分かっている。
だから、少しでも使える場を用意してやったらどうだとフィルズは提案しているのだ。
「そんで、女も男もそれぞれの視線って気になるものだし、その異性の視線で問題行動も自然と減るだろ。いいカッコするために勉学にも力が入る。そうなると、社交を学ぶって意味でも男女一緒に授業するのが良いんじゃねえかって話」
『……学園長達と相談してみよう……』
「おう」
そして、フィルズもその血をしっかりと受け継いでいるのだとファスター王は納得した。
**********
読んでくださりありがとうございます◎
「これもさあ、もういっそ、授業で正式にやってみたら良いんじゃね? 男も叩かれる痛みは知っといた方が良いって。ほら、多少まともになるかもだし」
またとんでもない事を言い出したとファスター王は目を見開いて画面に更に近づく。フィルズの狙い通り、気分は変わったらしい。
『良くない!』
「いや、だってさあ。貴族って、やられる痛みを想像できない奴って多いよ? 一回引っ叩くと、ちょっと大人しくなるのは実証済みだし」
『っ、どこでっ、誰に試した!?』
「ん? 店に突っ込んで来た奴ら。商店街のど真ん中で、『この技術は貴族である私に献上すべきものだ!』って胸反らして言ってくんのいるんだよな~」
フィルズは、座ったまましっかりとその貴族の声音と態度を真似て見せる。
『それで手を出したのか……?』
「いや。さすがにこれだけで手は出さんって。相手に手を出させねえと、正当防衛って成立しないじゃん」
『……私が言うのもなんだが、貴族には通用せんぞ……?』
貴族は、不敬罪と言って極端に言えば気に入らない民を独断で処罰することも可能なのだ。もちろん、それをやたらと乱用する者は、貴族としての品位がないと認識される上、教会から国へ訴えられる。
そうなると、貴族の方も賠償や爵位を落とされたりする。酷ければ没落だ。教会に訴えられるということは、それだけ不名誉な事であり、神に逆らう事なのだから。
しかし、それでも不敬罪が無くはないのだ。それなのに、フィルズはそんな事させないと自信満々だった。
「あん? そんなことねえよ。護衛に剣抜かせといて、張り手で伸されたとか、情けなくて訴えられねえだろ? 周りにいっぱい人居るし」
『……確信犯だ……』
「因みにこれ、ばあちゃんも母さんもやる」
『っ、間違いなく経験からきたやり方だっ!』
「けど、じいちゃんの場合は、周りに居る人が集まって来て、いちゃもん付けて来た貴族も護衛もまとめて集団でボコるらしい。そんで、教会に直接連行してもらうんだってさっ。マジでじいちゃん最強っ」
リーリルは、その可憐で儚げな見た目をフルに使い、周りを味方に付けてしまうのだ。洗脳より恐ろしい手管を持っている。多分、武神と呼ばれる祖母ファリマスよりも、リーリルの方が敵に回すと恐ろしい。
あははと笑うフィルズ。これにファスター王は思わず顔を両手で覆う。
『っ、貴族の撃退法なんて普通考えないからっ』
「大丈夫だ。お陰様で何度かあって練習できたから、リュブラン達にも伝授しといた。実践経験もバッチリだ」
フィルズが親指を立てて自信満々に告げた。顔を上げたファスター王は叫ぶ。
『っ、そんな経験、どこで役立つんだ!?』
「襲われた時にも使えるって。魔力で身体強化した上での、正しいフォームの張り手って、人ぶっ飛ぶんだぜっ。あれ気持ちいいんだよっ」
『……それ、リュブランも……』
「カリュやリサも出来るぞ? あっ。リサには、女にやる時は気をつけろって言ってあるから心配するなっ」
『それ、リサーナは男でも吹っ飛ばせるってことか……?』
「え? 当然じゃん。撃退法なんだから。因みに、盗賊でも試した」
『……』
「ただ、カリュやリュブランもだけど、リサもさすがは王族の血を引く女だよな。『嫌だ! 不潔!!』って、拒否反応も加わったから、危うく殺すとこだった」
『……どんな威力だ……』
クラルスが出来るのは、ファリマスに教わったからだ。武神とまで呼ばれる人の直伝。それを継承してしまったとなれば、威力は想像を超えるかもしれない。ファスター王はまた違う意味で頭を抱えた。
「うちの従業員は、それで全員修得済み。護身術の講座でも取り入れていってるから、着々と女に伸される男が出て、冒険者達も訓練に熱が入ってるよ」
『……冒険者の心も折るほど……』
女に負けたとあって、プライドが傷付くどころか折れたらしい。泣きながら訓練場に通う男達が日に日に増えている。
とはいえ、その被害にあった男達は、女癖や酒癖が悪いと評判で、町がまたちょっと平和になったと笑い話にされている。
「ここまで反響があるならって、講座だけじゃなく、このまま広げようとも思ったんだけど、やっぱ、やり過ぎんのも問題なんだよな~」
『……』
もう聞くのが怖いと、ファスター王は耳を塞ぎそうになっている。しかし、フィルズは気付かない。
「どこだったかの国で、じいちゃんとばあちゃんがそのやり方を貴族相手用で伝授しまくった事があったらしいんだ。それで、貴族の降格と抹消が相次いで、不敬罪っての自体なくなった国があったんだってさ」
『確信犯だ……』
「影響力すげえよなっ」
『……』
実は国を根本から変えてしまえる力を持つ流民達の噂は、昔からちょこちょこと耳にする。その筆頭が間違いなくフィルズの祖父母だ。
「あ~、話が逸れた。だから、女がやる張り手もさあ、身体強化を使えるように訓練するのにやればいいんだよ。何より、魔力はそれなりに使った方が健康に良い」
『それは……そう聞いているが……』
貴族は魔力を多く持っている。しかし、その魔力を、日頃から使わないため、年を取ってくると、魔力の通り道が詰まったりして体調に不調を来すようになるということが分かっている。
だから、少しでも使える場を用意してやったらどうだとフィルズは提案しているのだ。
「そんで、女も男もそれぞれの視線って気になるものだし、その異性の視線で問題行動も自然と減るだろ。いいカッコするために勉学にも力が入る。そうなると、社交を学ぶって意味でも男女一緒に授業するのが良いんじゃねえかって話」
『……学園長達と相談してみよう……』
「おう」
そして、フィルズもその血をしっかりと受け継いでいるのだとファスター王は納得した。
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