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616 出現する先では
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2017. 9. 11
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クロノスとゲイルは、サルバを後にすると、真っ直ぐに空高く黒い柱がある方へと向かっていた。
「クロ、このまま走ってくのはさすがに無理だぞ。どこかで馬とか捕まえる」
「はい」
サルバではこれからの戦いに向けて馬や飛竜が必要になる。だから、たった二頭だとしても借りるべきではないと思った。何より、サルバまで戻って手に入れる時間が惜しかった。
ならば、この先の村や町で手に入れればいい。先ほどから禍々しい気配が前方から近付いてきている。これに追い立てられ、逃げてくる馬もいるだろう。それを狙っていた。
しかし、さすがにそれどころではないかもしれないと気付く。
「お、おい、クロ。このままカチ合うのは良くねぇ。迂回するぞ」
「はい……少しでも減らせればと思いましたが、そんなレベルではありませんね……」
足音や鳴き声が聞こえないのが、こんなに不安を煽るとは思っていなかった。作り物なのは分かる。だが、物理攻撃や魔獣特有の魔力攻撃も本物と同じだ。とてつもなく気持ちが悪い。
その時、火王が前方に出現した。その傍には駿闘馬が二頭。
《二頭連れてきた。乗れ》
「ありがとうございます!」
「マジかっ」
クロノスとゲイルは喜んで飛び乗る。速度は格段に上がった。
《先導する》
「お願いします」
火王が迂回路を確保してくれる。
しかし、ウィストでも現れた黒い魔獣が、村や町を襲っているのを横目にしていくのはかなり辛いものだった。
「っ……」
いつもならば寝静まっているはずの時間。だが今は多くの悲鳴や怒号が聞こえる。クロノスは無力さを噛み締めた。
「落ち着け。マスターやフィスタークなら、避難指示をもう出してる。ギルドの職員も、領兵達も優秀だ。なんとかなる。それより、俺らは早いとこあの黒い柱をどうにかして、魔獣の出現を止める。少しでも被害を少なくするなら、これが最善だ」
「っ……はい……」
一刻も早くこの事態を止めなくてはならない。皆を信じてクロノスとゲイルは駆ける。
サガンの方へ向かい、ヒュースリー伯爵領を抜けると、サガンとの国境を守る男爵領になる。騎士から成り上がった男が領主をしており、領兵の練度もヒュースリー伯爵領の者達に追従するものだ。
小さな魔獣は全てこの領内で駆逐されているらしく、ここまで来る間に見た魔獣達は、それでもかなり数を減らしていたのだ。
「やるじゃねぇかあいつら」
ゲイルが感心するだけのことはあり、確実に仕留めているのが見えた。
民達の避難はできており、姿を見るのは領兵だけだ。
「これなら任せていい。俺らは急ぐぞ」
「はいっ」
駿闘馬の速さは尋常ではない。飛ぶようにとはこの事かと思えるものだ。はっきり言って、この速さを知ると、マティの最速はどれ程のものになるのだろうと青ざめる思いだ。
火王が的確に道を選んで先導してくれているため、駿闘馬も本気で走ることができる。
全速の一時間。乗り手としてはかなりの負担だったのだが、ゲイルもクロノスもそんなヤワな鍛え方をしていない。本来なら潰れてしまう速度と距離でも、駿闘馬には余裕だった。
国境を抜けると、先ず広大な不夜の森がある。国境の門は、主にこの森から出て来る魔獣をフリーデル王国へ入れないようにするものだ。
その名が示すのは抜けるのにどうやっても一夜は森の中で過ごさなくてはならない距離と、一睡も許さない危険度を伴うということからきている。この森はAランク。だが、だからと言ってAランクの凶暴な魔獣がいるかといえばそうではない。
Aランク指定される理由は、Bランク以下の魔獣がとにかく多いのだ。魔獣の遭遇率の高さが危険度を上げている。
そんな森を、クロノスとゲイルは構わず突っ切った。それはもう、目の前に立ちはだかる魔獣は全部駿闘馬が轢き殺す勢いでだ。実際、何匹かの魔獣は吹っ飛んでいたので、冗談ではない。
火王の先導によって一直線に迷わず、障害物も全て蹴散らして進んだ結果、数分で森を抜けてしまう。風が吹き抜けるような勢いだ。
そうしてたどり着いたサガンは酷い状況だった。
最初に見えた村は跡形もなく、黒い魔獣によって踏み荒らされ、それなりに大きな町も同様だった。
そろそろ日が昇るという時分だが、町は大混乱しているようだ。怪我人を運ぶ者。呆然と今も目の前を通過する黒い魔獣達を見送る者。
本来ならば怪我人を収容し、手当てするはずの教会がそれの出現場所とあってはどうすることもできない。
ただ、段々と魔獣の数は減っているようにも見える。これならば終息もあり得るかと立ち上る黒い柱を見上げた。その時だった。ゲイルが固い声で叫ぶ。
「おい、クロっ、アレはまずいぜっ」
「あれ……はっ……!」
大きな何かが教会を破壊して現れた。何かはまだわからない。けれど、その大きさだけで、この町は辛うじて残されていた者まで全て踏み潰してしまうかもしれない。
膨らみ続ける黒い何か。それは、教会を呑み込み、周りの家々を呑み込み、出現した。
「っ……ドラゴン……」
幾本ものドラゴンの首を持つ魔獣。クロノスは絶望的な目で山のようなそれを見上げた。
その隣でゲイルが呟くようにそれの本当の正体を口にした。
「ヒュドラだ……伝説の……魔獣だ……」
それはゆっくりと前進していく。黒い魔獣達が通っていった方へ。サルバのある方へと。
**********
舞台裏のお話。
騎士A 「な、なんか凄いスピードの馬が……」
騎士B 「み、見なかったことにしろ」
騎士C 「……ゲイルさんだった……」
騎士A 「え……」
騎士B 「……見えたのか……?」
騎士C 「見えたっ。それも、その後にいたのはクロノスさんだっ」
騎士A 「そうか。あのお二人なら」
騎士D 「なぁ、その二人って何者なんだ?」
騎士B 「ああ、お前は知らないのか。この隣のヒュースリー伯爵領の兵は、全員、サルバで定期的に訓練を受けるんだが、相手が凄くてな」
騎士C 「凄いって聞いてたから、参加させてくれって頼んだんだ。休みを取って行ってきた。本当に凄かった。だから、こうやってっ、魔獣相手でも戦える」
騎士D 「それは、強くなれるってことか?」
騎士C 「そうでなくちゃ、騎士学校卒業してばっかの僕がっ、こんなに戦えない」
騎士D 「なるほど……今度俺も連れて行ってくれ」
騎士B 「あ、待て。俺もだぞ」
騎士A 「私もだ!」
騎士C 「なら、ここを何とかしないとなっ」
騎士達 「「「おう!」」」
つづく?
なんて事が起こってましたとさ☆
読んでくださりありがとうございます◎
やる気に繋がりました。
出現を見ていました。
次回、金曜15日0時です。
またお休みをいただくかもしれませんが
よろしくお願いします◎
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クロノスとゲイルは、サルバを後にすると、真っ直ぐに空高く黒い柱がある方へと向かっていた。
「クロ、このまま走ってくのはさすがに無理だぞ。どこかで馬とか捕まえる」
「はい」
サルバではこれからの戦いに向けて馬や飛竜が必要になる。だから、たった二頭だとしても借りるべきではないと思った。何より、サルバまで戻って手に入れる時間が惜しかった。
ならば、この先の村や町で手に入れればいい。先ほどから禍々しい気配が前方から近付いてきている。これに追い立てられ、逃げてくる馬もいるだろう。それを狙っていた。
しかし、さすがにそれどころではないかもしれないと気付く。
「お、おい、クロ。このままカチ合うのは良くねぇ。迂回するぞ」
「はい……少しでも減らせればと思いましたが、そんなレベルではありませんね……」
足音や鳴き声が聞こえないのが、こんなに不安を煽るとは思っていなかった。作り物なのは分かる。だが、物理攻撃や魔獣特有の魔力攻撃も本物と同じだ。とてつもなく気持ちが悪い。
その時、火王が前方に出現した。その傍には駿闘馬が二頭。
《二頭連れてきた。乗れ》
「ありがとうございます!」
「マジかっ」
クロノスとゲイルは喜んで飛び乗る。速度は格段に上がった。
《先導する》
「お願いします」
火王が迂回路を確保してくれる。
しかし、ウィストでも現れた黒い魔獣が、村や町を襲っているのを横目にしていくのはかなり辛いものだった。
「っ……」
いつもならば寝静まっているはずの時間。だが今は多くの悲鳴や怒号が聞こえる。クロノスは無力さを噛み締めた。
「落ち着け。マスターやフィスタークなら、避難指示をもう出してる。ギルドの職員も、領兵達も優秀だ。なんとかなる。それより、俺らは早いとこあの黒い柱をどうにかして、魔獣の出現を止める。少しでも被害を少なくするなら、これが最善だ」
「っ……はい……」
一刻も早くこの事態を止めなくてはならない。皆を信じてクロノスとゲイルは駆ける。
サガンの方へ向かい、ヒュースリー伯爵領を抜けると、サガンとの国境を守る男爵領になる。騎士から成り上がった男が領主をしており、領兵の練度もヒュースリー伯爵領の者達に追従するものだ。
小さな魔獣は全てこの領内で駆逐されているらしく、ここまで来る間に見た魔獣達は、それでもかなり数を減らしていたのだ。
「やるじゃねぇかあいつら」
ゲイルが感心するだけのことはあり、確実に仕留めているのが見えた。
民達の避難はできており、姿を見るのは領兵だけだ。
「これなら任せていい。俺らは急ぐぞ」
「はいっ」
駿闘馬の速さは尋常ではない。飛ぶようにとはこの事かと思えるものだ。はっきり言って、この速さを知ると、マティの最速はどれ程のものになるのだろうと青ざめる思いだ。
火王が的確に道を選んで先導してくれているため、駿闘馬も本気で走ることができる。
全速の一時間。乗り手としてはかなりの負担だったのだが、ゲイルもクロノスもそんなヤワな鍛え方をしていない。本来なら潰れてしまう速度と距離でも、駿闘馬には余裕だった。
国境を抜けると、先ず広大な不夜の森がある。国境の門は、主にこの森から出て来る魔獣をフリーデル王国へ入れないようにするものだ。
その名が示すのは抜けるのにどうやっても一夜は森の中で過ごさなくてはならない距離と、一睡も許さない危険度を伴うということからきている。この森はAランク。だが、だからと言ってAランクの凶暴な魔獣がいるかといえばそうではない。
Aランク指定される理由は、Bランク以下の魔獣がとにかく多いのだ。魔獣の遭遇率の高さが危険度を上げている。
そんな森を、クロノスとゲイルは構わず突っ切った。それはもう、目の前に立ちはだかる魔獣は全部駿闘馬が轢き殺す勢いでだ。実際、何匹かの魔獣は吹っ飛んでいたので、冗談ではない。
火王の先導によって一直線に迷わず、障害物も全て蹴散らして進んだ結果、数分で森を抜けてしまう。風が吹き抜けるような勢いだ。
そうしてたどり着いたサガンは酷い状況だった。
最初に見えた村は跡形もなく、黒い魔獣によって踏み荒らされ、それなりに大きな町も同様だった。
そろそろ日が昇るという時分だが、町は大混乱しているようだ。怪我人を運ぶ者。呆然と今も目の前を通過する黒い魔獣達を見送る者。
本来ならば怪我人を収容し、手当てするはずの教会がそれの出現場所とあってはどうすることもできない。
ただ、段々と魔獣の数は減っているようにも見える。これならば終息もあり得るかと立ち上る黒い柱を見上げた。その時だった。ゲイルが固い声で叫ぶ。
「おい、クロっ、アレはまずいぜっ」
「あれ……はっ……!」
大きな何かが教会を破壊して現れた。何かはまだわからない。けれど、その大きさだけで、この町は辛うじて残されていた者まで全て踏み潰してしまうかもしれない。
膨らみ続ける黒い何か。それは、教会を呑み込み、周りの家々を呑み込み、出現した。
「っ……ドラゴン……」
幾本ものドラゴンの首を持つ魔獣。クロノスは絶望的な目で山のようなそれを見上げた。
その隣でゲイルが呟くようにそれの本当の正体を口にした。
「ヒュドラだ……伝説の……魔獣だ……」
それはゆっくりと前進していく。黒い魔獣達が通っていった方へ。サルバのある方へと。
**********
舞台裏のお話。
騎士A 「な、なんか凄いスピードの馬が……」
騎士B 「み、見なかったことにしろ」
騎士C 「……ゲイルさんだった……」
騎士A 「え……」
騎士B 「……見えたのか……?」
騎士C 「見えたっ。それも、その後にいたのはクロノスさんだっ」
騎士A 「そうか。あのお二人なら」
騎士D 「なぁ、その二人って何者なんだ?」
騎士B 「ああ、お前は知らないのか。この隣のヒュースリー伯爵領の兵は、全員、サルバで定期的に訓練を受けるんだが、相手が凄くてな」
騎士C 「凄いって聞いてたから、参加させてくれって頼んだんだ。休みを取って行ってきた。本当に凄かった。だから、こうやってっ、魔獣相手でも戦える」
騎士D 「それは、強くなれるってことか?」
騎士C 「そうでなくちゃ、騎士学校卒業してばっかの僕がっ、こんなに戦えない」
騎士D 「なるほど……今度俺も連れて行ってくれ」
騎士B 「あ、待て。俺もだぞ」
騎士A 「私もだ!」
騎士C 「なら、ここを何とかしないとなっ」
騎士達 「「「おう!」」」
つづく?
なんて事が起こってましたとさ☆
読んでくださりありがとうございます◎
やる気に繋がりました。
出現を見ていました。
次回、金曜15日0時です。
またお休みをいただくかもしれませんが
よろしくお願いします◎
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