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不眠乙女は抱き枕系男子と眠りたい
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草木も眠る夜も深い時間、ネル・ラドフォードは、一角だけ灯りが点いている食堂でカモミールティを飲んでいた。
もともとショートスリーパーではあったが、管理職になってからというもの、ストレスからか眠る時間は更に短くなり、最近は五徹くらいしないと眠れなくなってしまった。
管理職として人の上に立つのがそもそも性に合わないのだ。自分で仮説を立てて検証する、調査し、論文を書いて発表するということが仕事のやりがいだった。
成果を上げ過ぎたのが良くなかったのだろう。多くの先輩方を飛び越えて管理職になってしまった。あからさまに反対する人はいなかったのだが、ネルには、まだ人の上に立つ覚悟はなかった。
ネルは「眠れないと思うから辛いのだ。天より二十四時間の活動時間が与えられていると考えれば、これは私に与えられたギフトである」と思うようにしていた。
二十四時間働けますかと問われれば、迷わず「イエス」と言える自信がネルにはある。
せっかく希望の仕事につけたのに、断念するのはまだ早過ぎるともがいている。やるだけやって、ダメなら諦めもつくだろう。そう思いながら、年末年始の休みもなく、寝もせず今晩も働いていた。
かたりと音がして食堂に人が入ってきた。
「ラドフォード先輩、こんばんは。今帰ってきました」
入ってきたのは、艶やかなブルーグレイの長髪を一つに結び、切れ長の青紫色の瞳が凛とした印象を与えるマリウス・ガーディナーだった。彼は魔法学園時代同じ魔獣科に所属していた二つ年下の後輩だ。
ここは、国立魔獣保護管理機関である。魔獣に関する様々な事案を扱っている。
ネルは、魔獣の生態調査、分類・管理をする部署に、マリウスは魔獣の保護・育成を担当する部署に所属している。
「グリフィン、捕獲できた?」
「大丈夫でしたよ。アリマスポイと金塊を争って、暴れていたみたいです。一旦こちらで預かって、自然に戻せるようになるまで飼育するように手配しました」
「アリマスポイはどうなったの」
「残念ながらに逃がしてしまいました。一つ目の巨人のクセに何であんなに逃げ足が速いんでしょうか」
グリフィンとアリマスポイは昔から犬猿の仲だ。お互いに金塊を好み、それを奪い合うために戦う。今回のグリフィンの騒動も例にもれずアリマスポイ繋がりだったらしい。
「金塊はどうなったの?」
「グリフィンがどこかに巧妙に隠してしまったようです」
「そう。まだ完全に事案が完了したわけではなさそうだね…。でもまあ取り敢えず、グリフィン捕獲は完了して良かった。何か飲む?」
「大丈夫です。それにしても先輩何て恰好しているんですか。真夏じゃないんですから」
ネルの服装は、いつもの白衣、その下にマリンブルーのタンクトップとデニムの短パンを着ていた。足元はビーチサンダルを履いていた。白衣からチラリと見えるスラリとした太ももが艶かしい。
ミルクティ色の髪を高めの位置で一つに結んでおり、白衣を脱いでアンバーの瞳にサングラスをかければ、完全に夏のビーチリゾートスタイルだった。
「室内は暖かいから、いいじゃない」
「そういう事じゃなくて、夜中にそんな薄着で誰に会うかも分からない食堂に来るなんて、危機感なさすぎです」
「年末年始で職員は全て家や田舎に帰っちゃってるから、ここにいるのは私とマリウスくらいだよ」
はっと何かに気が付いたように、マリウスが食堂のカレンダーを見る。日めくりカレンダーは、十二月三十一日になっている。もう十二時は回ったから、既に年が明けて一月一日である。
「グリフィンに構いすぎて、すっかり忘れてました。室長がこんな夜中なのにそそくさと家に帰っていった理由が、たった今分かりました」
魔獣に人間の暦は関係ないので仕方ないと思うけれど、ネルは真面目なマリウスが項垂れているのを見て、可愛くてちょっと笑ってしまった。
「遅れたけど、明けましておめでとう」
「明けましておめでとうございます。せっかくですから初日の出を一緒に見ましょう。ここの食堂の窓から見えると思いますよ」
保護機関の食堂は、九階建ての建物の最上階にある。魔獣を扱っている危険性もあり、まわりに人家も視界を遮る大きな建物も無いので、とても見晴らしがいい。
二人は窓際のソファーに移動し、朝日を待つことにした。
◇◇◇
「んっ、そこ、いい。もっと強く…ああっ、当ってる」
「ここですか、硬くなってますよ。こんなになるまで、どうしてたんですか。僕がいない間、一人でしなかったのですか」
「マリウスがいなくてっ、辛かったぁ」
ネルは、慣れた様子でソファーにうつ伏せになり、マリウスのマッサージを受けていた。マリウスは、ネルのガチガチに張った肩甲骨周りをゆっくりほぐしていた。
「この様子だと、首の付け根も腰もガチガチに凝っているはずですよ。ほんの一週間いなかっただけなのに、心配です」
「自分でもストレッチをしたりしていたのだけど、やっぱりマリウスにマッサージしてもらうのが一番効くんだよね」
マリウスは、昔から魔獣に懐かれる体質を持っていた。荒れ狂う魔獣たちも、彼が少し撫でてあげるとたちまちご機嫌になり、眠ってしまう。
ここ数ヶ月、あまりに眠れない日々が続き、困ったネルはマリウスのその体質を思い出して肩を揉んでもらった。
彼の温かく大きな手で肩を揉まれると、すぐに身体が暖かくなり、不覚にもそのまま眠りに落ちてしまった。
その翌日、久々によく眠れたと目を開けると、マリウスの太ももを枕に寝ていた。ネルは朝日に照らされるマリウスの眠る顔を見て、彼に撫でられた魔獣たちもこいう気持ちなのかもしれないと思った。
そして「誰が魔獣じゃい」とノリツッコミを忘れなかったのは別の話だ。
あと十分もすれば朝日が登る。東の空が白く色づいている。ネルはマリウスのマッサージにいつも通り気持ちよくなり、うとうとしていた。
「ラドフォード先輩、太陽が上がってきますよ」
「んぅ」
マリウスは半分寝ぼけているネルを起き上がらせると、「ほら起きて下さい」と後ろから両脇に手を入れて、ソファーに座らせる。朝日がネルの半分閉じた目に刺さる。
「今年もよろしくお願い致します」
寝ぼけているネルの額にマリウスはキスをした。ネルは、もっとキスしてほしいかもと夢現に思う。
「マリウス、今年もよろしくね」
ネルは眠くて目が開けられなかったが、かろうじてそう言うとマリウスの太ももに頭を乗せて、眠りの底に落ちてしまった。
自室のベッドの上で目が覚めた時、横にマリウスの整った顔があった。ネルは一瞬びっくりしたが、マッサージしてもらった後、いつものように寝落ちしてしまったんだろうと思った。
ネルは、手元を見ると彼のシャツをぎゅっと握りしめていることに気が付いた。せっかく眠れたネルを起こさないように一緒に眠ってくれたのだと思うと、その優しさに胸が高鳴る。
鋭い印象を与える、青紫の瞳は閉じている。すうすうという寝息が可愛い。グリフィンの捕獲のため、ここ数日はあまり眠れていなかったのかもしれない。うっすらと目の下にクマができている。
職場の先輩と後輩だけれども、一緒に同じベッドに眠る関係。この関係の名は一体何と言うのだろうか。
「睡眠効果抜群の抱き枕的な関係…?」
ネルはそう呟いてみたが、これは彼女からの一方通行な考えでインタラクティブではない。マリウスが同じようにネルのことを抱き枕と思ってくれているのなら話は別だが。
マリウスの側はいつも居心地がいい。最近は、彼が側にいるだけで眠気がやってくる。先日も研究室で一緒にお昼を食べていたのだが、小さな子供のように食べながら寝落ちしてしまった。
「私、マリウスのこと好きみたい。側にいると安心するし、いつも一緒に寝てくれたら……」
ネルは、マリウスの胸に顔を寄せる。彼の匂いを思いきり吸い込んで抱きつくと、足を絡ませて再び眠りについた。
再びネルが目を覚ました時、マリウスは隣にはいなかった。若干寂しい気持ちで時計を見ると、一月二日の朝の六時だった。丸一日寝てしまった。熱いシャワーを浴びて、流石にお腹が減ったので食堂へ向かう。
食堂へ行くと、コーヒーの良い匂いがした。
「おはようございます。一日寝ていましたね。一体何日寝てなかったのですか?」
「おはよう。マリウス不在の間に一、二時間は眠れる日があったけど、結局三徹したよ。帰って来てくれて本当に良かった」
二人でコーヒーを飲み、スクランブルエッグとパンを食べる。ネルは朝を迎えた恋人同士の様な、ふわふわとした気分になった。
「これから動物たちの餌やりとグリフィンを見てきます」
「私もグリフィンを見たいから一緒に行く」
「寒いから、ちゃんと服を着てきて下さいね」
「はーい」
吐く息が白い。外は紛うことなき冬の寒さだ。防寒具を重ねた身体は温かいが、外気に触れている部分に空気の冷たさが刺さる。
一昨日降った雪が凍結して危ないからと、マリウスと手を繋ぎながら歩く。グリフィンを保護している檻に行くと、すっかり落ち着いた様子の雄のグリフィンが大人しく座っていた。
「大分落ち着いてきたので他のグリフィンたちの檻へ移動してみます」
そう言うと手慣れた様子で隣の檻と隣接している部分の鍵を開け、他のグリフィンと対面させる。
警戒しながらゆっくりと雄のグリフィンは、隣の檻へと移動していった。
「後は様子見ですかね。やばそうだったら、麻酔銃で眠らせて、またさっきの檻へ戻します」
「私、まだ見ていていい?」
「いいですよ。僕は他の動物たちの世話をしてきます。何かあったらすぐ呼んで下さい」
ネルはグリフィンの様子を見ていた。
美しい魔獣だ。鷲の上半身は金色で、羽根はツヤツヤと輝いている。ライオンの下半身はふさふさの毛に覆われている。触り心地が良さそうだ。密かに寝具に良さそうだなと思った。
グリフィンはその美しさや爪や嘴その他の部位の商品価値、金塊を好む性質の利用価値等の諸々の理由で、常に密猟者に狙われており、近年数を急激に減らしてしまっていた。人工交配はなかなか難しく、研究が進まないと言う。
のんびりと他の魔獣を観察しているとお昼の鐘が鳴ったので、一旦ランチを食べようとマリウスと室内に戻った。
◇◇◇
その後、またグリフィンの所に行くと言って、マリウスは外に行った。ネルは溜っている書類の山を、この頭がすっきりしている時に少しでも減らそうと、自分のオフィスへ向かった。
静かなオフィスで思った以上に書類仕事ははかどった。やはり睡眠は大事だなあとしみじみ思う。
ふと窓の外を見ると陽が沈む所だった。マリウスがまだ外から戻ってきていないことに気が付き、少しだけ心配になりネルはグリフィンの檻に向かった。
マリウスはグリフィンの檻の前で、食い入るように捕獲してきたグリフィンと雌のグリフィンを見ていた。
「どしたの?何かトラブルあった?」
「あ、捕獲してきたグリフィンがもともと檻にいた雌のグリフィンに求愛行動をしていたので、観察していたのですが」
ネルは視線を二匹のグリフィンに移した。
「その、交尾を始めまして、どうしたものかと考えていました」
檻の中では、雌に背中から覆いかぶさっている雄のグリフィンが必死に腰を振っていた。雌は鷲の羽を自分の身体にぴったりとくっつけ、雄が密着しやすいような体勢を作り、切なげな鳴き声を上げている。雄は雌を羽で包みながら、鷲の前足で踏ん張り、ライオンの下半身を動かし、抜き差ししている。
茜色の夕日をバックに繰り広げられる魔獣の交尾をマリウスとネルは無言で見守った。何だかこの世で起きている事ではないような、何となく神秘的というか現実離れしているような光景だった。
今年はグリフィンの子供が産まれるかもしれないなとネルは思った。それにしても雌のグリフィンは、雄の下で何とも言えない恍惚とした表情を浮かべており、幸せそうだった。唯一の番に運命的に出会って、愛し合って、睦み合う。とてもうらやましく感じた。
ネルは身体が少し熱くなるのを感じた。マリウスと致したいかもしれないと思った。そして、すぐに何考えているのかと自分に突っ込みを入れる。葛藤していた。
マリウスは無口だけど、頼りがいがあって、大きい手はいつもネルの身体をほぐし、添い寝もしてくれる。どんなに眠くて苛ついていても彼の手で背中を撫でられると、ひび割れてカサついた心が凪いでいく。
夜のとばりが下りて一番星が空に上がる頃、交尾は終わり、二頭は他の群れと離れた場所に丸くなって動かなくなった。眠ってしまったようだった。
マリウスは寒さにぶるりと身体を震わせると、横にいる未だグリフィンの様子を観察しているネルを見て冗談めかして言った。
「僕たちもしてみますか?」
ネルは、心の声が外に出てしまったのかとギクリとしたが、自分の反応にマリウスが横で慌てている気配を感じて、ただ冗談を言っただけだったと分かった。
けれど、ネルの鼓動は早く、身体は熱い。さっきまで見ていた交尾の光景がよぎる。冗談だと逃げられる前に捕まえたいと本能的に思った。
「うん…」
ネルはマリウスの胸に頬を寄せ、腕を背中に回すと顔を赤らめて言った。一瞬固まったマリウスは、恐る恐るネルをやんわりと抱き返した。
◇◇◇
マリウスの部屋に来たのは久しぶりだ。綺麗に整理整頓された無駄のない室内は相変わらずで、ネルは自分の部屋の乱雑さを思い出し、少々恥ずかしくなる。
間接照明だけを付けた室内は薄暗く、これから行われる行為について容易に想像できる。ネルは自分からマリウスを誘惑した状況でもあるので背徳的な気分になった。
ベッドの上で二人並んで座っていた。マリウスの唇と舌が気持ちよくて、ネルは貪る様に深いキスをする。静かな室内にぴちゃぴちゃと音がする。
「ラドフォード先輩のぷっくりとした唇にずっとキスしてみたかった」
マリウスは、そう言うとネルの唇を再び塞ぐ。キスをしながら、外に出るために何重にも重ねられた服を、一枚ずつ丁寧に脱がしていく。
「さっきの交尾を見て、興奮しちゃったんですか」
「それもあるかもしれないけど、マリウスが帰ってきて、安心して睡眠欲が満たされて、人間らしい食事で食欲が満たされたらからかもしれない…」
「この状況で、僕がいなかったら、僕以外の人ともこんなことするんですか」
マリウスがこめかみに皺を寄せて少し怖い顔をして、じっとネルの眼を見つめる。ネルは、自分の本能からもマリウスの気持ちからも、もう逃げられないなと思った。
「マリウス以外の人じゃ、無理だよ。マリウスだけが私をこんな風にさせるんだよ」
その言葉を聞いてマリウスの頬が少し赤くなる。マリウスは顔を見られないようにするためか、ネルの首筋に顔をうずめる。
「どういう意味か、問い詰めるのは後にします」
ネルはいつの間にか下着だけの姿で、ベッド上に押し倒されていた。髪を結んだ結び目が邪魔でゆっくりと髪を解くと、ミルクティ色の髪がベッドに広がる。
「マリウスも脱いで」
ネルはそう言うと、もどかしそうにシャツのボタンを外す。魔獣を捕獲する腕はたくましく、割れた腹筋は汗でしっとりとしている。良い触り心地だ。よく見ると傷跡がある。
「傷跡があるね」
ネルは、マリウスの服を脱がしながら傷跡を指先で撫でる。
「んっ。たまに暴れてくるやつがいたりとか、捕獲場所が危険だったりするから、怪我することもあるんですよ。先輩はすべすべの綺麗な肌ですね」
青紫色の双眸は、ネルを熱っぽく見つめている。
「ネイビーの下着似合っていますね。もったいないけど、触れないから脱がしちゃおうかな」
「下着が似合うってあるの」
その問いに悪戯する子供の様に笑うとブラのホックを外し、ショーツのリボンを解く。ネルの胸がふるふると揺れる。
両手でネルの胸をこねる。親指と人差し指で胸の先端をくりくりと摘まむと、ネルが「あんっ」と甘い声を上げる。
「胸、想像以上にキますね。興奮しすぎて達してしまいそうです。ここは全然ほぐれませんね」
そう言うといつの間にかピンと尖ってしまったネルの胸の先端を片手でつまみながら、もう片方を口に咥える。
ネルは、背中や肩をほぐしてくれるマリウスの熱くて大きな手が、いつもと違う気持ちよさを自分に与えてくれていると思うと恥ずかしくなる。
「んんっマリウスの手、やっぱり好きっ。気持ちいい」
「よかった。じゃあ、こっちもほぐしてみようかな」
キスをしながら、マリウスの骨ばった大きな手が下に向かう。途中、ネルのヘソに指先を入れる。くすぐったいと身を捩るネルを見ると更に指を進める。
ぴったりと閉じた割れ目を開くと、既にしとどに濡れていた。むにむにと恥丘を揉むと、さっとかすめるように濡れている豆を指先で触る。
「ひゃん」
いきなり敏感な部分をかすめた指に思わずネルの声が大きくなる。
「気持ちいいですか」
マリウスは指でその突起を優しくはじく。そしてクリクリとほぐすように刺激する。反対の手の指を蜜壺の中に入れる。中はうねうねとマリウスの指を締め付けるが、構わず二本の指の腹で天井を擦る。
「あっあっ、嘘っ、変なのくる。いやダメ」
ネルの身体は弓なりにしなった後、弛緩した。そして太ももに熱い液体が吐き出されたのを感じた。マリウスもハアハアと息を荒げて、ネルの上に覆いかぶさった。
「すいません。あまりに先輩がエロ過ぎて、出てしまいました」
マリウスは玉のような汗を流していた。恥ずかしさからなのか達したからか分からないが、その頬は更に紅潮していた。
「童貞に刺激が強すぎます。先輩、エロスを自粛してください」
「え?初めてって嘘でしょ?モテモテなのに」
そう言うと青紫色の瞳で心外そうにネルを見る
「モテたことなどありませんし、ずっと先輩一筋ですから誰ともしたことありません」
「そうなの?ずいぶん手慣れた手つきだったけど」
ネルは驚きの告白に目を大きく開いた。
「それは、いつも動物たちを宥める時の様にしてみただけです。相手の様子を観察して、触れて欲しそうな場所に触れるんです。こうすると皆大人しくなるんですよ」
「私は魔獣かい」
マリウスはふっと笑う。
「ラドフォード先輩は、世界一愛しい僕の魔獣かも知れないですね」
マリウスは、すっと真剣な表情をすると、ネルの身体を力いっぱい抱きしめる。
「ラドフォード先輩、好きです。ずっと前からあなたとこうしたいと思っていました」
ネルはその告白を聞いて、身体が熱くなる。
「マリウス、私もあなたが好き。一緒にいると安心する」
ネルは、マリウスの胸筋を触るとさっき自分がされたように、ゆっくり先端を触る。マリウスはその刺激に身体をびくっとさせた。下から先端を口に含むと、手で背筋から腰を撫で腹筋を触り、マリウスの下生えをかき分ける。
さっき達したばかりのそれは、少しずつ硬度を取り戻す。ぴくぴくとしている下の子を握るとゆっくりと扱く。後ろの二つの膨らみを片手で弄ぶ。
マリウスの熱い息が首筋にかかると、ネルはゾクゾクした。
「マリウス、中に来て」
「は、はい」
マリウスは、上半身を起こすと、自身に手を添える。ぬるぬるとしたネルの入口に先端を当てると「あ、すごい、刺激がっ」と言いながらゆっくりと腰を沈める。最奥まで自身を埋めるとゆっくりと腰をグラインドさせた。
「んんんんっ」
「先輩、すごいきついですけど、全然してなかったんですか」
マリウスは腰を小刻みに動かす。くちゃくちゃと音が厭らしく響く。
「うんっ、マリウスに学生時代に会う前少し付き合っていた人と初めてした時からしてない」
「何故です?」
マリウスはゆっくりと自身を引き抜くと、奥まで挿入する。ゆるゆるとそれを繰り返す。動作を試すように慎重に動かす。
「何か怖かったし、痛かったし。結局、その人のことそんなに好きじゃなかったからかもっ、ん」
「こんなに熱くてトロトロになっているのに、信じられない」
「マリウスだからだよ。安心するし、酷いことしないでしょう?やっいきなり、やあん、あっあっ」
ネルの言葉を最後まで聞かずマリウスは、激しく奥を突いた。ぎこちなかった抽送も次第にスムーズになる。ネルの反応を見ながら、マリウスは気持ちよさそうな部分を探す。
ネルはもっと奥まで彼を受け入れたくて、首に肩を回し、両脚でマリウスの腰をホールドする。二人の身体が更に密着する。当る場所が変わり、マリウスの先端がネルの最奥を激しく突く。
「あっ、マリウスっ、好きっ、もっと欲しいぃ」
マリウスの膨らみが再び硬くなり、射精感が高まる。我慢したいけれど、腰が止まらないようだ。
「ラドフォード先輩、駄目です。もう出るから、脚ほどいて」
焦ったようにマリウスは言う。
「いや、もっと奥でマリウスを感じたい。中で出して欲しっ」
「仕方無い先輩ですね。でもやっぱりダメですよ」
「イヤ、大丈夫な日だし、中でマリウスの受け止めたい」
マリウスはネルに決心したようにキスをする。
「出来ちゃったら責任取って、お婿さんに貰っていただきますからね」
腰の動きが激しくなり、ネルの頭の位置がどんどん上に動いていく。マリウスは逃がさないようにネルの肩を抱きしめると、腰をたたきつけるように最奥を何度も突く。はっと強く息を吐く。
「イクっ」
子宮口にぴったりと先端をくっつけて、マリウスは二回目とは思えないほどの量の熱い精液をネルの奥に出した。
◇◇◇
余りの気持ちよさに気絶してしまったネルが目を覚ますと、身体は綺麗に拭かれており、シーツもパリッとしたものに交換されていた。着せられている大きい白シャツはマリウスのものだろう。
Tシャツとゆったりとしたパンツに着替たマリウスは、ネルに背を向けて机に向かっていた。
「マリウス?」
喘ぎ過ぎてのどが少しひりひりした。ネルは起き上がるとベッドの上に座る。
「身体は大丈夫ですか?暴走してしまい、すみませんでした。無理させてしまいましたね
マリウスはネルを振り返ると果実水を持ってネルのもとに歩み寄る。
「大丈夫。すごく気持ちよかった」
ほっとしたようにマリウスはネルの額から瞼、頬そして唇にキスをした。
「何してるの?仕事?」
「日記を書いているんですよ。一月二日はラドフォード先輩に僕の初めてを捧げた記念日ですし、何があったか記録しておこうと思って」
ネルは、マリウスの真面目さに苦笑いすると「変な事書かないでよね」と言った。
「先輩のここが気持ちよさそうだったとか、痴態が可愛かったとかしか書きませんよ」
「やだ、それ変な事でしょ。恥ずかしいやつだから、書かないで」
「大丈夫です。僕以外には見る人いないですから」
マリウスは、ほほ笑むと日記をどこかへ片付けてしまった。
「夕ご飯食べてお風呂に入ったら、先輩の身体を復習したいです。いいですよね」
「復習って、真面目か」
ふふふと笑いながら、マリウスがネルの隣に座る。ぎしっとベッドがきしむ音がする。その音にネルはさっきの情交を思い出して、身体の奥がきゅんとした。
「今度は、グリフィンがしていた体位でしてみたいです、先輩」とマリウスが耳元で囁きながら、ネルのノーブラの胸をシャツの上から掌で円を描くように撫でた。
ネルは沈静化した欲求が、再び首をもたげてくるのを感じた。
ネルは、マリウスという素敵な抱き枕系の恋人を手に入れたのだが、この抱き枕が思いのほか悪戯をしてくるので違う意味で眠れなくなりそうだと思った。
ネルは「困ったなあ」と言いながらマリウスの太ももの上に跨り、マリウスを抱きしめる。
「嫌なんですか!やっぱり僕じゃ駄目なんですか!」
今更、焦るマリウスを上目遣いで見る。可愛いなあ、とわたわたとするマリウスの胸に頬をすり寄せた。
もともとショートスリーパーではあったが、管理職になってからというもの、ストレスからか眠る時間は更に短くなり、最近は五徹くらいしないと眠れなくなってしまった。
管理職として人の上に立つのがそもそも性に合わないのだ。自分で仮説を立てて検証する、調査し、論文を書いて発表するということが仕事のやりがいだった。
成果を上げ過ぎたのが良くなかったのだろう。多くの先輩方を飛び越えて管理職になってしまった。あからさまに反対する人はいなかったのだが、ネルには、まだ人の上に立つ覚悟はなかった。
ネルは「眠れないと思うから辛いのだ。天より二十四時間の活動時間が与えられていると考えれば、これは私に与えられたギフトである」と思うようにしていた。
二十四時間働けますかと問われれば、迷わず「イエス」と言える自信がネルにはある。
せっかく希望の仕事につけたのに、断念するのはまだ早過ぎるともがいている。やるだけやって、ダメなら諦めもつくだろう。そう思いながら、年末年始の休みもなく、寝もせず今晩も働いていた。
かたりと音がして食堂に人が入ってきた。
「ラドフォード先輩、こんばんは。今帰ってきました」
入ってきたのは、艶やかなブルーグレイの長髪を一つに結び、切れ長の青紫色の瞳が凛とした印象を与えるマリウス・ガーディナーだった。彼は魔法学園時代同じ魔獣科に所属していた二つ年下の後輩だ。
ここは、国立魔獣保護管理機関である。魔獣に関する様々な事案を扱っている。
ネルは、魔獣の生態調査、分類・管理をする部署に、マリウスは魔獣の保護・育成を担当する部署に所属している。
「グリフィン、捕獲できた?」
「大丈夫でしたよ。アリマスポイと金塊を争って、暴れていたみたいです。一旦こちらで預かって、自然に戻せるようになるまで飼育するように手配しました」
「アリマスポイはどうなったの」
「残念ながらに逃がしてしまいました。一つ目の巨人のクセに何であんなに逃げ足が速いんでしょうか」
グリフィンとアリマスポイは昔から犬猿の仲だ。お互いに金塊を好み、それを奪い合うために戦う。今回のグリフィンの騒動も例にもれずアリマスポイ繋がりだったらしい。
「金塊はどうなったの?」
「グリフィンがどこかに巧妙に隠してしまったようです」
「そう。まだ完全に事案が完了したわけではなさそうだね…。でもまあ取り敢えず、グリフィン捕獲は完了して良かった。何か飲む?」
「大丈夫です。それにしても先輩何て恰好しているんですか。真夏じゃないんですから」
ネルの服装は、いつもの白衣、その下にマリンブルーのタンクトップとデニムの短パンを着ていた。足元はビーチサンダルを履いていた。白衣からチラリと見えるスラリとした太ももが艶かしい。
ミルクティ色の髪を高めの位置で一つに結んでおり、白衣を脱いでアンバーの瞳にサングラスをかければ、完全に夏のビーチリゾートスタイルだった。
「室内は暖かいから、いいじゃない」
「そういう事じゃなくて、夜中にそんな薄着で誰に会うかも分からない食堂に来るなんて、危機感なさすぎです」
「年末年始で職員は全て家や田舎に帰っちゃってるから、ここにいるのは私とマリウスくらいだよ」
はっと何かに気が付いたように、マリウスが食堂のカレンダーを見る。日めくりカレンダーは、十二月三十一日になっている。もう十二時は回ったから、既に年が明けて一月一日である。
「グリフィンに構いすぎて、すっかり忘れてました。室長がこんな夜中なのにそそくさと家に帰っていった理由が、たった今分かりました」
魔獣に人間の暦は関係ないので仕方ないと思うけれど、ネルは真面目なマリウスが項垂れているのを見て、可愛くてちょっと笑ってしまった。
「遅れたけど、明けましておめでとう」
「明けましておめでとうございます。せっかくですから初日の出を一緒に見ましょう。ここの食堂の窓から見えると思いますよ」
保護機関の食堂は、九階建ての建物の最上階にある。魔獣を扱っている危険性もあり、まわりに人家も視界を遮る大きな建物も無いので、とても見晴らしがいい。
二人は窓際のソファーに移動し、朝日を待つことにした。
◇◇◇
「んっ、そこ、いい。もっと強く…ああっ、当ってる」
「ここですか、硬くなってますよ。こんなになるまで、どうしてたんですか。僕がいない間、一人でしなかったのですか」
「マリウスがいなくてっ、辛かったぁ」
ネルは、慣れた様子でソファーにうつ伏せになり、マリウスのマッサージを受けていた。マリウスは、ネルのガチガチに張った肩甲骨周りをゆっくりほぐしていた。
「この様子だと、首の付け根も腰もガチガチに凝っているはずですよ。ほんの一週間いなかっただけなのに、心配です」
「自分でもストレッチをしたりしていたのだけど、やっぱりマリウスにマッサージしてもらうのが一番効くんだよね」
マリウスは、昔から魔獣に懐かれる体質を持っていた。荒れ狂う魔獣たちも、彼が少し撫でてあげるとたちまちご機嫌になり、眠ってしまう。
ここ数ヶ月、あまりに眠れない日々が続き、困ったネルはマリウスのその体質を思い出して肩を揉んでもらった。
彼の温かく大きな手で肩を揉まれると、すぐに身体が暖かくなり、不覚にもそのまま眠りに落ちてしまった。
その翌日、久々によく眠れたと目を開けると、マリウスの太ももを枕に寝ていた。ネルは朝日に照らされるマリウスの眠る顔を見て、彼に撫でられた魔獣たちもこいう気持ちなのかもしれないと思った。
そして「誰が魔獣じゃい」とノリツッコミを忘れなかったのは別の話だ。
あと十分もすれば朝日が登る。東の空が白く色づいている。ネルはマリウスのマッサージにいつも通り気持ちよくなり、うとうとしていた。
「ラドフォード先輩、太陽が上がってきますよ」
「んぅ」
マリウスは半分寝ぼけているネルを起き上がらせると、「ほら起きて下さい」と後ろから両脇に手を入れて、ソファーに座らせる。朝日がネルの半分閉じた目に刺さる。
「今年もよろしくお願い致します」
寝ぼけているネルの額にマリウスはキスをした。ネルは、もっとキスしてほしいかもと夢現に思う。
「マリウス、今年もよろしくね」
ネルは眠くて目が開けられなかったが、かろうじてそう言うとマリウスの太ももに頭を乗せて、眠りの底に落ちてしまった。
自室のベッドの上で目が覚めた時、横にマリウスの整った顔があった。ネルは一瞬びっくりしたが、マッサージしてもらった後、いつものように寝落ちしてしまったんだろうと思った。
ネルは、手元を見ると彼のシャツをぎゅっと握りしめていることに気が付いた。せっかく眠れたネルを起こさないように一緒に眠ってくれたのだと思うと、その優しさに胸が高鳴る。
鋭い印象を与える、青紫の瞳は閉じている。すうすうという寝息が可愛い。グリフィンの捕獲のため、ここ数日はあまり眠れていなかったのかもしれない。うっすらと目の下にクマができている。
職場の先輩と後輩だけれども、一緒に同じベッドに眠る関係。この関係の名は一体何と言うのだろうか。
「睡眠効果抜群の抱き枕的な関係…?」
ネルはそう呟いてみたが、これは彼女からの一方通行な考えでインタラクティブではない。マリウスが同じようにネルのことを抱き枕と思ってくれているのなら話は別だが。
マリウスの側はいつも居心地がいい。最近は、彼が側にいるだけで眠気がやってくる。先日も研究室で一緒にお昼を食べていたのだが、小さな子供のように食べながら寝落ちしてしまった。
「私、マリウスのこと好きみたい。側にいると安心するし、いつも一緒に寝てくれたら……」
ネルは、マリウスの胸に顔を寄せる。彼の匂いを思いきり吸い込んで抱きつくと、足を絡ませて再び眠りについた。
再びネルが目を覚ました時、マリウスは隣にはいなかった。若干寂しい気持ちで時計を見ると、一月二日の朝の六時だった。丸一日寝てしまった。熱いシャワーを浴びて、流石にお腹が減ったので食堂へ向かう。
食堂へ行くと、コーヒーの良い匂いがした。
「おはようございます。一日寝ていましたね。一体何日寝てなかったのですか?」
「おはよう。マリウス不在の間に一、二時間は眠れる日があったけど、結局三徹したよ。帰って来てくれて本当に良かった」
二人でコーヒーを飲み、スクランブルエッグとパンを食べる。ネルは朝を迎えた恋人同士の様な、ふわふわとした気分になった。
「これから動物たちの餌やりとグリフィンを見てきます」
「私もグリフィンを見たいから一緒に行く」
「寒いから、ちゃんと服を着てきて下さいね」
「はーい」
吐く息が白い。外は紛うことなき冬の寒さだ。防寒具を重ねた身体は温かいが、外気に触れている部分に空気の冷たさが刺さる。
一昨日降った雪が凍結して危ないからと、マリウスと手を繋ぎながら歩く。グリフィンを保護している檻に行くと、すっかり落ち着いた様子の雄のグリフィンが大人しく座っていた。
「大分落ち着いてきたので他のグリフィンたちの檻へ移動してみます」
そう言うと手慣れた様子で隣の檻と隣接している部分の鍵を開け、他のグリフィンと対面させる。
警戒しながらゆっくりと雄のグリフィンは、隣の檻へと移動していった。
「後は様子見ですかね。やばそうだったら、麻酔銃で眠らせて、またさっきの檻へ戻します」
「私、まだ見ていていい?」
「いいですよ。僕は他の動物たちの世話をしてきます。何かあったらすぐ呼んで下さい」
ネルはグリフィンの様子を見ていた。
美しい魔獣だ。鷲の上半身は金色で、羽根はツヤツヤと輝いている。ライオンの下半身はふさふさの毛に覆われている。触り心地が良さそうだ。密かに寝具に良さそうだなと思った。
グリフィンはその美しさや爪や嘴その他の部位の商品価値、金塊を好む性質の利用価値等の諸々の理由で、常に密猟者に狙われており、近年数を急激に減らしてしまっていた。人工交配はなかなか難しく、研究が進まないと言う。
のんびりと他の魔獣を観察しているとお昼の鐘が鳴ったので、一旦ランチを食べようとマリウスと室内に戻った。
◇◇◇
その後、またグリフィンの所に行くと言って、マリウスは外に行った。ネルは溜っている書類の山を、この頭がすっきりしている時に少しでも減らそうと、自分のオフィスへ向かった。
静かなオフィスで思った以上に書類仕事ははかどった。やはり睡眠は大事だなあとしみじみ思う。
ふと窓の外を見ると陽が沈む所だった。マリウスがまだ外から戻ってきていないことに気が付き、少しだけ心配になりネルはグリフィンの檻に向かった。
マリウスはグリフィンの檻の前で、食い入るように捕獲してきたグリフィンと雌のグリフィンを見ていた。
「どしたの?何かトラブルあった?」
「あ、捕獲してきたグリフィンがもともと檻にいた雌のグリフィンに求愛行動をしていたので、観察していたのですが」
ネルは視線を二匹のグリフィンに移した。
「その、交尾を始めまして、どうしたものかと考えていました」
檻の中では、雌に背中から覆いかぶさっている雄のグリフィンが必死に腰を振っていた。雌は鷲の羽を自分の身体にぴったりとくっつけ、雄が密着しやすいような体勢を作り、切なげな鳴き声を上げている。雄は雌を羽で包みながら、鷲の前足で踏ん張り、ライオンの下半身を動かし、抜き差ししている。
茜色の夕日をバックに繰り広げられる魔獣の交尾をマリウスとネルは無言で見守った。何だかこの世で起きている事ではないような、何となく神秘的というか現実離れしているような光景だった。
今年はグリフィンの子供が産まれるかもしれないなとネルは思った。それにしても雌のグリフィンは、雄の下で何とも言えない恍惚とした表情を浮かべており、幸せそうだった。唯一の番に運命的に出会って、愛し合って、睦み合う。とてもうらやましく感じた。
ネルは身体が少し熱くなるのを感じた。マリウスと致したいかもしれないと思った。そして、すぐに何考えているのかと自分に突っ込みを入れる。葛藤していた。
マリウスは無口だけど、頼りがいがあって、大きい手はいつもネルの身体をほぐし、添い寝もしてくれる。どんなに眠くて苛ついていても彼の手で背中を撫でられると、ひび割れてカサついた心が凪いでいく。
夜のとばりが下りて一番星が空に上がる頃、交尾は終わり、二頭は他の群れと離れた場所に丸くなって動かなくなった。眠ってしまったようだった。
マリウスは寒さにぶるりと身体を震わせると、横にいる未だグリフィンの様子を観察しているネルを見て冗談めかして言った。
「僕たちもしてみますか?」
ネルは、心の声が外に出てしまったのかとギクリとしたが、自分の反応にマリウスが横で慌てている気配を感じて、ただ冗談を言っただけだったと分かった。
けれど、ネルの鼓動は早く、身体は熱い。さっきまで見ていた交尾の光景がよぎる。冗談だと逃げられる前に捕まえたいと本能的に思った。
「うん…」
ネルはマリウスの胸に頬を寄せ、腕を背中に回すと顔を赤らめて言った。一瞬固まったマリウスは、恐る恐るネルをやんわりと抱き返した。
◇◇◇
マリウスの部屋に来たのは久しぶりだ。綺麗に整理整頓された無駄のない室内は相変わらずで、ネルは自分の部屋の乱雑さを思い出し、少々恥ずかしくなる。
間接照明だけを付けた室内は薄暗く、これから行われる行為について容易に想像できる。ネルは自分からマリウスを誘惑した状況でもあるので背徳的な気分になった。
ベッドの上で二人並んで座っていた。マリウスの唇と舌が気持ちよくて、ネルは貪る様に深いキスをする。静かな室内にぴちゃぴちゃと音がする。
「ラドフォード先輩のぷっくりとした唇にずっとキスしてみたかった」
マリウスは、そう言うとネルの唇を再び塞ぐ。キスをしながら、外に出るために何重にも重ねられた服を、一枚ずつ丁寧に脱がしていく。
「さっきの交尾を見て、興奮しちゃったんですか」
「それもあるかもしれないけど、マリウスが帰ってきて、安心して睡眠欲が満たされて、人間らしい食事で食欲が満たされたらからかもしれない…」
「この状況で、僕がいなかったら、僕以外の人ともこんなことするんですか」
マリウスがこめかみに皺を寄せて少し怖い顔をして、じっとネルの眼を見つめる。ネルは、自分の本能からもマリウスの気持ちからも、もう逃げられないなと思った。
「マリウス以外の人じゃ、無理だよ。マリウスだけが私をこんな風にさせるんだよ」
その言葉を聞いてマリウスの頬が少し赤くなる。マリウスは顔を見られないようにするためか、ネルの首筋に顔をうずめる。
「どういう意味か、問い詰めるのは後にします」
ネルはいつの間にか下着だけの姿で、ベッド上に押し倒されていた。髪を結んだ結び目が邪魔でゆっくりと髪を解くと、ミルクティ色の髪がベッドに広がる。
「マリウスも脱いで」
ネルはそう言うと、もどかしそうにシャツのボタンを外す。魔獣を捕獲する腕はたくましく、割れた腹筋は汗でしっとりとしている。良い触り心地だ。よく見ると傷跡がある。
「傷跡があるね」
ネルは、マリウスの服を脱がしながら傷跡を指先で撫でる。
「んっ。たまに暴れてくるやつがいたりとか、捕獲場所が危険だったりするから、怪我することもあるんですよ。先輩はすべすべの綺麗な肌ですね」
青紫色の双眸は、ネルを熱っぽく見つめている。
「ネイビーの下着似合っていますね。もったいないけど、触れないから脱がしちゃおうかな」
「下着が似合うってあるの」
その問いに悪戯する子供の様に笑うとブラのホックを外し、ショーツのリボンを解く。ネルの胸がふるふると揺れる。
両手でネルの胸をこねる。親指と人差し指で胸の先端をくりくりと摘まむと、ネルが「あんっ」と甘い声を上げる。
「胸、想像以上にキますね。興奮しすぎて達してしまいそうです。ここは全然ほぐれませんね」
そう言うといつの間にかピンと尖ってしまったネルの胸の先端を片手でつまみながら、もう片方を口に咥える。
ネルは、背中や肩をほぐしてくれるマリウスの熱くて大きな手が、いつもと違う気持ちよさを自分に与えてくれていると思うと恥ずかしくなる。
「んんっマリウスの手、やっぱり好きっ。気持ちいい」
「よかった。じゃあ、こっちもほぐしてみようかな」
キスをしながら、マリウスの骨ばった大きな手が下に向かう。途中、ネルのヘソに指先を入れる。くすぐったいと身を捩るネルを見ると更に指を進める。
ぴったりと閉じた割れ目を開くと、既にしとどに濡れていた。むにむにと恥丘を揉むと、さっとかすめるように濡れている豆を指先で触る。
「ひゃん」
いきなり敏感な部分をかすめた指に思わずネルの声が大きくなる。
「気持ちいいですか」
マリウスは指でその突起を優しくはじく。そしてクリクリとほぐすように刺激する。反対の手の指を蜜壺の中に入れる。中はうねうねとマリウスの指を締め付けるが、構わず二本の指の腹で天井を擦る。
「あっあっ、嘘っ、変なのくる。いやダメ」
ネルの身体は弓なりにしなった後、弛緩した。そして太ももに熱い液体が吐き出されたのを感じた。マリウスもハアハアと息を荒げて、ネルの上に覆いかぶさった。
「すいません。あまりに先輩がエロ過ぎて、出てしまいました」
マリウスは玉のような汗を流していた。恥ずかしさからなのか達したからか分からないが、その頬は更に紅潮していた。
「童貞に刺激が強すぎます。先輩、エロスを自粛してください」
「え?初めてって嘘でしょ?モテモテなのに」
そう言うと青紫色の瞳で心外そうにネルを見る
「モテたことなどありませんし、ずっと先輩一筋ですから誰ともしたことありません」
「そうなの?ずいぶん手慣れた手つきだったけど」
ネルは驚きの告白に目を大きく開いた。
「それは、いつも動物たちを宥める時の様にしてみただけです。相手の様子を観察して、触れて欲しそうな場所に触れるんです。こうすると皆大人しくなるんですよ」
「私は魔獣かい」
マリウスはふっと笑う。
「ラドフォード先輩は、世界一愛しい僕の魔獣かも知れないですね」
マリウスは、すっと真剣な表情をすると、ネルの身体を力いっぱい抱きしめる。
「ラドフォード先輩、好きです。ずっと前からあなたとこうしたいと思っていました」
ネルはその告白を聞いて、身体が熱くなる。
「マリウス、私もあなたが好き。一緒にいると安心する」
ネルは、マリウスの胸筋を触るとさっき自分がされたように、ゆっくり先端を触る。マリウスはその刺激に身体をびくっとさせた。下から先端を口に含むと、手で背筋から腰を撫で腹筋を触り、マリウスの下生えをかき分ける。
さっき達したばかりのそれは、少しずつ硬度を取り戻す。ぴくぴくとしている下の子を握るとゆっくりと扱く。後ろの二つの膨らみを片手で弄ぶ。
マリウスの熱い息が首筋にかかると、ネルはゾクゾクした。
「マリウス、中に来て」
「は、はい」
マリウスは、上半身を起こすと、自身に手を添える。ぬるぬるとしたネルの入口に先端を当てると「あ、すごい、刺激がっ」と言いながらゆっくりと腰を沈める。最奥まで自身を埋めるとゆっくりと腰をグラインドさせた。
「んんんんっ」
「先輩、すごいきついですけど、全然してなかったんですか」
マリウスは腰を小刻みに動かす。くちゃくちゃと音が厭らしく響く。
「うんっ、マリウスに学生時代に会う前少し付き合っていた人と初めてした時からしてない」
「何故です?」
マリウスはゆっくりと自身を引き抜くと、奥まで挿入する。ゆるゆるとそれを繰り返す。動作を試すように慎重に動かす。
「何か怖かったし、痛かったし。結局、その人のことそんなに好きじゃなかったからかもっ、ん」
「こんなに熱くてトロトロになっているのに、信じられない」
「マリウスだからだよ。安心するし、酷いことしないでしょう?やっいきなり、やあん、あっあっ」
ネルの言葉を最後まで聞かずマリウスは、激しく奥を突いた。ぎこちなかった抽送も次第にスムーズになる。ネルの反応を見ながら、マリウスは気持ちよさそうな部分を探す。
ネルはもっと奥まで彼を受け入れたくて、首に肩を回し、両脚でマリウスの腰をホールドする。二人の身体が更に密着する。当る場所が変わり、マリウスの先端がネルの最奥を激しく突く。
「あっ、マリウスっ、好きっ、もっと欲しいぃ」
マリウスの膨らみが再び硬くなり、射精感が高まる。我慢したいけれど、腰が止まらないようだ。
「ラドフォード先輩、駄目です。もう出るから、脚ほどいて」
焦ったようにマリウスは言う。
「いや、もっと奥でマリウスを感じたい。中で出して欲しっ」
「仕方無い先輩ですね。でもやっぱりダメですよ」
「イヤ、大丈夫な日だし、中でマリウスの受け止めたい」
マリウスはネルに決心したようにキスをする。
「出来ちゃったら責任取って、お婿さんに貰っていただきますからね」
腰の動きが激しくなり、ネルの頭の位置がどんどん上に動いていく。マリウスは逃がさないようにネルの肩を抱きしめると、腰をたたきつけるように最奥を何度も突く。はっと強く息を吐く。
「イクっ」
子宮口にぴったりと先端をくっつけて、マリウスは二回目とは思えないほどの量の熱い精液をネルの奥に出した。
◇◇◇
余りの気持ちよさに気絶してしまったネルが目を覚ますと、身体は綺麗に拭かれており、シーツもパリッとしたものに交換されていた。着せられている大きい白シャツはマリウスのものだろう。
Tシャツとゆったりとしたパンツに着替たマリウスは、ネルに背を向けて机に向かっていた。
「マリウス?」
喘ぎ過ぎてのどが少しひりひりした。ネルは起き上がるとベッドの上に座る。
「身体は大丈夫ですか?暴走してしまい、すみませんでした。無理させてしまいましたね
マリウスはネルを振り返ると果実水を持ってネルのもとに歩み寄る。
「大丈夫。すごく気持ちよかった」
ほっとしたようにマリウスはネルの額から瞼、頬そして唇にキスをした。
「何してるの?仕事?」
「日記を書いているんですよ。一月二日はラドフォード先輩に僕の初めてを捧げた記念日ですし、何があったか記録しておこうと思って」
ネルは、マリウスの真面目さに苦笑いすると「変な事書かないでよね」と言った。
「先輩のここが気持ちよさそうだったとか、痴態が可愛かったとかしか書きませんよ」
「やだ、それ変な事でしょ。恥ずかしいやつだから、書かないで」
「大丈夫です。僕以外には見る人いないですから」
マリウスは、ほほ笑むと日記をどこかへ片付けてしまった。
「夕ご飯食べてお風呂に入ったら、先輩の身体を復習したいです。いいですよね」
「復習って、真面目か」
ふふふと笑いながら、マリウスがネルの隣に座る。ぎしっとベッドがきしむ音がする。その音にネルはさっきの情交を思い出して、身体の奥がきゅんとした。
「今度は、グリフィンがしていた体位でしてみたいです、先輩」とマリウスが耳元で囁きながら、ネルのノーブラの胸をシャツの上から掌で円を描くように撫でた。
ネルは沈静化した欲求が、再び首をもたげてくるのを感じた。
ネルは、マリウスという素敵な抱き枕系の恋人を手に入れたのだが、この抱き枕が思いのほか悪戯をしてくるので違う意味で眠れなくなりそうだと思った。
ネルは「困ったなあ」と言いながらマリウスの太ももの上に跨り、マリウスを抱きしめる。
「嫌なんですか!やっぱり僕じゃ駄目なんですか!」
今更、焦るマリウスを上目遣いで見る。可愛いなあ、とわたわたとするマリウスの胸に頬をすり寄せた。
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