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1章
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今日はティアお姉様が屋敷に帰ってくる日だ。屋敷中お姉様が帰ってくるとあって使用人たちがどこか忙しない。
私はというと朝から厨房の一角を借りてせっせとお菓子作りに励んでいる。
お姉様は、私の作るお菓子が大好物で帰ってくる度にたくさんお菓子を消費する上に学園寮に帰るときも大量のお菓子をお土産に持ち帰っていく。
「どうしてあんなに食べてもティアお姉様は太らないのかしら」
オーブンの中で焼かれているお菓子を見つめながらぽつりと呟くと
「不思議ですよね、羨ましい限りです」
ハンナが片付けをしている手を止めて布巾を握り締めながら頷く。
厨房の台を見ると、そこには朝からせっせと焼いた大量のお菓子たちがケーキクーラーや天板の上で冷まされている。
全部一人でティアお姉様が食べるわけではないのだが、ほぼお姉様が消費するのは間違いない。
前世の私はお菓子作りが得意だったらしく、よく家族や友達に振る舞っていた記憶がなんとなくある。
他にも誰かによく振る舞っていたような気がするのだがその辺は曖昧だ。こんな感じで断片的にしか思い出せないこともあるのだが、唯一お菓子作りだけは身体が覚えていたらしく、物心ついた時から厨房を借りてはお菓子を作って家族や屋敷の使用人たちに時折振る舞っている。
最初小さい私が厨房に立つことに両親をはじめ皆が難色を示していたなか、唯一ティアお姉様だけが後押しをしてくれて、厨房の付き添いまでしてくれたのだ。
レシピを見ずに、なんの変哲もないクッキーを手際よく焼いただけでそのときは大騒ぎだった。
両親は驚きつつも褒めてくれた。エヴァンお兄様は、私が火傷をしないかハラハラしていたけど食べた途端目を見開いておかわりを食べていたのが嬉しかった。
なんと言っても一番喜んでくれたのはティアお姉様だった。
「すごいわ! アリアはこんな素敵な特技があるのね!」と何度も「美味しい」と言ってたくさんクッキーを食べてくれたのだ。
それから喜んでくれる家族のために私はたくさんお菓子を作るようになった。
一度作ったお菓子は料理長にレシピを教えているため、我が家では料理長が作ったお菓子が出されるのだが、ティアお姉様が時折「アリアの作ったお菓子が食べたい」と言うのでそのときは私が作っている。
食べるたびに今でも「美味しい」と笑顔で褒めてくれるため、朝から作り続けるのが大変でも作ってしまうのだ。
「お! いたいた! アリアお嬢様」
声のする方へ振り向くと、シリルがいつもの軽い調子でやってきた。ハンナが目を細めてシリルを見るとシリルがビクッとしながらそろそろと距離をとる。
その様子を気にしながらもシリルに声をかける。
「シリル。休憩するところだったんだけど、あなたもどう?」
流石に厨房でお説教は困るので、シリルに椅子を進める。シリルは「お! ありがとうございまーす」と調子よく席につく。
その様子を横目で見ながら何か言いたそうにしながらもハンナはシリルの分のお茶を入れ始めた。
「いやあ、さっきまで旦那様のお使いを頼まれてバタバタしてて休憩できなかったんですよねえ」
「それはご苦労様」
先程焼いてあらかた熱が取れたパウンドケーキを切り分けて皿に乗せてシリルとハンナに出す。
シリルは待ってましたと言わんばかりに「ありがとうございまーす」と言って手で掴んでそのまま口に運ぶ。
ハンナは嬉しそうに「ありがとうございます」と言ってフォークで切っている。その様子を見ながら私も自分の分のケーキを切り分けて口に運ぶ。
蜂蜜を使ったほんのり甘いパウンドケーキはまだ少し温かくて美味しい。
「エヴァンお兄様は?」
「エヴァン様は図書室にこもっています」
この家の本はほとんど読み終えたと前に言っていたはずだ。
何か調べ物だろうかと不思議に思っているとシリルが「最近精霊関連の蔵書をまた片っ端から読んでるみたいです」と口をもぐもぐさせながら言う。
精霊関連?もしかして……
「お兄様の精霊召喚の儀が近いから?」
「そうみたいですね、最近はもっぱら時間が空いたときは読み込んでいるみたいですね」
「お兄様も緊張しているのかしら」
そういえばティアお姉様の時も一ヶ月前ぐらいからソワソワしてたっけ。それでお母様に落ち着くように何度も言われてたのを覚えている。
あんまりソワソワするもんだから夜も寝られなくなり昼夜逆転気味になって、ティアお姉様付きのメイドのサラが頭を抱えていた。
その時のことを思い返しながらなんとなく口に出してみると「いや、それだけじゃないような気もするけど……うーん」とブツブツ言っている。
それを訝しげに見ていたハンナは「戻った方が良いのではないですか」と言って最後の一口のケーキを口に運んだ。
「そうだな、あまり根を詰めすぎないように言っとくよ」そう言ってシリルはお茶をぐいっと一気に飲み干して席を立つ。
「あ! じゃあエヴァンお兄様にも持っていってもらえる?」
本を読んで頭を使っているなら糖分が必要だろうと蜂蜜のパウンドケーキを切り分けて皿に乗せる。
それとお兄様の好きなメレンゲのクッキーも少し添える。コロンとした形が可愛らしいし、美味しいとお兄様はメレンゲのクッキーがお気に入りだ。
ハンナはサッとティーセットをお盆の上に乗せる。少し重いかもしれないけどシリルならワゴンを使わなくても平気だろう。
「ありがとうな! アリアお嬢様」
にかっと笑ってお盆を持ち上げる。すかさずハンナが「言葉遣い!」と指摘する。それにおどけた表情を見せながら私にウインクする。
シリルはなんだかこんなところが憎めない。真面目なエヴァンお兄様にはシリルくらいの適当さがちょうどいいのかもしれない。
後ろ姿を見送りながらそんなことを思った。
「さて! 私たちもあと少し頑張りましょうか」
エプロンを結び直しながらハンナに声をかけると「はい!」と返事が帰ってきた。
ティアお姉様が帰って来る頃にはあと数品作り上げなければならない。
気合を入れ直した私はティアお姉様が帰ってくるまで延々とお菓子を作り続けた。
私はというと朝から厨房の一角を借りてせっせとお菓子作りに励んでいる。
お姉様は、私の作るお菓子が大好物で帰ってくる度にたくさんお菓子を消費する上に学園寮に帰るときも大量のお菓子をお土産に持ち帰っていく。
「どうしてあんなに食べてもティアお姉様は太らないのかしら」
オーブンの中で焼かれているお菓子を見つめながらぽつりと呟くと
「不思議ですよね、羨ましい限りです」
ハンナが片付けをしている手を止めて布巾を握り締めながら頷く。
厨房の台を見ると、そこには朝からせっせと焼いた大量のお菓子たちがケーキクーラーや天板の上で冷まされている。
全部一人でティアお姉様が食べるわけではないのだが、ほぼお姉様が消費するのは間違いない。
前世の私はお菓子作りが得意だったらしく、よく家族や友達に振る舞っていた記憶がなんとなくある。
他にも誰かによく振る舞っていたような気がするのだがその辺は曖昧だ。こんな感じで断片的にしか思い出せないこともあるのだが、唯一お菓子作りだけは身体が覚えていたらしく、物心ついた時から厨房を借りてはお菓子を作って家族や屋敷の使用人たちに時折振る舞っている。
最初小さい私が厨房に立つことに両親をはじめ皆が難色を示していたなか、唯一ティアお姉様だけが後押しをしてくれて、厨房の付き添いまでしてくれたのだ。
レシピを見ずに、なんの変哲もないクッキーを手際よく焼いただけでそのときは大騒ぎだった。
両親は驚きつつも褒めてくれた。エヴァンお兄様は、私が火傷をしないかハラハラしていたけど食べた途端目を見開いておかわりを食べていたのが嬉しかった。
なんと言っても一番喜んでくれたのはティアお姉様だった。
「すごいわ! アリアはこんな素敵な特技があるのね!」と何度も「美味しい」と言ってたくさんクッキーを食べてくれたのだ。
それから喜んでくれる家族のために私はたくさんお菓子を作るようになった。
一度作ったお菓子は料理長にレシピを教えているため、我が家では料理長が作ったお菓子が出されるのだが、ティアお姉様が時折「アリアの作ったお菓子が食べたい」と言うのでそのときは私が作っている。
食べるたびに今でも「美味しい」と笑顔で褒めてくれるため、朝から作り続けるのが大変でも作ってしまうのだ。
「お! いたいた! アリアお嬢様」
声のする方へ振り向くと、シリルがいつもの軽い調子でやってきた。ハンナが目を細めてシリルを見るとシリルがビクッとしながらそろそろと距離をとる。
その様子を気にしながらもシリルに声をかける。
「シリル。休憩するところだったんだけど、あなたもどう?」
流石に厨房でお説教は困るので、シリルに椅子を進める。シリルは「お! ありがとうございまーす」と調子よく席につく。
その様子を横目で見ながら何か言いたそうにしながらもハンナはシリルの分のお茶を入れ始めた。
「いやあ、さっきまで旦那様のお使いを頼まれてバタバタしてて休憩できなかったんですよねえ」
「それはご苦労様」
先程焼いてあらかた熱が取れたパウンドケーキを切り分けて皿に乗せてシリルとハンナに出す。
シリルは待ってましたと言わんばかりに「ありがとうございまーす」と言って手で掴んでそのまま口に運ぶ。
ハンナは嬉しそうに「ありがとうございます」と言ってフォークで切っている。その様子を見ながら私も自分の分のケーキを切り分けて口に運ぶ。
蜂蜜を使ったほんのり甘いパウンドケーキはまだ少し温かくて美味しい。
「エヴァンお兄様は?」
「エヴァン様は図書室にこもっています」
この家の本はほとんど読み終えたと前に言っていたはずだ。
何か調べ物だろうかと不思議に思っているとシリルが「最近精霊関連の蔵書をまた片っ端から読んでるみたいです」と口をもぐもぐさせながら言う。
精霊関連?もしかして……
「お兄様の精霊召喚の儀が近いから?」
「そうみたいですね、最近はもっぱら時間が空いたときは読み込んでいるみたいですね」
「お兄様も緊張しているのかしら」
そういえばティアお姉様の時も一ヶ月前ぐらいからソワソワしてたっけ。それでお母様に落ち着くように何度も言われてたのを覚えている。
あんまりソワソワするもんだから夜も寝られなくなり昼夜逆転気味になって、ティアお姉様付きのメイドのサラが頭を抱えていた。
その時のことを思い返しながらなんとなく口に出してみると「いや、それだけじゃないような気もするけど……うーん」とブツブツ言っている。
それを訝しげに見ていたハンナは「戻った方が良いのではないですか」と言って最後の一口のケーキを口に運んだ。
「そうだな、あまり根を詰めすぎないように言っとくよ」そう言ってシリルはお茶をぐいっと一気に飲み干して席を立つ。
「あ! じゃあエヴァンお兄様にも持っていってもらえる?」
本を読んで頭を使っているなら糖分が必要だろうと蜂蜜のパウンドケーキを切り分けて皿に乗せる。
それとお兄様の好きなメレンゲのクッキーも少し添える。コロンとした形が可愛らしいし、美味しいとお兄様はメレンゲのクッキーがお気に入りだ。
ハンナはサッとティーセットをお盆の上に乗せる。少し重いかもしれないけどシリルならワゴンを使わなくても平気だろう。
「ありがとうな! アリアお嬢様」
にかっと笑ってお盆を持ち上げる。すかさずハンナが「言葉遣い!」と指摘する。それにおどけた表情を見せながら私にウインクする。
シリルはなんだかこんなところが憎めない。真面目なエヴァンお兄様にはシリルくらいの適当さがちょうどいいのかもしれない。
後ろ姿を見送りながらそんなことを思った。
「さて! 私たちもあと少し頑張りましょうか」
エプロンを結び直しながらハンナに声をかけると「はい!」と返事が帰ってきた。
ティアお姉様が帰って来る頃にはあと数品作り上げなければならない。
気合を入れ直した私はティアお姉様が帰ってくるまで延々とお菓子を作り続けた。
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