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1章
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案の定朝食の際に、ティアお姉様がドレスを着ていないことを拗ねたように指摘してきた。
庭仕事をするためということを説明して、もらったバレッタを指してお礼をいうとティアお姉様は抱きついてきてすぐに機嫌をなおしてくれた。
ティアお姉様も庭仕事をしたいと言うので了承するも、それを聞いていたお母様に今日は今度出席するお茶会で着るドレスのデザインの打ち合わせがあることを告げられる。ティアお姉様はどんよりとした空気を纏ったまま、朝食後すごすごと連れられていった。
ちなみに私はそのお茶会には出席しない。お姉様の年齢に近い子供たちが集うお茶会らしく、お母様に出席するか尋ねられるも学園に入学前の一年前から社交が始まるのでそれまでいいと遠慮させてもらった。後一年あるので自由に好きなことをしていたい。
朝食を終えた後、私は庭仕事をしようと部屋を出ようとするとエヴァンお兄様に呼び止められた。
「アリア、今日は庭に行くのかな?」
「うん、そろそろ庭の手入れもしたいから」
庭師のポル爺がいるので手入れなど微々たるものだが、ポル爺と会話をしながら庭仕事をするのは私の好きな時間の一つだ。
「僕も最近ポル爺と会ってないから話したいんだけど、後で顔を出してもいいかな」
「わあ! ポル爺もきっと喜ぶわ」
「じゃあ、後で」
そう言って別れた後、ハンナを伴って庭に向かった。
サーナイト家の庭園は伯爵家の中でも広い方だという。私は他の伯爵家を知らないからエヴァンお兄様から聞いた話だと、こんなにいろいろな種類の花を咲かせているのはうちぐらいらしい。それはうちのお母様が花が好きでポル爺もいろいろな国から種を取り寄せて、この国の気候に合うように改良したりしているからだ。庭園は真ん中に噴水があり、それをぐるりと囲った花壇にはいろいろな花が咲き誇っている。いつ来てもここは私に癒しと元気をくれる。
あたりを見回してポル爺を探すと、花壇の向こうの植え込みから見慣れた麦わら帽子がチラチラと見え隠れしていた。
「ポル爺!」
「おお、アリアお嬢様。ご機嫌いかがですかな」
呼びかけられて、こちらを見たポル爺は白い口髭を動かしながら笑顔を向ける。植え込みの手入れをしていたのか手には大きな裁ち鋏が握られている。
「ふふ、今日は久しぶりにポル爺に会えるから元気よ」
「それは、嬉しいことを言ってくれますなあ。アリアお嬢様の道具を取ってくるからお待ちください」
「私が取りに行きましょうか」とハンナがポル爺に声をかけるも「ゆっくりお嬢様と庭でも見てなさい」とニコニコしながら言って道具小屋へ歩いて行った。その姿を見送ってからハンナと一緒に花壇を見ながらゆっくりと歩き出す。ハンナは私が花を見ている時は声を掛けない配慮をしてくれる。
それは私が花を見ながらつい考えごとをしたり、ぼーっとするこの時間を大切にしているから。花を見ていると癒しと元気をもらえるし、自分の悩みもここだと解決する気がするからだ。
私はこの時自分の体質について考えていた。グレース様は私が精霊に嫌われてしまうのは、私の心臓を守る「何か」が得体の知れないものだからだと言っていた。精霊は他の精霊の色のようなものを見ることができて、私を覆っている魔力の色は精霊のものではないから。
このままでは十中八九精霊召喚の儀に失敗する……。精霊召喚の儀に失敗するということは貴族として致命的だ。
精霊と契約できなかった貴族は騎士団か文官、どちらも狭き門である。相当に剣術の才か頭が良くないとできない。
剣術の稽古はまだ始めてないし、勉強の方は普通だし今の時点で正直微妙である。
とりあえず近いうちから剣術の稽古を始められるようにお父様に打診しなくては。
あとは女だったら自分より家格の低い家の相手と結婚だけど正直今は結婚は考えられない。
そんなことを考えているとむしゃむしゃと何か咀嚼音の様な音が聞こえてきた。
思わずピタリと歩みを止める。庭園に猫でも迷い込んだのかしら。猫だったらいいなあ……。
「お嬢様、ここは私が確認いたしましょう」
ハンナが私の前に出て音のする花壇の奥の方へそっと歩き出す。続いて私もそっと足音を出さないようについていく。
花壇の花の間から何かもぞもぞと動いている。ハンナのすぐ後ろで一緒にその影を確認するために覗き込むとそこには茶色い毛の生えた動物がせっせと花をむしゃむしゃと口に運んでいた。猫と同じ大きさだけど明らかに猫ではない、大きなネズミのような生き物が前足で、花壇に植えてあった花を引っこ抜いて根まで食べいていたのだ。
しかもその花は私がポル爺から花壇の一角を借りて自分の好きな花を育てていた場所の花だった。思わず「ヒッ」と小さく悲鳴をあげると、ネズミのような顔立ちの猫の図体をした生き物はハッとした顔でこちらを見た。その生き物は手に持った花を口に運んで咄嗟に逃げようとするもハンナの動きは早かった。あっというまに捕まえて首根っこを掴んで捕獲した。
「猫……ではないわよね? 大きなネズミかしら」
「お嬢様、ネズミでもこの大きさはいません。魔物の類のものかと。始末しますか」
そう言ってハンナはギロリと手に持っている生き物を睨む。ハンナからの絶対零度の視線を受けて謎の生き物は「ヒイ」と声をあげてプルプルと震え出した。
「申し訳ございません! お腹がものすごく減っててふらふらとさまよっていたら美味しそうな匂いがしまして……。命だけはお助けを!」
前足を擦り合わせてまるで拝むような形のポーズで謎の生き物は喋り出した。衝撃的な光景に一瞬他に誰かいるのかと辺りを見回すも、誰もいない。
目の前の生き物は目をギュッと瞑って「すいません、すいません」と間違いなく呟いている。
「あなたは魔物?」
おずおずと目の前の生き物に尋ねると目の前の生き物は以前目をギュッと瞑ったまま答えた。
「私ははぐれ精霊です」
こうして私は後に友達となるはぐれ精霊と奇妙な出会いを果たしたのだった。
庭仕事をするためということを説明して、もらったバレッタを指してお礼をいうとティアお姉様は抱きついてきてすぐに機嫌をなおしてくれた。
ティアお姉様も庭仕事をしたいと言うので了承するも、それを聞いていたお母様に今日は今度出席するお茶会で着るドレスのデザインの打ち合わせがあることを告げられる。ティアお姉様はどんよりとした空気を纏ったまま、朝食後すごすごと連れられていった。
ちなみに私はそのお茶会には出席しない。お姉様の年齢に近い子供たちが集うお茶会らしく、お母様に出席するか尋ねられるも学園に入学前の一年前から社交が始まるのでそれまでいいと遠慮させてもらった。後一年あるので自由に好きなことをしていたい。
朝食を終えた後、私は庭仕事をしようと部屋を出ようとするとエヴァンお兄様に呼び止められた。
「アリア、今日は庭に行くのかな?」
「うん、そろそろ庭の手入れもしたいから」
庭師のポル爺がいるので手入れなど微々たるものだが、ポル爺と会話をしながら庭仕事をするのは私の好きな時間の一つだ。
「僕も最近ポル爺と会ってないから話したいんだけど、後で顔を出してもいいかな」
「わあ! ポル爺もきっと喜ぶわ」
「じゃあ、後で」
そう言って別れた後、ハンナを伴って庭に向かった。
サーナイト家の庭園は伯爵家の中でも広い方だという。私は他の伯爵家を知らないからエヴァンお兄様から聞いた話だと、こんなにいろいろな種類の花を咲かせているのはうちぐらいらしい。それはうちのお母様が花が好きでポル爺もいろいろな国から種を取り寄せて、この国の気候に合うように改良したりしているからだ。庭園は真ん中に噴水があり、それをぐるりと囲った花壇にはいろいろな花が咲き誇っている。いつ来てもここは私に癒しと元気をくれる。
あたりを見回してポル爺を探すと、花壇の向こうの植え込みから見慣れた麦わら帽子がチラチラと見え隠れしていた。
「ポル爺!」
「おお、アリアお嬢様。ご機嫌いかがですかな」
呼びかけられて、こちらを見たポル爺は白い口髭を動かしながら笑顔を向ける。植え込みの手入れをしていたのか手には大きな裁ち鋏が握られている。
「ふふ、今日は久しぶりにポル爺に会えるから元気よ」
「それは、嬉しいことを言ってくれますなあ。アリアお嬢様の道具を取ってくるからお待ちください」
「私が取りに行きましょうか」とハンナがポル爺に声をかけるも「ゆっくりお嬢様と庭でも見てなさい」とニコニコしながら言って道具小屋へ歩いて行った。その姿を見送ってからハンナと一緒に花壇を見ながらゆっくりと歩き出す。ハンナは私が花を見ている時は声を掛けない配慮をしてくれる。
それは私が花を見ながらつい考えごとをしたり、ぼーっとするこの時間を大切にしているから。花を見ていると癒しと元気をもらえるし、自分の悩みもここだと解決する気がするからだ。
私はこの時自分の体質について考えていた。グレース様は私が精霊に嫌われてしまうのは、私の心臓を守る「何か」が得体の知れないものだからだと言っていた。精霊は他の精霊の色のようなものを見ることができて、私を覆っている魔力の色は精霊のものではないから。
このままでは十中八九精霊召喚の儀に失敗する……。精霊召喚の儀に失敗するということは貴族として致命的だ。
精霊と契約できなかった貴族は騎士団か文官、どちらも狭き門である。相当に剣術の才か頭が良くないとできない。
剣術の稽古はまだ始めてないし、勉強の方は普通だし今の時点で正直微妙である。
とりあえず近いうちから剣術の稽古を始められるようにお父様に打診しなくては。
あとは女だったら自分より家格の低い家の相手と結婚だけど正直今は結婚は考えられない。
そんなことを考えているとむしゃむしゃと何か咀嚼音の様な音が聞こえてきた。
思わずピタリと歩みを止める。庭園に猫でも迷い込んだのかしら。猫だったらいいなあ……。
「お嬢様、ここは私が確認いたしましょう」
ハンナが私の前に出て音のする花壇の奥の方へそっと歩き出す。続いて私もそっと足音を出さないようについていく。
花壇の花の間から何かもぞもぞと動いている。ハンナのすぐ後ろで一緒にその影を確認するために覗き込むとそこには茶色い毛の生えた動物がせっせと花をむしゃむしゃと口に運んでいた。猫と同じ大きさだけど明らかに猫ではない、大きなネズミのような生き物が前足で、花壇に植えてあった花を引っこ抜いて根まで食べいていたのだ。
しかもその花は私がポル爺から花壇の一角を借りて自分の好きな花を育てていた場所の花だった。思わず「ヒッ」と小さく悲鳴をあげると、ネズミのような顔立ちの猫の図体をした生き物はハッとした顔でこちらを見た。その生き物は手に持った花を口に運んで咄嗟に逃げようとするもハンナの動きは早かった。あっというまに捕まえて首根っこを掴んで捕獲した。
「猫……ではないわよね? 大きなネズミかしら」
「お嬢様、ネズミでもこの大きさはいません。魔物の類のものかと。始末しますか」
そう言ってハンナはギロリと手に持っている生き物を睨む。ハンナからの絶対零度の視線を受けて謎の生き物は「ヒイ」と声をあげてプルプルと震え出した。
「申し訳ございません! お腹がものすごく減っててふらふらとさまよっていたら美味しそうな匂いがしまして……。命だけはお助けを!」
前足を擦り合わせてまるで拝むような形のポーズで謎の生き物は喋り出した。衝撃的な光景に一瞬他に誰かいるのかと辺りを見回すも、誰もいない。
目の前の生き物は目をギュッと瞑って「すいません、すいません」と間違いなく呟いている。
「あなたは魔物?」
おずおずと目の前の生き物に尋ねると目の前の生き物は以前目をギュッと瞑ったまま答えた。
「私ははぐれ精霊です」
こうして私は後に友達となるはぐれ精霊と奇妙な出会いを果たしたのだった。
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