精霊に嫌われている転生令嬢の奮闘記

あまみ

文字の大きさ
13 / 91
1章

1−13

しおりを挟む
 「はぐれ精霊」とは、人間の守護精霊精霊のことであると言われている。
 はぐれになってしまう精霊の特徴ははっきりとは解明されておらず、さまざまな説がある。
 はぐれ精霊は学者たちが研究するも未だ謎な部分が多い精霊である。契約した精霊達に尋ねてみても精霊達すらもわからないらしく、曰く突然精霊界へ戻れなくなったものを指すらしいとか、守護していた人間が死を迎えてそのまま墓の側に居続けてただ帰らないからはぐれになったとか。
 精霊界におらずこちらで人間と契約せずに暮らしている精霊を指しているとも言われている。定義がはっきりされておらず、昔の文献にもあまり記されていない。
 ただ、精霊達は精霊召喚の儀で呼ばれない限りはこちらに来ることはできないらしいので人間の守護精霊精霊を指すことの方が多い。 

 話すことができる魔物は上位の魔物ならありうることらしいが、この目の前の大きめなネズミのような生き物が上位の魔物には見えない。
 魔物図鑑でもネズミ型の魔物はいるがこのように大きくはないし、この風貌の魔物は図鑑で見たことがない。
 第一この屋敷は魔物が入れないように結界を施しているとお父様から聞いたことがある。
 それにしても精霊にしてはなんだか野性味があるというか、人間臭いというか……。

 「あなた、本当に魔物ではないのね?」
 「はい! どうか許してください!」

 頭を押さえてブルブルと震えている様子を見ているとなんだかかわいそうになってきた。
 ハンナに下ろすように言うと渋々ながらもはぐれ精霊に「逃げても無駄ですからね」と低い声で言って降ろした。
 はぐれ精霊は土下座のような姿勢で未だ震えているもお腹がぐうぐうと鳴っている。

 「お腹が空いているのね、でもこの花壇の花は大事に育てているものだからこれで勘弁してくれないかしら」

 ポケットから紙に包んだアーモンドのクッキーを出して差し出すとバッと起き上がったはぐれ精霊は「私にですか……?」と信じられないものを見るような目で私を一瞬見るも差し出されたクッキーに釘付けになる。
 「毒は入ってないわよ?私のおやつにする予定だったし」そう言ってクッキーを一枚齧って見せる。「ね?」と声を掛けると恐る恐る小さい前足?でクッキーを一枚手に取ってじっと見つめた後、思い切って口に入れた。びっくりしたような表情をした後サクサクと目にも止まらぬ速さで無言で食べ始めた。
 前足で器用に食べながら髭はピクピク動いている。
 よく見ると目はまんまるでこれは可愛い気もする……。
 思わず撫でたい衝動を押さえながら食べている様子を見守っていると、はぐれ精霊はまんまるの黒目から涙がポロポロとこぼれ落ちていた。
 口に合わなかったかと慌ててハンカチを取り出そうとすると、咀嚼音と交互に何やら耳に入ってくる。よく聞いてみると小さな声で

「美味しい、美味しい」

 と何度も呟いていた。私はその様子を食べ終えるまで声を掛けずになんとなくだけど見ないようにしてずっと花壇の花を見つめていた。



「この御恩は一生かけてお返しします」

 食べ終えたはぐれ精霊は先程よりもピシッとした様子で私にお礼を言った。少しだけ元気になった姿にホッとしながらも私は先程から気になっていることを聞いてみた。

 「あなたはなぜこんなところへ? はぐれ精霊は人間の住むところではマナが少ないからいるはずがないと思っていたんだけど」

 精霊は空腹をもともと感じない。空気中のマナを取り込むことで魔力を回復させていると言われている。
 空気中に漂っているされるマナだが、もともと人間がいるところでは少なくて、自然のあるところが多いとされている。それは人間がマナを取り込んで魔法などを使っているからである。精霊は人間が保有している魔力を得ることで力が強くなると言われている。
 はぐれ精霊なるものは契約している人間がいないため、魔力を得ることもできないためマナの多い森の中など人気のない場所にいるとさている。

 「実は……ひっそりと暮らしてたのですが魔物にばれてしまい追いかけ回され住処を追われてしまったのです」

 ここへどうやってきたのかと聞けば、魔物に執拗に追いかけ回されて体力がどんどん疲弊していった矢先にいつもは捕まらない野生鳥にくわえられてこの敷地に落とされてしまったらしい。運良く、植え込みに落ちて助かったもののマナを取り込めるほど体力もないところへ魔力を感じて辿ってみるとそこには私が植えた花があったので思わず食べてしまったとのことだった。

 「だからといってお嬢様の育てていた花を食べるなんて……」

 ハンナから絶対零度の視線を浴びせられてはぐれ精霊はまたもやブルブルと震え出す。

 「まあまあ、ハンナ。お腹が空いていたのならしょうがないわ、それはともかく、魔力を感じてって言ってたけど花にも魔力ってあるのかしら?」

 そう尋ねるとはぐれ精霊はおずおずと戸惑いながら答えてくれた。

 「魔力自体は自然にあるものでしたら何にでも宿っているのですが……」

 言葉をためらっているような様子に視線で先を促す。

 「その……ここの花壇の花は特に強い魔力を感じて」

 グレース様から言われた自分の魔力が濃いということを思い出す。お菓子のように手づから世話をしていたから私の濃い魔力が宿ったと言うことか。

 先程からずっと考えていたことの突破口の糸口が見つかったような気がした。名案を思いついた私は口の端が自然に上がっているのが自分でもわかった。

 「ねえ、あなたうちに来ない?」

 その途端風が吹き抜けた。目の前のはぐれ精霊はぽかんとした表情で固まっていた。

 
 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

3歳で捨てられた件

玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。 それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。 キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。

十六歳の妹の誕生日、私はこの世を去る。

あいみ
恋愛
碌に手入れもされていない赤毛の伯爵令嬢、スカーレット。 宝石のように澄んだ青い髪をした伯爵令嬢、ルビア。 対極のような二人は姉妹。母親の違う。 お世辞にも美しいと言えない前妻の子供であるスカーレットは誰からも愛されない。 そばかすだらけで、笑顔が苦手な醜い姉。 天使のように愛らしく、誰からも好かれる可愛い妹。 生まれつき体の弱いルビアは長くは生きられないと宣告されていた。 両親の必死に看病や、“婚約者の献身的なサポート”のおかげで、日常生活が送れるようになるまで回復した。 だが……。運命とは残酷である。 ルビアの元に死神から知らせが届く。 十六歳の誕生日、ルビアの魂は天に還る、と。 美しい愛しているルビア。 失いたくない。殺されてなるものか。 それぞれのルビアを大切に思う想いが、一つの選択をさせた。 生まれてくる価値のなかった、醜いスカーレットを代わりに殺そう、と。 これは彼女が死ぬ前と死んだ後の、少しの物語。

過労死して転生したので絶対に働かないと決めたのに、何をしても才能がバレる件

やんやんつけバー
ファンタジー
過労死して異世界転生。今度こそ絶対に働かないと決めたのに、何をやっても才能がバレてしまう——。農村で静かに暮らすはずが、魔力、農業、医療……気づけば誰も放っておかない。チートで穏やか系の異世界スローライフ。

転生後はゆっくりと

衣更月
ファンタジー
貧しい集落で生まれたリリは、生まれた瞬間から前世の記憶があった。 日本人特有の”配慮”に徹した赤ん坊を演じていたことで、両親から距離を置かれた挙句、村人からも「不気味な子」として敬遠されることに…。 そして、5才の誕生日に遠くの町に捨てられた。 でも、リリは悲観しない。 前世の知識チートは出来ないけど、大人メンタルで堅実に。 目指すは憧れのスローライフが出来るほど、ほどほどの守銭奴としてリリは異世界人として順応していく。 全25話(予定)

転生してチートを手に入れました!!生まれた時から精霊王に囲まれてます…やだ

如月花恋
ファンタジー
…目の前がめっちゃ明るくなったと思ったら今度は…真っ白? 「え~…大丈夫?」 …大丈夫じゃないです というかあなた誰? 「神。ごめんね~?合コンしてたら死んじゃってた~」 …合…コン 私の死因…神様の合コン… …かない 「てことで…好きな所に転生していいよ!!」 好きな所…転生 じゃ異世界で 「異世界ってそんな子供みたいな…」 子供だし 小2 「まっいっか。分かった。知り合いのところ送るね」 よろです 魔法使えるところがいいな 「更に注文!?」 …神様のせいで死んだのに… 「あぁ!!分かりました!!」 やたね 「君…結構策士だな」 そう? 作戦とかは楽しいけど… 「う~ん…だったらあそこでも大丈夫かな。ちょうど人が足りないって言ってたし」 …あそこ? 「…うん。君ならやれるよ。頑張って」 …んな他人事みたいな… 「あ。爵位は結構高めだからね」 しゃくい…? 「じゃ!!」 え? ちょ…しゃくいの説明ぃぃぃぃ!!

規格外で転生した私の誤魔化しライフ 〜旅行マニアの異世界無双旅〜

ケイソウ
ファンタジー
チビで陰キャラでモブ子の桜井紅子は、楽しみにしていたバス旅行へ向かう途中、突然の事故で命を絶たれた。 死後の世界で女神に異世界へ転生されたが、女神の趣向で変装する羽目になり、渡されたアイテムと備わったスキルをもとに、異世界を満喫しようと冒険者の資格を取る。生活にも慣れて各地を巡る旅を計画するも、国の要請で冒険者が遠征に駆り出される事態に……。

【本編完結】転生令嬢は自覚なしに無双する

ベル
ファンタジー
ふと目を開けると、私は7歳くらいの女の子の姿になっていた。 きらびやかな装飾が施された部屋に、ふかふかのベット。忠実な使用人に溺愛する両親と兄。 私は戸惑いながら鏡に映る顔に驚愕することになる。 この顔って、マルスティア伯爵令嬢の幼少期じゃない? 私さっきまで確か映画館にいたはずなんだけど、どうして見ていた映画の中の脇役になってしまっているの?! 映画化された漫画の物語の中に転生してしまった女の子が、実はとてつもない魔力を隠し持った裏ボスキャラであることを自覚しないまま、どんどん怪物を倒して無双していくお話。 設定はゆるいです

モブ転生とはこんなもの

詩森さよ(さよ吉)
恋愛
あたしはナナ。貧乏伯爵令嬢で転生者です。 乙女ゲームのプロローグで死んじゃうモブに転生したけど、奇跡的に助かったおかげで現在元気で幸せです。 今ゲームのラスト近くの婚約破棄の現場にいるんだけど、なんだか様子がおかしいの。 いったいどうしたらいいのかしら……。 現在筆者の時間的かつ体力的に感想などを受け付けない設定にしております。 どうぞよろしくお願いいたします。 他サイトでも公開しています。

処理中です...