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2章
2−3
しおりを挟む部屋の鍵を受け取ったらそれぞれ部屋に荷物を置きに行った。部屋割りは私とハンナ、リクとレイ様の二部屋だ。
夕食は下の隣接されているレストランで取ることになった。夕食までまだ時間があるのでハンナに備え付けのキッチンでお茶を入れてもらう。
夕食前なのでお菓子は出ない。少し口寂しく思いながらも我慢してハンナが入れてくれた紅茶をいつもはストレートで飲むのだがミルクと砂糖を入れて飲む。向かい合わせで一緒に紅茶を飲んでいたハンナが「そういえば」と思い出したように顔を上げた。
「先程、受付の時に宿の従業員が出歩く時は暗くなる前に宿に絶対に帰ってくるようにと忠告を受けました」
「まあ、女だけで出歩くのはどこも危ないしね」
「最初、そのつもりの忠告と思っていたのですが『子供を精霊がさらうから』と言われまして……」
「レイ様から聞いた噂ね。それで、実際にあったの?」
「はい。詳しく聞いてみると最近、立て続けに実際に子供が三人行方不明だそうです。明日立つからと言うと話してくれました」
ぶ、物騒なことになっている……。じゃあ、さっきの壮年の男性は?そう思ってハンナに先程あったことを話すとみるみるうちに顔が青ざめていった。
「申し訳ございません! まさか宿の中で声を掛けてくる輩がいようとは思いませんでした」
「ううん、リクもいたしレイ様もすぐに来てくれたから。何にせよ実際にそんなことがあったなら注意したほうがいいわね」
「宿の者にも伝えておきましょう。それにしてもレイ殿は護衛なのにおそばを離れるなんて……」
「しょうがないわよ、まさか宿の中にそんなことする人がいると思わないし。それに実際に危害を加えられた訳じゃないし、その人が悪い人かは限らないわ」
「お穣様がそう言うのなら……」
眉を寄せながら渋々といった様子で引いてくれた。
それから夕食の時間になるまで持ってきた魔物図鑑を読んだりしてのんびりと過ごした。図鑑を読みながら、ふと先程の壮年の男性のことを思い出す。
あの人なんでリクが精霊って分かったんだろう……
リクも最初は魔物に間違えられていたけど今では風呂に入るようになってから出会った時より綺麗になったし、精霊ってわかる人にはわかるんだろうか……。
そう考えながら出会った時より毛艶もよくなり、少し丸くなったリクの姿を思い出して思わず一人でクスリとするのだった。
宿泊している部屋を出て、一階の待ち合わせ場所に行くとリクとレイ様はカウンターの近くの椅子に座って待っていた。こちらに気づいたようでレイ様はひらひらと手を振っている。
「待たせたかしら? ごめんなさい」
「大丈夫だよ~、少し前に戻って来たばかりだから」
レイ様のその言葉に首を傾げているといささかリクはぐったりしている。リクの髭も心なしかしなだれて見える。
「リク、大丈夫? なんだか顔色がよくないわ」
「大丈夫です。ちょっとレイ殿に連れ回されて……」
「どこかに出かけていたの?」
するとレイ様がニコニコと「ちょっと屋台に行ってきたんだよ~」と私に笑いかけた。
夕食前に屋台に行ってきたことに少し羨ましいと思っていると、ハンナが眉を顰めてレイ様に「レイ様」と声を掛けた。
「護衛としていささか自由すぎはしませんか?」
「そうかなあ~、だってハンナがお嬢様についているし~問題ないと思ったんだけど」
なおもヘラヘラしながら言うレイ様に苛立ったようにハンナは眉を顰めた。先程から周りの注目を浴びている気がして慌ててハンナの袖を掴んだ。
「ハンナ、ここで言うことではないわ」
私に言われてからハッとした表情でハンナは周りを見渡し、注目を浴びていることに気づいたようだ。バツが悪そうな表情で小声で「申し訳ありません」と呟いた。
「レストランの予約を確認してまいります。リク、お嬢様を任せます」
「わかった」
そう言ってハンナはレストランの方へ足早に向かっていった。その姿を見送ってからレイ様に向き直る。
「ハンナがごめんなさい……悪気はないの、ただ少し心配性で」
「大丈夫だよ~姪っ子だし可愛いもんだよ」
そう言ってレイ様は笑った。気分を悪くしてないことにホッとしているとリクが口を開いた。
「こちらも宿を出る際に一声掛けておくべきでした。こちらも配慮が足らずすみません」
「ん~そういえばそうだね。ごめんね」
初めての旅なのだ。これから気をつけていけばいい。ハンナにも後からフォローを入れておこう。
レイ様は「そういえば」と切り出した。
「屋台に行ったんだけどさ~どこも店じまいの準備してたんだよ~。前来たときは夜まで空いてたのに」
「屋台の店主にレイ殿が声を掛けたところ、どうやら噂の子供の連れ去りがあるから早く店を閉めているようでした」
「物騒になってきたから早く閉めてるんだって~」
先程ハンナから聞いた話を思い出した。子供が三人立て続けに行方不明──。薄ら寒いものを感じるが自分は明日にはここを立つのだからと頭を振る。
ちょうどそのときハンナが呼びに戻ってくる姿が見えた。先程と違っていつもの表情のハンナに安堵して笑いかけた。ハンナは目が合うと恥ずかしそうに微笑んだ。どうやらちゃんと切り替えができたようだ。
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