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2章
2−25
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その日の夕方、町長の秘書がローランドさんに連れられて宿にやってきた。疲れ切った様子の痩せた男性だった。
ローランドさんが言うには町長の仕事の大半はこの男性が請け負っているらしい。つまり、この秘書の男性に任せきりということだ。屋敷と町長室を行き来しているこの男性は仕事がたまっているからとさっさと契約書を作成して、契約書の内容を双方確認し私の護衛がいない間の補償金の金額を確認、レイ様の給金の金額をレイ様と話し合った後そそくさと帰って行った。
てきぱきとこなすのを見て仕事ができるのはわかったが疲れからか身体がゆらゆらと揺れているのが気にかかった。
「あの秘書の方、大丈夫かしら?」
思わず独り言のようにぽつりとこぼすとローランドさんが「後でよく効く栄養ドリンクを持っていく」と苦い表情で答えた。
あのあとの町長の様子をローランドさんにたずねると、ローランドさんは困ったような表情をした。なんでもあの後レストランの従業員にたずねると、町長は顔を真っ赤にしたまま誰とも会話をせず、すぐさま屋敷に帰ったという。ちなみに頭は元通りだったとか。ローランドさんが屋敷に秘書の方を迎えに行ったときは来客が来ていたらしく、会うことは出来なかったらしい。
どうか怒っていませんように……。
そう心の中で願っているとローランドさんが真剣な表情で私に向き直った。不思議に思っているとローランドさんは頭を下げた。
「今回の件、そちらの都合があるのにも関わらずご助力感謝する。必ず早く旅立てるように事件を解決する」
今回、当初二日だけと滞在期間を伸ばしてほしいとローランドさんは言っていたが先程の契約書で交わした私達の滞在日数は、明日から五日間だ。
もしくは事件が終わったとされる手がかりが発見されたら五日以内でも契約は終了となる。
終わったとされる手がかりとはいわゆる遺品だ。それこそ、身につけていたもの、もしくは遺体が発見されたらこの事件の捜索は終了となる。この日数はローランドさん達が来る事前にリクに相談して決めた。
レイ様はもともと雇い主であるお父様からかなり支払ってもらっているから日数が伸びたところで問題ないと承諾を得ている。
お父様からも先程グリフォン便で手紙を受け取った。馬車の遅延もあったし、今回のことはお父様でも気になることがあるようで危ない真似をしないなら数日は伸ばしても良いと許可を得ることができた。
きっとエヴァンお兄様もお父様を説得してくれたのだろうと思う。
ローランドさんが捜査のことを話し合いたいと早速レイ様を連れて行ってしまったので、リクが部屋にやってきた。ハンナは茶葉を買い足しにいくと出かけていった。
ハンナが買い出しに行く前に入れてくれたお茶を飲みながらリクと話をする。
「アリアお嬢様はもともとここに残る気だったので?」
「やっぱりバレてた?」
「フローラに明日立つことを言っていなかったでしょう? 別れの言葉も言わずに旅立つことを不思議に思いまして」
もともとここには残る気でいたのはたしかだ。
リクの言う通り、フローラに別れの言葉を言わなかったのも、もう少し滞在するつもりでお父様に手紙を書くことなど頭の中で考えていた。だが、レイ様の給金のこともあって最初にローランドさんからお願いされたときにあの場ですぐに答えを出すのははばかられた。
「結果的に、タイミングよく町長がここへきて私を呼び出してくれたおかげで懸念していたことがなくなってよかったわね」
そう言って舌を出すとリクは呆れたようにため息をついた。「それに」と私は続けた。
「私がここに滞在する日数が伸びてしまうことで、その分グレース様の依頼が滞ってしまうのも気になっていたし……」
「だから、先程契約書を交わす前に私にたずねたのでしょう?」
「屋敷を出る前にグレース様が『何かわかったらリクを通じて知らせる』とおっしゃっていたからリクとグレース様の間になんらかの伝達手段があるだろうなとは思っていたの」
「よく覚えていましたね」
感心したようにいうリクに苦笑した。
そう、契約書を交わす前にリクにどれくらいの日数ならここを残っても大丈夫そうか相談したときに、グレース様にたずねることができるなら聞いて欲しいとお願いしたのだ。
あのときリクは瞳を閉じてすぐさま魔力を放出し始めた。あたりに風が吹いたかと思うと光の粒子がキラキラと舞い散った。その様子を黙って見守っていると、しばらくすると魔力が霧散して辺りに舞っていた光の粒子は消えた。
「グレース様に聞きました、眷属の精霊の件については精霊界の者に聞いたところ、三年たっていたとしても黒精霊になれば眷属という繋がりがあるグレース様が異変を感じることができると言われたそうです。今のところ、グレース様にそのような異変を感じることはないためここへ滞在することは問題ないとのことでした」
「でも、なってからでは遅いのでは?」
「本来、黒精霊になるのも精霊によって期間はまちまちだそうです。時間をかけて黒精霊になるものもいれば、契約者との繋がりが消えた途端黒精霊になるものだっているそうです。眷属という繋がりがあるならば多少は前兆のようなものも感じとれると言われたそうで……。グレース様は自信はないようでしたが」
「グレース様はなんと?」
「第一にアリアお嬢様の意思を大切にしてほしいとのことでした。ハーベストの街で滞りなく探索ができるように精霊界でもグレース様が動いているそうなので心配するなとおっしゃっていました」
それを聞いてひとまず安心した私は、リクとキヨラに滞在する期間を五日と期限を決めたのだった。「それと」とリクが髭をしょんぼりとさせて気まずそうにこちらを見た。
「グレース様が『魔力訓練を欠かさず行うように』と……」
頭の隅に追い出していたことをすっかり忘れていた私は「ああ、そうだった……」とうなだれた。
ローランドさんが言うには町長の仕事の大半はこの男性が請け負っているらしい。つまり、この秘書の男性に任せきりということだ。屋敷と町長室を行き来しているこの男性は仕事がたまっているからとさっさと契約書を作成して、契約書の内容を双方確認し私の護衛がいない間の補償金の金額を確認、レイ様の給金の金額をレイ様と話し合った後そそくさと帰って行った。
てきぱきとこなすのを見て仕事ができるのはわかったが疲れからか身体がゆらゆらと揺れているのが気にかかった。
「あの秘書の方、大丈夫かしら?」
思わず独り言のようにぽつりとこぼすとローランドさんが「後でよく効く栄養ドリンクを持っていく」と苦い表情で答えた。
あのあとの町長の様子をローランドさんにたずねると、ローランドさんは困ったような表情をした。なんでもあの後レストランの従業員にたずねると、町長は顔を真っ赤にしたまま誰とも会話をせず、すぐさま屋敷に帰ったという。ちなみに頭は元通りだったとか。ローランドさんが屋敷に秘書の方を迎えに行ったときは来客が来ていたらしく、会うことは出来なかったらしい。
どうか怒っていませんように……。
そう心の中で願っているとローランドさんが真剣な表情で私に向き直った。不思議に思っているとローランドさんは頭を下げた。
「今回の件、そちらの都合があるのにも関わらずご助力感謝する。必ず早く旅立てるように事件を解決する」
今回、当初二日だけと滞在期間を伸ばしてほしいとローランドさんは言っていたが先程の契約書で交わした私達の滞在日数は、明日から五日間だ。
もしくは事件が終わったとされる手がかりが発見されたら五日以内でも契約は終了となる。
終わったとされる手がかりとはいわゆる遺品だ。それこそ、身につけていたもの、もしくは遺体が発見されたらこの事件の捜索は終了となる。この日数はローランドさん達が来る事前にリクに相談して決めた。
レイ様はもともと雇い主であるお父様からかなり支払ってもらっているから日数が伸びたところで問題ないと承諾を得ている。
お父様からも先程グリフォン便で手紙を受け取った。馬車の遅延もあったし、今回のことはお父様でも気になることがあるようで危ない真似をしないなら数日は伸ばしても良いと許可を得ることができた。
きっとエヴァンお兄様もお父様を説得してくれたのだろうと思う。
ローランドさんが捜査のことを話し合いたいと早速レイ様を連れて行ってしまったので、リクが部屋にやってきた。ハンナは茶葉を買い足しにいくと出かけていった。
ハンナが買い出しに行く前に入れてくれたお茶を飲みながらリクと話をする。
「アリアお嬢様はもともとここに残る気だったので?」
「やっぱりバレてた?」
「フローラに明日立つことを言っていなかったでしょう? 別れの言葉も言わずに旅立つことを不思議に思いまして」
もともとここには残る気でいたのはたしかだ。
リクの言う通り、フローラに別れの言葉を言わなかったのも、もう少し滞在するつもりでお父様に手紙を書くことなど頭の中で考えていた。だが、レイ様の給金のこともあって最初にローランドさんからお願いされたときにあの場ですぐに答えを出すのははばかられた。
「結果的に、タイミングよく町長がここへきて私を呼び出してくれたおかげで懸念していたことがなくなってよかったわね」
そう言って舌を出すとリクは呆れたようにため息をついた。「それに」と私は続けた。
「私がここに滞在する日数が伸びてしまうことで、その分グレース様の依頼が滞ってしまうのも気になっていたし……」
「だから、先程契約書を交わす前に私にたずねたのでしょう?」
「屋敷を出る前にグレース様が『何かわかったらリクを通じて知らせる』とおっしゃっていたからリクとグレース様の間になんらかの伝達手段があるだろうなとは思っていたの」
「よく覚えていましたね」
感心したようにいうリクに苦笑した。
そう、契約書を交わす前にリクにどれくらいの日数ならここを残っても大丈夫そうか相談したときに、グレース様にたずねることができるなら聞いて欲しいとお願いしたのだ。
あのときリクは瞳を閉じてすぐさま魔力を放出し始めた。あたりに風が吹いたかと思うと光の粒子がキラキラと舞い散った。その様子を黙って見守っていると、しばらくすると魔力が霧散して辺りに舞っていた光の粒子は消えた。
「グレース様に聞きました、眷属の精霊の件については精霊界の者に聞いたところ、三年たっていたとしても黒精霊になれば眷属という繋がりがあるグレース様が異変を感じることができると言われたそうです。今のところ、グレース様にそのような異変を感じることはないためここへ滞在することは問題ないとのことでした」
「でも、なってからでは遅いのでは?」
「本来、黒精霊になるのも精霊によって期間はまちまちだそうです。時間をかけて黒精霊になるものもいれば、契約者との繋がりが消えた途端黒精霊になるものだっているそうです。眷属という繋がりがあるならば多少は前兆のようなものも感じとれると言われたそうで……。グレース様は自信はないようでしたが」
「グレース様はなんと?」
「第一にアリアお嬢様の意思を大切にしてほしいとのことでした。ハーベストの街で滞りなく探索ができるように精霊界でもグレース様が動いているそうなので心配するなとおっしゃっていました」
それを聞いてひとまず安心した私は、リクとキヨラに滞在する期間を五日と期限を決めたのだった。「それと」とリクが髭をしょんぼりとさせて気まずそうにこちらを見た。
「グレース様が『魔力訓練を欠かさず行うように』と……」
頭の隅に追い出していたことをすっかり忘れていた私は「ああ、そうだった……」とうなだれた。
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