精霊に嫌われている転生令嬢の奮闘記

あまみ

文字の大きさ
54 / 91
2章

2−25

しおりを挟む
 その日の夕方、町長の秘書がローランドさんに連れられて宿にやってきた。疲れ切った様子の痩せた男性だった。
 ローランドさんが言うには町長の仕事の大半はこの男性が請け負っているらしい。つまり、この秘書の男性に任せきりということだ。屋敷と町長室を行き来しているこの男性は仕事がたまっているからとさっさと契約書を作成して、契約書の内容を双方確認し私の護衛がいない間の補償金の金額を確認、レイ様の給金の金額をレイ様と話し合った後そそくさと帰って行った。
 てきぱきとこなすのを見て仕事ができるのはわかったが疲れからか身体がゆらゆらと揺れているのが気にかかった。

 「あの秘書の方、大丈夫かしら?」

 思わず独り言のようにぽつりとこぼすとローランドさんが「後でよく効く栄養ドリンクを持っていく」と苦い表情で答えた。

 あのあとの町長の様子をローランドさんにたずねると、ローランドさんは困ったような表情をした。なんでもあの後レストランの従業員にたずねると、町長は顔を真っ赤にしたまま誰とも会話をせず、すぐさま屋敷に帰ったという。ちなみに頭は元通りだったとか。ローランドさんが屋敷に秘書の方を迎えに行ったときは来客が来ていたらしく、会うことは出来なかったらしい。
 どうか怒っていませんように……。
 そう心の中で願っているとローランドさんが真剣な表情で私に向き直った。不思議に思っているとローランドさんは頭を下げた。

「今回の件、そちらの都合があるのにも関わらずご助力感謝する。必ず早く旅立てるように事件を解決する」


 今回、当初二日だけと滞在期間を伸ばしてほしいとローランドさんは言っていたが先程の契約書で交わした私達の滞在日数は、明日から五日間だ。
 もしくは事件が終わったとされる手がかりが発見されたら五日以内でも契約は終了となる。
 終わったとされる手がかりとはいわゆるだ。それこそ、身につけていたもの、もしくは遺体が発見されたらこの事件の捜索は終了となる。この日数はローランドさん達が来る事前にリクに相談して決めた。

 レイ様はもともと雇い主であるお父様からかなり支払ってもらっているから日数が伸びたところで問題ないと承諾を得ている。
 お父様からも先程グリフォン便で手紙を受け取った。馬車の遅延もあったし、今回のことはお父様でも気になることがあるようで危ない真似をしないなら数日は伸ばしても良いと許可を得ることができた。
きっとエヴァンお兄様もお父様を説得してくれたのだろうと思う。


 ローランドさんが捜査のことを話し合いたいと早速レイ様を連れて行ってしまったので、リクが部屋にやってきた。ハンナは茶葉を買い足しにいくと出かけていった。
 ハンナが買い出しに行く前に入れてくれたお茶を飲みながらリクと話をする。

 「アリアお嬢様はもともとここに残る気だったので?」
 「やっぱりバレてた?」
 「フローラに明日立つことを言っていなかったでしょう? 別れの言葉も言わずに旅立つことを不思議に思いまして」

 もともとここには残る気でいたのはたしかだ。
 リクの言う通り、フローラに別れの言葉を言わなかったのも、もう少し滞在するつもりでお父様に手紙を書くことなど頭の中で考えていた。だが、レイ様の給金のこともあって最初にローランドさんからお願いされたときにあの場ですぐに答えを出すのははばかられた。

 「結果的に、タイミングよく町長がここへきて私を呼び出してくれたおかげで懸念していたことがなくなってよかったわね」

 そう言って舌を出すとリクは呆れたようにため息をついた。「それに」と私は続けた。

 「私がここに滞在する日数が伸びてしまうことで、その分グレース様の依頼が滞ってしまうのも気になっていたし……」
 「だから、先程契約書を交わす前に私にたずねたのでしょう?」
 「屋敷を出る前にグレース様が『何かわかったらリクを通じて知らせる』とおっしゃっていたからリクとグレース様の間になんらかの伝達手段があるだろうなとは思っていたの」
 「よく覚えていましたね」

 感心したようにいうリクに苦笑した。
 そう、契約書を交わす前にリクにどれくらいの日数ならここを残っても大丈夫そうか相談したときに、グレース様にたずねることができるなら聞いて欲しいとお願いしたのだ。

 あのときリクは瞳を閉じてすぐさま魔力を放出し始めた。あたりに風が吹いたかと思うと光の粒子がキラキラと舞い散った。その様子を黙って見守っていると、しばらくすると魔力が霧散して辺りに舞っていた光の粒子は消えた。

 「グレース様に聞きました、眷属の精霊の件については精霊界の者に聞いたところ、三年たっていたとしても黒精霊になれば眷属という繋がりがあるグレース様が異変を感じることができると言われたそうです。今のところ、グレース様にそのような異変を感じることはないためここへ滞在することは問題ないとのことでした」
 「でも、なってからでは遅いのでは?」
 「本来、黒精霊になるのも精霊によって期間はまちまちだそうです。時間をかけて黒精霊になるものもいれば、契約者との繋がりが消えた途端黒精霊になるものだっているそうです。眷属という繋がりがあるならば多少は前兆のようなものも感じとれると言われたそうで……。グレース様は自信はないようでしたが」
 「グレース様はなんと?」
 「第一にアリアお嬢様の意思を大切にしてほしいとのことでした。ハーベストの街で滞りなく探索ができるように精霊界でもグレース様が動いているそうなので心配するなとおっしゃっていました」

 それを聞いてひとまず安心した私は、リクとキヨラに滞在する期間を五日と期限を決めたのだった。「それと」とリクが髭をしょんぼりとさせて気まずそうにこちらを見た。


 「グレース様が『魔力訓練を欠かさず行うように』と……」


 頭の隅に追い出していたことをすっかり忘れていた私は「ああ、そうだった……」とうなだれた。
 

 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

3歳で捨てられた件

玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。 それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。 キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。

十六歳の妹の誕生日、私はこの世を去る。

あいみ
恋愛
碌に手入れもされていない赤毛の伯爵令嬢、スカーレット。 宝石のように澄んだ青い髪をした伯爵令嬢、ルビア。 対極のような二人は姉妹。母親の違う。 お世辞にも美しいと言えない前妻の子供であるスカーレットは誰からも愛されない。 そばかすだらけで、笑顔が苦手な醜い姉。 天使のように愛らしく、誰からも好かれる可愛い妹。 生まれつき体の弱いルビアは長くは生きられないと宣告されていた。 両親の必死に看病や、“婚約者の献身的なサポート”のおかげで、日常生活が送れるようになるまで回復した。 だが……。運命とは残酷である。 ルビアの元に死神から知らせが届く。 十六歳の誕生日、ルビアの魂は天に還る、と。 美しい愛しているルビア。 失いたくない。殺されてなるものか。 それぞれのルビアを大切に思う想いが、一つの選択をさせた。 生まれてくる価値のなかった、醜いスカーレットを代わりに殺そう、と。 これは彼女が死ぬ前と死んだ後の、少しの物語。

過労死して転生したので絶対に働かないと決めたのに、何をしても才能がバレる件

やんやんつけバー
ファンタジー
過労死して異世界転生。今度こそ絶対に働かないと決めたのに、何をやっても才能がバレてしまう——。農村で静かに暮らすはずが、魔力、農業、医療……気づけば誰も放っておかない。チートで穏やか系の異世界スローライフ。

転生後はゆっくりと

衣更月
ファンタジー
貧しい集落で生まれたリリは、生まれた瞬間から前世の記憶があった。 日本人特有の”配慮”に徹した赤ん坊を演じていたことで、両親から距離を置かれた挙句、村人からも「不気味な子」として敬遠されることに…。 そして、5才の誕生日に遠くの町に捨てられた。 でも、リリは悲観しない。 前世の知識チートは出来ないけど、大人メンタルで堅実に。 目指すは憧れのスローライフが出来るほど、ほどほどの守銭奴としてリリは異世界人として順応していく。 全25話(予定)

転生してチートを手に入れました!!生まれた時から精霊王に囲まれてます…やだ

如月花恋
ファンタジー
…目の前がめっちゃ明るくなったと思ったら今度は…真っ白? 「え~…大丈夫?」 …大丈夫じゃないです というかあなた誰? 「神。ごめんね~?合コンしてたら死んじゃってた~」 …合…コン 私の死因…神様の合コン… …かない 「てことで…好きな所に転生していいよ!!」 好きな所…転生 じゃ異世界で 「異世界ってそんな子供みたいな…」 子供だし 小2 「まっいっか。分かった。知り合いのところ送るね」 よろです 魔法使えるところがいいな 「更に注文!?」 …神様のせいで死んだのに… 「あぁ!!分かりました!!」 やたね 「君…結構策士だな」 そう? 作戦とかは楽しいけど… 「う~ん…だったらあそこでも大丈夫かな。ちょうど人が足りないって言ってたし」 …あそこ? 「…うん。君ならやれるよ。頑張って」 …んな他人事みたいな… 「あ。爵位は結構高めだからね」 しゃくい…? 「じゃ!!」 え? ちょ…しゃくいの説明ぃぃぃぃ!!

規格外で転生した私の誤魔化しライフ 〜旅行マニアの異世界無双旅〜

ケイソウ
ファンタジー
チビで陰キャラでモブ子の桜井紅子は、楽しみにしていたバス旅行へ向かう途中、突然の事故で命を絶たれた。 死後の世界で女神に異世界へ転生されたが、女神の趣向で変装する羽目になり、渡されたアイテムと備わったスキルをもとに、異世界を満喫しようと冒険者の資格を取る。生活にも慣れて各地を巡る旅を計画するも、国の要請で冒険者が遠征に駆り出される事態に……。

【本編完結】転生令嬢は自覚なしに無双する

ベル
ファンタジー
ふと目を開けると、私は7歳くらいの女の子の姿になっていた。 きらびやかな装飾が施された部屋に、ふかふかのベット。忠実な使用人に溺愛する両親と兄。 私は戸惑いながら鏡に映る顔に驚愕することになる。 この顔って、マルスティア伯爵令嬢の幼少期じゃない? 私さっきまで確か映画館にいたはずなんだけど、どうして見ていた映画の中の脇役になってしまっているの?! 映画化された漫画の物語の中に転生してしまった女の子が、実はとてつもない魔力を隠し持った裏ボスキャラであることを自覚しないまま、どんどん怪物を倒して無双していくお話。 設定はゆるいです

モブ転生とはこんなもの

詩森さよ(さよ吉)
恋愛
あたしはナナ。貧乏伯爵令嬢で転生者です。 乙女ゲームのプロローグで死んじゃうモブに転生したけど、奇跡的に助かったおかげで現在元気で幸せです。 今ゲームのラスト近くの婚約破棄の現場にいるんだけど、なんだか様子がおかしいの。 いったいどうしたらいいのかしら……。 現在筆者の時間的かつ体力的に感想などを受け付けない設定にしております。 どうぞよろしくお願いいたします。 他サイトでも公開しています。

処理中です...