精霊に嫌われている転生令嬢の奮闘記

あまみ

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2章

2−40

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 「お前、何言ってんだよっ……!」

 ヨシュアは叫ぶように言いながらも握られた手を振り払うこともなく、どうすればいいか戸惑っている様子だった。

 「お嬢様、まずはこの者の汚染されている身体をどうにかしたほうが良さそうです」

 リクが前に出てきてヨシュアを見上げる。リクを見た途端、ビクッと身体を強張らせたヨシュアは私の手をゆっくりと振り解いた。

 「無駄だ。体内が魔物の魔力で汚染されたら聖魔法で治すか、聖水で持ち堪えるしかないんだ。リリュがどうにかするって言っていたけど、精霊でもそんな方法知らないんだろ。俺は、この痛みが広がっていずれ死ぬんだ」

 視線を下に向けて落胆したように言うヨシュアは身体が痛むのか自らを抱きしめるようにして呻いた。
 ヨシュアが言っている「聖水」というものはあらゆる病気や呪いなどを治すことができるという物らしい。教会本部の神殿が高額で売っているとされている。製造方法は秘匿されていて本当に効くかどうかもわからない、まず実際にあるのかもわからないくらいのシロモノだ。
 あとは聖魔法で治す──。
 私は少し考えた後、ポーチからクッキーを取り出した。

 「ねえ、よかったら食べてみてくれない?」

 いきなり目の前に差し出されたクッキーに怪訝そうにしながらも、ヨシュアは空腹だったのか躊躇いなく包み紙を開けてクッキーを一枚齧った。
 なんの変哲もないバタークッキーを無言で食べ続けている様子を私たちは黙って見つめていた。ヨシュアが食べている間、私はそういえば今朝見た夢に出てきたお菓子がクッキーだったことを思い出していた。
 この世界にも型抜きのクッキーはあるんだろうけど、夢で見たハートや星の型が欲しい。探せばあるのかしら……。
 そんなことを考えているうちにヨシュアは包み紙の中のクッキーをあっという間に全部平らげてしまった。リクの方へ視線を向けて私は恐る恐るリクにたずねた。

 「リク、どう……?」

 リクはヨシュアをじっと見つめて首をゆっくりと縦に振った。

 「浄化されて正常な状態に戻っています。おい、ヨシュア、身体の痛みはどうだ」

 そうヨシュアにたずねるとヨシュアはハッと気づいたように目を見開いて身体のあちこちを触って確認し始めた。

 「さっきまであんなに痛かったのに……痛くない……!」

 驚いた表情のままヨシュアは腕ぐるぐると回したり膝を曲げ伸ばしたりしている。
 その様子を見て、私は安心してホッと息を吐いた。以前、私はグレース様に私が自ら作ったお菓子で精霊が魔力を回復したことや、聖魔法の浄化作用をわずかに帯びていることを言われた。そのことを思い出した私は、人間にも効くかはわからなかったが、いちかばちかでヨシュアに私が作ったクッキーを食べてもらったのだ。

 「なんでなんだ!? さっきのクッキーか!?」

 ヨシュアが我に帰ったのか私の肩を掴んで揺らす。ガクガクと揺らされ、さっきよりだいぶ元気そうだと思っているとハンナがスッと前に出てきてヨシュアの手を手刀ではたいた。「痛え!」とヨシュアがうずくまる。

 「お嬢様に乱暴な真似を致しましたら承知しません」

 フンとハンナが鼻を鳴らした。それをみて苦笑いしながらも手を押さえてうずくまっているヨシュアに声をかけた。

 「身体の心配はなくなったことだし、話を聞かせてもらってもいいかしら?」

 道の外れに移動はしているものの、町中であることに変わりはないので一応周囲を見渡した。人の気配があったらリクが知らせてくれるだろうし聞かれたくない話は防音の魔導具は一応ハンナが持っている。私の懸念を察知したのかヨシュアは「ああ、それなら」と首元から何やらゴソゴソと取り出した。
 
 「これがあるから、俺の近くにいれば他の奴らにはうまく人の目を誤魔化してくれるはずだ」

 ペンダントの先に括り付けられているのは乳白色の石に淡い紫色の線が入った綺麗な石だった。不思議に思って「これは?」とヨシュアにたずねると、ヨシュアはニッと笑いながら「リリュにもらったんだ。お守りみたいなもんだって」と言った。これと似たようなものを似たような物を前にグレース様にもらったことを思い出す。リクを見るとリクは石を見つめたまま「はあ……」とため息をついている。

 「ねえ、リク、これはなんの石なの?」

 リクは少し逡巡した後、私たちの顔をみて髭をピクピクとさせながら言った。

 「これは『精霊石』と言う物です」

 聞いたことのない言葉に首を傾げるとリクが続けて説明し始めた。

 「精霊石」とは、精霊が生み出すことができる精霊の力を石にした物である。その石を持っていることで人間は契約しなくともその精霊の力を使うことができるという。あまり聞かないのは、この精霊石は文字通り精霊から生み出すものなのでごくたまにしか生まれないそうだ。
 何百年に一度生み出すか出さないかなので、精霊石を生み出しても精霊は持ったまま忘れているか、自分の力が宿った石なんて精霊にとっては意味のない物なので、そのまま体内に吸収してしまったりするらしい。

 それってとんでもない希少価値なんじゃ……。

 思わずグレース様からもらった石が入っているポーチを押さえた。顔が青くなっていたのかハンナが「お嬢様、大丈夫ですか?」と心配そうに私の顔を覗き込んだ。

 「ど、どうしよう、俺こんな物リリュからもらってよかったのかな……」

 同じ事を思ったヨシュアも顔が青ざめている。

 「その石も永遠に使えるわけではない。その石も持ってあと数回だろう、力がなくなれば消える」

 リクがそう言うと「そ、そうなんだ」とホッとしたように答えるも少し複雑そうな表情を見せた。
 不思議に思ってヨシュアの顔を見るとヨシュアは私の視線に気づいたのか笑顔で「クッキー、ありがとな。うまかったぜ」と言っておもむろに立ち上がった。

 とりあえずヨシュアについて行くことになり、ヨシュアの後をぞろぞろとついていく。人気のない路地裏を進んでいき、空き地のような場所に出る。昔火事があって空き家が全焼したところで敷地の隅の方には煤けた煉瓦が転がっている。ヨシュアは「この辺なら大丈夫かな」と言うと、首元からまた精霊石のペンダントを取り出した。
 そしてヨシュアが精霊石を握りしめると精霊石が淡く光りだす。ゆらゆらと精霊石から紫の光が伸びていき、螺旋を描いて私たちを包んでいく。

 「これで周りからはここに俺たちがいることはわからないはずだ」
 
 先程と変わらない景色を注意深く見てみるとわずかに魔力が漂っている。

 「すごい……幻影魔法の一種かしら」
 「リリュはそう言ってた。でも、魔力の多いやつとか精霊にはバレるみたい。前に広場で声を掛けられたときも一応使ってたんだぜ」

 そうだったんだ……。わずかに漂っている魔力を感じながらも私は呼吸を落ち着かせた。



 「じゃあ、これまでの話とこれからの話をしましょうか」

 
 
 


 

 
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