猫になった俺、王子様の飼い猫になる

あまみ

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二人きり

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 エリオットが天音を連れて入ったのはホテルの一室だった。
 貴族街と平民街の境目にあるこの場所は貴族や平民が密会するにはもってこいの場所で、立地もさることながら部屋によってランクがあり、ベッドだけの簡素な部屋からキッチンや風呂まである広い部屋もある。
 エリオットが入ったのはいわゆるスイートルームで、最高ランクの部屋だった。
 なぜエリオットがこのような場所を知っているかというとただ、休憩に時折使うことがあるというだけでエリオット自身は特に気にしていなかった。

 入った部屋が王城には劣るが、飾ってある絵画や壺が高級感を出していおり、何よりいかにもな部屋のど真ん中にどんと設置されているベッドルームに天音は目を白黒させた。

 エリオットがホテルの部屋に入ったじてんでバスルームにはお湯が張ってあり、エリオットは無言で天音を抱えたままバスルームまで運んだ。
 天音をゆっくりと下すとエリオットは天音の顔を覗き込んだ。

 「先に入って身体を洗うといい。手当はそれからだ」

 そう言うとエリオットはフッと微笑んで天音の頭をポンポンと軽く叩くとバスルームから出ていった。

 (う…わ、あの顔は反則だ……)

 イオのときとはまた違った笑顔に天音はどきりとした。
 ふるふると頭を振ると天音は自分の身体を洗い始めたのだった。

      *    *    *
   

 「あのーお待たせしました」

 天音がバスルームから出てきたので、読んでいた本を閉じて顔をあげるとエリオットは思わず固まる。 
 この国の王子を待たせてはいけないと急いで身を清めた天音は衣服が裂かれて着ることができる状態ではなかったため、やむなくバスローブ姿でエリオットの前に姿を現した。慌てて出てきたのか天音は髪に水を滴らせている。
 上気した頬に擦り傷が扇状的でエリオットは思わず目を逸らした。

 「ちゃんと拭け」

 近くにあったタオルをとり、天音の頭をガシガシと拭いていく。されるがままの天音は大人しくエリオットが拭きやすいように下を向く。
 
 「ありがとうございます」

 天音が顔をあげるとエリオットと視線が合う。エリオットの手が止まり、しばし見つめ合う。
 吸い込まれるような天音の瞳にエリオットは目が離せない。
 ゆっくりと頬に触れる。天音はエリオットの真剣な表情に目が離せないまま頬に触れる手に思わずピクリとする。
 心臓が痛いくらい高鳴る。瞬きもできないくらいエリオットの薄氷の瞳に見惚れていた。

 「痛そうだな」

 エリオットは小さく呟くと、天音から離れて先程フロントから届けられた救急箱から絆創膏を取り出してピッと天音の頬に貼った。
 
 「あ……りがとう、ござい、ます……」

 (キス、するかと思った)

 天音は自分の考えに顔を赤くする。
 ありえないはずなのに何処か期待していた自分に気付かされ、天音はタオルで自分の顔を隠した。
 二人きりなんて城でもあったのに密室で二人きりなのを思い至った天音は赤くなる顔を必死で隠した。

 


 
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