21 / 33
二人きり
しおりを挟む
エリオットが天音を連れて入ったのはホテルの一室だった。
貴族街と平民街の境目にあるこの場所は貴族や平民が密会するにはもってこいの場所で、立地もさることながら部屋によってランクがあり、ベッドだけの簡素な部屋からキッチンや風呂まである広い部屋もある。
エリオットが入ったのはいわゆるスイートルームで、最高ランクの部屋だった。
なぜエリオットがこのような場所を知っているかというとただ、休憩に時折使うことがあるというだけでエリオット自身は特に気にしていなかった。
入った部屋が王城には劣るが、飾ってある絵画や壺が高級感を出していおり、何よりいかにもな部屋のど真ん中にどんと設置されているベッドルームに天音は目を白黒させた。
エリオットがホテルの部屋に入ったじてんでバスルームにはお湯が張ってあり、エリオットは無言で天音を抱えたままバスルームまで運んだ。
天音をゆっくりと下すとエリオットは天音の顔を覗き込んだ。
「先に入って身体を洗うといい。手当はそれからだ」
そう言うとエリオットはフッと微笑んで天音の頭をポンポンと軽く叩くとバスルームから出ていった。
(う…わ、あの顔は反則だ……)
イオのときとはまた違った笑顔に天音はどきりとした。
ふるふると頭を振ると天音は自分の身体を洗い始めたのだった。
* * *
「あのーお待たせしました」
天音がバスルームから出てきたので、読んでいた本を閉じて顔をあげるとエリオットは思わず固まる。
この国の王子を待たせてはいけないと急いで身を清めた天音は衣服が裂かれて着ることができる状態ではなかったため、やむなくバスローブ姿でエリオットの前に姿を現した。慌てて出てきたのか天音は髪に水を滴らせている。
上気した頬に擦り傷が扇状的でエリオットは思わず目を逸らした。
「ちゃんと拭け」
近くにあったタオルをとり、天音の頭をガシガシと拭いていく。されるがままの天音は大人しくエリオットが拭きやすいように下を向く。
「ありがとうございます」
天音が顔をあげるとエリオットと視線が合う。エリオットの手が止まり、しばし見つめ合う。
吸い込まれるような天音の瞳にエリオットは目が離せない。
ゆっくりと頬に触れる。天音はエリオットの真剣な表情に目が離せないまま頬に触れる手に思わずピクリとする。
心臓が痛いくらい高鳴る。瞬きもできないくらいエリオットの薄氷の瞳に見惚れていた。
「痛そうだな」
エリオットは小さく呟くと、天音から離れて先程フロントから届けられた救急箱から絆創膏を取り出してピッと天音の頬に貼った。
「あ……りがとう、ござい、ます……」
(キス、するかと思った)
天音は自分の考えに顔を赤くする。
ありえないはずなのに何処か期待していた自分に気付かされ、天音はタオルで自分の顔を隠した。
二人きりなんて城でもあったのに密室で二人きりなのを思い至った天音は赤くなる顔を必死で隠した。
貴族街と平民街の境目にあるこの場所は貴族や平民が密会するにはもってこいの場所で、立地もさることながら部屋によってランクがあり、ベッドだけの簡素な部屋からキッチンや風呂まである広い部屋もある。
エリオットが入ったのはいわゆるスイートルームで、最高ランクの部屋だった。
なぜエリオットがこのような場所を知っているかというとただ、休憩に時折使うことがあるというだけでエリオット自身は特に気にしていなかった。
入った部屋が王城には劣るが、飾ってある絵画や壺が高級感を出していおり、何よりいかにもな部屋のど真ん中にどんと設置されているベッドルームに天音は目を白黒させた。
エリオットがホテルの部屋に入ったじてんでバスルームにはお湯が張ってあり、エリオットは無言で天音を抱えたままバスルームまで運んだ。
天音をゆっくりと下すとエリオットは天音の顔を覗き込んだ。
「先に入って身体を洗うといい。手当はそれからだ」
そう言うとエリオットはフッと微笑んで天音の頭をポンポンと軽く叩くとバスルームから出ていった。
(う…わ、あの顔は反則だ……)
イオのときとはまた違った笑顔に天音はどきりとした。
ふるふると頭を振ると天音は自分の身体を洗い始めたのだった。
* * *
「あのーお待たせしました」
天音がバスルームから出てきたので、読んでいた本を閉じて顔をあげるとエリオットは思わず固まる。
この国の王子を待たせてはいけないと急いで身を清めた天音は衣服が裂かれて着ることができる状態ではなかったため、やむなくバスローブ姿でエリオットの前に姿を現した。慌てて出てきたのか天音は髪に水を滴らせている。
上気した頬に擦り傷が扇状的でエリオットは思わず目を逸らした。
「ちゃんと拭け」
近くにあったタオルをとり、天音の頭をガシガシと拭いていく。されるがままの天音は大人しくエリオットが拭きやすいように下を向く。
「ありがとうございます」
天音が顔をあげるとエリオットと視線が合う。エリオットの手が止まり、しばし見つめ合う。
吸い込まれるような天音の瞳にエリオットは目が離せない。
ゆっくりと頬に触れる。天音はエリオットの真剣な表情に目が離せないまま頬に触れる手に思わずピクリとする。
心臓が痛いくらい高鳴る。瞬きもできないくらいエリオットの薄氷の瞳に見惚れていた。
「痛そうだな」
エリオットは小さく呟くと、天音から離れて先程フロントから届けられた救急箱から絆創膏を取り出してピッと天音の頬に貼った。
「あ……りがとう、ござい、ます……」
(キス、するかと思った)
天音は自分の考えに顔を赤くする。
ありえないはずなのに何処か期待していた自分に気付かされ、天音はタオルで自分の顔を隠した。
二人きりなんて城でもあったのに密室で二人きりなのを思い至った天音は赤くなる顔を必死で隠した。
62
あなたにおすすめの小説
モフモフになった魔術師はエリート騎士の愛に困惑中
risashy
BL
魔術師団の落ちこぼれ魔術師、ローランド。
任務中にひょんなことからモフモフに変幻し、人間に戻れなくなってしまう。そんなところを騎士団の有望株アルヴィンに拾われ、命拾いしていた。
快適なペット生活を満喫する中、実はアルヴィンが自分を好きだと知る。
アルヴィンから語られる自分への愛に、ローランドは戸惑うものの——?
24000字程度の短編です。
※BL(ボーイズラブ)作品です。
この作品は小説家になろうさんでも公開します。
皇帝に追放された騎士団長の試される忠義
大田ネクロマンサー
BL
若干24歳の若き皇帝が統治するベリニア帝国。『金獅子の双腕』の称号で騎士団長兼、宰相を務める皇帝の側近、レシオン・ド・ミゼル(レジー/ミゼル卿)が突如として国外追放を言い渡される。
帝国中に慕われていた金獅子の双腕に下された理不尽な断罪に、国民は様々な憶測を立てる。ーー金獅子の双腕の叔父に婚約破棄された皇紀リベリオが虎視眈々と復讐の機会を狙っていたのではないか?
国民の憶測に無言で帝国を去るレシオン・ド・ミゼル。船で知り合った少年ミオに懐かれ、なんとか不毛の大地で生きていくレジーだったが……彼には誰にも知られたくない秘密があった。
男だって愛されたい!
朝顔
BL
レオンは雑貨店を営みながら、真面目にひっそりと暮らしていた。
仕事と家のことで忙しく、恋とは無縁の日々を送ってきた。
ある日父に呼び出されて、妹に王立学園への入学の誘いが届いたことを知らされる。
自分には関係のないことだと思ったのに、なぜだか、父に関係あると言われてしまう。
それには、ある事情があった。
そしてその事から、レオンが妹の代わりとなって学園に入学して、しかも貴族の男性を落として、婚約にまで持ちこまないといけないはめに。
父の言うとおりの相手を見つけようとするが、全然対象外の人に振り回されて、困りながらもなぜだか気になってしまい…。
苦労人レオンが、愛と幸せを見つけるために奮闘するお話です。
【完結】妖精は竜に抱かれて夢を見る
エウラ
BL
妖精族のリノは出来損ないだ。一族からそう言われて育った。
何故なら、通常4枚ある羽が2枚しかなかったからだ。
妖精族は綺麗な土地に魔素が凝り固まり、永いときを経て自然発生する珍しい一族。
羽が2枚だと、上手く飛べない。魔法の力も弱い。自然と皆から離れて過ごすようになった。
深い森の奥にたった1人引き籠もっていたリノだが・・・ある日、運命の出逢いが・・・?
時々長編の息抜きに突発的に投稿してます。行き詰まってるんだなと温かい目で見てやって下さい。
本編完結。番外編をいくつか入れる予定です。
【完結】冷酷騎士団長を助けたら口移しでしか薬を飲まなくなりました
ざっしゅ
BL
異世界に転移してから一年、透(トオル)は、ゲームの知識を活かし、薬師としてのんびり暮らしていた。ある日、突然現れた洞窟を覗いてみると、そこにいたのは冷酷と噂される騎士団長・グレイド。毒に侵された彼を透は助けたが、その毒は、キスをしたり体を重ねないと完全に解毒できないらしい。
タイトルに※印がついている話はR描写が含まれています。
転移先で辺境伯の跡継ぎとなる予定の第四王子様に愛される
Hazuki
BL
五歳で父親が無くなり、七歳の時新しい父親が出来た。
中1の雨の日熱を出した。
義父は大工なので雨の日はほぼ休み、パートに行く母の代わりに俺の看病をしてくれた。
それだけなら良かったのだが、義父は俺を犯した、何日も。
晴れた日にやっと解放された俺は散歩に出掛けた。
連日の性交で身体は疲れていたようで道を渡っているときにふらつき、車に轢かれて、、、。
目覚めたら豪華な部屋!?
異世界転移して森に倒れていた俺を助けてくれた次期辺境伯の第四王子に愛される、そんな話、にする予定。
⚠️最初から義父に犯されます。
嫌な方はお戻りくださいませ。
久しぶりに書きました。
続きはぼちぼち書いていきます。
不定期更新で、すみません。
【完結済】虚な森の主と、世界から逃げた僕〜転生したら甘すぎる独占欲に囚われました〜
キノア9g
BL
「貴族の僕が異世界で出会ったのは、愛が重すぎる“森の主”でした。」
平凡なサラリーマンだった蓮は、気づけばひ弱で美しい貴族の青年として異世界に転生していた。しかし、待ち受けていたのは窮屈な貴族社会と、政略結婚という重すぎる現実。
そんな日常から逃げ出すように迷い込んだ「禁忌の森」で、蓮が出会ったのは──全てが虚ろで無感情な“森の主”ゼルフィードだった。
彼の周囲は生命を吸い尽くし、あらゆるものを枯らすという。だけど、蓮だけはなぜかゼルフィードの影響を受けない、唯一の存在。
「お前だけが、俺の世界に色をくれた」
蓮の存在が、ゼルフィードにとってかけがえのない「特異点」だと気づいた瞬間、無感情だった主の瞳に、激しいまでの独占欲と溺愛が宿る。
甘く、そしてどこまでも深い溺愛に包まれる、異世界ファンタジー
性技Lv.99、努力Lv.10000、執着Lv.10000の勇者が攻めてきた!
モト
BL
異世界転生したら弱い悪魔になっていました。でも、異世界転生あるあるのスキル表を見る事が出来た俺は、自分にはとんでもない天性資質が備わっている事を知る。
その天性資質を使って、エルフちゃんと結婚したい。その為に旅に出て、強い魔物を退治していくうちに何故か魔王になってしまった。
魔王城で仕方なく引きこもり生活を送っていると、ある日勇者が攻めてきた。
その勇者のスキルは……え!? 性技Lv.99、努力Lv.10000、執着Lv.10000、愛情Max~~!?!?!?!?!?!
ムーンライトノベルズにも投稿しておりすがアルファ版のほうが長編になります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる