積もるのは嘘と気持ちと

どんころ

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蓮side1

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その子と出会ったのは祖父母の家にお世話になることにした転校先だった。

初めて入った教室で俯くその姿になぜか釘付けになった。

それまで俺は殆どのアルファが通う国立高校に通っていた。
でも、そこに番いたいと思えるような人も居なく、どこかずっと違和感を抱えて生活していた。

高3の夏、たまたま妹と両親が母方の祖父母の家にお盆で泊まりに行くという時、部活もなく家にいたから何となく着いて行った。
祖父母の家に久しぶりに入った時、そこに妙な愛着を覚えた。
なんだか急にそこに住みたくなって、子供のようにわがままを言って、大学はちゃんと今の希望のところに絶対受かるからと、祖父母の家に引っ越した。

今になって思えばきっと俺の本能が反応していたんだと思う。

その子はずっと俯いていたけど、それでもその美しさは隠れてなかった。
華奢な体に、長いまつ毛に縁取られた目は伏し目がちで。
こんなにも儚い容姿なのに、彼からはフェロモンが放たれていないのが気になる。
βなのだろうか。

それでもその子のことが頭から離れなくて、観察し続けた。
たまに目が合うと、バッと目を逸らしそっぽを向く顔も、
珍しく誰かに話しかけられた時のはにかむような笑顔も、
可愛く見えて仕方がなかった。

クラスメイト達もその子が綺麗すぎて、話しかけるのを躊躇うようで、毎日1人で過ごしていた。

俺が隣に立ちたい。
隣で1番近くでその子の笑う顔が見たい。
気がついたらそう思っていた。
番とか性別とかどうでもよくて、俺のわがままはこの子という光が消えないようにここに来たんだと思った。

強引なところもあったと思うが、どうにかこうにか交際に漕ぎ着け、ただもうこれからの人生が輝いているように思えて仕方なかった。
毎日が幸せで、澪のはにかむ顔を見れただけで嬉しくて、なんだってできそうだと思った。

両親にも、βだけど将来を考えている男の子が居ると報告した。
反対されるかと思ったが、両親はβでαやΩの様に本能で生きていないから、俺の気持ちはそもそもわからない、だからあなたの思うようにしなさいと言われた。
βの親から生まれたαだったから、運命もβなのかもしれない。
こんなにも俺の本能があの子を逃すなと言っているから、きっと澪が俺の運命。

あとはもう澪の両親に挨拶してしまえば、もう澪は俺の腕の中で大事に守りながら一緒に歩んで行けると思っていた。







何も知らずに。







付き合い始めてしばらくして澪が困ったような、思い詰めたような顔をすることが増えた。
情緒不安定のように焦って体の関係を求めようとした日もあれば、
調子が悪くて連絡が取れない日もあった。

何かいつも不安そうな顔をしていたけど、壊れてしまいそうで無理に聞き出せず、お願いだから頼ってと暗示のように唱え続けた。
少しでも彼が笑ってくれるだけで、安心して心が満たされた。

どこで選択を間違えたのだろう。

抱いてと澪がお願いしてきた時に抱いていればあの子は満たされたのだろうか。
夜呼び出された時、帰ったのがいけなかったのだろうか。
でもあの日はあんなに誘われたら、フェロモンが出ていなくたって、理性がとんでいってしまいそうで、怖くなって慌ててでてきてしまった。
あの時ちゃんと話を聞けていればよかっただろうか。
そうしていれば、今も隣で笑っていてくれただろうか。
次から次へと疑問が出てきて止まない。
その婚約者は本当に優しい人か?
澪のことちゃんと思いやってくれる人か?
君は今ちゃんと笑って過ごせているか?

澪に最後に会った日の次の日の夕方、澪から連絡が来て、それ以降メッセージも既読にならない。
アパートも退去後だった。
しばらく魂が抜けたように生活を送った。

事の顛末を聞いて心配した両親はここは彼との思い出がつまっているから生活するのが苦しくないかと、家に戻らないかと誘ってきた。
俺がただ気がかりなのは一つだけだと、あの子がちゃんと幸せならそれでいい。
それがわからないから苦しい、と両親に伝えると、
「もし、それが分かれば蓮が納得して次に進めるなら、調べれるところは調べてみるよ。」
と言ってくれた。
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