積もるのは嘘と気持ちと

どんころ

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蓮side12

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今日はおじいさんも会社に行っているらしく、お手伝いさんにただいまと声をかけながら自分の部屋へと澪を抱えて行った。
車から降りてもまだ疲れているのか目を閉じたまま眠ってしまっているようだった。

退院の荷物も運び、片付けをしていると、部屋の隅に段ボールが3つほど置いてあるのが目に入った。
確か澪の荷物を運んだと壮一さんに言われたけれど、これのことか?
澪の服をしまうクローゼットもあるからこのまま一緒に片付けようと箱の封を開けた。
一つ目の箱は夏服だったので、そのまま片付け、二つ目は冬服が入っていたのでクローゼットへとしまった。
3つ目の箱を開けると、文房具と肌着だった。
一緒に水族館に行った時にお揃いで買ったボールペンが入っていて胸がぎゅっとする。
飾っておこうとベッド脇のテーブルにペン立てを置き、自分のボールペンと澪のを一緒に立てた。

次は肌着をしまおうと手を伸ばした時、カサカサとビニールの擦れる音が聞こえた。
不思議に思って音の正体を探ると折り畳まれた肌着の間からビニール袋が見えて引っ張り出す。
カサカサ音とともに出てきたのはハンカチだった。

袋から取り出してみると、見覚えのあるものだった。
どうして俺のハンカチがこんなところに…?

「!」

気がつくと澪が音もなく起き上がっていたみたいで、隣に来ていた。
ぼんやりした表情のまま、ハンカチを俺の手からさっと抜き取って、両手で胸に抱えるようにした。
「澪?」
もちろん声には反応せず、ベッドへと帰って行く。
その後を追いかけるようにベッド脇の椅子に腰掛けると、澪はハンカチを大事そうに抱えたまま、また目を閉じた。

「澪、このハンカチ、俺のだよね?」
話しかけながら力の入った手の甲をさする。
声かけには反応はないけど、ハンカチには反応して近づいてきたのはいい傾向だろう。

「いつから持ってたの。」
手に触れたままぽつりと呟いた。
これに反応したということは、何か特別な思い入れがあったのだろうか。

目を閉じたままの澪を見守りながら俺もぼーっと時間を過ごしていると、ノック音がした。
「お昼ご飯お待ちしました。」
「ありがとうございます。」
ドアまで歩いて行って受け取り、ベッド脇のテーブルに自分のを置き、ベッドを跨ぐようなテーブルに澪のを置くと、いつものようにスプーンとフォークを渡そうとした。
「ご飯来たから食べようか。」
と声をかけて肩を叩くが、反応がなくハンカチを抱えた体制のまま微動だにしない。
退院して環境が変わったから疲れたのかとそのまま様子を見ながら俺だけ先にご飯を食べた。

そのうち目を覚ますだろうと楽観的な考えで居たが、夕方になっても目を覚さない澪に少し焦りを覚えて、キッチンの方へお菓子とお茶をもらいに行った。

紅茶とマドレーヌをもらって部屋へ戻ると、やっぱり澪の体勢は変わっていなくて、少し強めに肩を叩く。
「澪、澪、そろそろ起きようか?お菓子もらってきたから食べよう?」
匂いで気づくかなと目の前に紅茶を持っていったり、マドレーヌを口元に持っていくが、目を覚ます気配も口を動かす気配がない。

さすがにこの状況に不安を感じずにはいられなくて、携帯から病院に電話する。
田中先生に繋いで欲しいというと、しばらく保留音が鳴った後、
「もしもし?」と先生が出てくれた。
「先生!澪が退院してから反応がなくなってしまいました。肩を叩いても目を覚まさず、あれからご飯も食べてないし、飲み物も飲みません。何か悪くなってしまったんでしょうか…。」
「ずっと眠ってる?」
「目は閉じていて、ずっと俺のハンカチ抱きしめるようにしてそのままお昼前から動きません。ハンカチ見た時は自分から近寄ってきたんです。家に帰ってきてそんな様子だったから、帰って良かったと思っていたところだったのに…」
「…体できるだけ温めておいて。すぐに向かうから。」
「分かりました。」
先生の緊迫した話し方に緊張が走る。
とにかく今は温めないとと自分ベッドにあった毛布も被せて、湯たんぽを足元に入れた。

お願いだから俺の取り越し苦労であってくれと祈るように澪の髪の毛を撫でたり、肩をさすったりしながら先生を待った。

それからどれくらい時間が経ったか、ようやくノック音がして少しホッとした。
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