積もるのは嘘と気持ちと

どんころ

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蓮side13

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部屋に入ってきた先生はやっぱり厳しい表情をしていて、思わず唾を飲み込む。

持ってきた聴診器で心臓の音を聞いたり血圧を測ったり体の触診をする先生をただじっと見守った。

振り向いた先生は困ったように眉を下げていて、もう言葉を聞かなくとも、その先に紡がれることは悟ってしまった。

「ごめんね。Ωの生態については正直解明されていないことも多くて…。愛されなかったΩは消耗していって早く亡くなるなんて、とても非科学的だと思わない?…逆に言えば非科学的なことで回復できるっていうことだから、僕は君がいればこの子は戻ってくると思っていたんだ。もちろん君に非はないよ。ただ…もしかしたらもうこの子はここに留まる理由がなくなったのかも知れない。静かに看取ってあげるのも僕たちがこの子にできる最後の努めだよ。」































「…」




言葉が出ない。ただただ目から流れるものが頬を濡らし澪のシーツを濡らしていく。
「まだ時間はあると思うから、食べれないと思うけど好きな食べ物を口に含ませてあげたり、お気に入りの服を着せてあげたり、この子が少しでも幸せを感じて安らかな気持ちになれるようにしてあげれるかな?」
「……はい…」
悔しくて唇を噛む。
なぜこの子がこんなに早くに終末期を迎えなければならなかったのか。

「…君の抑制剤出した方がいい?」
また威圧フェロモンが漏れていたのだろうか。
でも俺たちが運命だとしたらきっと澪は俺のフェロモンが好きだろうからこのまま包まれていて欲しい。
「大丈夫です。抑えられます。」
「分かった。また何かあったら連絡して。携帯教えておくから。」

携帯番号の紙を置いて先生は帰って行った。
父さんと母さん、壮一さんにメッセージを送る。
……澪はもうもたないと。

感情を抑えきれず澪に覆い被さるように抱きつく。
「っごめんね、ごめんね。」
この体で耐えた辛い思いを少しでも俺が被れたらよかったのに。

何度も謝って、少しずつ冷静になってきた頭で考える澪は何をして欲しいだろう?何が食べたいだろう?
思いつかず悩む。
俺がしてあげたいのは、この子を笑顔にすることだったけれど、きっともうそれは叶えられない。
あのお粥を食べた時の笑顔にもう一度会いたかったな…と考えてハッとする。
あの時のお粥もう一回作ってみようか。
前はあんなに喜んでくれたから、きっと澪も嬉しいと思ってくれるだろう。

急いでキッチンへ向かい、米とネギと卵で卵粥を作る。
前作った時と同じお粥だ。

作っている間に壮一さんが到着した。
おかゆが出来上がって部屋に戻ると、壮一さんが澪の顔をじっと見つめていた。
「…意外と、、穏やかな顔しているもんだね。苦しそうな顔していたらどうしようかと…」

「そうですね。澪のことだからどこかで俺らが悲しまないように気を遣っているのかも知れないですね。」

「……本当に昔から優しい子でね。母が寝込んでいる時もずっとそばについてて、苦しくない?って聞いてあげてて………。助けてあげられる保証もないから、嫌われるようにしか接してきて無くて……っごめ…」
壮一さんは止まらなくなった涙に話を続けられなくなり顔をそらした。


話している間にお粥が丁度いいくらいに冷めてきたので、小さくひと匙すくって、口元に運ぶ。
「澪、お粥だよ。前俺が作ったの覚えてる?あの時の美味しそうに食べる澪の笑顔が俺はずっと忘れられないんだ。…ね?いい匂いでしょ?」
薄く開いた口元からひと粒ふた粒口の中へ入れた。

少し口元が動いたような気がしたけど、気のせいかと思っていると、澪の閉じた瞼から涙がじわじわと滲み出てきて溢れて行く。
「澪?澪!?」
異変に気づいた壮一さんも澪の方を振り向き、
「澪音!?」
と驚いた声を上げた。

息も瞬きも忘れて2人して見つめると、固く閉ざされていた瞼のまつ毛が震えて、ゆっくりと目が開いた。
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