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1章 囚われた真紅の歌姫
5、第二王子と夜の逢瀬を
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「彼らに言ったとおりだ」
沈黙が続く馬車の中で、先に口を開いたのはルイの方だった。
本来はあの地下道から続く謎の空間を拠点として、術師の力を頼り、城と街の移動をしていたらしいのだが、今日は力をほとんど持たないあたしのために馬車を使わざるをえなかったのだろう。
わざわざ人払いをしてふたりきりになった馬車の中は、普段にはないどんよりとした重い空気が流れていた。
「マリアに何かあったら必ず俺がまも……」
「そんなことは気にしていない」
「でも……」
「何度も言うけど君に守られるほど、まだあたしは落ちぶれちゃいないよ」
自分のことは自分でなんとかできる。
そのくらいの矜持は持ち合わせている。
「そうだけど……怒ってるよね」
「そう思うのなら空気を読んで黙ってて欲しいものだね、ペテン師くん」
「ほらまた! ペテン師くんって……」
「大丈夫。君の本拠地に着いたらちゃんと君を王子様として扱うから」
「……ごめん」
ほら、また謝る。
謝るくらいなら今すぐ解放してくれたらいいのに、子犬のような顔を向けられると無下にもできない。
「大丈夫だ。ちょっと先のことを考えていただけだ。怒っているわけじゃない」
足を組み直して、深呼吸をする。
怒っているわけではないが、考えたいこともいろいろある。
見慣れない夜の世界がどんどん過去となり、勢いよく流れていく。
まったくその流れについていけない。
まるであたしの人生のようだ。
穏やかに穏やかに暮らしたいと願って、ようやく今の環境に落ち着き始めたところだったというのに。
どうもそうは言っていられないであろう今後の急展開にまだ脳裏が追いついていない。
「君も知っての通り、あたしは君のような優れた力を持ち合わせていない。人間相手ならともかく、悔しいけど魔の使い手相手に役に立てるとは思わないよ」
残念だけど、それが事実である。
誰もが少なからず持ち合わせている特別な力をあたしは持っていない。
「大丈夫。マリアがいてくれたら十分だ」
「……相変わらず人たらしだねぇ、君は」
そう言われたら何とも言えなくなる。
不思議そうにこちらに目を向ける彼に、変わらない……そう思う。
立場は変われど、ルイはあたしのよく知るルイのままだった。
魔王討伐に協力してほしい、と彼に言われた。
手短に説明しろと言ったのは自分ではあるのだけど、あまりにもざっくりと説明をされたため、違和感や気になる点も多い。
そもそもまだ復活さえしていない魔王を倒すことに関して、二年でかたをつけるため、二年間でいいから協力してほしいなどと言う。
さすがは一国の王子だけあって、やり方はどうであれ、しっかり先の未来まで見据えていることは見直したところだ。
今も現在進行形で魔物たちがところどころに現れ、暴れ始めているのだという。
それでもまるで、すべて先の未来まで見透かしているかのように迷いのない確信めいた言葉だった。
アンネを狙った男も特徴からして魔物のしわざだろうと彼は言った。
あのとき、魔物の存在を悟り、シロンドの街についに魔の手が及び始めたのだと危機感を持ち、一分一秒さえ惜しいとこの決断に至ったそうだ。
あたしのいない間、シロンドの治安は彼の信頼できる部下たちによって守ってもらえるのだと言う。
望めばあたし自身もたまに帰省することも許してくれるそうだ。
だったらあたしはあたしでこのままにして、その信頼できる部下とやらを連れて魔王討伐に向かってくれればいいのにとさえ思う。
それでもただでさえ気を使ってばかりのこの男が頭を下げつつもここまで無理強いをしてことを進めたのだ。何かあるのは間違いない。
「半年後にある街が襲われると言ったね」
「ああ、そうだね」
「王宮には誰か、預言者でもいるというのか?」
「……まぁ、そんなところだよ」
あまりにも歯切れが悪い。
半年後の未来を予測し、それを阻止したいのだと彼は言う。
どの街かを一刻も早く特定し、目覚めし勇者と異世界からやってきた巫女まで見つけるというのだ。
「決めたからには本気で君の手となり足となるつもりだ。ただ、わかっていることはすべて教えて欲しい」
でないとあたしだって動きようがない。
そう伝えると、わかった、と彼は一瞬瞳を泳がせ、小さく頷いたのだった。
沈黙が続く馬車の中で、先に口を開いたのはルイの方だった。
本来はあの地下道から続く謎の空間を拠点として、術師の力を頼り、城と街の移動をしていたらしいのだが、今日は力をほとんど持たないあたしのために馬車を使わざるをえなかったのだろう。
わざわざ人払いをしてふたりきりになった馬車の中は、普段にはないどんよりとした重い空気が流れていた。
「マリアに何かあったら必ず俺がまも……」
「そんなことは気にしていない」
「でも……」
「何度も言うけど君に守られるほど、まだあたしは落ちぶれちゃいないよ」
自分のことは自分でなんとかできる。
そのくらいの矜持は持ち合わせている。
「そうだけど……怒ってるよね」
「そう思うのなら空気を読んで黙ってて欲しいものだね、ペテン師くん」
「ほらまた! ペテン師くんって……」
「大丈夫。君の本拠地に着いたらちゃんと君を王子様として扱うから」
「……ごめん」
ほら、また謝る。
謝るくらいなら今すぐ解放してくれたらいいのに、子犬のような顔を向けられると無下にもできない。
「大丈夫だ。ちょっと先のことを考えていただけだ。怒っているわけじゃない」
足を組み直して、深呼吸をする。
怒っているわけではないが、考えたいこともいろいろある。
見慣れない夜の世界がどんどん過去となり、勢いよく流れていく。
まったくその流れについていけない。
まるであたしの人生のようだ。
穏やかに穏やかに暮らしたいと願って、ようやく今の環境に落ち着き始めたところだったというのに。
どうもそうは言っていられないであろう今後の急展開にまだ脳裏が追いついていない。
「君も知っての通り、あたしは君のような優れた力を持ち合わせていない。人間相手ならともかく、悔しいけど魔の使い手相手に役に立てるとは思わないよ」
残念だけど、それが事実である。
誰もが少なからず持ち合わせている特別な力をあたしは持っていない。
「大丈夫。マリアがいてくれたら十分だ」
「……相変わらず人たらしだねぇ、君は」
そう言われたら何とも言えなくなる。
不思議そうにこちらに目を向ける彼に、変わらない……そう思う。
立場は変われど、ルイはあたしのよく知るルイのままだった。
魔王討伐に協力してほしい、と彼に言われた。
手短に説明しろと言ったのは自分ではあるのだけど、あまりにもざっくりと説明をされたため、違和感や気になる点も多い。
そもそもまだ復活さえしていない魔王を倒すことに関して、二年でかたをつけるため、二年間でいいから協力してほしいなどと言う。
さすがは一国の王子だけあって、やり方はどうであれ、しっかり先の未来まで見据えていることは見直したところだ。
今も現在進行形で魔物たちがところどころに現れ、暴れ始めているのだという。
それでもまるで、すべて先の未来まで見透かしているかのように迷いのない確信めいた言葉だった。
アンネを狙った男も特徴からして魔物のしわざだろうと彼は言った。
あのとき、魔物の存在を悟り、シロンドの街についに魔の手が及び始めたのだと危機感を持ち、一分一秒さえ惜しいとこの決断に至ったそうだ。
あたしのいない間、シロンドの治安は彼の信頼できる部下たちによって守ってもらえるのだと言う。
望めばあたし自身もたまに帰省することも許してくれるそうだ。
だったらあたしはあたしでこのままにして、その信頼できる部下とやらを連れて魔王討伐に向かってくれればいいのにとさえ思う。
それでもただでさえ気を使ってばかりのこの男が頭を下げつつもここまで無理強いをしてことを進めたのだ。何かあるのは間違いない。
「半年後にある街が襲われると言ったね」
「ああ、そうだね」
「王宮には誰か、預言者でもいるというのか?」
「……まぁ、そんなところだよ」
あまりにも歯切れが悪い。
半年後の未来を予測し、それを阻止したいのだと彼は言う。
どの街かを一刻も早く特定し、目覚めし勇者と異世界からやってきた巫女まで見つけるというのだ。
「決めたからには本気で君の手となり足となるつもりだ。ただ、わかっていることはすべて教えて欲しい」
でないとあたしだって動きようがない。
そう伝えると、わかった、と彼は一瞬瞳を泳がせ、小さく頷いたのだった。
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