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【14歳 春】
4、【14歳 春】魔女が作り上げた理想
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あまりの美しさは圧倒的なものだった。
十二歳からずっと森に住んでいたけど、この人が人間離れした容姿をしていることは理解ができた。
隠し切れないそのオーラがすべてを物語っていたからだ。
だからこそ、わたし自身が作り上げた虚像の存在なのだと疑わずにはいられなかった。
「あの……」
柔らかな笑みを浮かべ、彼が口を開きかけたその時だった。
「お、俺……っ、ぐはっ!」
いきなりむせ込んで、そのまま苦しそうに首を押さえ、座り込んだのである。
(……え?)
「……だ、大丈夫です」
そばに寄ろうとすると、静かに制された。
どこが大丈夫なのだろうか。
彼の声は枯れていて、ゼェゼェと今にも詰まってしまいそうな息が漏れていた。
「おっ、おみ……お水を一杯いただけませんか?」
かすれた声で呟かれ、はっとして慌ててバケツを片手に井戸に向かう。
この室内に人間が飲み食いできるものがほとんどないことを申し訳なく思った。
死んでしまわないだろうか。
今まで体調を崩した騎士たちも同じように苦しんだ者もいた。
みんな、少しずつ少しずつ日を追うごとに体を蝕まれていき、いつの日か立ち上がることさえ困難になって城に連れ戻されていく。
この人はやってきたばかりだったけど、それでも最初から他の騎士と違ってわたしに好意的にして愛嬌なんて振りまいたから……だから他の騎士よりも早く彼の体に異変がでてしまったのかも。そう思ったら胸がぐっと締め付けられるようだった。
井戸の水を汲み、必死で運んだころにもまだ彼は両足を地面につき、肩で息をしていた。まるでなにかに抗うように。
ゼェゼェと、その音を聞くだけで苦しくなった。
とにかくすぐにでもと浄化の石をバケツにつけ、しゅわしゅわと音が鳴り、それがやんだ頃にコップで水をすくった。
「まっ、魔女様、申し訳ございませんでした」
額に汗をにじませながらも、彼はこちらのことを心配してくれていた。
わたしなんかのことは、気にしなくてもいいのに。
「魔女様……」
はっとしたとき、何を思ってか突然伸びてきた彼の手がわたしの前髪に触れたのがわかり、思わずびくっとしてしまった。
あまりにも動揺しすぎて手に持っていたコップを落としてしまった。
「わっ、すみません! すぐに拭きますから」
男性どころか人間になれていないのだから許してほしい。
何も悪いことをしていないのに、ケホケホと咳き込みながら、慌てて床に飛び散ったガラスの破片を集めてくれるその人を、わたしはただじっと見つめていた。
(この人は……いったい何なの……?)
頭の中で、そんな疑問がぐるぐる回った。
わたしの作った、わたしが最も求めていた唯一わたしの味方になってくれる存在なの?
想像が追いつかなかった。
「お体に飛んでないですか?」
見上げられて恥ずかしくなった。
わたしが、作り上げてしまった……そう思った。間違いない。
平気だ平気だと思っていたのに、ついに最もしてはいけない禁忌の域まで到達してしまったかもしれない。
「ジャドール」
「えっ?」
こちらの気も知らないで、彼は告げた。
「ジャドールと申します」
わたしの作り上げてしまった理想の騎士は、そう言って屈託もない笑顔をこちらに向けたのであった。
十二歳からずっと森に住んでいたけど、この人が人間離れした容姿をしていることは理解ができた。
隠し切れないそのオーラがすべてを物語っていたからだ。
だからこそ、わたし自身が作り上げた虚像の存在なのだと疑わずにはいられなかった。
「あの……」
柔らかな笑みを浮かべ、彼が口を開きかけたその時だった。
「お、俺……っ、ぐはっ!」
いきなりむせ込んで、そのまま苦しそうに首を押さえ、座り込んだのである。
(……え?)
「……だ、大丈夫です」
そばに寄ろうとすると、静かに制された。
どこが大丈夫なのだろうか。
彼の声は枯れていて、ゼェゼェと今にも詰まってしまいそうな息が漏れていた。
「おっ、おみ……お水を一杯いただけませんか?」
かすれた声で呟かれ、はっとして慌ててバケツを片手に井戸に向かう。
この室内に人間が飲み食いできるものがほとんどないことを申し訳なく思った。
死んでしまわないだろうか。
今まで体調を崩した騎士たちも同じように苦しんだ者もいた。
みんな、少しずつ少しずつ日を追うごとに体を蝕まれていき、いつの日か立ち上がることさえ困難になって城に連れ戻されていく。
この人はやってきたばかりだったけど、それでも最初から他の騎士と違ってわたしに好意的にして愛嬌なんて振りまいたから……だから他の騎士よりも早く彼の体に異変がでてしまったのかも。そう思ったら胸がぐっと締め付けられるようだった。
井戸の水を汲み、必死で運んだころにもまだ彼は両足を地面につき、肩で息をしていた。まるでなにかに抗うように。
ゼェゼェと、その音を聞くだけで苦しくなった。
とにかくすぐにでもと浄化の石をバケツにつけ、しゅわしゅわと音が鳴り、それがやんだ頃にコップで水をすくった。
「まっ、魔女様、申し訳ございませんでした」
額に汗をにじませながらも、彼はこちらのことを心配してくれていた。
わたしなんかのことは、気にしなくてもいいのに。
「魔女様……」
はっとしたとき、何を思ってか突然伸びてきた彼の手がわたしの前髪に触れたのがわかり、思わずびくっとしてしまった。
あまりにも動揺しすぎて手に持っていたコップを落としてしまった。
「わっ、すみません! すぐに拭きますから」
男性どころか人間になれていないのだから許してほしい。
何も悪いことをしていないのに、ケホケホと咳き込みながら、慌てて床に飛び散ったガラスの破片を集めてくれるその人を、わたしはただじっと見つめていた。
(この人は……いったい何なの……?)
頭の中で、そんな疑問がぐるぐる回った。
わたしの作った、わたしが最も求めていた唯一わたしの味方になってくれる存在なの?
想像が追いつかなかった。
「お体に飛んでないですか?」
見上げられて恥ずかしくなった。
わたしが、作り上げてしまった……そう思った。間違いない。
平気だ平気だと思っていたのに、ついに最もしてはいけない禁忌の域まで到達してしまったかもしれない。
「ジャドール」
「えっ?」
こちらの気も知らないで、彼は告げた。
「ジャドールと申します」
わたしの作り上げてしまった理想の騎士は、そう言って屈託もない笑顔をこちらに向けたのであった。
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