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【15歳 春】
5、【15歳 春】15歳の魔女と満月の夜
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「フローラ、誕生日おめでとう」
真っ暗な室内に満月の光が差し込む。
魔女様魔女様~!と飽きもせずやってくるあの眩しいほど力強い温かな光とは違う。
月光はどこまでも優しく、わたしを見守ってくれているようだ。
「十五になるのか。早いものだな」
夜の闇に響くような低い声の主は、ゆったり窓際でくつろぎながらもしみじみと呟く。
「ありがとう、リタ! 今年のお誕生日は満月の日でよかったわ」
視線の先の黒猫は、聞いているのかいないのか、自分の言いたいことだけを呟いたあと、気だるそうにうーんと伸びをした。
人の言葉を話す、不思議な黒猫である。
彼なのか彼女なのかは分からないけど、声色的に男性なのではないかと思っている。
小さなケーキに一本のキャンドルを立て、ふうっと息を吹きかけると、辺りを真っ暗にした。
それでも彼の様子がよく見えるのは、魔女の夜目が普通の人間よりも効くからという理由だけではないだろう。
月がとても大きいからだ。
「あのやかましい男にも伝えてやればよかっただろう。絶対に大喜びで祝ってくれたはずさ」
「からかわないで。本当に困っているのよ」
わたしの騎士と名乗る人物が現れて、一ヶ月が過ぎようとしている。
自分を大切に思ってくれる人を心のどこかで望んでしまったからか、そのままの人間がこの森にやってきた。
この場所には全く合っていない、太陽のような人だ。なによりあまりにも美しい。
疑うことを知らないのか、魔女様魔女様と朝も昼も晩もおかまいなしに話しかけにやってきてくれる。
ありがたいのは踏み込んだ性格ではないのだろう。こちらが拒否をすればそこまで必死に追いかけてくることはなかった。
「リタ、あの人について、どう思う?」
リタと名乗る黒猫とはこの森に来てからの付き合いである。
満月になるとふらっと現れる不思議な存在で、それでいてフローラやこの森のことをなんでも知っている彼はいつもフローラを見守り、どんなときも支えてくれていた。
暗い森に閉じ込められて、それでも心を閉ざすことがなかったのはこの黒猫がずっとそばにいてくれたからだ。
彼はフローラにとって、まるで育て親のような存在となった。
「さぁな。強い術式で囲われているように思えるから、ババアの手の者であることは間違いないと思うが、あのわけのわからんテンションはこちらにもまったく理解ができん」
ババアというのはフローラの祖母のことで、『王宮の魔女』と呼ばれる最強の魔女のことだ。
この地に派遣されてくる騎士たちは、囚人である魔女を監視する名目で彼らにしか操れない力を与えられるが、同時に魔女に危害を加えられないよう術式を体内に組み込まれているのだとリタが教えてくれたことがある。
彼はその儀式にも耐えた上で、それでもあんなにもいつも前向きに明るくフローラの部屋を訪ねてくるのだろうか。
何度考えても理解ができなかった。
毎朝、元気に外へ出ては彼は欠かすことなく剣を振るってトレーニングに励んでいる。
毎日毎日、飽きもせずだ。
そうして、時間が来るとさっと室内に戻り、朝食を作ったのであろう。フローラの部屋の前までやってきて声をかけてくる。
きっちり乱れることのない。
まるで機械のように正確な動きだった。
「何かあったらこれを使え」
リタがどこからともなく取り出した黒い玉を前足で転がしていた。
「どうやって使うの?」
「投げて当てればいい」
「あっ、当てられるほど命中率は良くないわよ」
「何かあったら守ってやるから」
くくっと含み笑いを漏らし、リタは上体を起こす。
ああ、帰ってしまうのね……と、さみしい思いでいっぱいになりながら、わたしはそっと月明かりに向かって窓を開くのだった。
真っ暗な室内に満月の光が差し込む。
魔女様魔女様~!と飽きもせずやってくるあの眩しいほど力強い温かな光とは違う。
月光はどこまでも優しく、わたしを見守ってくれているようだ。
「十五になるのか。早いものだな」
夜の闇に響くような低い声の主は、ゆったり窓際でくつろぎながらもしみじみと呟く。
「ありがとう、リタ! 今年のお誕生日は満月の日でよかったわ」
視線の先の黒猫は、聞いているのかいないのか、自分の言いたいことだけを呟いたあと、気だるそうにうーんと伸びをした。
人の言葉を話す、不思議な黒猫である。
彼なのか彼女なのかは分からないけど、声色的に男性なのではないかと思っている。
小さなケーキに一本のキャンドルを立て、ふうっと息を吹きかけると、辺りを真っ暗にした。
それでも彼の様子がよく見えるのは、魔女の夜目が普通の人間よりも効くからという理由だけではないだろう。
月がとても大きいからだ。
「あのやかましい男にも伝えてやればよかっただろう。絶対に大喜びで祝ってくれたはずさ」
「からかわないで。本当に困っているのよ」
わたしの騎士と名乗る人物が現れて、一ヶ月が過ぎようとしている。
自分を大切に思ってくれる人を心のどこかで望んでしまったからか、そのままの人間がこの森にやってきた。
この場所には全く合っていない、太陽のような人だ。なによりあまりにも美しい。
疑うことを知らないのか、魔女様魔女様と朝も昼も晩もおかまいなしに話しかけにやってきてくれる。
ありがたいのは踏み込んだ性格ではないのだろう。こちらが拒否をすればそこまで必死に追いかけてくることはなかった。
「リタ、あの人について、どう思う?」
リタと名乗る黒猫とはこの森に来てからの付き合いである。
満月になるとふらっと現れる不思議な存在で、それでいてフローラやこの森のことをなんでも知っている彼はいつもフローラを見守り、どんなときも支えてくれていた。
暗い森に閉じ込められて、それでも心を閉ざすことがなかったのはこの黒猫がずっとそばにいてくれたからだ。
彼はフローラにとって、まるで育て親のような存在となった。
「さぁな。強い術式で囲われているように思えるから、ババアの手の者であることは間違いないと思うが、あのわけのわからんテンションはこちらにもまったく理解ができん」
ババアというのはフローラの祖母のことで、『王宮の魔女』と呼ばれる最強の魔女のことだ。
この地に派遣されてくる騎士たちは、囚人である魔女を監視する名目で彼らにしか操れない力を与えられるが、同時に魔女に危害を加えられないよう術式を体内に組み込まれているのだとリタが教えてくれたことがある。
彼はその儀式にも耐えた上で、それでもあんなにもいつも前向きに明るくフローラの部屋を訪ねてくるのだろうか。
何度考えても理解ができなかった。
毎朝、元気に外へ出ては彼は欠かすことなく剣を振るってトレーニングに励んでいる。
毎日毎日、飽きもせずだ。
そうして、時間が来るとさっと室内に戻り、朝食を作ったのであろう。フローラの部屋の前までやってきて声をかけてくる。
きっちり乱れることのない。
まるで機械のように正確な動きだった。
「何かあったらこれを使え」
リタがどこからともなく取り出した黒い玉を前足で転がしていた。
「どうやって使うの?」
「投げて当てればいい」
「あっ、当てられるほど命中率は良くないわよ」
「何かあったら守ってやるから」
くくっと含み笑いを漏らし、リタは上体を起こす。
ああ、帰ってしまうのね……と、さみしい思いでいっぱいになりながら、わたしはそっと月明かりに向かって窓を開くのだった。
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