14 / 14
【15歳 夏】
14、【15歳 夏】魔女の欲望と騎士の想い
しおりを挟む
「………えっ!」
意気込んだわたしとは裏腹に、驚いた様子でバランスを崩しかけた彼に、今考えたことを読み取られたのかと一瞬焦ってしまったけど、そんなわけはないと言い聞かせる。
「あ、おいしいですか?」
何事だろうと思ったら、いつもと違って珍しく余裕のない表情を浮かべた彼が、心配そうにこちらを見ていた。
何かまずいことでも言ってしまっただろうかと思いつつ、再度頷いて見せると彼はくしゃっと子供のような顔で笑った。
いつもの余裕があって完璧な作られた笑顔ではなかった。
歳相応で本当にわたしの言葉に喜んでくれているように見えた。
「おっ、お気に召したようでよかったです!」
「………」
彼は味覚音痴なのだと言っていた。
何を食べても美味しいと思うし、難なく食べることができる。
それでも違和感に気づけない難点もあって、あとから体調を崩すこともあるのだと。
「あなたのお気に召したなら本当によかったです」
(ごめんなさい……)
とっさに浮かんだ言葉は、それだった。
「ささっ、よかったらどんどん食べてください!」
と、無垢な表情で笑うこと人をずっと操ってしまっているなんて……。
わたしが魔女で、どれだけ恐ろしいのか、彼は本当に理解しているのだろうか。
「………」
臆病者は、意を決したところで思ったことを声にすることができない。
この期に及んで、嫌われたり怖がられることを恐れているというのだろうか。
身の程知らずが。
「……か?」
「え?」
絞り出した声に顔を上げた彼の表情は、疑いを知らぬものだった。
「わっ、わたしが……」
こんな素晴らしい人に、もう真実を隠しているわけには行かなかった。
「わたしが、こっ、怖くないんですか?」
必死に出した声は震えていて、今にも消えそうだった。
「こ、こわい?」
ゆっくりと言葉を噛み砕いて想像しているようだった。
そこで、初めて彼の眉間にしわが寄った。
「怖い? あなたが?」
目が合って飛び上がってしまった。
澄んだ空色の瞳はまるで全ての嘘を見透かすようだ。だから、わたしは目を合わせることができなかった。
もう二度と、晴れた空を見上げることはできなくなってしまうだろうと。
いえ、この地に光が差し込むことはもうないでしょうけど。
「可愛いの間違えではないでしょうか」
「えっ……」
か、かわいい……?
「全然怖くなどありません」
(えっ……?)
今度はわたしがその言葉を考える番だった。
何を言っているか、理解に苦しんだ。
「あなたこそ、俺が怖がらせてしまって申し訳ないと思っています」
「わ、わたしは恐ろしい魔女です……」
告白をしたら、震えが止まらなくなった。
勢いに任せて言ってしまって後悔した。
(また、怖がられる……)
その気持ちが頭の中でいっぱいになった。
「ひ、人の心を操れます」
おかしいと思えるのは、いつも平気だと思っていたし、何も気にならなかったのに、人に嫌われていくのだろうと想像したらとてもとても怖くなった。
徐々に険悪になっていくその表情に息をのむ。
謝っても、許してくれないだろうか……。
「あ、あの……そ、それで……」
今さら、言い訳ばかり考える。
この人に嫌悪の瞳を向けられたら悲しいなとやっぱり思ってしまったからだ。
「俺があなたを可愛いと思い、できることなら今、あなたを抱きしめたいと思うのは、あなたの意志ということですか?」
「……えっ!」
だ、抱きした……い……?
「操られたのであれば、従います」
そう言い、彼は容赦なくわたしの手を握った。
「ちっ、ちがっ!」
そ、そうじゃない……
好意的であってはほしかったけど、そこまで欲張りな欲望はなかったはずだ……多分。
そっと頬に手をあてられ、物語のお姫様のようだとうっとりしかけてしまったけど、これもわたしの胸の奥に秘めた想いなのだったら絶望的としか言えなかった。
意気込んだわたしとは裏腹に、驚いた様子でバランスを崩しかけた彼に、今考えたことを読み取られたのかと一瞬焦ってしまったけど、そんなわけはないと言い聞かせる。
「あ、おいしいですか?」
何事だろうと思ったら、いつもと違って珍しく余裕のない表情を浮かべた彼が、心配そうにこちらを見ていた。
何かまずいことでも言ってしまっただろうかと思いつつ、再度頷いて見せると彼はくしゃっと子供のような顔で笑った。
いつもの余裕があって完璧な作られた笑顔ではなかった。
歳相応で本当にわたしの言葉に喜んでくれているように見えた。
「おっ、お気に召したようでよかったです!」
「………」
彼は味覚音痴なのだと言っていた。
何を食べても美味しいと思うし、難なく食べることができる。
それでも違和感に気づけない難点もあって、あとから体調を崩すこともあるのだと。
「あなたのお気に召したなら本当によかったです」
(ごめんなさい……)
とっさに浮かんだ言葉は、それだった。
「ささっ、よかったらどんどん食べてください!」
と、無垢な表情で笑うこと人をずっと操ってしまっているなんて……。
わたしが魔女で、どれだけ恐ろしいのか、彼は本当に理解しているのだろうか。
「………」
臆病者は、意を決したところで思ったことを声にすることができない。
この期に及んで、嫌われたり怖がられることを恐れているというのだろうか。
身の程知らずが。
「……か?」
「え?」
絞り出した声に顔を上げた彼の表情は、疑いを知らぬものだった。
「わっ、わたしが……」
こんな素晴らしい人に、もう真実を隠しているわけには行かなかった。
「わたしが、こっ、怖くないんですか?」
必死に出した声は震えていて、今にも消えそうだった。
「こ、こわい?」
ゆっくりと言葉を噛み砕いて想像しているようだった。
そこで、初めて彼の眉間にしわが寄った。
「怖い? あなたが?」
目が合って飛び上がってしまった。
澄んだ空色の瞳はまるで全ての嘘を見透かすようだ。だから、わたしは目を合わせることができなかった。
もう二度と、晴れた空を見上げることはできなくなってしまうだろうと。
いえ、この地に光が差し込むことはもうないでしょうけど。
「可愛いの間違えではないでしょうか」
「えっ……」
か、かわいい……?
「全然怖くなどありません」
(えっ……?)
今度はわたしがその言葉を考える番だった。
何を言っているか、理解に苦しんだ。
「あなたこそ、俺が怖がらせてしまって申し訳ないと思っています」
「わ、わたしは恐ろしい魔女です……」
告白をしたら、震えが止まらなくなった。
勢いに任せて言ってしまって後悔した。
(また、怖がられる……)
その気持ちが頭の中でいっぱいになった。
「ひ、人の心を操れます」
おかしいと思えるのは、いつも平気だと思っていたし、何も気にならなかったのに、人に嫌われていくのだろうと想像したらとてもとても怖くなった。
徐々に険悪になっていくその表情に息をのむ。
謝っても、許してくれないだろうか……。
「あ、あの……そ、それで……」
今さら、言い訳ばかり考える。
この人に嫌悪の瞳を向けられたら悲しいなとやっぱり思ってしまったからだ。
「俺があなたを可愛いと思い、できることなら今、あなたを抱きしめたいと思うのは、あなたの意志ということですか?」
「……えっ!」
だ、抱きした……い……?
「操られたのであれば、従います」
そう言い、彼は容赦なくわたしの手を握った。
「ちっ、ちがっ!」
そ、そうじゃない……
好意的であってはほしかったけど、そこまで欲張りな欲望はなかったはずだ……多分。
そっと頬に手をあてられ、物語のお姫様のようだとうっとりしかけてしまったけど、これもわたしの胸の奥に秘めた想いなのだったら絶望的としか言えなかった。
0
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
看病しに行ったら、当主の“眠り”になってしまった
星乃和花
恋愛
⭐︎完結済ー全36話⭐︎
倒れた当主を看病する役目を振られた使用人リィナは、彼の部屋へ通うことになる。
栄養、灯り、静かな時間、話し相手――“眠れる夜”を整えていく。そして、回復していく当主アレクシス。けれど彼は、ある夜そっと手を握り返し、低い声で囁く。
「責任、取って?」
噂が燃える屋敷で、ふたりが守るのは“枠(ルール)”。
手だけ、時間だけ、理由にしない――鍵はリィナが握ったまま。
けれど、守ろうとするほど情は育ち、合図の灯りはいつしか「帰る」ではなく「眠る」へ変わっていく。
看病から始まった優しい夜は、静かな執着に捕まっていく。
それでも、捕獲の鍵は彼ではなく――彼女の手にある。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
「25歳OL、異世界で年上公爵の甘々保護対象に!? 〜女神ルミエール様の悪戯〜」
透子(とおるこ)
恋愛
25歳OL・佐神ミレイは、仕事も恋も完璧にこなす美人女子。しかし本当は、年上の男性に甘やかされたい願望を密かに抱いていた。
そんな彼女の前に現れたのは、気まぐれな女神ルミエール。理由も告げず、ミレイを異世界アルデリア王国の公爵家へ転移させる。そこには恐ろしく気難しいと評判の45歳独身公爵・アレクセイが待っていた。
最初は恐怖を覚えるミレイだったが、公爵の手厚い保護に触れ、次第に心を許す。やがて彼女は甘く溺愛される日々に――。
仕事も恋も頑張るOLが、異世界で年上公爵にゴロニャン♡ 甘くて胸キュンなラブストーリー、開幕!
---
冷徹と噂の辺境伯令嬢ですが、幼なじみ騎士の溺愛が重すぎます
藤原遊
恋愛
冷徹と噂される辺境伯令嬢リシェル。
彼女の隣には、幼い頃から護衛として仕えてきた幼なじみの騎士カイがいた。
直系の“身代わり”として鍛えられたはずの彼は、誰よりも彼女を想い、ただ一途に追い続けてきた。
だが政略婚約、旧婚約者の再来、そして魔物の大規模侵攻――。
責務と愛情、嫉妬と罪悪感が交錯する中で、二人の絆は試される。
「縛られるんじゃない。俺が望んでここにいることを選んでいるんだ」
これは、冷徹と呼ばれた令嬢と、影と呼ばれた騎士が、互いを選び抜く物語。
【完結】目覚めたら男爵家令息の騎士に食べられていた件
三谷朱花
恋愛
レイーアが目覚めたら横にクーン男爵家の令息でもある騎士のマットが寝ていた。曰く、クーン男爵家では「初めて契った相手と結婚しなくてはいけない」らしい。
※アルファポリスのみの公開です。
私をいじめていた女と一緒に異世界召喚されたけど、無能扱いされた私は実は“本物の聖女”でした。
さら
恋愛
私――ミリアは、クラスで地味で取り柄もない“都合のいい子”だった。
そんな私が、いじめの張本人だった美少女・沙羅と一緒に異世界へ召喚された。
王城で“聖女”として迎えられたのは彼女だけ。
私は「魔力が測定不能の無能」と言われ、冷たく追い出された。
――でも、それは間違いだった。
辺境の村で出会った青年リオネルに助けられ、私は初めて自分の力を信じようと決意する。
やがて傷ついた人々を癒やすうちに、私の“無”と呼ばれた力が、誰にも真似できない“神の光”だと判明して――。
王都での再召喚、偽りの聖女との再会、かつての嘲笑が驚嘆に変わる瞬間。
無能と呼ばれた少女が、“本物の聖女”として世界を救う――優しさと再生のざまぁストーリー。
裏切りから始まる癒しの恋。
厳しくも温かい騎士リオネルとの出会いが、ミリアの運命を優しく変えていく。
転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました
桜あずみ
恋愛
異世界に転移して二年。
言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。
しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。
──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。
その一行が、彼の目に留まった。
「この文字を書いたのは、あなたですか?」
美しく、完璧で、どこか現実離れした男。
日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。
最初はただの好奇心だと思っていた。
けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。
彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。
【ご報告】
2月15日付で、誤字脱字の修正および一部表現の見直しを行いました。
ただし、記載内容の趣旨に大きな変更はございません。
引き続きよろしくお願いいたします。
幼い頃に、大きくなったら結婚しようと約束した人は、英雄になりました。きっと彼はもう、わたしとの約束なんて覚えていない
ラム猫
恋愛
幼い頃に、セレフィアはシルヴァードと出会った。お互いがまだ世間を知らない中、二人は王城のパーティーで時折顔を合わせ、交流を深める。そしてある日、シルヴァードから「大きくなったら結婚しよう」と言われ、セレフィアはそれを喜んで受け入れた。
その後、十年以上彼と再会することはなかった。
三年間続いていた戦争が終わり、シルヴァードが王国を勝利に導いた英雄として帰ってきた。彼の隣には、聖女の姿が。彼は自分との約束をとっくに忘れているだろうと、セレフィアはその場を離れた。
しかし治療師として働いているセレフィアは、彼の後遺症治療のために彼と対面することになる。余計なことは言わず、ただ彼の治療をすることだけを考えていた。が、やけに彼との距離が近い。
それどころか、シルヴァードはセレフィアに甘く迫ってくる。これは治療者に対する依存に違いないのだが……。
「シルフィード様。全てをおひとりで抱え込もうとなさらないでください。わたしが、傍にいます」
「お願い、セレフィア。……君が傍にいてくれたら、僕はまともでいられる」
※糖度高め、勘違いが激しめ、主人公は鈍感です。ヒーローがとにかく拗れています。苦手な方はご注意ください。
※『小説家になろう』様『カクヨム』様にも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる