夢の橋

夢人

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伯爵6

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 総司とはあれから話をしない。同じ部屋にいるが背を向けたまま別の作業をしている。
 蜘蛛が私を博打場に誘った。金は伯爵が用意してくれた。蜘蛛はあの書斎にいる5人の一人だ。年齢は源内の3つ下の42歳だ。明治の最後の伊賀ものらしい。
 蜘蛛はサイの瞬間の動きを見逃さない。5回のうち4回を当てる。だが後一回は外れるようだ。
「伯爵はあれでも幕末では幕府の大物の暗殺を指揮していた。私はその頃からの付き合いだ」
「そんなことを言ってもいいのですか?」
「鼠小僧は知っていいと思うな。書斎に入ると言うことはそう言うことだ。書斎の人間はもう20人が入れ替わっている。ほとんどが死んだ」
「蜘蛛は何を今しているのですか?」
「忍び込む、殺す、守る何でもありだ。次のサイを当てて見ろ?」
「私には無理ですよ」
「いや、伯爵は出来ると言っていた」
 そう言われてサイを振る手を見る。すると目が霞んでくる。酷く動きが緩慢になりサイが転がるのを見た。答えるまでにサイは振られたのだ。
「半です。でもこれはずるいですね?振られた後の答えですからね?」
 だが蜘蛛の
「半」
と言う声が響いている。まだサイは投げられていなかったのだ。
「半」
と言う胴元の声が響く。
「トラベラーは時間のずれを見ることができるのさ」
 いつの間にか後ろに源内が座っている。
「初めてですこんなこと」
「それは自分が気づいていないだけだよ」
「総司もできる?」
「恐らくな?だが怖くて誰も試さない。彼奴はいつ小刀を抜くか分からないからな。総司は心が人きり総司に成り切っているからな」





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