夢の橋

夢人

文字の大きさ
上 下
29 / 182

総司9

しおりを挟む
 長い船旅の末港に着いた。その間私は総司とゆっくりと話をした。総司の向こうの世界の情報は本当に乏しい。だが全くないわけではない。母と二人暮らしであること。ある時から自閉症になり部屋に籠りっきりであること。その時部屋の本棚に総司の漫画本が全巻揃っていてそれを毎日読み続けているうちに夢の中では総司になっていたと言う。
 桟橋にゆっくり船が着く。蝙蝠が3人分の荷物を抱え私は総司に肩を借りて下船する。
「3人とも今日は旅館に泊まってください」
 迎えに来たのは源内の娘だ。彼女はわざと荷物が運び出されている倉庫から早足で路地を抜け旅館が並ぶ通りに出た。すでに部屋は予約していたのか裏庭に続く1階の部屋に通された。部屋には源内が座っていた。
「どうしたのですか?」
「西郷殿の暗殺を妨害されたのが余程頭に来たのだろう。伯爵とウイルソン博士を国家機密漏えいで身柄を確保したのだ。岩倉が川路に命令したのだろう」
「具体的な?」
「容疑だけでいいのさ。足止めをしたいだけなのだ。伯爵が枢密院のルートである人とコンタクトを立っていたのだ。それが迷惑だったのだ」
「ある人のルート?」
「名前は伏せておいた方がいい。君らはお二人を救い出してくれ」
「逮捕されてたのでは?」
「いや調べたのさ。二人は翌日に釈放されている。今度はあの暗殺団にどこかに監禁されていると思う」
 源内は今で一人で調べて来たノートを見せた。
「まず蝙蝠は私が怪しいと睨んでいる場18か所を調べてくれ。総司は私の護衛をしてくれ。枢密院に代理で顔を出している。斎藤一に見張られている」
 斎藤一と言う名で総司の目が光った。
「鼠は寝ているか」
「もう動けますよ」
「よしなら川路を見張ってくれ」




しおりを挟む

処理中です...