31 / 182
総司11
しおりを挟む
朝目を覚ますと何時ものように馬車が出てきたが騎馬の警官の姿がない。御車の横に見知らぬ男が座っている。私はもう外に出ていた。やはりいつもとは違う方向に馬車が動いている。走るほど治っていないがこの速度なら十分だ。どうもこの辺りは官舎や役人の邸が並んでいる。人通りは全くない。
半時間走ると表札のない古い建物の前に止まった。門が開けられ官服姿の男が顔を出した。見覚えがある。鹿児島の居酒屋で見た暗殺団の一人だ。ここは徳川の旗本の屋敷だったようだ。私はしばらく時を置いて通用口から入った。茶室から人の声が聞こえてきた。
「もう歩けるのか?」
川路の前に足を投げ出して座っているのが総司が足を切った隊長だ。
「義足を付けて剣を使うのは難しいのでこの短銃を使います」
「よし、伯爵と博士は?」
「ここの納屋に閉じこめています。殺しますか?」
「いや、さすがにそれは出来ぬ。だが今伯爵に動かれては困るのだ。彼は明治天皇と通じているのだ。岩倉殿は天皇を担いでいるがただの冠としてしか見ていない。だが伯爵たちのグループは天皇政治を夢見ているのだ」
なるほどそうだったのか。勤王と言われた今の勢力は元々この二つに分かれていたのだ。
「では枢密院の方は?」
「斎藤が見張っている。場合によれば侍従長を殺す」
総司が危ない。
「どれほど?」
「西郷が片付くまでだな?」
私は急いでここから出ると仕出し屋の2階に戻る。今は迂闊に伯爵の屋敷には戻れない。床の上に座ると不意に襖が開いた。商人のなりをした蜘蛛だ。
「鼠も行きついたか?」
「あの場に?」
「18か所の17か所目だった。あそこは一時川路が住んでいた屋敷だったのだ」
「みなを呼びましょう?」
「総司は源内と手が離せない状況だ。今回は黒揚羽に登場してもらおう」
半時間走ると表札のない古い建物の前に止まった。門が開けられ官服姿の男が顔を出した。見覚えがある。鹿児島の居酒屋で見た暗殺団の一人だ。ここは徳川の旗本の屋敷だったようだ。私はしばらく時を置いて通用口から入った。茶室から人の声が聞こえてきた。
「もう歩けるのか?」
川路の前に足を投げ出して座っているのが総司が足を切った隊長だ。
「義足を付けて剣を使うのは難しいのでこの短銃を使います」
「よし、伯爵と博士は?」
「ここの納屋に閉じこめています。殺しますか?」
「いや、さすがにそれは出来ぬ。だが今伯爵に動かれては困るのだ。彼は明治天皇と通じているのだ。岩倉殿は天皇を担いでいるがただの冠としてしか見ていない。だが伯爵たちのグループは天皇政治を夢見ているのだ」
なるほどそうだったのか。勤王と言われた今の勢力は元々この二つに分かれていたのだ。
「では枢密院の方は?」
「斎藤が見張っている。場合によれば侍従長を殺す」
総司が危ない。
「どれほど?」
「西郷が片付くまでだな?」
私は急いでここから出ると仕出し屋の2階に戻る。今は迂闊に伯爵の屋敷には戻れない。床の上に座ると不意に襖が開いた。商人のなりをした蜘蛛だ。
「鼠も行きついたか?」
「あの場に?」
「18か所の17か所目だった。あそこは一時川路が住んでいた屋敷だったのだ」
「みなを呼びましょう?」
「総司は源内と手が離せない状況だ。今回は黒揚羽に登場してもらおう」
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
2
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる