夢の橋

夢人

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生活8

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 伯爵は皇居と料亭とを忙しく行き来している。
 岩倉は大隈ではなく伊藤博文を選んだ。
「岩倉は咽頭癌の症状がはっきりと出始めて来た。明治天皇は勅命により東京大学医学部教授を京都に派遣して診察させた。舟で東京に帰るだろう。もはや岩倉の時代は終わったよ」
と言うと伯爵は人力車を呼んで孫六を先頭に官邸に向かう。私は伯爵からこれからの成り行きを書いた原稿を編集長に届ける。大日本帝国憲法の制定も秒読みとなった。玄道は原稿を入れ込むと私に印刷に回すように指示した。
 私は印刷所に届けると新聞社の前で総司と待ち合わせをしている。総司は一と道場で練習を済ませてこちらに来る。
「私今度から大学の助勤として道場に出ることになった」
「よかったな?」
 一葉の家に行くとすでに鍋の匂いがしている。
 私は近くの店で牛の肉を買ってきている。
「綺麗な人だな?」
 総司が呟く。
「待ってたよ。座って座って」
と言って徳利を注ぐ。
「鼠の好きな人よね?可愛い人ね?」
 どうも女と見つかっているみたいだ。総司は妙に一葉が気に入ったようでひそひそ話をしている。
「何を話しているのですか?」
「それがね、私が抱かれたことがいるのかって?」
「どんな話をするんだ?」
「私は妄想ばかりと言ってたの」






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