夢の橋

夢人

文字の大きさ
上 下
176 / 182

夢の橋17

しおりを挟む
 日清戦争は日本が勝利を続けている。だが玄道は私に実際の問題を生々しく連載させている。それで私と編集長は警視庁の川路に度々呼ばれている。その度に伯爵に救われている。
 今日は珍しく樋口一葉を訪ねる。今でも庭に花を植えている。
「先生久し振りです」
「亡くなったと悲しんでいたのですよ」
 今日は新しく連載が決まった『うもれ木』の原稿を受け取りに来たのだ。今は隣に座っている新人女性記者が担当だ。
「総司さんも元気?」
「はい。相変わらず真剣を振り回して危険な総司ですよ」
「抱きましたか?」
 小声で言う。
「はい。向こうでは子供が出来ました」
 一葉にはトラベラーのことを話している。彼女は全く疑いを持っていない。
「子供?」
 新人記者が聞き返す。
「いや夢の話だ」
 原稿を貰うと私だけが玄道と合流して伊藤博文に会う。執務室に入ると伯爵が向かい合って座っている。今伯爵は天皇と伊藤の調整が仕事だ。テーブルに色々な資料が並んでいる。私は持って来た写真機で10枚ほど撮る。玄道は座って会話をしながら筆記している。2時間が経って補佐官が入ってくる。
「この写真は?」
 私が初めて口を開いた。
「李鴻章だ」
「その横にいる婦人です」
「たかだ」
と伯爵が叫ぶ。袁世凱から李鴻章にいつ乗り換えたのか。手にはレースの手袋をしたたかが立っている。伯爵はその新聞を伊藤から貰っている。








しおりを挟む

処理中です...