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第5話 音楽室に2つの風が吹く
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私は音山琴音と申します。6年1組です。そして、このクラスの委員長でもあります。私のお父様とお母様は音楽家、私は3歳からピアノとバイオリン、7歳からフルートを習っております。私の楽器はすべて最高級グレード。やはり私くらいのレベルになるとそのくらいの楽器が相応ですわ。ピアノ、バイオリン、フルートの小学生全国コンテストは3年連続優勝。好きなアーティストはバッハ、モーツァルト、ベートーベン、チャイコフスキー。ちなみに家で飼っている2匹のゴールデンレトリーバーの名前は「バッハ」と「ベートーベン」。
今日の3時間目の音楽の授業はソプラノリコーダーのテストの日です。私は今日のこのテストのために、毎日練習しているピアノ、バイオリン、フルートの他にソプラノリコーダーを3時間、毎日練習してきました。そして今日は、前回の小学生フルート全国コンテストで優勝した時のドレスを着て来ました。肩が出ているので寒いです。
早速1人目のテストの順番です。1人目は三浦修斗君ね。さっきの体育の時間、1人でムキになってがんばってたけど、ひどく疲れているような、全身の力も気持ちも抜け切ったように見えます。
やはりダメだったようね。指使いもダメ、音の強弱もダメ、リズムもダメ。おそらく全然練習しなかったのでしょう。演奏終了後なぜか「俺のシュートが」と言って泣き崩れてしまいました。
そのあとの何人かの人達もどうにか演奏し終えた感じで、私からすると全然ダメです。次の順番は私です。私のステージの時間です。私のソプラノリコーダーはクラスのみなさんが持っているプラスチック製のいわゆる学校用とは違います。オーダーメイドで職人さんが作り上げた高級木製のリコーダーなのです。まず音が全然違います。音質、深み、伸び。私が演奏するのにふさわしい高級リコーダーです。
「それではみなさんお聴きください。曲目は風の吹く街角。」
曲の出だし、いい感じです。指使い、音の強弱、リズム、どれも完璧です。
海。西欧の海。地中海の片田舎にある街角、そこから海が見えてきました。穏やかな海。そして海から吹いてくる爽やかな風。お散歩している猫。そう、私の演奏でクラスのみなさんも地中海の風を感じているはずです。そろそろ演奏も終わりに近づいてきました。あと1小節で演奏が終わります。私はわかっております。この演奏が終わったらクラスのみなさんは私のために拍手喝采を送ってくれるでしょう。数々のコンテストで優勝してきた私が、今日のこの演奏のためにどれだけ練習したことでしょう。そして最後の一吹きが今、終わりま
ガタッ
後ろの方の席の椅子が動いて誰かが立ち上がった?
そしていきなりリコーダーを吹き始めた?
(ぴゅるるる~~~)
今日来た転校生ンドゥールくん!
(ぴゅるるる~~~)
なっ・・・なぜ私の演奏直後に?数々のコンテストで優勝してきた私の拍手喝采タイムを妨害?今まであんなに練習してきたのに。信じられません!
(ぴゅるるる~~~)
しかもあれはソプラノリコーダーじゃない。ただの棒っきれを加工した笛。
(ぴゅるるる~~~)
(ぴゅるるる~~~)
(ぴゅるるる~~~~~~~~~~)
え?風?私は風を感じている?
音楽室全体に風が吹いている?
こ、これは・・・
アフリカの広大な大草原。どこまでもどこまでも見渡す限り続く大草原。そこに吹く風。私はこの風を、私が生まれるずっとずっと前から知っている気がします。とても懐かしい風。大きく、優しく、暖かく、大草原を包み込む風。あのただの棒っきれ、どこからか拾ってきたような、うす汚い棒っきれからのメロディ。素朴で貧素な音。高級感や上品感と真逆の音。なのに私の目から涙が止めどなく流れています。クラスのみなさんの目にも涙があふれています。数々のコンテストで優勝してきたことが、とても小さいことのように感じます。高級リコーダーとか高級ドレスとか演奏技術とかではなく、聴いている人の心の奥底に響く旋律。
そうか。そうだったんだ。
アフリカの広大な大草原に比べて、私はどれだけ小さい存在だったか・・・ンドゥール君は今までの私のおごり高ぶった態度に対し、叱るでもなく、お説教するでもなく、大草原の風のようにすべてを包み込み、私を改心させてくれたのですね。ンドゥール君、ありがとう。
3時間目の終了の鐘が鳴った。
今日の3時間目の音楽の授業はソプラノリコーダーのテストの日です。私は今日のこのテストのために、毎日練習しているピアノ、バイオリン、フルートの他にソプラノリコーダーを3時間、毎日練習してきました。そして今日は、前回の小学生フルート全国コンテストで優勝した時のドレスを着て来ました。肩が出ているので寒いです。
早速1人目のテストの順番です。1人目は三浦修斗君ね。さっきの体育の時間、1人でムキになってがんばってたけど、ひどく疲れているような、全身の力も気持ちも抜け切ったように見えます。
やはりダメだったようね。指使いもダメ、音の強弱もダメ、リズムもダメ。おそらく全然練習しなかったのでしょう。演奏終了後なぜか「俺のシュートが」と言って泣き崩れてしまいました。
そのあとの何人かの人達もどうにか演奏し終えた感じで、私からすると全然ダメです。次の順番は私です。私のステージの時間です。私のソプラノリコーダーはクラスのみなさんが持っているプラスチック製のいわゆる学校用とは違います。オーダーメイドで職人さんが作り上げた高級木製のリコーダーなのです。まず音が全然違います。音質、深み、伸び。私が演奏するのにふさわしい高級リコーダーです。
「それではみなさんお聴きください。曲目は風の吹く街角。」
曲の出だし、いい感じです。指使い、音の強弱、リズム、どれも完璧です。
海。西欧の海。地中海の片田舎にある街角、そこから海が見えてきました。穏やかな海。そして海から吹いてくる爽やかな風。お散歩している猫。そう、私の演奏でクラスのみなさんも地中海の風を感じているはずです。そろそろ演奏も終わりに近づいてきました。あと1小節で演奏が終わります。私はわかっております。この演奏が終わったらクラスのみなさんは私のために拍手喝采を送ってくれるでしょう。数々のコンテストで優勝してきた私が、今日のこの演奏のためにどれだけ練習したことでしょう。そして最後の一吹きが今、終わりま
ガタッ
後ろの方の席の椅子が動いて誰かが立ち上がった?
そしていきなりリコーダーを吹き始めた?
(ぴゅるるる~~~)
今日来た転校生ンドゥールくん!
(ぴゅるるる~~~)
なっ・・・なぜ私の演奏直後に?数々のコンテストで優勝してきた私の拍手喝采タイムを妨害?今まであんなに練習してきたのに。信じられません!
(ぴゅるるる~~~)
しかもあれはソプラノリコーダーじゃない。ただの棒っきれを加工した笛。
(ぴゅるるる~~~)
(ぴゅるるる~~~)
(ぴゅるるる~~~~~~~~~~)
え?風?私は風を感じている?
音楽室全体に風が吹いている?
こ、これは・・・
アフリカの広大な大草原。どこまでもどこまでも見渡す限り続く大草原。そこに吹く風。私はこの風を、私が生まれるずっとずっと前から知っている気がします。とても懐かしい風。大きく、優しく、暖かく、大草原を包み込む風。あのただの棒っきれ、どこからか拾ってきたような、うす汚い棒っきれからのメロディ。素朴で貧素な音。高級感や上品感と真逆の音。なのに私の目から涙が止めどなく流れています。クラスのみなさんの目にも涙があふれています。数々のコンテストで優勝してきたことが、とても小さいことのように感じます。高級リコーダーとか高級ドレスとか演奏技術とかではなく、聴いている人の心の奥底に響く旋律。
そうか。そうだったんだ。
アフリカの広大な大草原に比べて、私はどれだけ小さい存在だったか・・・ンドゥール君は今までの私のおごり高ぶった態度に対し、叱るでもなく、お説教するでもなく、大草原の風のようにすべてを包み込み、私を改心させてくれたのですね。ンドゥール君、ありがとう。
3時間目の終了の鐘が鳴った。
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